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【JA2018】東京工科大学「CMC(セラミックス複合材料)センター」本格稼働を記念したシンポジウム。オールジャパンで競争力高める

IHI、川崎、三菱の代表がディスカッション

2018年11月29日 実施

東京工科大学は「CMCセンター」の設立を記念し、海外エンジンメーカーや国内の重工業企業の代表者を登壇者に招き、「『CMC(セラミックス複合材料)センター』設立記念シンポジウム」を実施した

 東京工科大学は11月29日、東京ビッグサイトで行なわれている「国際航空宇宙展2018東京(JA2018:Japan International Aerospace Exhibition 2018 Tokyo)」(日本航空宇宙工業会/東京ビッグサイト主催)の一部として、「『CMC(セラミックス複合材料)センター』設立記念シンポジウム」を実施した。

 東京工科大学が設立した、航空機エンジンなどの次世代材料として期待されているCMCの実用化に向けて産官学連携による研究拠点で、11月から本格稼働を開始した。

 航空機用のジェットエンジンの耐熱材料として主に使われているニッケル合金は、レアメタルなどを含有して耐熱性を上げているものの、1100~1150℃ほどで限界がくることから、その代替材料が求められるなかで注目されているのがCMCだ。すでに米GE AviationではLEAPエンジンの一部でCMCを採用している。

 CMCで用いられるSiC(炭化ケイ素)繊維は、東北大学が1970年代に開発したもので、世界的にも日本カーボンと宇部興産の2社が製品化しているのみで、日本が優位性を発揮できるのではないかという点でも期待されており、経済産業省でもSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のなかで、CMCの標準化・規格化・安全評価手法などの確率を目指すことを示している。

東京工科大学 CMCセンター長・片柳研究所所長 香川豊氏

 シンポジウムでは、CMCセンターに参画し、CMC開発を進める重工3社の代表者が集まり、CMCセンター長の香川豊氏をモデレータにパネルディスカッションを実施。まずは3重工の代表がそれぞれ自社の開発の現状などを説明した。

 三菱重工業グループからは、三菱重工航空エンジン 民間エンジン事業推進部 部長の牛田正紀氏が参加。同社は航空機エンジンのなかでも高温・高圧になる部分という、燃焼器や定圧タービンに力点をおいた事業活動や研究開発。エンジンの効率向上のため、「高温・高圧の状態で燃やして高いエネルギーを取り出し、それを効率よく使うのが取るべき道で、その方向で開発を進めている」とし、50~60年の間に圧縮比が約10倍、温度が800~900℃高くなったことから、これに耐える素材としてCMCに期待しているという。

 一方で、「空飛ぶエンジンなので、先進材料といっても新しいものを使うことに対しては非常にセンシティブ。耐空性の保証や信頼性の担保を、長時間、そして高額を投じて証明しないといけない」と指摘。CMCセンターに対して、「どんな検査ができて、どんな品質を担保できるか、また品質を担保するためにどのような検査が必要か、などを一緒に研究開発できれば」と期待した。

 三菱重工航空エンジンでは、SIPのなかで、酸化物系CMCとSiC系CMCの2つのテーマで酸化物系をシュラウド(タービンブレード端に取り付ける気密性向上や整流のためのパーツ)、SiC系をブレードで使うことを想定して研究開発。「低圧タービンに採用しようと思うと価格が高いと使えないので、いかに安く作るかを目指している。酸化物系はSiC系に比べてかなり低価格だが、高温性能がSiC系より低いので、酸化物系CMCを安く作って、いかに性能を上げるかの研究を進めている」と説明した。

 現在開発している酸化物系CMCでは通常の室温での曲げ強度が200MPa程度、1100℃時の引っ張り強度は170MPaほどの強度を実現。市販の酸化物系繊維に比べて、耐熱性を約100℃向上させる繊維の開発にも成功しているほか、EBC(耐環境コーティング:Environment Barrier Coating)なども開発している。

 また、コストダウンのためにCMCを作るプロセスのなかでも製造時間が比較的短いMIと呼ばれる手法を改良し、ほかの手法と比較して、最大2分の1の時間とコストを実現すべく、さらに高速に製造できる「高速MI製造」の確立を目指している。

 SIPなどで指標として用いられている9段階の「TRL(Technology Readiness Level:技術成熟度レベル)」としては、形を作って特性を出せている状況ではないために、基礎研究段階の「3」としている。「ベースとなる材料の開発は終わっているが、それを形に持っていくうえで3次元形状などが出てくるので、そこで一つの大きなハードルがある。形を作ったときに、平面の板の状態と同じような特性が出るか検証しないといけない」と課題を述べた。

三菱重工航空エンジン株式会社 民間エンジン事業推進部 部長 牛田正紀氏

 IHIからは、航空・宇宙・防衛事業領域 技術開発センター 材料技術部 主幹の中村武志氏が参加。同社では耐熱性によって、1200℃級を「リーズナブルコストCMC」、1400℃級を「ハイパフォーマンスCMC」と呼称して、それぞれの開発に取り組んでいる。

 1200℃級については繊維、界面、マトリクス(母体)、コーティングなどの基礎技術を開発済みで、すでに部品開発の段階に進んでいる。高圧タービンの構造に近い中空静翼の例では、バーナーで加熱・冷却を繰り返す熱サイクル試験で5000回を達成。小型ガスタービンへ4枚のCMCを搭載したデモエンジンでの試験でも、無冷却で400時間を超える耐久性を確認している。低圧タービンに近い中実静翼の試作品では、ガスタービンに6枚のCMCを載せ、600時間の耐久を確認している。

 一方、1400℃級のCMCについては、まだ公開できるデータはないとしたうえで、宇部興産のSiC繊維であるSAファイバーの改良を進め、界面やマトリクスの材料開発を進めている。

 SIPにおいては、1400℃級のEBCの開発。CMC基盤上にEBCを付け、1350℃の熱サイクル試験で目標の1000回を達成したという。

 中村氏は「革新材料は開発に時間とお金がかかる。パフォーマンスを上げるには素晴らしいものだが、それだけリスクも高い。なかなか1社だけの力で革新材料を開発していくのは難しい。国のサポートや、大学などの技術サポートが必要」と協力を求めた。

 TRLで表わすと、1200℃級については実証実験段階の「4~5」、1400℃級は部品試作の段階であることから「3」とした。1200℃級については次にエンジンに載せての地上試験となる「6」の段階へと進むことになる。

株式会社IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 技術開発センター 材料技術部 主幹 中村武志氏

 川崎重工業からは、技術開発本部 技術研究所 材料研究部 部長の井頭賢一郎氏が参加。

 井頭氏はまず、NOx排出規制の観点からCMCの重要性を説明。エンジン内の燃焼器は、金属のライナーで囲まれており、金属は溶解を防ぐために冷却を行なう。そのため、燃焼器出口(タービンの入り口)で1500℃ほどにしようと思うと、燃焼器内は50気圧ほどで、火炎は1600~1700℃ぐらいとなる。火炎の温度を上げると燃費はよくなるがNOxが増えるという相反関係があるため、冷やさなくても熱に耐えるCMCをライナーに適用し、希薄燃焼器で緩やかに燃やすことで、出口温度が同じでも火炎の温度を下げることができる。「希薄燃焼とCMCをライナーで使うのは相性がよい技術。燃焼設計チームと材料チームがタイアップして開発を進めている」という。

 同社はCMについて、一体型ではなく、セグメントパネルを組み合わせて作る工程を研究。他機関の協力を受けながら開発を進め、航空機エンジンでもっとも負荷が高くなる離陸時の燃焼環境を連続的に4時間与えても問題がないことを確認している。

 一方で、GE Aviationのタクトタイム(部品あたりの製造時間)に触れ、「1セット(約20枚のシュラウド)あたり10分、将来的に5分を目指すとしている。(川崎重工の)プロセスでは、特性のよいものを得られており、サプライチェーンの構築も見えてきているが、タクトタイムのところでかなり置いていかれている。さらにハイレート化、低コスト化を強力に進めないとGEに追いつけない」とも課題を述べた。

 計画では、2030年ごろに実際に運用されるエンジンに提供できるよう、その5~6年前までに材料や生産チェーンを構築したいとしている。

 ちなみに、同社は過去にCMC開発を一度中断したことがあるという。「(2013年に再開したときに)中断前の5年前とあまり変わっていなかったのも再開のモチベーションになった。その意味ではCMCは昔とあまり変わっていないので、そこに新しいプロセスや高靱化コンセプトなどを取り込んでいくことが必要。通常の金属とは違う温度域、圧力域の評価が必要なので、評価技術や推定技術や、試験・検査技術の標準化も必要になる」とCMCセンターへの期待を述べる。

 また、CMC開発に携わるプレイヤーが少ないことも指摘し、「CMCには簡単には手を付けられない。仕様やプロセスを開示した「センター標準CMC」をCMCセンターで設定して、関心のある企業に供給(販売)できるようにするのがよいのでは。一つのベンチマークにもなり、我々にも開発の指標になる」と提案した。

 TRLについては「4」にあるとし、「2022年には5~6にして、エンジンの地上試験に持っていきたい」と話した。

川崎重工業株式会社 技術開発本部 技術研究所 材料研究部 部長 井頭賢一郎氏

 その後、モデレータの香川氏からの問いかけに、重工3社が答える形でディスカッションが行なわれた。香川氏が「自社にない技術でほしいもの」を尋ねると、3社共通で評価設備や設計解析、検査技術を挙げ、「量産には使わないので我々自身では投資しにくいが、特性を測る技術や設備を持った企業のお知恵を拝借したい」(三菱エンジン 牛田氏)、「非破壊検査を含めた評価は、IHI独自のシステムを組んでも、それを航空局に認めてもらって認証を取るのは難しい」(IHI 中村氏)、「CMCは不健全な部分をきっちり見つけることにニーズがある。SiCは軽い材料なので、例えばX線を使っても影が出にくい」(川崎重工 井頭氏)と、それぞれがコメント。

 さらに川崎重工の井頭氏は、「実は加工していただける企業が多くない。加工機械が壊れる不安や、切りくずが異質なものになるなどの理由で、断わられたり、切削液を交換する前にやらせてほしいと言われたりして、ちょっと困っている」との課題も挙げた。

 また、香川氏が「オールジャパンの地からを使うために各企業が大学やCMCセンターの力を使いこなすためになにが必要か?」と問いかけ。法律上、外国人留学生など日本国籍を持たない人に開示できない情報などが含まれることを踏まえての質問で、川崎重工の井頭氏は「基本的にはクローズでやっていただくのがありがたいが、大学の立場では難しいとも思う。相談しながらやっていくしかない」と答えるに留めた。

 CMCセンター長の香川氏はシンポジウム後の囲み取材のなかで、「一緒にやった方が得な部分は一緒にやる」とコメントし、評価に必要な特殊な装置などをCMCセンターで用意したり、企業と共同研究したりする方針を示し、「エンジンに乗せるという点で(GE Aviationなどに)先行を許しているのは認めざるを得ないが、勝てるところはあるだろう。勝てるところを持って戦っていくしかない。向こうはすでにエンジンを作っているので、オールジャパンの力で勝てるところを作って、強いところを持って戦う」と意気込みを見せた。

 そうした海外に勝てる分野の一つとしては、パネルディスカッションで各社も述べた「検査・評価」の領域を挙げ、「AIを使った検査などは(世界的にも)まだどこもやっていないはず。我々がやって、(他国の企業・機関も)使わざるを得ない環境までに持っていきたい」とした。

 また、重工側代表者は、各社それぞれに得意分野があるので、コストも含めて競争力のある最適なものを作り上げていく意向を改めて示した。