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【TRENZ 2017】急成長を見せるニュージーランド観光の商談会「TRENZ 2017」レポート(その1)
羽田線開設への期待からニュージーランド航空やオークランドが日本にフォーカス
2017年7月4日 00:00
- 2017年5月9日~12日(現地時間) 開催
ニュージーランド最大の旅行業界の商談会「TRENZ」が、オークランドのクイーンズ・ワーフにあるThe CloudとShed 10で、5月9日~12日(現地時間)に開催された。ニュージーランド政府観光局による取材ツアーに参加したので、本イベントで語られたニュージーランドの最新情報などをお伝えしたい。
TRENZ 2017には、ニュージーランド各地の観光業者や地方観光局など約300の企業・団体が出展。29カ国から約380名のバイヤーが集まった。1年に1度行なわれる商談会で、年ごとに開催地が異なるのも同イベントの特徴。2017年はニュージーランド経済の中心地といえるオークランドでの開催となった。
会場となったのはレンガ造りの建物でも知られるフェリーターミナルに隣接したThe CloudとShed 10で、商談会場としてはThe CloudとShed 10の1階部分を使用。所狭しと出展者がブースを構え、事前にアポイントメントをとったバイヤーが各ブースをまわるのが基本的な商談の流れとなる。ITシステムを活用した出展者(セラー)とバイヤーのマッチングシステムが導入されており、Webサイト上で参加者個人のアカウントを使ってアポイントメントのリクエストからスケジュール調整などのやりとりができ、成立したアポイントメントはそのままカレンダーに設定、TRENZのスマホアプリからスケジュールを確認しながらブースをまわれるようになっている。
本稿ではレポート第1弾として、3日間にわたって観光業界のリーダーたちが報道関係者向けに行なったプレゼンテーションの内容をお伝えする。
ニュージーランド渡航者は前年比12%増の350万人、日本人は10万人超え
5月10日に行なわれた説明会は、まずTRENZの主催者であるニュージーランド観光業協会(TIA:ツーリズム・インダストリー・アオテアロア)のCE(Chief Executive)であるクリス・ロバーツ(Chris Roberts)氏が登壇。
2016年度、日本からのニュージーランド渡航者数は10万人を突破(2016年4月~2017年3月の統計)。ニュージーランド航空が冬期に関西国際空港~オークランド線の季節運航を行なうなど、渡航を促すトピックもあった年だ。
この関空~オークランド線は2017年も季節運航の実施が発表されているほか、7月21日には羽田~オークランド線も週3便で運航を開始し、ピーク時には日本~オークランド間は週13便が運航されることになる。成田~オークランド線のみ週7便という状況から倍近い便数となり、2017年度の渡航者数増にも期待がかかる。
TRENZ 2017初日に行なわれた記者説明会で登壇した、TIAのロバーツ氏は、ニュージーランドへの渡航者が前年比12%増の約350万人を達成し、旅行者の消費額は12.2%増で、約347億NZドルとなった。
観光は輸出産業の一つに該当するが、ニュージーランドではその2012年からの輸出の伸び率の割合のなかで観光業が48.7%が占めている。2013年で7億5000万NZドルだった外国人観光客からの税収入は、2016年には10億ドルを超える規模となり、2017年はさらなる増収が期待されているという。
TIAでは、観光業のさらなる持続発展のために2025年までのマニフェストを掲げている。ニュージーランドへ来る人の最大の目的は自然を楽しむことにあるとし、その品質を高めるために自然保護区をはじめとする自然環境保護への取り組みを挙げたほか、サイネージによる情報提供や通信環境といった重要な観光地へのインフラストラクチャ投資、観光業による雇用の創出、それらに必要な政府への働きかけなど、マニフェストの内容は多方面にわたる。ニュージーランド政府でも、観光業を支援し、持続的に成長させるためのポリシーを策定しているという。
続いて、TNZ(ニュージーランド政府観光局)のCEであるスティーブン・イングランド=ホール(Stephen England-Hall)氏が登壇。イングランド=ホール氏は2017年4月3日にCEに着任したばかり。
イングランド=ホール氏はニュージーランドのGDPの5.6%を占める主要産業となったツーリズムの価値が高まっているとし、TNZとして収入とビジネスの機会を創出する機会を提供することを説明。
そのうえで、2021年までの4年間で観光業によるニュージーランド経済成長を実現するための戦略を紹介した。その戦略の要点は閑散期対策、地方への誘客にあり、スポーツなどの特定目的での旅行、いわゆるSIT(Special Interest Tour)をターゲットにし、各地域のプロモーションに取り組むとした。また、そのために業界のあらゆるパートナーと協力していく姿勢も示した。
また、この説明会後には弊誌のインタビューに応じ、ニュージーランド観光の課題として、上記の地方誘客を挙げたほか、「体験型のツーリズムの価値を高め、そのような体験をするうえでニュージーランドが最高の国であると分かってもらうことが重要だ」との認識を示した。ニュージーランドの魅力は「さまざまなものがコンパクトに集まっている。例えば豪華なディナーを楽しめるレストランから、ほんの少し移動するだけでビーチとスキー場といった大自然を満喫できる」という点を挙げた。
先述したとおり日本からの旅行者が2016年度に10万人を超えたことの要因は、「一つは航空路線のキャパシティ(座席数)が増えたこと。そして、日本の経済状況もよくて旅行者が増えている。ニュージーランドは親日国で、日本人を温かく歓迎しているので、よい時間を過ごしていただいているのでは」としたほか、「日本では2019年にラグビーのワールドカップ、2020年にはオリンピック・パラリンピックがあるので、結び付きはますます強くなるだろう」とコメント。
渡航に欠かせない存在である航空会社との取り組みについては、ナショナルキャリアのニュージーランド航空とは「新たな市場開拓を共に行なう緊密なパートナー」であるとした。
ここからは航空関係者2名がスピーチした。まずはオークランド国際空港 CEのエイドリアン・リトルウッド(Adrian Littlewood)氏だ。
ニュージーランド航空のハブ空港でもあり、同空港では、この3年間で便数が50%増加。2015年から2016年の1年だけを見ても、11社の新たな航空会社が18路線を新規開設。なかでも、シンガポールやクアラルンプール(マレーシア)、中国などアジア路線が増加。とくに中国路線は7つの航空会社が運航し、香港だけで3社と、接続性の向上が著しいとした。そのような成長の結果、年間の旅客数は1860万人となり、今日では29の航空会社が46の路線で年間約16万2000回の発着がある空港へと成長したという。
一方でリトルウッド氏は、キャパシティ(座席数)不足も指摘する。全体では旅行需要に対して73%の旅客しか受け入れられておらず、27%の不足であるという。とくに日本とほぼ同数の渡航者があるドイツが43%の需要を満たせておらず、ドバイ路線の開設で往来しやすくなったもののまだまだ不足が顕著であるという。リトルウッド氏はこうしたキャパシティ不足は「潜在性を秘めていること」であるとして、さらなるキャパシティ増加に注力していく意向を示した。
また、空港としても観光協会らと協力しての旅行商品造成や、ターミナルのインフラ整備に努めていくとした。
航空関係者のもう1名は、ニュージーランド航空 CEOのクリストファー・ラクソン(Christopher Luxon)氏。同氏はまず、ニュージーランド航空が2015年に創立75周年を迎えたことや、2年前に策定したサステナビリティ・フレームワークに基づき、ニュージーランド経済の発展に貢献できるような取り組みを進めていることを説明。
最近の動向としては、就航エリアを拡大していることを紹介。直近の1年半だけでも、ヒューストン、ホーチミンシティなどへ就航。長距離路線ビジネスが16%伸長し、なかでも米国、オーストラリア、日本の各路線が好調であったという。特に米国については2015年12月に開設したオークランド~ヒューストン線の効果が大きく、「迅速な接続を実現したことで、米国の東部地域との間にあった大きな壁を解消した」と話した。
また、同じく2015年12月に開設したオークランド~ブエノスアイレス線も好調で、ニュージーランド~南米間だけでなく、ニュージーランドを経由したオーストラリア~南米間の渡航も増えているという。この結果を受け、現在週3便の同路線を、2017年11月から段階的に増便し、12月から週5便で運航することを明らかにした。
ラクソン氏は日本市場にも言及。年間渡航者が10万人を超えた日本を「ドイツと並ぶトップ6に入る強力な市場」と表現し、関西国際空港への季節運航などの成果を紹介。さらに日本にはまだまだチャンスがあるとし、7月21日に就航する羽田~オークランド線により、座席供給量は15%増加(通年で比較)。高価値な旅客の来訪を期待できるとした。
さらに、日本との関係についてはその重要性を強調し、その理由として、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにより、ニュージーランドにおいても日本への興味、関心が高まることによる(ニュージーランドからの)アウトバウンド増にも期待を示した。
このほかにラクソン氏は、「30億ドルを費やして過去数年をかけて高効率のフリートへ更新を進め、世界で最も若い機齢の航空会社になった」と話し、2018年9月までに順次、ボーイング 787-9型機が4機到着するほか、9000万ドルを投資してボーイング 777-300型機のキャビンを更新し、ワイドボディ(双通路)機は2017年末に26機体制になると紹介。ナローボディ(単通路)機も13機のエアバス A320neo/A321neo型機導入を行なう。
同氏は最後に、空港のラウンジも1億ドルを投資し、オークランド、ウェリントン、フィジー、シドニー、ブリスベン、クイーンズタウン、メルボルンと改装を進めたことを紹介した。
5月10日の最後に登壇したのは、ロトルア・キャノピー・ツアーズのマネージング・ディレクターであるジェームス・フィッツジェラルド(James Fitzgerald)氏。ロトルア・キャノピー・ツアーズは、2016年度のニュージーランド・ツーリズム・アワードにおいて最高の賞となるAir New Zealand Supreme Tourism Awardを獲得したアクティビティ。オークランドから南東へクルマで3時間ほどの距離にあるロトルアは、マオリ文化に触れることができる施設も多い自然豊かな土地で、この森林でロープにぶら下がって滑り降りるジップラインを体験できる。
加えて、環境保全の重要性も学べるアクティビティとなっており、同施設ではキャノピー・コンサベーション・トラスト(Canopy Conservation Trust)という団体を立ち上げて、この森林の生態系回復を目指している。
ニュージーランドは島国ということもあって非常に多くの鳥類の固有種がいるが、もともと鳥類を捕食する哺乳類がいなかったことから、キーウィに代表されるような飛べない鳥や、低木地に巣を作って繁殖活動をする種が多いことで知られる。植物や昆虫なども含め、哺乳類がいない環境から発生した連鎖や種の進化によって、独特の自然が形成されていた。
しかしながら、海の向こうからやってきた人間によって、その自然が大きく変化した。ネズミ類やイタチ類などの哺乳類が持ち込まれた結果、多くの鳥類が捕食され、絶滅したと言われている。ニュージーランドでは2050年までに哺乳類を根絶することを目標にさまざまな取り組みを進めており、旅行などでの渡航においても動物の持ち込みは極めて厳しく制限されている。
このロトルア・キャノピー・ツアーズでは、2013年に第1フェーズとして哺乳類の捕獲活動を行なったが、ツアー代金の一部をCanopy Conservation Trustの運営資金とし、継続的に取り組んでいる。その後は回を重ねるごとに規模を拡大。当初は50ヘクタールに罠を仕掛けていたが、第3フェーズとした2016年の活動では新たな協業パートナーが提供する新タイプの罠を用いるなどして200ヘクタールの範囲に罠を仕掛けるようになった。
その結果、2012年のオープン当初は鳥の声がまったくしない森のなかを滑り降りる状況だったというが、現在は固有種も戻ってきているとのことだ。さらにニュージーランド固有の自然を取り戻すべく、今後も取り組んでいくとしている。
2016年11月の大地震からの復興を目指す北カンタベリー地方とマールボロ地方
TRENZ 2017の3日目にあたる5月11日は、主に南島からの代表者によるプログラムが組まれた。
まず登壇したのは、クライストチャーチ国際空港のCCO(Chief Commercial Officer)であるジャスティン・ワトソン(Justin Watson)氏。クライストチャーチ空港は6年前の2013年に新ターミナルが開業し、これまでに各地のRTO(Regional Tourism Organization、地方観光局)や旅行業者などと協力した南島の旅行商品造成を加速させているという。
特に重視しているのが中国からの渡航者獲得で、その取り組みの一環としてアリババグループとの戦略的パートナーシップを締結したことを紹介した。ワトソン氏は「これによりもたらされる価値は計り知れない。より多くのハイバリューな中国人訪問客を引きつける力がある」と説明。アリババが持つプラットフォームを利用してターゲティングを行ない、アリババの旅行サービスでより適切な商品を提供。その結果から得られたデータを基に、さらに新たな価値を提供していくことが可能になる。
また、中国人の特徴として、クレジットカードではなく電子マネーを使う傾向にあり、まずは空港内でAlipayを利用できるようにするほか、オンラインで南島の商品を提供できる仮想店舗を提供することや、南島各地でのAlipay対応を推進したいとした。
続いてはエンカウンター・カイコウラのビジネスマネージャであるリネット・バーマン(Lynette Buurman)氏が登壇。カイコウラを含む南島のカンタベリー地方北部は、2016年11月14日(現地時間、日本時間11月13日)にマグニチュード7.8の大地震とそれに伴う津波が発生。崖崩れなどの大きな被害を受けた。
バーマン氏は、写真をスライドショーで紹介している間も時折声を詰まらせる様子があるほど、まだ生々しい記憶が残るなかで説明を行なった。
カイコウラへは、主要空港があるクライストチャーチから北へ進み、ワイパラで二手に分かれるルートを海側に進んだ方向にある。観光誘客に向け、ワイパラとのパートナーシップを締結し、2都市をまわる商品の造成などで協力していくことが発表された。
そして、この地震による観光業への影響がもっとも大きかったのが、カイコウラのさらに北、南島の北東にあたるマールボロ地方。次に登壇したのは、デスティネーション・マールボロのゼネラルマネージャーであるトレーシー・ジョンソン(Tracy Johnston)氏である。
クライストチャーチからワイパラから海側へ向かい、カイコウラ、マールボロ地方へとつながるSH1(State Highway 1)に大地震による崖崩れの土砂が流れ込み、封鎖されてしまっている。同じくこの影響で並走する鉄道も封鎖された。このカイコウラを経由するルートが封鎖されたことで、ワイパラから内陸側を通る大回りでのアクセスが余儀なくされている。
カンタベリーやマールボロは国内旅行者が多い地域で、特にカンタベリーは国内旅行消費額の3分の1を占めるほど大きな国内旅行市場となっている。同氏が示した調査会社によるアンケート結果によると、マールボロを訪れる頻度が大きく減ったまたは減ったという人が半数以上を占め、37%は影響がないと答えた。マールボロの代わりに訪れた場所を尋ねたアンケートでは、43%がカンタベリー地方と答える結果で、SH1の封鎖によってマールボロ地方まで足が伸びていない傾向が顕著に出ている。
ちなみにマールボロ地方も地震の影響を受けたが、中心都市のブレナムにある旅行者のための情報センターは地震後1カ月で再開。プリンセスクルーズが運航するエメラルド・プリンセスは地震直後の11月21日にピクトン港に入港し、3000人以上の旅客を入域させたという。
マールボロ地方では2017年4月から「Never Been Better」と名付けた観光プロモーションを開始。これは、家族や恋人などと週末をゆっくり過ごしてもらうことをターゲットにしたもので、マールボロ地方で季節ごとにどんな楽しみ方ができるかであったり、あまり知られていない地域であったりを周知していくことで国内観光客回復を図る考えだ。
ここからは星空鑑賞をテーマにした観光/宿泊施設のプレゼンテーションが続いた。まずはレイク・テカポで星空鑑賞ツアーを提供しているEarth & Skyのゼネラルマネージャーであるマーガレット・ムンロー(Margaret Munro)氏が登壇した。
レイク・テカポは晴天率が高く、夜にはきれいな星空広がることで有名なった土地。現在はユネスコの世界遺産への登録を目指して活動をしている。マーガレット氏は、夏はマウント・ジョン山頂への太陽の光を浴びながらのドライブや、レストランで美味しいケーキやコーヒーを空の下で楽しめること。冬はしばしば0℃を下まわり雪も積もるほど冷え込むものの、天の川が広がり、クリアな星空を楽しめることを紹介。「3000個の星が見え、カメラや望遠鏡ならさらに数千の星を見られる。手で触れられると思うぐらい近くで星空を感じられる」と環境のよさをアピールする。
そのレイク・テカポで星空鑑賞ツアーを提供するEarth & Skyは日本人の小澤英之さんとニュージーランド人が共同で、2004年に営業を開始。マウント・ジョン山頂にある地球最南端の天文台などへ行って星空を楽しむツアーを提供している。望遠鏡なども完備しているほか、写真を撮りたい人などへのサポートも実施。マウント・ジョン山頂のアストロカフェでは、寒空の下の星空鑑賞で冷えた体を温められるホットチョコレートも提供している。経営に日本人が関わっていることもあり、もちろん日本語の対応が可能。英語や中国語でも対応しているという。
Earth & Skyでは今般、ニュージーランドの大手旅行会社であるナイ・タフ・ツーリズムと業務提携。両社の共同出資により、新たに国際天文センターの開発を進めることを発表している。この国際天文センターでは、5トンにもなるという大型望遠鏡が設置されるほか、インタラクティブな科学エリア、カフェ&レストラン、天文の歴史を紹介する展示場などを設ける計画だと紹介した。
続いて登壇したのは、ガラス張りの宿泊施設「PurePods(ピュア・ポッズ)」のCEであるステファニー・ハッサル(Stephanie Hassall)氏。同氏が「ホテルではなく体験するもの」と紹介するPurePodsは360度全面ガラス張りのラグジュアリーな宿泊施設で、2014年から営業を開始した。
現在、南島内のクライストチャーチ周辺で2カ所、カイコウラ/ワイパラ周辺で各1カ所の計4カ所の施設を運営。先述の大地震の際には、カイコウラ近くの施設でガラス1枚が割れたものの、大きな損害は受けなかったという。
「ワイドグラスボックス」のコンセプトのとおり、バスルームなども含めて全面ガラス張り(ブラインドはあるという)。夜は空一面に広がる星空をベッドにいながらに楽しめる。
エコツーリズムの側面も持っており、バイオ燃料と太陽光を組み合わせた設備による暖房システムを利用しているほか、汚水はバイオ分解によって処理し、屋根に降った雨水は周辺の草木の栽培に役立てているという。また、Wi-Fiや携帯電話の電波は一切届かない。
4カ所いずれも詳しい場所は秘匿されている。指定された場所へクルマで行き、15分歩いた場所にひっそりと立っているという。もちろん1施設あたり1泊1組のみの受付となる。料金は490ドルからで、夕食と朝食は別途注文しておくこともできる。
最後は北島のタイランガでアクティビティ施設などを経営しているワイマリノグループの紹介となった。今回は星空鑑賞がテーマということで、ワイマリノグループが経営する「ワイマリノ・グローワーム・カヤッキング」のディレクターであるブレア・アンダーソン(Blair Anderson)氏が同アクティビティの紹介を行なった。
グローワームとはツチボタルのことで、ニュージーランドの洞窟や鍾乳洞の壁に張り付くように生息して光を放つ。暗い洞窟のなかで光るその様子はまるで星空のようでもあるが、ワイマリノ・グローワーム・カヤッキングは、日没後にシーカヤックを繰り出して、自然のなかを抜けて、洞窟へ向かうアクティビティとなっている。アンダーソン氏によれば「暗い時間であることが重要で、より暗いことでツチボタルをより楽しめる」と説明する。
日没まではシーカヤックの発着場で料理やワインが振る舞われるところからアクティビティがスタート。日没後にカヤックに乗って出発となるが、洞窟へ向かう間も自然のなかを進む。日没後なので、満天の星空も楽しめる。アンダーソン氏は、ニュージーランドではシーカヤックを使ったアクティビティは多いが、美味しい料理と大自然に包まれたシーカヤックを体験できることを特にアピールした。
ポーラ・ベネット観光大臣が総額1億7800万ドルの観光インフラ創設を発表
5月11日には、ニュージーランド政府の副首相兼観光大臣のポーラ・ベネット(Paula Bennett)氏と環境保全大臣のマギー・バリー(Maggie Barry)氏も来場。
ベネット観光大臣は同国の観光産業が生み出している仕事、雇用の数の多さに触れ、同国にとって重要な産業と位置付け。しかしながら、“大きな街”と“小さな街”では売り上げやインフラ、設備に違いがあり、大きな街に多くの人が集まりキャパシティの問題も起こっていると説明。インフラの整備が観光の成長には欠かせない要素になっているとした。
そこでニュージーランド政府が、総額1億7800万ドルのTourism Infrastructure Fund(観光インフラ基金)を創設し、今後4年にわたって運用することを発表。このうち7600万ドルはDOC(環境保全省)に割り当てられる。
この基金は観光の成長をサポートするため、例えば観光地のトイレや駐車場、上水道の整備といったインフラ整備に用いることを目的とするもの。基金の用途に関しては今後詳細を決めていくことになるが、そのプロセスも透明度の高いものにするとした。対象となるのは主に地方自治体で、財政的にこの基金の必要性を示すことを求めることで、上述のような“小さな街”でのインフラ整備が促進されるような仕組みにするという。
ベネット氏は、この基金は政府による観光インフラ投資の一例で、それ以外にも多くの投資をしているともし、例えばクイーンズタウン周辺へは中国人観光客誘致のためのインフラ整備のために8500万ドルの投資をしたことなどを紹介した。
このベネット氏に続いてスピーチしたバリー環境保全大臣は、DOCに割り当てられた7600万ドルの使途について説明。自然体験型の観光地では観光客の増加により、自然環境の維持が難しくなるという問題は全世界的に起きており、“自然”を目的とする訪問者が多いニュージーランドも例外ではない。
例えば、火山地帯を抜けていることから人気が高い「トンガリロ・アルパイン・クロッシング」は訪問者数が四半世紀で1万1000人から12万5000人へと急増。このうち60%が海外旅行客で、ワンデーウォーキングの人が多いという。
バリー氏は、海外からの来訪者と国内旅行者で入場料を分けられるようなオンラインシステムの改修に1140万ドルをかけると説明。一方で、海外からの来訪者を「金の卵を産むガチョウ」と表現し、こうした人たちに不快感を与えないための配慮もするという。
また、特定地域への負荷を軽減するためにニュージーランド政府では「グレートウォーク」というハイキングコースを設定しているが、さらに2つのコースを新設。加えて、先の説明にもあったとおりワンデーウォーキングを楽しむ人が多いことから、1日や半日程度で楽しめる「グレートワンデーウォーク」「グレードショートウォーク」を新たに作ると表明。これらの開発にも費やす。
バリー氏は、このほかにもニュージーランドで自然を楽しみたい人の体験を高めるため投資をし、それが訪問者の体験向上にもつながるとした。
日本代表ヘッドコーチも務めた伝説のラガーマンがオークランド観光大使に
TRENZ 2017最終日のメディアプログラムは、同イベントの開催地であり、ニュージーランド最大の都市であるオークランドの取り組みや、ニュージーランド観光の市場予測が用意された。
オークランドからは、ATEED(Auckland Tourism, Events and Economic Development)のHead Of Tourismであるジェイソン・ヒル(Jason Hill)氏が登壇。同氏は2005年10月から2011年2月までニュージーランド政府観光局の日本局長を務めた人物だ。
ヒル氏はまず、2011年にラグビーワールドカップがオークランドで開催されたことに触れ、その年に向けた投資ののち、2012年に策定した2021年に向けた「ビジター・プラン・ストラテジ2021」に言及。この戦略は、高価値ビジターの獲得や新たな体験の造成、インフラ整備などにより観光業による経済効果を53億ドルから82億ドルにまで高め、新たな雇用も創出しようというもの。オークランドは同地の空港が国内外のゲートウェイとしての役割が強く、いかにオークランドに立ち寄ってもらうかが課題となっていた。
ヒル氏はオークランドの魅力は多様性にあるとし、ショッピングから自然体験、海上でのアクティビティなどが1時間で行ける範囲にすべて揃っていると紹介する。最近では国際的なラグジュアリー旅行代理店の「Virtuoso」とも協業を開始した。
2016年度のオークランドは旅行者による支出が76億ドル、海外からのオークランド空港への到着者が250万人と順調に伸長。オークランドでの支出は直近5年間で39%増となっている。現在は客船の寄港がもたらす旅客数と経済効果、雇用創出が大きいことから、受け入れ体制の強化を進めているという。
フォーカスする市場は優先度を3段階に設定しており、ティア1はオーストラリア、中国、国内旅行にフォーカス。ティア2が米国、日本、東南アジアとなっており、日本について関空の季節便や羽田からの新たな路線に期待を寄せている。このほか、インドネシアと南米を開発市場に位置付けている。
このほかのオークランドの取り組みとしては、オークランドのビジネス地区(CBD)の開発について挙げられた。オークランド地下鉄を延伸し、CBDに新駅を設置。このエリアをループできる路線とする。併せてCBDエリアには2500室以上の新しい宿泊施設、7000室のアパートメント、167m2の商業ビルなどが建設予定となっており、投資額は230億ドルにのぼる。今後10年間をかけて整備を進める。
また、ラグビー日本代表の元ヘッドコーチで、「オールブラックス」の名で知られるラグビーニュージーランド代表の一員として、第1回ワールドカップでトライ王に輝いたジョン・カーワン(John Kirwan)氏を、オークランド観光局が観光大使に任命したことも発表された。
続いて、MBIE(Ministry of Business, Innovation & Employment)のマイケル・バード(Michael Bird)氏が、ニュージーランド観光業の2023年までの予測を紹介した。
MBIEでは、ニュージーランド訪問者数は2017年から2023年にかけ4.8%伸長し490万人に。支出額は年間6.2%ずつ伸長して153億ドルになると予想。2019年までの2年間が大きな伸びを示すであろうとした。
特にポイントとして挙げたのは中国からの旅行者の動向で、現在、ニュージーランドへの渡航者数、支出額ともにもっとも多いのはオーストラリアからの渡航者だが、2020年には、渡航者数こそオーストラリアがトップを維持するものの、支出額は中国からの渡航者がオーストラリアを上回ると予想している。
さらに、中国人旅行者はさらに短期滞在が増えるほか、現在はゲートウェイとなる大きめの空港がある都市(オークランド、クイーンズタウン、クライストチャーチ)付近への旅行が主流だが、今後はそこから離れた場所での支出が増えるのではないかとしている。
このほか、開発市場としてインドとインドネシアを取り上げ、2023年にはインドからの渡航者が8.5%増の9万2000人、インドネシアからの渡航者が9.8%増の3万8000人に伸びるとの予想を示した(いずれも2017年比)。
以上で報道関係者向けのプレゼンテーションは終了となるが、最後に2018年のTRENZが南島のダニーデンで開催されることが発表された。期間は5月7日~10日。ダニーデンは南島でも南寄りにある都市で、ニュージーランドで唯一のお城である「ラーナック城」があることや、ブルーペンギンを見られる施設があることなどで知られる都市だ。
2018年のTRENZ開催地を告知するスライドでは、そのダニーデン駅を「TRENZ」の文字に切り抜いたクリエイティブが用いられている。