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「瀬戸内国際芸術祭2019『あつまる夏』」レポート。正しい讃岐うどんの作り方を実演するロボット現わる
2019年7月25日 19:33
- 2019年7月19日~8月25日 開催
2010年の初開催以来、4度目となる現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2019」の「あつまる夏」と題された夏会期が7月19日に開幕した。
瀬戸内海の島々を舞台とするこの祭典だが、島々へ向かう起点となる四国側の高松港周辺(香川県)、本州側の宇野港周辺(岡山県)でも多くの作品が展示されている。今回はそんな2つの港周辺に展示された新作を中心に紹介する。
高松港周辺エリア
瀬戸内海の島々へ多くの航路を持つ香川県の高松港。夏の会場となっている大半の島への航路があり、直行できない犬島や男木島へも1島だけ経由するだけとアクセスは容易だ。高松空港から高松港へも1時間かからず高松市内には宿泊施設も多いので、遠方から訪れる人はこの街を起点に巡ると便利だろう。また市内にも多くの作品展示があるのも魅力の1つだ。
高松港にほど近い「北浜の小さな香川ギャラリー」と名付けられた古い倉庫街を再生したウォータフロント地区では、路地を散策しながら点在する作品を楽しむことができる。
大運ビルの2階に展示される【tk 10】ニコラ・フロック(フランス)の「Watercolors」は、瀬戸内海をはじめ世界中の海に潜ってきたニコラ・フロック氏が撮影してきた漁礁の写真と、プランクトンの形をした帽子を組み合わせたオブジェで構成された世界。
同じビルには【tk 11】太田泰友×岡薫/香川大学国際希少糖研究教育機構の「Izumoring - cosmos of rare sugar」の展示もあり、こちらは太田泰友のブックアートと岡薫のディレクションにより香川大学が世界に先駆けて研究している“希少糖”に関するインスタレーションだ。
同ビル5階ではニコラ・フロックの作品のパーツである帽子の販売や希少糖シロップを使った特別メニューを楽しめる。
キッシュと焼き菓子、コーヒーの専門店「206 TSU MA MU」の2階で展示、実演されているのが【tk 09】石原秀則の「うどん湯切りロボット」。多くの人が間違えているという正しい讃岐うどんの作り方をこのロボットが実演する。小豆島のおおみねの麺を使用し1日90食が実際に提供され、また期間中のこのロボットの名前も公募するそうだ。最大の難関はうどんに並々ならぬこだわりを持つ地元民を納得させられるか……とは開発者の弁。
「206 TSU MA MU」の2階では【tk 09】山下義人 監修による「香川漆芸」のほか多くの香川の工芸品が展示されている。こちらには作品番号はつかないものの伝承されてきたこの地の工芸品の魅力にあふれているので、こちらも楽しみたい。
会場エリアのレンガ広場は【tk 06】西堀隆史の「うちわの骨のひろば」として開放されている。丸亀市で職人の手によって丁寧に作られる「丸亀うちわ」6000枚の骨を用いた、一見穏やかに見える瀬戸内海のさまざまな潮流を意識し表現した空間作品。野外展示ゆえに天候や時間によって表情を変えるのも魅力だ。
高松市美術館
市内の高松市美術館で7月17日~9月1日に特別展「宮川愛子展 漕法(そうほう)」が開催されている。こちらは瀬戸内国際芸術際2019参加展覧会であり作品番号【tk 14】となる。
香川特産の音のなる石「サヌカイト」を素材とした新作インスタレーションのほか、ガラスや樹脂、ナフタリンを使った作品も多数展示され、写真撮影が可能なエリアも多く設定される。なお瀬戸内国際芸術祭2019作品鑑賞パスポートを提示すると通常入場料の2割引で鑑賞できる。
高松発のライブストリーミング
日本初のライブストリーミングスタジオ&チャンネル「DOMMUNE」を生んだ高松出身の宇川直宏が故郷でサテライトスタジオを開設する。夜はトークや音楽の番組を生配信し、日中は番組のアーカイブを公開する。高松に足を運ぶことなく世界で同時に現在進行形のアートを楽しめる試み。作品名は「DOMMUNE SETOUCHI」作品番号は【tk 12/ E 27】。
宇野港周辺エリア
瀬戸内海に点在する島々に本州からアクセスする起点の1つ、宇野港でも多くの作品が鑑賞できる。かつて本州と北海道を結ぶ青函連絡船とならび、日本の動脈であった本州と四国を結ぶ宇高連絡船の発着する古くからの重要港湾であり、それにともなって造船関連企業が集積した地でもある。そんなこの地の特性から生まれたのがH鋼で構成された【un 09】原口典之の「斜めの構成1/斜めの構成2/水平の構成3」。港のすぐ側に設置されている。
「瀬戸内国際芸術祭」は今回で4度目の開催となるが、以前に発表された作品のなかにはすでにパブリックアートとしてその地に定着しているものも多い。展示期間が終わればその姿を消し人々の記憶のなかだけにとどまる作品と、すでに定着した作品、そして開催ごとに発表される新作とが重なり合って「瀬戸内国際芸術祭」が形作られているようだ。瀬戸内海の島々や港を舞台に変化しながら一方で定着していくさまに「海の復権」を掲げたこの芸術祭の意義が見えるようで実におもしろい。