ボーカリスト琴音の音楽旅
ピアソラを訪ねて秋めいたアルゼンチン・ブエノスアイレスへ(後編)
「世界で2番目に美しい」本屋や美術館を巡り、夜はタンゴショーを堪能
2017年6月24日 01:00
ピアソラを訪ねてアルゼンチン・ブエノスアイレスへの旅。前編ではひょんなことからウルグアイまで行ってしまいましたが後編は……。
南米に来て1週間。ウルグアイへ来たときと同じくフェリーのコロニア・エクスプレスで、ブエノスアイレスへと戻りました。早朝にお世話になったピアニスト、アレハンドロとの別れを惜しみながらお昼くらいにブエノスアイレスに到着。
コロニア・エクスプレスの船着場からホテルまで、コレクティーボ呼ばれる市営バスで帰りました。バスでは行き先を運転手に告げて、地下鉄でも使えるSUBEというチャージ式の電子カードをタッチして乗車します。ブエノスアイレスの物価は、東京と同じくらいの感覚でしたが、交通費はめちゃめちゃ安いです。
ホテルに荷物を置き、老舗の有名な「Cafe TORTONI」でランチをいただきました。桃とトマトのサラダという、日本ではなかなか見かけないメニューをオーダー。自分で塩とオリーブオイルで味付けするのですが、これがサッパリしていて美味しい! 著名人も通ったというこのカフェ。内装もクラシカルで、本当に素敵です。
地下のホールで毎晩タンゴショーもやっているそうで、夜のタンゴショーのチケットも購入しました。お腹を満たしたあとは、「バルトロメ・ミトレの家(ミトレ博物館)」へ行きました。アルゼンチン共和国の元大統領バルトロメ・ミトレがかつて住んでいた邸宅です。絢爛豪華で、本当に美しい! しかも入場無料。
ブエノスアイレスでは、美術館など無料のところが多いです。いったんホテルに帰り、夜のお出かけに備えて着替えました。再びタンゴショーを見にCafe TORTONIへ! 芝居仕立てのタンゴの生まれた背景の場面から、情熱的な男女のタンゴダンス、そして歌手も登場して豪華! Cafe TORTONIのショーは、生バンドではないのですが芝居仕立てのシーンが多く、初めてでもとても楽しめました。
そして飛行機で一緒だった男の子が教えてくれた「Esquina Homero Manzi」へ。パレルモ地区にあるタンゴショークラブです。こちらは生バンドでの劇場式のショー。おじいちゃん歌手と、若手女性歌手、ダンサーで盛り上げます。
どこのお店もダンサーの筋肉がすごいです。タンゴショークラブは、20時ごろから始まる食事付きのコースと、22時ごろから始まるショーのみのコースがあります。
私はCafe TORTONIの20時からのショーを見て、Homero Manziでは22時からのショーのみのコースにしました。ショーのあと、0時ごろの夜のブエノスアイレスは、一人歩きは危険なので、すぐにタクシーでホテルへ帰りました。
ブエノスアイレス9日目の水曜は、ブエノスアイレスのおしゃれエリアであるパレルモソーホー地区へ出かけました。日本でいうと表参道や原宿~青山エリア、代官山などのイメージでしょうか。おしゃれな洋服屋さんなどが立ち並びます。そんなパレルモソーホー地区のセラーノ広場近くで、レコード屋さんを発見。バンドネオン奏者アニバル・トロイロ楽団のレコードを買いました。
ブエノスアイレスは日本と季節が真逆なので、訪れたときは秋。かわいいお店で夏物のサンダルがセールで安くなっていたので、色違いで2足買いました。しかし、インフレで物価が上がり、日本と物価が変わらないのと、秋冬物を買っても日本ですぐに着れないので、これ以外のお買い物はしませんでした。ファンシーなかわいいカフェを見つけたので、ここで一休み。アメリカっぽくて、すごくかわいい内装でした。
おしゃれなお土産や、ブエノスアイレスのファッション事情を見てみたい人にオススメのエリアです。ショッピングを楽しんだあとはホテルに帰って休み、夜は「La catedral club」というタンゴダンスホールへ出かけました。ここは、倉庫を改造した開放的な雰囲気です。ミロンガと呼ばれる、お客さんがタンゴを踊りにくるイベントです。
20時ごろからダンスホールでタンゴダンスレッスンがあり、そのあとはお客さん同士が音楽に合わせて好きに踊れるという流れです。このお店は見ているだけでもOKでした。この日は、レッスン参加者もタンゴシューズではなくスニーカーなどで参加していて、初心者向けのレッスンだったようです。お酒を飲みながら、ミロンガの雰囲気を楽しみました。
翌日10日目の木曜は昼間はブエノスアイレスの中華街とタンゴシューズを買いに出かけました。色とりどりでカラフルなタンゴシューズは、ハイヒールでも安定感がありステージシューズとしても重宝するのです。中華街からそう遠くない「DARCOS」というお店で購入しました。いつか踊る日がくるかもしれないし!?
お昼ご飯はブエノスアイレスの中華街「Barrio chino」と呼ばれるエリアで日本食をいただきました。お店の名前は「FUJISAN」。日本と中国が混ざったような店内の雰囲気でした。美味しかったです。
近くに大きなスーパーがあり、中華食材や、日本食材も扱っていました。一気に懐かしい気分になれます。異国の雰囲気に疲れたら、立ち寄ってみるのもオススメです。
そしてこの日の夜は、ミロンガで生演奏をやっているというタンゴダンスホール「Los Laureles」に出かけました。夜だったので、タクシーで向かいましたが、なんだか倉庫街のような怪しい雰囲気のエリアに到着しました。店内に入ると、タンゴダンスレッスンが始まり、タンゴのレコードがかかりアットホームな雰囲気。軽い食事と、ミニボトルで赤ワインを注文し、タンゴレッスンを見学しました。
そして、ついにバンド登場! ピアノ、フルート、ギター、ボーカルという編成でした。ボーカルを聞きたかったのでうれしい! ミロンガでの演奏ということで、生演奏に合わせてお客さんたちが踊っています。そして、終演後にギタリストに「私も歌を歌っています」と話したら盛り上がり、お友達になりました。
帰りはお店からバス停まで徒歩2分、ホテルまでバス1本で帰れると思いきや、このエリアはかなり治安が悪いらしくどんな短い距離でも1人で歩くな、とのこと。お店の人にタクシーを呼んでもらい、無事ホテルに帰りました。
11日目の金曜は、お土産を頼まれていたHard Rock Cafeの入っているレコレータ地区の「Buenos Aires Design」という商業施設へ。ハイセンスなインテリア洋品店が立ち並びます。お目当のお土産を買い国立美術館へ。アルゼンチン作家の作品からモディリアーニやシャガールまで。入場はなんと無料! そこから、近くのピザレストラン「Pizza cero」でランチをいただき国立装飾美術館へ。名家の邸宅でフランス古典様式の建築様式です。
ここが本当に凄かったです! ここに住みたい!! ブエノスアイレスの人たちは、アジアに強い憧れがあったのか中国風の雑貨などがありました。遠く離れたアジアの高価な品物を手に入れることが、当時のステータスだったでしょうか。こちらも入場は無料です。そして夜はパレルモハリウッド地区の「Boris club」というジャズクラブにライブを聞きに行きました。しかし、この日の演奏曲はほとんどフランスのシャンソン!
ボサノバのリズムの「男と女」など、南米とフランス文化の混ざり合いのようなライブでした。Boris clubをあとにして、近くの大音量で音楽の流れるバーでジントニックを注文しました。そしたらなんと、中にキュウリが! 確かに日本でも焼酎にキュウリ入れると二日酔いになりにくいと聞いたことがありますがジントニックでは初体験! しかしこれがなかなかサッパリしていて美味しい。
そこから、通りすがりで入ったお店はロックの生演奏バー! カッコいいバンド演奏にお酒が進みます。1杯だけ飲んでお目当のクラブ「Niceto club」に到着しました。この日はさすが金曜。入場に長蛇の列ができていました。並んでいる間に、エンパナーダというミートパイのような軽食を売りにくるくらい。中に入ると、若い男女が思い思いに自由に踊っていました。サンバっぽい音楽に、ドラムンビーツを混ぜたようなダンスミュージックが流れ、南米を感じさせます。
U.Sメインストリームの流れはほぼなかったです。そして、男女が踊っているときにタンゴのように手を取り合ったペアダンスを踊っていたのがとても印象的でした。ブエノスアイレスの若者にとって、タンゴは文化として根付いているんだ、と感動しました。この日は深夜に遊び回っていましたが、金曜のパレルモハリウッド地区は遊びに来た若者であふれかえっていて、そのまま「Niceto club」の目の前のバス停からバス1本でホテルまで帰りました。
12日目の土曜は「ブエノスアイレスに行ったらここに行かねば!」と思っていたボカ地区。バス停を探しながら、コーヒーを買おうとKIOSKOという小さなコンビニのようなお店に入りました。すると日本の小物がチラホラ? お店の人に日本語で話しかけると、なんと日本人でした! 鳶野さんはブエノスアイレスでこのKIOSKOを経営しているそうです。コーヒーを買って、久しぶりの日本語で色々お喋りしました。本当に治安が悪いから、スリや強盗に特に気をつけるようにと念を押されました。
そしてバスで無事にボカ地区に到着。そう! これ! このカミニートが見たかったの~~!! タンゴの名曲「カミニート」の作曲者の出身地でもあります。レストランの店先でも生演奏とタンゴダンスが行なわれていました。
歌手の人が、ざる回りでお金を集めているときに「私も歌手です」と言うと、「1曲歌って!」となったのですが、彼らは古典タンゴバンドでピアソラは演奏しないとのこと。飛び入りならずでした。
そして、観光地として栄えているだけあってお土産もたくさん買えました。「いかにも!」なアルゼンチン土産がたくさん売っていました。ただ、メインストリートは観光地化されていていますが、それ以外の路地には絶対に立ち入ってはいけないとのこと。ブエノスアイレスの治安は、現地の人でもかなり警戒するくらい。あまりよくありません。観光地で人が多いからこそ、色付きの液体をかけるひったくり「ケチャップ強盗」も多いそうです。
夜は前編の3日目に飛び入りで歌わせてもらった「Clacica y moderna」へMaria volonte & Daniel Garciaのデュオを聞きに行きました。 ここで念願のピアソラ作曲の「Maria de Buenos Aires」を聞けました! ピアノのDanielは、日本人タンゴ歌手の冴木杏奈さんのレコーディングもしたことがあるそうです。
そこから、すぐ近くのジャズライブハウス「Notorious」の深夜ジャムセッションへ。お客さん参加型なのでピアニストと曲を決めて「All of me」と「枯葉」という、ベタすぎる選曲で飛び入りで歌いました。その「ベタ」が日本と同じ曲なのが、異国でとてもうれしく思いました。バイオリニストが、持ち替えでフリューゲルホルンを吹いたり面白い編成でした。
13日目の日曜は、コロン劇場で無料コンサートがあるということで、間に合うようにチケットオフィスでチケットを貰い、指定された入り口から入場してクラシックのコンサートを堪能しました。こんな催しを無料でやっているブエノスアイレス、恐るべし。
そこから「世界で2番目に美しい」いわれる本屋「El Ateneo grand splendid」へ。なんと、劇場を改造した本屋さんだそうで、ステージ部分がカフェになっています。こちらのカフェには、海外では珍しいアイスコーヒーがありました。そして、リコッタチーズ入りラビオリでをいただきました。ブエノスアイレスはイタリア系移民も多いのでパスタなど、イタリアンも美味しいです。
こちらでも、お土産用に塗り絵などを何冊か購入しました。そしてこの日は、午後から雷と大雨だったので早めにホテルに帰りました。天気がわるかったのと、日曜のブエノスアイレスはほとんどのお店がお休みのため、ガランとして寂しい印象でした。ブエノスアイレスに来てから、休みなく動き回っていたのでこの夜はちょうどよい休息になりました。
14日目の月曜、朝から鳶野さんのKIOSKOへコーヒーを飲みに。お店でお喋りしていると、お客さんとして来た日本のアニメが大好きな女子高生ミリちゃん、私も大好きな「妖怪ウォッチ」が大好きな小学生アントネラちゃんとそのママとお友達になりました。まさか、ブエノスアイレスで妖怪体操を歌って踊るとは思いませんでした! ブエノスアイレスでも大人気のようです。
この日もまだ雨がパラついていましたが、ブエノスアイレス資料館へ行きました。古いマッチがたくさんあり、日本のものも! そしてすぐ近くの大聖堂へ。やっぱり教会って心が洗われるような気がします。海外の教会は造形的に本当に美しいので、とても感動しました。
夜は、ブエノスアイレスで働いている日本人の友人と最後の夜のディナーからのタンゴショーへ。プエルトマデーロ地区という新しく作られた港街で、横浜の赤レンガ倉庫のようなお台場のような雰囲気のエリアで食事しました。パリージャの食べ放題で、たらふくお肉を食べたら……。
今回の旅で最後となるタンゴショーを見に行きました。「El Viejo Almasen」というお店で、送迎付きのプランでした。ステージとの距離が近かったのもあり、バンドメンバーがアットホームにコミュケーションをとりながら演奏していたのが印象的でした。臨場感タップリのショーを楽しめます。
15日目の最終日、毎朝恒例(?)になった鳶野さんところへ朝のコーヒーを飲みに。不思議の国のアリスが好きなミリちゃんに、私の持っていた東京ディズニーランドで買ったアリスのポーチなど、アントネラちゃんにはジバニャンのハンカチタオルなどをプレゼントしました。
お絵かき上手なアントネラが、ジバニャンを描いてくれました! まさか、こんなお友達ができるとは。日本に帰るのが寂しくなります。しかし、飛行機の時間は刻一刻と迫ってきます。
ホテルでレミースというハイヤーを呼んでもらい、レミースでエセイサ空港まで。このMari praza hotelも、英語が一切通じないというのに最初は驚きましたが、慣れればスペイン語をメモに書いて、やりとりできました。毎日、部屋を掃除してくれてたお母さんのような女性。初日に、シャワーのお湯の出し方を教えてくれた女の子。毎晩、夜遅くに帰ってくる私を「またかい!」とお出迎えしてくれてたおじさん。ホテルの人たちがみんなすごくよい人たちでした。
初日、飛行機が一緒でタンゴの情報をたくさん教えてくれた男の子。友達になってくれたミュージシャン。歌を聞いて、拍手してくれた人達。ランニング中に、「頑張れ!」と声をかけてくれたおじさん。ブエノスアイレスの人たちはみんな、温かかったです。まさか、ウルグアイまで行くとも思ってませんでしたが、本場のアフロミュージックも聞けたし、貴重な体験でした。壮大な牧場の草原を見ながら歌ったのもよい思い出です。
帰国した今でも、みんなと連絡をとり合っています。ピアソラの音楽を求めて行ったブエノスアイレスでしたが、1番の収穫は「人との出会い」でした。日本からも、たくさんの人から情報をもらったし、ブエノスアイレスやウルグアイでもたくさんの人に出会いました。よい人にしか出会わなかったのは、本当に幸運としかいえません。今回の旅で得たことを、歌に活かして、人としてももっと成長したいと思いました。また、ブエノスアイレスを訪れたときに、さらによい歌が歌えるように!