ボーカリスト琴音の音楽旅

ピアソラを訪ねて秋めいたアルゼンチン・ブエノスアイレスへ(前編)

まさかの飛び入りライブから隣国ウルグアイまで!

ブエノスアイレスからまさかのウルグアイまで足を延ばすことに

 シャンソン、ジャズなどを中心に色々歌って活動している私ですが昔から大好きな作曲家がいます。アルゼンチン出身のバンドネオン奏者、アストル・ピアソラです。タンゴといえば「リベルタンゴ」というピアソラの曲を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、厳密にいうとピアソラはアルゼンチンタンゴ界の異端児で、この「リベルタンゴ」も古典タンゴとは大きくかけ離れた曲になっています。

 しかし、ピアソラは何曲も「ブエノスアイレス」とタイトルを付けた曲を作曲しています。というわけで、私もレパートリーでよく歌っているピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」の背景を求めて、日本からはちょうど地球の裏側であるアルゼンチンのブエノスアイレスに行ってきました!

 今回はアメリカン航空でアメリカのダラス乗り換え、3時間ほどのトランジットから、アルゼンチンのエセイサ空港というフライトでした。通貨は日本では、アルゼンチンペソへの両替はできないので空港でドルに変えました。

 フライト時間はそれぞれ約12時間ほど。12時間のフライトが2回、ということでほぼ丸1日のフライトです。やっぱりかなり遠かったです。今回は、ブエノスアイレスに2週間の滞在ですが、このくらいはいないともったいないような距離です。無事、エセイサ空港に朝9時過ぎに到着し「レミース」というハイヤーで、予約したホテルに向かいます。ブエノスアイレスはタクシーが日本より格段に安いので、このあとたくさんお世話になることになります。

 Webサイトで予約した「Mari praza hotel」に11時半ごろに到着。1泊約3千円ほどで、朝食なし。ベットは広々、バスルームもバスタブ付きでいうことなし! ただ、このホテルのスタッフは全員英語が喋れませんでした。ある意味、スペイン語が鍛えられてよかったです。そして、皆んなとてもよい人たちでした。

 到着した当日は、強い雨が降っていたので軽くホテル近辺を散策し、お水や部屋で食べる軽食を買って帰りました。そのあとは、さすがに長時間のフライトでバタンキュー。シャワーを浴びて、早めにベッドで休みました。

Mari plaza hotelで宿泊したお部屋
日本と季節も逆なので、ブエノスアイレスは秋でした

 2日目は、朝から起きて日本でいう原宿竹下通りか渋谷センター街のようなフロリダ通りへ。地下鉄でPraza de Mayoという駅まで行き、徒歩でフロリダ通りに。ファストファッションやデパートなどでショッピングが楽しめます。

「ガンビオ~ガンビオ~」と道端で声を掛けて来る人たちがいますが、闇レートでの両替の勧誘です。フロリダ通りには、ほかに正式レートで両替できるところがあるので引っかからないように気を付けてください。

 フロリダ通りのデパートGalerìas Pacificoに入りました。天井絵が、とても美しいです。地下のフードコートで、初めての「パリージャ」という肉の炭火焼を食べました。1人でもフードコートだと立ち寄りやすいです。

 そして、ブエノスアイレス観光で外せない「コロン劇場」へ! フロリダ通りから歩いていきました。19世紀初頭に建てられた劇場で、今でもオペラやバレエなどが上演されています。パリのオペラ座、イタリアのスカラ座に並ぶ3大劇場です。

 内部見学ツアーが開催されていて、スペイン語と英語のツアーがあり説明ガイド付きのツアーになります。そして、コロン劇場をあとにしてホテルで仮眠を取り、夜はブエノスアイレスで働いている日本人の友人とその職場の方々で、パリージャを食べに! アルゼンチンはワインも美味しい。お酒と食事を楽しみ、ホテルへタクシーで帰りました。

ホテル近くの国会議事堂
フロリダ通りのGalerias Pacificoの美しい天井絵
フードコートで食べたパリージャ
サンマルティン広場
オベリスコと世界で1番大きい7月9日大通り。やはり途中で信号に引っかかり、1度で渡れず
コロン劇場のドーム型のステンドグラス
コロン劇場2階のステンドグラス
著名な作曲家の名前が刻まれています。こちらはベートーベン
劇場内部。この日の夜の公演のセットが組まれていました
圧巻の美しさのバルコニー席
カーテンの模様までかわいい
地元でも人気のパリージャ店「El Establo」
ネーム入りのお皿やナプキン
ワインが格別に美味しい!!
肉!! 意外とさっぱりしていてペロリ

 3日目は、パレルモ地区という東京の青山のようなオシャレスポットにある「MALBA」というラテンアメリカ芸術博物館へ。近代美術ということで、かなりモダンな作品が展示されています。そして、ここからほど近い日本庭園へ。お天気もよく気持ちよかったです。そして、レコレータ墓地という著名人も多く眠っているお墓も訪ねました。ミュージカル映画でも有名な大統領夫人・エビータもこのお墓に眠っています。

 そして、前日に食事した友人がこの近くに住んでいるということで、近くのレモンパイが美味しいと評判のカフェへ。内装がかわい過ぎて、海外ならではでした。友人と別れ、夜は1人で日本のタンゴ歌手のKazzumaさんに教えていただいた「Clasica y moderna」にライブを見に。この日は隣国ウルグアイ在住のDivina Valeriaさんの出演でした。彼女はウルグアイではテレビなどにも出演している歌手だそうです。

 ピアノとドラムのミュージシャンが、ボサノヴァやジャズのスタンダード曲を心地よく奏でます。そして、Divina登場! スターのオーラ半端ない!

 歌う曲もシャンソン、タンゴ、ボサノヴァと幅広く日本でもよく聞く曲ばかり。スタンダードは世界共通なのだと、うれしくなりました。そして、ジャンルに関係なく自分のカラーで歌う彼女に、私も通じるものがあり、感動して大泣きしてしまいました。

 すると、近くの席の老紳士に声をかけられ、日本から来た歌手だと答えると急遽飛び入りで歌うことに! ブエノスアイレスでも、どこかでセッションなどで歌えればよいなと思っていましたが、まさか初めて行ったライブハウスで叶うとは! 一応譜面を持ち歩いていたので、自分のレパートリーからミュージシャンと打ち合わせして、ボサノヴァの「黒いオルフェ」を歌うことに。

 英語でも歌っている曲なのですが、あえて自分のポリシーで、自分で書いた日本語詞で歌いました。皆さんが温かくたくさんの拍手をしてくれて、歌を歌ってきて本当によかったと思いました。自分の信念を貫いて行こうと固く誓いました。

 終わったあとに、ミュージシャンと酒盛り。私の音楽を気に入ってくれたようで、とても仲よくなりました。帰りはドラムのコルヘのクルマでピアノのアレハンドロと一緒に送ってもらいました。

 夜遅くまで飲んだ翌4日目は、時差が日本と12時間あり昼夜逆転なので、昼間にうっかり爆睡してしまい、気付いたら夜の19時。急いで支度して、スケジュールをチェックしていたライブハウス「Torquato tasso」へ。この日は、Laula Julyというネオフォルクローレと呼ばれるジャンルの女性歌手のライブでした。こちらでは20時半ごろから食事をして、22時ごろからショーがスタートするのが一般的なようです。情熱的な歌声と、彼女のチャーミングな人柄がとても素敵でした。

 ここから、友人とパレルモ地区の「Theronias club」というジャズクラブで合流しました。この時点で0時。ブエノスアイレスの週末は、朝まで盛り上がるようです。満席の客席は、カップルがほとんど。若めのミュージシャンのスマートなジャズ演奏でしたが、連日の疲れが響いてか、昼間しっかり寝たはずなのに睡魔に負けて早めにホテルに戻りました。

MALBA入り口
常設展と企画展の案内
ラテンアメリカ独特の絵画
少しシュールリアリズム入った南米画家作品
企画展の作品
企画展の立体オブジェ。南米ならではの独特な色彩感覚
ブエノスアイレス日本庭園入り口
入ってすぐの鳥居。一気に日本にいる錯覚に
庭園内部。地元の方も多く見られました
レコレータ墓地。暗い感じはあまりしません
それぞれ装飾を凝らしたお墓が、立ち並んでいます
アルゼンチンではお馴染み?レモンパイとチョコレートタルト!でかい!
かわい過ぎるテラス席。海外ならでは!
書店内のライブハウス「Clasica y moderna」
Divina Valeriaさんの素晴らしい歌声
ミュージシャンや、私に声をかけてくれたくれた老紳士と共に。彼はアルゼンチンのコメディアンであり、俳優だそうです
Torquato tassoにて。南米のフォークソング、フォルクローレの新しい流れのLaula July
週末のパレルモ地区のJazz club「Theronias club」

 5日目は、先日飛び入りで歌ったときに私の音楽を気に入ってくれたピアニスト、アレハンドロがウルグアイ在住で、「遊びにおいで」と誘ってくれたので、隣国ウルグアイのモンテビデオまで。ブエノスアイレスから、フェリーでラ・プラタ川を渡るともうそこは隣国ウルグアイです。

 ピアソラのタンゴオペラ「ブエノスアイレスのマリア」の主人公マリアは、ラ・プラタ川の河口で生まれたそうです。作品の背景に思いを馳せ、パスポートを持ち、今回は1番安価だったコロニア・エクスプレスを使いました。移動4時間ほどで約6千円です。フェリーでラ・プラタ川を渡りバスに乗り換え、陸路で首都モンテビデオへ向かいます。

 アレハンドロがクルマで迎えにきてくれて、そのままポシートス海岸へ。モンテビデオは、ブエノスアイレスが東京だとしたら熱海や葉山のようなリゾート地です。たくさんのビーチがあり、ビーチ沿いのマンションや高級別荘が立ち並びます。

 夜は旧市街でお茶をしていたのですが、ウルグアイ発祥の黒人音楽「カンドンベ」を演奏する集団に遭遇しました。しかし、観光客向けではない夜のカンドンベ集団はちょっと危ない雰囲気で、慣れていない観光客はあまり近寄らない方がよさそうでした。

コロニア・エクスプレスのチェックインカウンター
チケット
朝のラ・プラタ川とフェリー
フェリー内に免税店もあります
モンテビデオ到着!!

 6日目はアレハンドロの友人たちとの牧場でのパーティーへ。皆さんアルメニア系ウルグアイ人なので、アルメニア料理をいただくことに。フムス、ピタパン、シシケバブなど。バーベキューしながら、たくさんの動物と大草原に癒されます。

 皆さんとてもよい人たちばかりで、日本からきた私にもとても親切にしてくださいました。13歳のナレちゃんという女の子がとてもかわいくて、一気に仲よしに。アレハンドロがキーボードを持ってきてくれたので、2人でミニライブを開催。

 夜の星空が絶景で、生まれて初めて満天の星空を見ました。南半球なので、日本とは違う星空を見られて感動しました。ほとんどが大草原という、南米のリアルな生活を垣間見れた気がしました。

馬! 牧場にて
13歳のナレちゃんと。身長ほぼ同じなのに顔の大きさが全然違う…
アルメニア料理パーティー。野菜、ひよこ豆をペーストにしたフムス、シシケバブをピタパンに挟んで
焼き上がったばかりのシシケバブ
キーボードをセットして、夜にミニライブを開催しました
大草原の美しい月と空

 7日目は、モンテビデオ市内観光へ。高級別荘地を通り、船をイメージした「Castillo Pittamiglio」へ。そして、ランチのために美しい旧市街へ。初日は夜で、この日は昼間だったので、ペルーなどのお土産屋さんも少し出ていました。

 しかしこの日はMay Dayで、ほとんどのお店がお休み。唯一開いていたレストランで遅めのランチをいただきました。パリージャの盛り合わせを頼み、血のソーセージや、ホルモンも食べてみましたが、日本人には食べ慣れないお味でした。でも、慣れたらクセになりそう!

 そこから伝統あるソリス劇場、大統領府へ。夕焼けと相まってとてもきれいでした。そして、クルマで移動中にストリートタンゴに遭遇! モンテビデオやブエノスアイレスでは、道端でもタンゴダンスが繰り広げられるようです。

 スピーカーからタンゴ音楽が流れ、この日は趣味でダンスをやっているお年寄りの人たちが多かったです。モンテビデオも、タンゴがとても盛んで、ほかにはアフロキューバン系黒人のアフロミュージックなどが流れ、音楽にあふれた街でした。この日はMay Dayで、お店はあまりやっていませんでしたが、充分モンテビデオを堪能できました。

 ピアソラを追い求めてブエノスアイレスにきましたが、まさか歌えるとは、まさか隣国ウルグアイまで行くとは……。ピアソラの曲に詩を付けていた、詩人オラシオ・フェレールもウルグアイ人だそうです。大草原に囲まれた自然と、ビーチの別荘地、旧市街と黒人音楽のカンドンベが響くモンテビデオ。うって変わって、都会的なブエノスアイレスと、両極端な南米を堪能できました。さまざまな出会いに、本当に感謝です。引き続き、後半7日間の様子もこの連載で伝えていきたいと思います。

船を模したCastillo Pittamiglio入り口
リゾート地らしいモンテビデオのビーチ
May Dayで本当に誰もいません。南米らしい壁画アート
ボリュームたっぷり! さまざまなお肉のパリージャ盛り合わせ
夕焼けに染まる大統領府
ソリス劇場
ストリートタンゴ。踊るスペースたっぷり!

琴音

シャンソン、JAZZなどをメインに歌うボーカリスト。たまにアルトサックスも吹きます。1986年10月10日生まれ。趣味・特技は、ライブなどで訪れた日本各地の美味しい食べ物を探すこと。思い立ってふらっと一人旅をすることもしばしば。ブログはhttp://ameblo.jp/singersax-kotone/