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JALとKDDI、次世代通信規格「5G」を使った遠隔整備や搭乗ゲート認証の実証実験。カバンに入れたスマホで飛行機に乗れる

2019年3月18日 公開

作業支援システムの作業者側の様子。作業者の前のカメラの映像が支援者に転送され、支援者によって作業指示が書き込まれた映像が作業者の目の前のモニターに表示されている

 JAL(日本航空)とKDDI、KDDI研究所は、共同で行なっている次世代通信規格「5G」を使った実証実験の内容を、東京・天王洲にある「JAL Innovation Lab」で報道公開した。

 公開した実証実験は、「整備作業の遠隔支援」「8K映像による整備作業支援」「搭乗ゲートの認証」の3つ。これらは実証実験の第2弾となるもので、第1弾は2018年11月に行なわれている。実証実験の内容が商用化される時期などは未定だ。

5Gを使った「整備作業の遠隔支援」「8K映像による整備作業支援」「搭乗ゲートの認証」の実証実験を説明した

「整備作業の遠隔支援」は、遠隔地から航空機の整備作業を支援するというもの。作業者側に設置した4Kカメラの映像を見ながら、遠隔地にいる支援者が作業の指示を出す。

 これはKDDI研究所が開発し、KDDIグループが販売している遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」を使っているもので、これまでは困難だった4K解像度の映像伝送を、5Gにより実現していることがポイントとなっている。

 今回のデモ環境では、支援者側のディスプレイはペン入力に対応しており、映像に書き込みをして「このネジをチェックして」などの指示がグラフィカルにできるようになっている。AR技術が組み込まれていて、カメラや被写体が動いても、書き込みが被写体に追従する。指示の書き込まれた映像は、作業者側のディスプレイに表示される。

「整備作業の遠隔支援」は、遠隔地から航空機の整備作業を支援するというもの。作業者側に設置した4Kカメラの映像を見ながら、遠隔地にいる支援者が作業の指示を出す

 作業者側の環境は、今回のデモではテレビと民生用ビデオカメラを使ったものと、ヘッドマウントディスプレイとウェアラブルカメラを使ったものの2種類が公開された。

 システムの構成上、4K映像の処理だけで0.4秒くらいの遅延があるという。5Gは低遅延が特徴の一つだが、4Gでも遅延は0.01秒なので、現状のシステムでは5Gの低遅延を活かし切れていない。しかし4K映像となるとビットレートが最大で50Mbps前後になるので、安定して通信するためには5Gの回線が必要というわけだ。

ウェアラブルカメラとヘッドマウントディスプレイを使った作業システム。カメラはソニーのアクションカムで、ディスプレイはDynabookのインテリジェントビューワ「AR100」

 例えば地方空港などで航空機に不具合が見つかり、その不具合に対応できる整備士が空港にいないときは、対応できる整備士がその空港に移動するか、ほかの場所にいる整備士が遠隔で整備作業を支援する必要がある。

 現状では電話やスマートフォンなどで撮影した写真を使い、遠隔地から整備作業を支援しているが、今回のようなシステムを使えば、その効率を高めることができる。これにより、例えば地方空港での整備効率向上によって欠航便が減るなどの効果も期待できる。

支援者側の環境。ペンで書き込みながら指示を出せる。実際の航空機はこうした機器が壁面いっぱいに並んでいるような状態なので、こうしたビジュアルによる指示が非常に有効とのこと
作業者が作業している様子。奥に映っているのと同じ映像がヘッドマウントディスプレイにも表示されている。実はこのヘッドマウントディスプレイ、解像度640×360ドットなのだが、指示を受けるだけなら十分とのこと

「8K映像による整備作業支援」は、航空機全体の高解像度映像を撮影し、整備支援に利用するというもの。こちらは遠隔地からの指示などではなく、撮影された大容量の映像を同じ整備拠点内の別の場所で見るために伝送する、というイメージ実験となっている。航空機全体を映した映像でも、8K解像度であれば拡大することでパーツごとの状態も確認しやすく、整備作業に活用できるのではという提案だ。

8Kで撮影した映像の拡大表示。2K(いわゆるフルHD)だと拡大したときにかなりぼやけてしまう

 デモでは複数のカメラからの映像を用い、擬似的な自由視点映像を作り出すシステムも展示された。こちらはKDDI研究所の開発による、サッカーの試合中継などでも実証実験をしているシステムだ。しかしそうしたエンタテイメント用途では元画像を多少変形してもよいが、整備目的だと変形が許容されないので、少し違った技術になっているという。

作業支援システムでは映像ビットレートが15Mbps前後、フレームレートは20fps前後だった

 作業や支援はすべて整備場などの固定環境で行なわれるので、実際には固定ブロードバンド回線とWi-Fiでも同様のシステムは構築可能だ。しかし数十mの通信距離が必要な旅客機の整備工場で、数十Mbpsのビットレートの映像を伝送するとなると、現状のWi-Fiよりも5Gの方が安定性が期待できるという。

 こうしたシステムでは、一般利用者も使う商用の5Gネットワークを使う必要はなく、むしろ商用ネットワークだと通信速度の奪い合いになって通信品質に影響がでる可能性もある。そこでauの商用5Gネットワークを使うのではなく、個別利用できる5G帯域などで、独自のネットワークを整備工場内に敷設するといったことも考えられるという。

 その場合、JAL独自で無線ネットワークを作ることになるが、無線ネットワーク敷設はノウハウの塊なので、JAL向けのネットワーク敷設をKDDIが請け負うといったようなことも考えられるとのこと。

デモで公開された搭乗ゲート。天井にあるものが5G基地局だ。カバンの中に端末を入れていても、交通系ICカードで改札を通過するよりもスムーズにゲートが開いているように感じられた

「搭乗ゲートの認証」は、一般の利用者の端末を用いた機能となる。一般利用者が持つ5G端末に搭乗券をインストールし、搭乗ゲートの直上に設置した5G基地局の基地局IDと、5G端末にインストールした搭乗券を使って認証を行ない、搭乗時の搭乗券チェックを簡易化・高速化する。

 5G基地局からの電波は、その直下1.5m四方ほどだけを独自の基地局IDのエリアとし、そこを通過したときにしか認証が成立しないようにする。直進性が高く届きにくいミリ波の5Gを使うことで、その電波の届きにくさを逆に認証に使っているというわけだ。

サムスン製の5Gタブレット端末が実証実験で使われていた。おそらく2018年の平昌オリンピックで使われていたモデルと同じものだと思われる。技適は通っていないので、総務省による無線局免許証票のシールが貼られていた

 ミリ波は遮蔽物に弱いが、デモ環境では5G端末をカバンに入れたり、人体の陰に隠れたりした状態でも認証が行なえていた。反射波もあるので、全方位からの電波を遮断する金属製スーツケースに入れるような状況でないかぎり、通信は成立するとのこと。

 なお、今回の実証実験ではすべて、ミリ波の5G(28GHz帯など)が使われている。ただし、まだ実証実験で使える5Gネットワークは存在しないので、使われた5Gネットワークシステムは、実験施設内に基地局からコアネットワーク設備が用意されたクローズドなネットワークとなっていた。