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「瀬戸内国際芸術祭2019『あつまる夏』」現地レポート。小豆島などをめぐる現代アートの祭典
2019年7月23日 07:00
- 2019年7月19日~8月25日 開催
瀬戸内海の島々を舞台にした3年に一度の現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2019」の夏期間が、7月19日に開幕した。
2010年の初開催以来2019年で4回目。シーズンごとに春、夏、秋の3期に分けられ開催しているが、今年は「ふれあう春」と題された春開催がすでに4月26日~5月26日に行なわれ、夏の開催日は7月19日~8月25日となる。
瀬戸内国際芸術祭とは
1934年(昭和9年)、日本を代表する自然の風景地として雲仙、霧島とともに日本初の国立公園の指定を受けた瀬戸内海。しかしながら日本の近代化のなかで漁業が衰退し人口が減少し、島々では産業廃棄物の不法投棄や海砂利採取による自然環境の劣化などで、その美しさが失われつつあったという。
そんな状況を打破すべく、島々にアーティストの作品を点在させることによって訪れる人と地域住民との出会いを生み、そこから島の活力を取り戻そうとする試みとして、2010年からスタートしたのがこの瀬戸内国際芸術祭。
なお「あつまる夏」と題された夏の開催地は、瀬戸内海に浮かぶ直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、および本州側の宇野港(岡山県)と、四国側の高松港(香川県)の周辺地域。本稿では開幕前にプレスプレビューが行なわれた大島、男木島、小豆島、犬島の4島を中心に紹介する。
瀬戸内国際芸術祭
開催期間: 2019年7月19日~8月25日(あつまる夏)
Webサイト: 瀬戸内国際芸術祭
男木島(おぎじま)
港に着くとまずジャウメ・プレンサ(スペイン)の「男木島の魂」(作品番号:og 01)という作品が迎えてくれる。男木島は港に面した傾斜地に張り付くように集落が密集していて、そこに点在する作品の見学は家々を縫うように張り巡らされた狭い坂道を歩きながらを行なう。実はこの散策自体も大きな魅力の一つ。
今回見学したのは【作品番号:og 09】グレゴール・シュナイダー(ドイツ)の「未知の作品2019」と、【作品番号:og 11】遠藤利克の「Trieb-家」。いずれも廃屋を利用した作品だが、その存在感は大きく異なり、真っ黒に染められた廃屋と周囲とのコントラストが異様なグレゴール・シュナイダーの作品に対し遠藤利克は部屋の中を流れる毎分6トンもの水を音とともに鑑賞するスタイル。
小豆島(しょうどしま)
瀬戸内海で最大の島、小豆島にも多くの作品が展示されている。南東部の市街地にある【作品番号:sd 28】ハンス・オプ・デ・ビーク(ベルギー)の「静寂の部屋」は、かつて島の醤油組合の事務所だった建物を利用したインスタレーション。無彩色の空間ににあるわずかな色彩は枝に咲く小さな花と鑑賞者自身。なお、この市街地は作品展示の多いエリアでカフェなどもあるので、ゆっくり時間をとって過ごすのもよいだろう。
高松港行きのフェリーも発着する草壁港そばに展示されているのは、【作品番号:sd 20】シャン・ヤン(中国)の「たどり着く向こう岸-シャン・ヤンの公開企画展」。中国のドラゴンボートレース用の船と廃棄された古い家具を組み合わせた全長27mの船は、将来的にはさらに進化させ実際の航海を目指しているという。
小豆島の西端にある小さな島、沖之島の各所に6000個以上のガラスビーズを置いた作品は、【作品番号:sd 20】クー・ジュンガ(韓国)の「OKINOSANG/元気・覇気・卦気」。島民とともに作り上げたという作品は、天候や時間帯によって表情を変えるというものだが、午前中がお勧め。小豆島との距離はわずか170mだが橋はなく、無料の渡し船で往来する。
島のいたるところに作品が展示される小豆島での鑑賞は、レンタサイクルや島内を走るバスを利用することになるが、効率を考えるとレンタカーの利用もお勧めだ。
犬島(いぬじま)
明治時代に開業した銅の精錬所跡に残る煙突が、島への来訪者を迎える犬島。この島の「犬島『家プロジェクト』」からプレスプレビューでは2件を見学。
【作品番号:in 04-B】半田真規の「無題(C邸の花)」は、200年以上前の倒壊寸前の空き家を改修した家屋に咲く木彫の花。雨戸が取り外され周囲と一体となった空間に自然の顔料、水干絵具で着色された楠の香りが漂う花がこの地の人と来場者にとって癒しの場となる。建物の外と中が透明な壁で仕切られた建築は【作品番号:in 03-B】ベアトリス・ミリャーゼス(ブラジル)の「A邸」。
大島(おおしま)
明治時代にハンセン病患者の療養所が開設された大島。現在でも全国に数ある国立のハンセン病療養所で唯一島全体が療養所という特殊さは、つまるところ隔離され続けた場所であることを意味する。もともと感染力が弱く、飲み薬で完治するようになった今、アートで切り開くこの島で暮らす入所者との交流は、一層ここが開かれた島となる大きな契機となっているようだ。
見学したのは【作品番号:os 03】田島征三の「Nさんの人生・大島七十年 -木製便器の部屋-」、【作品番号:os 04】やさしい美術プロジェクト「稀有の触手」、【os 07】山川冬樹の「海峡の歌/Strait Songs」、【作品番号:os 08】鴻池朋子の「物語るテーブルランナーin大島青松園」の4作品。
いずれも、我が国が続けてきた隔離政策における影の部分の証とも言えそうな作品でもあるが、今年より高松からのアクセスも一般定期航路が利用できるようになり、また国を相手に長らく続いていたハンセン病家族訴訟も夏の瀬戸内国際芸術祭の開幕前に終止符を打つなど、開かれた大島への歩みが結実しはじめたのは間違いなさそうだ。