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観光庁の田端長官がアウトバウンド促進協議会で講演。若者の海外旅行活性化に向けた取り組み
2020年オリパラ観戦によるアウトバウンドの“へこみ”対策を訴える
2018年11月13日 22:06
- 2018年11月13日 実施
JATA(日本旅行業協会)は11月13日、同協会が推進するJOTC(アウトバウンド促進協議会)の臨時全体会議を都内で開き、観光庁長官の田端浩氏が講演を行なった。
日本人の出国率の状況、海外旅行の阻害となる要因の分析、若年層の海外旅行活性化を図るための活動などを紹介し、2020年までに2000万人というアウトバウンド(日本からの出国)の目標達成に向けたさまざまな施策や考え方を示した。
また、JOTCの2018年の活動実績と2019年の計画について報告を行なったほか、2019年10月24日から開催する「ツーリズムEXPO 2019 大阪」などイベントの概要も解説した。
旅行会社は阻害要因を逆手に取ってプランの提示を
冒頭では、JATA 副会長・JOTC 会長を務める菊間潤吾氏が登壇。2018年のアウトバウンドの状況について「関空(関西国際空港)の冠水や北海道の地震で少し心配していたが、9月も前年(同期)を0.5%超える出国数となって、累計で104.4%、2012年に達成した1849万人を超えることができそうだと思っている」と述べた。
そのうえで、「目標は2020年で2000万人の達成。2020年は東京オリンピック・パラリンピックがあり、(開催期間となる)7~8月は海外へ行く人が停滞することも考えられる。今までのオリンピック期間のいろいろな国の出国者数を見ると前年の7割くらいになっているケースもある」と指摘。2020年の落ち込みを見込んで、「2019年のうちになんとか(2000万人の目標を)達成できればと願っている」と話した。
続いて田端氏が登壇。これまでのアウトバウンドの推移を振り返りつつ、「2017年のアウトバウンドは1789万人。この数年は増加傾向で、今後につなげていかなくてはいけない」と決意を新たにした。インバウンドについても「2017年は2869万人という実績。他国に比べインバウンド政策が遅れていたというだけだが、さまざまな取り組みの成果がようやく出た」と評価した。
ただ、増加傾向にあるとはいえアウトバウンドのさらなる拡大に向けては課題も多い。「国・地域別の出国率が日本は(ほかのアジア地域と比べて)低いので、今後どう改善できるか」と同氏。高齢者社会で若者の数が減っているため単純には比較できないとしながらも、「20代の出国者数は20年前に比べて約3割減少している」と懸念を深める。「今後の日本を担っていく世代。グローバルな人材になってもらうためにも、国家としても、政策としても(若年層のアウトバウンド増加対策は)重要」だとした。
そうした若年層のアウトバウンド拡大を阻害する要因として、同氏は調査結果のグラフを示しながら、言葉の壁、高額な費用、パスポートの手続きや飛行機・乗り継ぎ便・宿の手配(が手間)、といったものがあると説明した。しかしながら「このあたりは(旅行業界にとって)ものすごいチャンス。そういう部分の嗜好をくすぐって、よいメニューを提示できれば、むしろ阻害要因を逆手に取れるんじゃないか」と分析する。
調査によれば、若年層を含む全年齢層においても、「治安が心配」や「言葉に不安がある」という阻害要因が近年増えてきているという。同氏は「経験したことのない、新しいことをするために海外へ目を向ける(というのが海外旅行)。もうちょっとアクティブな感覚にしないと世界から取り残されてしまうのでは」と不安を口にした。
とはいえ、若年層のアウトバウンドの活性化に向けては、すでにいくつかの施策が実施されている。同氏によると「教育界、経済界などとの連携」を強め、Googleともデジタルマーケティングにおいて協力関係にあるとのこと。ほかにも、海外旅行中に撮影した10秒のショートムービーを募集して優秀作品を選定するフィルムフェスティバル「ShortShorts」による海外旅行の魅力の発掘、学生の留学費用を一部支給する「トビタテ留学ジャパン!」などを実施しているとした。
高校の修学旅行・海外研修の実施校数も増加傾向にあると同氏。「集団旅行になるのでまさに旅行会社の役割が重要になる」とし、社会人になったあとの海外赴任や海外旅行につながるものとして、学生のうちから施策を打つことの重要性を訴えた。旅行会社などを巻き込んだ、海外の安全情報を共有するプラットフォームの開発も進めており、治安に対する不安の軽減に役立つものとして推進していく方針も示した。
観光庁が進める「休暇改革」とその進捗は
また、田端氏は観光庁が直接手がけている取り組みについても紹介した。その1つが企業と連携した「POSITIVE OFF」運動。従業員に対して通常の休日・祝祭日以外の休暇の取得を呼びかけるというもので、現在800社が賛同しているという。
気軽に休暇を取得できる雰囲気作りをすることで外出・旅行の機会を増やすのが目的だが、現在のところ一般の人に広く知られているとは言いがたい。観光庁としてもそうした状況は認識しており、今後はWebサイトやSNSでの情報発信、企業における優良事例の表彰などを通じて積極的なPRを行なっていくと語った。
もう1つは「家族の時間づくりプロジェクト」。子供の学校の休業日を柔軟に設定し、一方で親が勤める企業では有給休暇を取得しやすくする「大人と子供の休暇のマッチング」を行なう地域ぐるみの取り組みだ。こちらも全国的には「動きが低調」のため、自治体への実態調査や優良事例の表彰などで改めて活性化していくことを約束した。
そんななか、観光庁自体が、観光庁に勤める職員の旅行実態について調査を行なったことも明らかにした。それによると、過去1年間に国内旅行に出かけたのは86%、過去3年間に海外旅行に出かけたのはおよそ半数という結果に。海外旅行においては旅行会社を利用する例が70%と高く、旅行先は米国、台湾、タイの順に多い。
一方で海外旅行をしない理由には、費用がかかりすぎる、休暇が取れない、言葉が不安、といったものが並び、一般の人と大差ないことも分かった。しかしながら田端氏は「休暇が取れないというのは、休暇改革をやってこうとしている観光庁としては問題」と、複雑な胸の内も見せた。
同氏は終わりに、菊間氏が冒頭で語った2020年7~8月の海外旅行の停滞予測について言及。「休暇改革をしっかりやって、9月にどっと海外へ出かけるように仕掛ける(のもいい)」と冗談めかしながらも、「(2020年7~8月の)アウトバウンドのへこみを極力減らすよう、今から対策しておくべき」と気を引き締め、会場に集まった旅行業界関係者に対してその協力を求めた。
そのほか、今回の臨時全体会議ではJOTCの2018年の活動実績と2019年の計画についても報告があった。今後のイベント予定としては、2019年2月22日に「海外旅フェスタ in 立川」を開催、羽田空港の国際線ターミナルでは旅行関連の展示やセミナーを行なう「もっと!海外へ 羽田から世界へ」を2018年に続き2019年も3月22日~24日の予定で実施する。さらに2019年10月24日~27日にはインテックス大阪で「ツーリズムEXPOジャパン 2019 大阪」を開催する予定だ。
JATAが2013年に選定した「ヨーロッパの美しい村30選」や2015年の「ヨーロッパの美しい街道・道20選」に続く、食をテーマにした20~30選についても2019年に向けて検討するとのこと。さらに、若年層のアウトバウンド活性化に向け、「20歳 初めての海外体験プロジェクト」を提案。10団体各20名(計200名)の規模で、文化交流、社会貢献活動などをアジア地域で体験するプログラムの実施を計画していることを紹介した。