ニュース

飛んでいない飛行機も「万全の整備で揺るぎない安全」。JAL整備本部に聞く「また飛ぶ日」に向けた取り組み

JAL整備本部に「今飛んでいない飛行機」について聞いてみた

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛・需要減退を受けて、現在多くの公共交通機関で運休や運行(運航)本数の削減といった対応を行なっている。JAL(日本航空)も例外ではなく、5月の国内線は70%程度の減便、国際線については90%を超える減便を実施している。

 一方で、ここまで運休・減便してしまうと、いつも空を飛び回っていた機材が今どうしているのかが気にならないだろうか。そこで本稿では、運休・減便で使われていない機材について、どんな整備を行なっているのか、JAL整備本部に聞いてみた。

 なお、本インタビューはメールベースで実施している。

物理的・時間的スペースの確保で社員の感染防止を徹底

――緊急事態宣言の発令後、どのような取り組みをしていますか。

JAL整備本部:緊急事態宣言が発令されて以降、社員の感染防止を最優先に考えつつ、ご搭乗いただくお客さま、ならびに食料品をはじめとする生活必需品や企業の活動に必要な物資などの輸送を担う公共交通機関として、安全・安心な航空機を提供すべく、万全の体制で整備作業を行なっています。

 安全・安心な航空機を提供するためには、まず、ご家族の事情も含め少しでも不安に感じている社員に対し、在宅勤務の実施や有給休暇などの優先取得といった柔軟な対応を行なっています。

 また、出社する社員の感染防止を徹底するために以下の取り組みを行なっています。

1.物理的スペースの確保
ミーティングスペースや休憩室、食堂では間隔をあけて互い違いに座る、また、作業エリアが重ならないような作業アサインを行なうなど物理的スペースを確保しています。

2.時間的スペースの確保
交替制勤務の交替時の始終業時間が重ならないよう、時間的スペースを確保しています。

3.接触感染・飛沫感染の予防
マスクやアルコール消毒液の配備、手洗い・うがい励行、出社前検温・出社時検温の実施、作業エリアの仕切り板設置、自家用車通勤の促進などの対策を行なっています。

――運休・減便で使っていない機材はどこにありますか。

JAL:格納庫や空港内のスポットなどに駐機させています。

――飛ばす機材、飛ばさない機材はどのように決めていますか。

JAL:需要や機体ごとの整備スケジュール、機材繰りのスケジュールなどさまざまな状況を鑑みて決定しています。

――運休・減便で使っていない機材にどのような整備をしていますか。

JAL整備本部:先ほど挙げたような万全の環境整備を行なったうえで、社会がこの未曾有の危機を克服し、日常生活や経済活動を再開する際に、必要かつ十分な運航を行なうべく、弊社ではグループ会社が保有するすべての航空機の安全性を継続的に維持し(※)、いつでも運航に供することができるように準備しています。

※航空機の安全性を継続的に維持するための整備作業の実施タイミングは、飛行時間や飛行回数、暦日などで管理しており、それぞれのタイミングを超えない範囲で必要な整備作業を実施しています。すなわち、航空機が飛行せずに地上に長期停留している間も定められた整備作業を行なう必要があります。

長期停留整備に加えて部品落下対策の強化や客室の美観向上も

――地上に長期停留する場合、具体的にどのような整備作業を実施していますか。

JAL整備本部:航空機が地上に長期停留する場合は、各動力系システムなどの機能性を維持することを目的として、機体メーカーが定めたメンテナンスマニュアルに従い、以下の整備処置を行なっています。

1.航空機の各動力系システムの作動確認
2.エンジンの作動確認
3.可動部に対する潤滑剤の供給
4.航空機に取り付いている部品類(タイヤなど)の状態確認

 また、一定期間以上停留する場合は、異物混入防止のため、航空機やエンジンの各システムの開口部にカバーを取り付けるなどの処置も行なっています。

――長期停留整備以外に実施している整備はありますか。

JAL整備本部:今春より羽田空港の発着枠の増枠のため、首都圏上空を通過する新たな飛行ルートの運用が開始されました。かねて航空機からの部品の落下には細心の注意を払っておりましたが、さらなる対策を講じるための点検強化や改修作業を2月~3月の期間において積極的に実施しました。

 地上での長期停留に起因する、客室内のカビやニオイなどの発生を防止するための定期点検を行ない、必要な処置を実施することに加えて、長期停留中の十分な時間を使って、客室内の美観向上に資する取り組みを行なっています。

――動かさないことで機体にダメージ・不具合が出ることはありますか。

JAL整備本部:機体メーカーが定める整備マニュアルに基づいて地上に長期停留する場合の整備処置を行なっているため、弊社グループが保有するすべての航空機について、いつでも運航に供することが可能な状態を維持しています。

――若手整備士のトレーニングに影響はありますか。

JAL整備本部:2020年4月に入社した社員について、感染防止のための3密回避の観点から、入社式から現在にいたるまで自社寮において待機している状況です。通常であれば4月~8月の間は、航空機整備に関わる座学と実技の集合訓練を行なっていますが、かかる状況を鑑みて、それぞれの自室で整備訓練教官によるWeb形式での座学を実施しています。

――この期に始めた新しい取り組みはありますか。

JAL整備本部:現業整備士から「我々も社会に貢献したい」との声が多く上がり、さまざまな活動を行なっています。整備の「ものづくり力」を活かしてフェイスシールドを製作したり、若者が中心となり4月から使用しなくなった旧制服の雨衣を医療関係者に寄付したりといった活動を行なっています。

 さらには、STAY HOMEのお子さんたちを少しでも元気づけようと、海外支店整備士による「動画de航空教室」を、国内の整備士もJAL Facebookなどで動画配信を行なっています。

 在宅勤務(テレワーク制度)については、以前から間接部門を中心に取り入れて適用していましたが、通勤途上での社員の感染リスクを極小化し、また出社人数を抑制する社会的要請に応えるため、必要な生産人員の確保を図りつつ現業部門においても適用を拡充しました。

 現業整備士の在宅勤務においては、整備に関する知識の向上を目的としたeラーニング(e-Learning)による教育や各部門で自発的に考えられた改善活動を行なうなど、新型コロナウイルス収束後の運航再開に備えて時間を有効に活用しています。

――今、利用者に伝えたいことは。

JAL整備本部:このような未曾有の状況においても、私たちはプロの整備士・技術者として、移動や物流を必要とするお客さまのことに思いを馳せ、万全の整備作業を行ない、揺るぎない安全と安心な航空機をお届けして参ります。今は、感染拡大防止のため航空機での移動も含めて自粛いただかざるを得ませんが、この危機を皆で乗り越え、再びお客さまにご利用いただける日を楽しみに待ちしております。