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シーザーズ・エンターテインメント、Adobeのツールによる顧客サービス改善をジェフリー・デ・コルテ氏が説明

2019年6月6日 実施

シーザーズ・エンターテインメント エンターテインメントオペレーティング事業本部 Eコマース・デジタルマーケティング担当バイスプレジデント ジェフリー・デ・コルテ氏

 ラスベガスを一度でも訪れたことがあれば、その中心とされるフォーコーナーと呼ばれる交差点にある「シーザーズパレス(Caesars Palace)」「フラミンゴ(Flamingo)」「クロムウェル(The Cromwell)」「バリーズ(Bally's)」などのホテルの看板に目を奪われたことだろう。これらを運営する企業がシーザーズ・エンターテインメント(Caesars Entertainment)だ。

 そのシーザーズ・エンターテインメントで、ITを活用した顧客サービス向上の取り組みを担当しているエンターテインメントオペレーティング事業本部 Eコマース・デジタルマーケティング担当バイスプレジデントのジェフリー・デ・コルテ氏が来日。同社のデジタルマーケティング戦略について話を聞いた。

ラスベガスなどでカジノホテルなどを運営するシーザーズ・エンターテインメント

シーザーズ・エンターテインメントのフラグシップカジノホテルとなるシーザーズパレス、向かって右手にフォーラムショップスがある(写真提供:シーザーズ・エンターテインメント)

 同社はラスベガスに本拠を構える企業で、「シーザーズパレス」「フラミンゴ」「クロムウェル」「バリーズ」「ハラーズ(Harrah's)」「リオ(Rio)」「リンク(The Linq)」「パリス(Paris)」「プラネットハリウッド(Planet Hollywood)」など、複数ブランドのホテルをラスベガス地区で運営しているほか、全米でハラーズブランドやほかのブランドのカジノやホテルを展開している企業として知られている。

 同社のビジネスはカジノなどのゲーミング事業、ホテル事業、フード事業(レストランなど)、エンタテイメント事業、リテール事業、ミーティング事業など多岐にわたっており、近年ではMICE事業などにも力を入れているという。デ・コルテ氏によればグローバルに15のブランド、55の施設、5か国に進出しており、日本に施設はないが、日本法人(シーザー・エンターテインメント・ジャパン)を構えており、将来的には日本にも施設の開設を希望したいと説明した。

名のない顧客へのサービス向上を目指してデジタルマーケティングツールを導入

シーザーズ・エンターテインメントの現状
新しいシステムを導入するときに目標にしたのはセグメント化、それぞれに特化した情報提供、最適化の3つ

 そして近年では、デジタルマーケティングに熱心に取り組んでいるという。デジタルマーケティングとは、今や1人1台というレベルで普及しているスマートフォンなどのデジタル機器を活用して、顧客に対して行なうマーケティングの総称だ。ダイレクトメールの送信やWebサイトでの広告出稿、自社WebサイトでのIDおよびそれに基づいたサービスの提供など、デジタルを活用した企業のさまざまなマーケティング活動を指している。

 デ・コルテ氏によれば、すでに同社の事業でも、ロイヤリティプログラム(航空会社のマイレージなどと同じように、ラスベガスのカジノでは賭ければ賭けるほどポイントがたまるプログラムを各社用意しており、会員を募集している)のデータを活用するデジタルマーケティングの仕組みを導入していたという。CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ソフトウェアの最大手となる「セールスフォース・ドットコム(Salesforce.com)」が提供するソフトウェアがすでに導入されており、それを利用してダイレクトメールを配信したりといったロイヤリティプログラム向けの各種のデジタルマーケティングをすでに行なっていたという。

 だが、それで十分かといえば、実は十分ではなかった。というのも「我々のWebサイトに来る顧客の80%は英語でAnonymous(アノニマス)と呼ばれる、名前の特定されないユーザーだった」からで、ほとんどの顧客層に対して十分なマーケティング活動が行なえていない状態だった。

 そこで、デ・コルテ氏は「そうしたアノニマスなユーザーのセグメント化(顧客層の分類)、それぞれに特化した情報提供、そしてそれらの最適化という3つを鍵にして新しいシステムの導入を進めていった」とのことで、新しいデジタルマーケティングのツールを導入することを決断した。それが、Adobeの「Adobe Experience Cloud」だった。

 Adobeといえば、PCに詳しい読者であれば、Adobe Creative Cloudというクリエイターツールの名前を聞いたことがあるだろう。Photoshopなどがその代表で、今やデジタルクリエイターの必須ツールとなっている。

 そのAdobeが大企業向けに提供しているもう1つの製品が、デジタルマーケティングツールのAdobe Experience Cloudで、導入した企業はWebサイトに効果的な広告を出したり、顧客の匿名性を維持したまま顧客一人一人に特化したコンテンツを提供したりなどを効率よく行なえるようになる。

 企業側にとっては効率よく、旅行者側からすればより便利にアクセスできるようにするのがこうしたデジタルマーケティングツールの特徴で、旅行業界でも導入例が相次いでおり、業界で注目されているソリューションの1つだ。

Adobe Experience Cloudを段階的に導入し、現在はAIも活用している

 デ・コルテ氏によれば、同社は段階的にAdobe Experience Cloudを導入してきたという。2017年に一部の機能を導入し、2018年により大規模に導入を行ない、従来は「Analytics」という分析ツールを中心に活用してきたところに、「Target」「Audience Manager」「DCO(Dynamic Creative Optimization)」を導入した。

2017年、2018年に導入したシステム
セグメント化の効果

 これにより顧客をセグメント化(富裕層、プレミアム層、ベース層を分類)し、それぞれのセグメントに向けて適切な広告を出せるようになった。ベース層の顧客に対してスイートルームが安くなりますよという広告を出しても意味がないことは言うまでもないが、Adobe Experience Cloudを活用することで、富裕層にはスイートルームを、ベース層には通常の部屋のディスカウント価格を提示するなどの広告の出し方が可能になったという。

 そして、もう1つ変わったことは、顧客に特化したコンテンツを表示できるようになったことだ。

セグメント化された情報を提供していない場合とした場合の表示の違い

 なお、これは決して個人を特定して行なわれるものではなく、あくまでユーザーは匿名のまま、Webブラウザが発行するCookieと呼ばれるデータなどをもとにして行なわれるユーザー特化型のコンテンツサービスとなる。

 これは、PCやスマートフォンのアクセス履歴などをもとにユーザーの嗜好や関心を絞り込んでいく手法で、現在こうした仕組みは一般的に利用されており、PCやスマートフォンに表示される広告や、ECサイトでのお勧め機能(リコメンデーションサービスと呼ばれる)などで使われている。

AdobeのAI(Adobe Sensei)を活用
2019年に導入したシステム

 シーザーズ・エンターテインメントでも、この仕組みを利用して「このCookieのユーザーはカジノで遊ぶのが好きそうだ」「スポーツが好きそうだ」など、リコメンデーションを表示することが可能になっているという。さらに、Adobeが提供するAI(Adobe Sensei)のアルゴリズムを利用することで、より精度は高くなっているということだった。

Webサイトのパフォーマンスだけでなく顧客体験も改善

 デ・コルテ氏によれば、その結果、広告のリーチ率や成約率が大きく向上し、同社の計測方法で6ポイントほどWebサイトのパフォーマンスがあがったということで、大きな効果が出たと説明した。

 こうした新しいツールの導入によって同社が得たのは、Webサイトからの収入が増えたり、広告のヒット率が上がったりというビジネス的なメリットだけではないとデ・コルテ氏は説明する。

今ではより顧客のセグメントに合わせて、趣向に合わせたWebサイトを提供できるようになっている

「新しいツールを導入した最大のメリットは、顧客のサービス体験が変わったことだ。従来はSNSやWebサイトなどがそれぞれ独立して運営されていた。しかし、新しいツールを導入した結果それらが1つのサービスとして動くようになり、顧客に提供できるサービスも一貫性を持てるようになり、よりシンプルになっていった。それはマーケッターにとってマーケティングの機会が増えるだけでなく、顧客の体験がより向上していくことにつながった」と述べ、結局のところ同社にとっても、ユーザーがより分かりやすく同社のサービスを使えるようになったことが最大のメリットであり、その結果がWebサイトのパフォーマンス向上につながっていったのだとまとめた。