旅レポ

名物も観光地も充実の山口県西部! 食と絶景を堪能する旅へ(その4)

山口かまぼこの工場を見学し、ときわ公園で動物や植物、彫刻に親しむ

前回のペンギンに続き、今回もかわいい動物が登場

 山口県が同県西部の魅力を伝えるべく実施したプレスツアーのレポートもいよいよ最終回。美祢市から長門市、下関市と回ってきたが、残すところは宇部市となった。

 宇部市といえば山口の交通における要所・山口宇部空港がおなじみだが、野外彫刻の国際展「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」が開催され、市内は彫刻が展示されるなど文化の香りが漂う都市。今回はそんな宇部市の魅力あるスポットを紹介していきたい。

山口の伝統製法で作られるかまぼこの工場を見学

 瀬戸内海と日本海に面した山口県は1年中、さまざまな魚介類に恵まれ食卓を賑わせている。そんななか、昔から山口県民に親しまれているのがかまぼこだ。ただし、かまぼこといっても山口のかまぼこは独自の原材料と製法で、ほかの所で販売している製品とはちょっと違ったものになっている。今回、伝統の材料と製法を守りながら山口ならではのかまぼこを製造している宇部蒲鉾の工場を見学。

 宇部蒲鉾ではかまぼこの作り方を多くの人に知ってもらうべく、工場に専用の見学コースを設置しており、そのコースを通って、かまぼこのできるまでを見学した。

宇部蒲鉾の工場
かまぼこ製造の見学コース。窓からかまぼこ作りの工程が見られる

 山口のかまぼこの大きな特徴の一つが主材料となる魚だ。多くの地域ではスケトウダラが一般的だが、山口ではエソと呼ばれる魚を使用している。骨が硬くて多いため、普通は食卓にあがることはほぼないそうだが、身にうまみと弾力性があるので、歯ごたえのある美味しいかまぼこを作るのに欠かせないそうだ。しかし、このエソは冷凍にすると弾力が弱くなり、鮮度が落ちやすくなるため、毎日、日本海や玄界灘で獲れた近海ものを仕入れて使っているとのこと。

 新鮮なエソは手作業でさばいて、魚肉採取機で身だけを取り出したあと、水にさらして魚の皮や脂分を取り除く。その後、魚をすりつぶしながら水と塩、調味料を混ぜる「擂潰(らいかい)」という作業を行ない、かまぼこの形に成型。

 そして加熱して固めるのだが、通常のかまぼこは蒸すのに対して、山口のかまぼこは「焼き抜き」という伝統の手法を使う。「焼き抜き」とは下から加熱してあぶることで、この方法で作られたかまぼこは表面に強い弾力があり、中が柔らかいという独特の食感になる。

山口のかまぼこに使われる魚・エソ。鋭い歯が特徴だ
ここで魚をさばいて水にさらして脱水するまでの工程が行なわれる
魚をすりつぶして塩などを混ぜる「擂潰機(らいかいき)」が並ぶ
成型したすり身を加熱するライン。宇部蒲鉾では「焼き抜き」以外にも蒸しかまぼこ、ちくわなども製造
山口かまぼこ独特の、下から加熱する「焼き抜き」を行なう機械
「焼き抜き」を終え、冷ましたあとは包装が行なわれる

 宇部蒲鉾の工場には直売所も併設されており、実際に「焼き抜き」で作られたかまぼこをいただいたが、噛むとコリコリとした弾力と上品なうまみが感じられた。また、かまぼこの表面には縦ジワが浮き出ていたが、これは「焼き抜き」でかまぼこが加熱されて膨張し、その後、冷えて縮んだためにできたもの。このシワが細かく均等に入っているほど、美味しい山口のかまぼこなのだとか。

工場内に併設されている宇部蒲鉾の直売所
「焼き抜き」で作られたかまぼこ
直売所ではさまざまなかまぼこや練り物製品が販売されている

 宇部蒲鉾では年間1300万本製造しており、4割が宇部市内で、6割が市外や県外で消費される。また、通信販売も行なっているが、昨今、関東からの注文も増えているとのこと。通販の方法については公式サイトで紹介されているので、興味がある方はぜひ購入してみてはいかがだろうか。

宇部蒲鉾

所在地:山口県宇部市大字川上697-20
TEL:0120-979-117(フリーコール)
Webサイト:宇部蒲鉾

野生のフィールドを旅するかのように見てまわれる動物園

 前回のレポートから山口のかまぼこまで食べてばかりいたが、次は動物園。宇部市の常盤湖にある総合公園・ときわ公園、その中に今年3月19日にグランドオープンしたときわ動物園がユニークな試みを行なっているということでお邪魔してきた。

 この施設の特徴はまず、霊長類を中心にした内容になっていること。そしてもう一つは動物がもともと住んでいた環境を園内に再現した生息環境展示。これにより来園者は動物本来の行動を見ることができるようになっている。また、園内はあえて生い茂った草木や曲がりくねった道、橋や丘などで構成されているのも普通の動物園と違う点。訪れた人はなにが出てくるのか探検気分でワクワクしつつ、動物の生息環境を体感しながら展示を見ることができるようになっているのだ。

 園内は「アジアの森林ゾーン」「中南米の水辺ゾーン」「アフリカの丘陵・マダガスカルゾーン」「山口宇部の自然ゾーン」の4つに分かれている。「アジアの森林ゾーン」で早速、腕渡りをするシロテナガザルを見かけたのだが、高木を渡る動きが縦横無尽かつ素早すぎてなかなかカメラで捕捉できない。それぐらいアクティブな様子が楽しめるのも生息環境展示ならではだろう。

ときわ公園にあるときわ動物園
生息環境展示では動物が住んでいた場所の環境に近づけてある
水を飲むため橋まで降りてきたシロテナガザル
枝やロープをたやすく渡っていく姿が見られるのも生息環境展示ならでは

 また、園内にはボンネットモンキーとコツメカワウソなど、カピバラとジェフロイクモザルなどと複数種類の動物を一緒に飼育しているスペースがある。これは同居展示というもので、単独の飼育では見られない行動が特徴とのこと。見る方にとっても、かわいい生き物同士がお互い様子をうかがいながら動いている様が見られる。

ボンネットモンキーの群れ。右端に子ザルが抱かれている
ボンネットという帽子をかぶっているように見えるのでボンネットモンキーの名が付いたとか
ボンネットモンキーはコツメカワウソと同じエリアで飼育されている
飼育員が投げた氷を水中でキャッチするコツメカワウソ

 そして今回、見ていて最もテンションが上がったのがワオキツネザルの展示。というのも、「アフリカの丘陵・マダガスカルゾーン」ではワオキツネザルの展示エリアに入って、近くで見られるイベントを開催しているため。

 実際にエリアに入ってみたが、ワオキツネザルが怖がる様子もなく近づいてくる。もちろん動物に触ってはいけないものの、間近で見るだけでもかなりドキドキできる体験だ。

 なお、このイベントは毎月第1、3、5日曜日の14時~15時に開催し、人数も限定している。詳しい応募要項は公式サイトのイベントページに記載されているので、体験してみたい方はぜひそちらを見てほしい。

ワオキツネザルの展示エリア。あらかじめ参加申込をすれば中に入って近くで見ることが可能
エサに夢中なワオキツネザルを間近で見ることができる
飼育員の隙を狙って、カゴから直接エサをいただいているところ
左の小さいワオキツネザルは今年4月に生まれたばかりの「ナツメ」

 また、ときわ動物園ではさまざまな動物の赤ちゃんが誕生している。取材した9月初めの時点ではボンネットモンキーやミーアキャット、カピバラなどさまざまな動物の子供を見かけることができた。

カピバラの親子
赤ちゃんに授乳しているミーアキャットのお母さん
左の白いのが大人のモモイロペリカンで、右の茶色い2羽は子供
体が小さいことからその名が付いたリスザル
最近人気のアルパカも2頭飼育されている
「山口宇部の自然ゾーン」にいるクロヅル
園内には吊り橋もあり、ちょっとした探検気分で回ることができる

 ときわ動物園は決して敷地が広いわけでもなく、ライオンやゾウ、パンダといったおなじみの動物がいるわけでもない。しかし、動物たちの生態や行動を引き出す展示や近くで見られる楽しさ、赤ちゃんのかわいさなど、ほかの動物園ではなかなか味わうことができない魅力がある。子供はもちろん、大人も童心にかえって楽しみながら動物の生態について学べる場所ではないだろうか。山口宇部空港からも近いので、空港経由で訪れた場合はぜひ立ち寄ってほしいスポットだ。

ときわ動物園

所在地:山口県宇部市則貞3-4-1
TEL:0836-21-3541(宇部市常盤動物園協会)
営業時間:9時30分~17時(春休み、夏休み、冬休み、ゴールデンウィーク期間中の土曜、日曜、祝日は9時~17時)
定休日:火曜日(火曜日が休日または祝日のときはその翌日)
Webサイト:ときわ動物園

博物館で緑と花と彫刻に親しむ

 旅の最後に立ち寄ったのはときわ動物園同様、ときわ公園内に立地する、ときわミュージアム 緑と花と彫刻の博物館(以下、ときわミュージアム)。ここは植物と彫刻を展示する珍しい複合博物館として知られ、普段見られないユニークな草木を見せる植物館と、国際的に有名な野外彫刻展「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」を開催する美術館の顔という2つの顔を併せもっている。

ときわミュージアム 緑と花と彫刻の博物館の本館

 まずは植物を展示している本館の温室から見学した。温室は「ラン室」「サボテン室」「熱帯植物室」の3つに分かれている。「ラン室」ではラン類やシダ類、食虫植物など約500種1700株を展示。ランは1年を通じて花が楽しめるようになっており、また食虫植物のコーナーでは自生地に近い景観で展示している。中に入るとうっそうと茂った植物に、ところどころ垣間見えるランの花が美しい。

ときわミュージアムの温室
ラン類やシダ類、食虫植物が鑑賞できる「ラン室」
普段はなかなか見られないランもお目にかかれる

「サボテン室」では丸く育つ玉サボテンと、上に細長く伸びる柱サボテンなどが自生地に近い景観で育てられている。中では日本とは思えないサボテンの荒涼とした風景が楽しめるほか、国内最大級の大きさの玉サボテンの1種、金鯱(きんしゃち)の迫力に驚かせられる。そして「熱帯植物室」はパパイヤ、バナナ、グアバというなじみの深い果物の木があるなか、途中、ピラルクのいる池やピラニアのいる水槽を抜けていくと熱帯雨林の風景を思わせる熱帯花木コーナーへ。こちらは熱帯の雰囲気が温室に凝縮されたようなワイルドな景観が楽しい。

柱サボテンが立ち並ぶ「サボテン室」
玉サボテンの一種、金鯱(きんしゃち)
「熱帯植物室」はピラルクの池や滝が設けられジャングルのようだ
バナナの木
ドリンクなどでおなじみな果実、アセロラの花
「熱帯植物室」にはピラニアの水槽も展示

 なお現在、ときわミュージアムの温室部分は「世界を旅し、感動する植物館」を目指してリニューアルを行なっており、2017年春に新たにオープンするとのこと。前述の、ときわ動物園から歩いて数分なので、動物園と一緒に見るのがおすすめだ。

 続いて向かったのが屋外にある彫刻野外展示場。もともと宇部市は戦後の復興期に花と緑で街の美化を行なおうという運動が起こったが、それに続く形で「宇部を彫刻で飾る運動」が提唱されて市民運動が行なわれ、1961年に「宇部市野外彫刻展」を開催したという歴史があった。そのため宇部市は彫刻の街になったそうだ。また、この「宇部市野外彫刻展」が後に「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」につながったとのこと。

 彫刻野外展示場ではさまざまな作品が飾られており、今展示されているのは第26回UBEビエンナーレ受賞作品を中心にした作品。そのなかでも目を引くのがオレンジ色の二足歩行ロボット的な見た目の「蟻の城」だ。この作品は彫刻家・向井良吉(むかい りょうきち)氏が1962年に制作した初の大規模な抽象野外彫刻作品で常設展示され、ときわミュージアムのシンボル的存在になっている。

1962年制作とは思えないほど現代的な造形の向井良吉氏の「蟻の城」
ときわミュージアムにある切り株を掘り出してオブジェにした竹腰耕平(たけこし こうへい)氏による「宇部の木」
楽な姿勢で上を見上げられるようデザインした椅子が並んだ志賀政夫(しが まさお)氏の「空をみんなで眺める」
ハンス・ショール氏の作品「Storage of celestial mechanics」は、中に入ると明かりが灯って、天井のオブジェが見られるようになっている

 野外展示場に飾られている作品はただ見るだけでなく、座ることができる、中に入れるなど、鑑賞だけでなくさまざまな体験ができるものもある。

 アートというとどうしても肩肘張って見てしまうものというイメージがあるが、この彫刻の野外展示場は作品の巨大さやユニークさに惹かれて鑑賞しているうちに、つい作品の魅力にハマってしまうのが楽しいところ。ぜひ、彫刻野外展示場で山口県の芸術の秋を感じていただければと思う。

ときわミュージアム 緑と花と彫刻の博物館

所在地:山口県宇部市野中3-4-29
TEL:0836-37-2888
営業時間:9時~17時(温室への入室は16時30分まで)
定休日:火曜日(祝日は除く)、12月29日~1月1日
Webサイト:ときわミュージアム 緑と花と彫刻の博物館

 今回は1泊2日で山口県西部をまわり、山口県ならではの風景・絶景を体験。角島大橋や元乃隅稲成神社といった人気スポットや、ふぐ刺しといった名物だけでなく、秋芳梨や関門海峡周辺のスポット、ときわ公園など今まで知らなかった魅力に触れることができた。

 今回は絶景とグルメにスポットを当ててお送りしてきたが、加えて歴史的な観光資源も豊富な土地柄。充実した旅行を楽しみたいならぜひ、山口県を検討してみてはいかがだろうか。

丸子かおり

フリーライター/編集者。主にIT系の記事を執筆することが多いが、科学系の書籍や料理本を手がけることも。趣味はごはん・手芸・デジタルなどジャンルを問わない自作。著書は「AR<拡張現実>入門」(アスキー新書)、「放射線測定のウソ」(マイナビ新書)など。ブログはhttp://mrk-reco.com/