井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
改札から出られないことも? 交通系ICカードはエリアまたぎに注意
2024年5月8日 06:00
交通系ICカードの登場は、日本の鉄道業界における大きな変革であったといって間違いないだろう。ことに、全国相互利用可能の対象、いわゆる「10カード」(Kitaca、PASMO、Suica、TOICA、manaca、ICOCA、PiTaPa、はやかけん、nimoca、SUGOCA)なら、手持ちのICカードが全国各地で通用する。
利便性が高いだけに、つい習慣的に交通系ICカードで入場して、そのまま出場してしまいがちだ。大都市圏では相互乗り入れの関係もあり、異なる社局の間でもシームレスに利用できるのが一般的。
ところが、それと同じつもりで長距離の移動に使用すると、エリアまたぎの問題が発生する。通し利用ができる範囲を確認しておかないと、出場の際に自動改札機に怒られる事態になる。
交通系ICカードの利用はエリア内完結が原則
例えば、JR東日本のWebサイトでSuicaのエリアについて調べると、首都圏、仙台、新潟、盛岡、青森、秋田の各エリアで利用可能だと分かる。また、相互利用の対象として、ほかのJR各社と、全国相互利用に対応している民鉄各社がある。
ただし、これらのエリア間をまたぐ利用はできない。エリア同士が離れていればまだしも、東海道本線のようにSuica・TOICA・ICOCAのエリアが連続していると、「うっかりエリアまたぎ」の可能性が高くなる。
また、JR西日本のICOCAは山陽本線を中軸としてシームレスに広域をカバーしているが、若干の例外を除いて「営業キロ200kmを越える利用ができない」という制約がつく。例えば大阪を起点として東海道本線・山陽本線を西進した場合、倉敷の1駅先、西阿知がリミットとなる。
最近の新顔として、北陸本線を転換した第三セクター各社がある。ここでは、「ハピラインふくい~IRいしかわ鉄道」「IRいしかわ鉄道~あいの風とやま鉄道」の組み合わせはICOCAの通し利用ができるが、「ハピラインふくい~IRいしかわ鉄道~あいの風とやま鉄道」の3社通し利用はできない。
また、「JR西日本~ハピラインふくい」「JR西日本~IRいしかわ鉄道~あいの風とやま鉄道」の通し利用では、JR西日本側の利用可能エリアが限定される。利用可能エリアと利用不可のエリアがあるので、事前の確認が重要になる。通し利用ができない場合、紙のきっぷを買うか、境界駅でいったん出場して、再入場する必要がある。
豊橋駅のJR~名鉄間乗り換えでは乗り換えIC改札機にタッチ
異なる鉄道事業者だが境界に乗り換え改札がなく、しかも交通系ICに限ってタッチ処理が必要、と複雑なことになっているのが豊橋駅。
ここは、JR東海の東海道本線と飯田線、名古屋鉄道の名古屋本線が1つの駅を構成しており、ノーラッチ(改札なし)で相互に行き来できる。改札もJRと名鉄で共通だ。ところが、名鉄のホーム手前に乗り換え専用IC改札機があり、JRと名鉄の間で交通系ICカードによる通し利用を行なう場合には、これにタッチする必要がある。
豊橋駅の改札から入場して、JRのみ、あるいは名鉄のみを利用する場合には、豊橋駅の改札で入出場の処理ができるので、乗り換え専用IC改札機にタッチする必要はない。知らないと、ちょっとまごつく構造ではある。どうしてこんなことになったのか。
名鉄名古屋本線のうち豊橋~平井信号場は、JR東海の飯田線と線路を共用している。その関係で、豊橋駅では飯田線のホーム(1・2番線)と名鉄のホーム(3番線)が並んでおり、両者の間に柵も改札もない。そしてもちろん、同じJR東海だから、飯田線のホームと東海道本線のホームも往来自由である。そこに交通系ICカードを持ち込むとどうなるか。
JRと名鉄の通し利用では「JRのどこかの駅で入場記録をつけた交通系ICカードを、名鉄のどこかの駅で出場処理する」、あるいはその逆が発生する。すると、改札機の側で持つべき経路情報が増えてしまう。名鉄から見るとTOICAエリアの全駅、JRから見ると名鉄のmanacaエリア全駅が経路に加わるからだ(さらに、名鉄と相互乗り入れを行なっている名古屋市営地下鉄にまで影響がおよぶ可能性もある)。
そこで、両社の境界に乗り換え専用IC改札機を設けたものと推察される。乗り換え専用IC改札機で「JR豊橋駅の出場処理」と「名鉄豊橋駅の入場処理」(あるいはその逆)を行なえば、そこでいったん打ち切りとして、改めて自社の経路情報だけ処理すれば済む。
名鉄とJR東海の組み合わせでは、豊橋駅に加えて弥富駅でも同様に、乗り換え専用IC改札機が置かれている。こちらは豊橋駅と異なり、弥富駅で下車あるいは乗車する場合、駅改札口の自動改札機と乗り換え専用IC改札機の両方にタッチする必要がある。
同種の事例として、過去には桑名駅もあった。こちらは、JR東海の関西本線と近畿日本鉄道の名古屋線がラチ内でつながっており、通路の両側面に交通系ICカード用の乗り換え専用IC改札機が置かれていた。しかし駅の改築により、JRと近鉄の改札口は分離された。乗り換えの際には必ず出場することになり、乗り換え専用IC改札機は不要になった。
名鉄でmanacaエリアの内外を行き来する場合の扱い
普通、交通系ICはエリア内で完結する利用しかできないが、名鉄には例外がある。
名鉄にはmanacaエリア外の路線がある。広見線のうち末端の新可児~御嵩間、それと蒲郡線(吉良吉田~蒲郡)がそれだ。同じ名鉄の路線なのに、manacaエリアとmanaca非対応エリアをまたいで利用するときだけ紙のきっぷを買ってください、では不親切である。かと言って境界駅で別計算にすると、初乗り運賃の二重加算で割高になる。
そこで、交通系ICカードを利用してmanacaエリアの内外を行き来する場合、境界駅(新可児と吉良吉田)にある中間改札で入出場処理をするようになっている。手順はこうだ。
・manacaエリア外の各駅から乗車する際には、乗車駅の自動券売機または発行機で乗車駅証明書をとっておく。それを新可児または吉良吉田の中間改札で提示して、交通系ICカードに入場記録をつけてもらう。出場時には、その交通系ICカードを使う。
・manacaエリア内の各駅からmanacaエリア外の各駅に向かう際には、新可児または吉良吉田の中間改札で下車駅を申告して、交通系ICカードに出場記録をつけてもらう(この時点で下車駅までの運賃が差し引かれる)。その際にICカード精算済証が渡されるので、それを降車時に乗務員に渡す。
こうすることで、manacaエリアの内外を通し運賃としている。