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JAL、女性活用推進プロジェクト「JALなでしこラボ」のミニフォーラムを開催

キャリアと子育ての両立を目指す女性に必要なものとは?

2016年1月14日 実施

JAL本社において実施された「なでしこラボ ミニフォーラム」

 JAL(日本航空)は、同社グループ企業で働く女性の活躍を推進するために、グループ企業の壁を超えた取り組みである「JALなでしこラボ」を2015年9月に発足したが、1月14日、女性のワークスタイルの現状と改革に向けた意見交換を行なう「なでしこラボ ミニフォーラム」を実施した。

 この会合では、JALなでしこラボの研究プロジェクトである「なでしこラボプロジェクト」のメンバー18名に加え、JALグループ各社の行動計画を策定するメンバー4名、なでしこラボの常任メンバーが参加し、岩田喜美枝 社外取締役による講演を中心に、女性活用に向けての分析内容と課題の共有、ディスカッションが行なわれた。

女性のキャリアアップに必要なのはチャレンジ

自らの経験を交えて仕事と子育ての両立について語る日本航空株式会社 社外取締役 岩田喜美枝氏

「なでしこラボ ミニフォーラム」ではまず、仕事と家庭を両立している女性の代表として、岩田社外取締役による講演が行なわれた。同氏は旧労働省から資生堂を経て、2012年に日本航空の社外取締役に就任した経歴を持ち、公益財団法人21世紀職業財団の会長を務めている。また、家庭では2人の子供の母親という顔も併せ持つ。同氏は、自身の人生における3本柱として「キャリアをつくる」「家族をつくる」「社会と関わる」を挙げた。

 1つ目の「キャリアをつくる」ではルーティンの仕事でなく、大きな仕事にチャレンジしてやり遂げる、難しい仕事や異動による新たな仕事体験こそが人およびキャリアを育てると説明。「女性はチャレンジに対して慎重な方が多いですね。その理由として1つは自分の実力に自信が持てないこと。男性に比べて鍛えてもらえていない、またはさまざまなことを体験していない点が自信のなさに繋がっているのではないでしょうか。そしてもう1つは完璧主義。100%あるいは120%の自信がないと手が挙げられない」と話し、女性がキャリアアップするには新しい仕事にチャレンジをすることをためらわない必要があると語った。

 3本柱の2番目である「家族をつくる」については、「結婚するというのは相手を間違わなければ、自分がキャリアを作ることにおいてプラスになりこそあれ、障害になることありません」と話し、「仕事を続けたいと思えば子育てと仕事の両立はどんな環境でも誰にでもできると思います」と強調する。

 また、「社会と関わる」は、自身が非営利団体や政府や自治体の審議会における活動も行なっている同氏によると、社会貢献活動やPTA活動、地域活動といった活動は、世の中を少しでもよくするうえで、キャリアには直接繋がらず経済的な報酬がないもしくは、わずかであっても、必要なことだという。

今必要なのは働き方のスタンダードの変革

「育児はひとりではできない。誰かやサービスの力を借りるのが必要」岩田社外取締役

 講演においては、現在多くの女性が悩む仕事と子育ての両立についても言及があった。同氏によると、両立させるには「優先順位」と「人やサービスの力を借りる」ことが重要だと説明。

 仕事と育児を両方行なうという状況下でできることは限られてくるため、「自分の心」「時間」「お金」と各人が持っているリソースのなかで、何をやるのか優先順位をつけることまず大切だと指摘。「私は子供が安全でできればよい環境で育てる、ということと、自分が仕事を辞めないでキャリアを作っていく、この2つだけを優先しました。だから、ウチのなかは散らかり放題でいいじゃないかと思いましたね(笑)」と話した。

 また、育児ではさまざまな人やサービスの力を借りるのが必要だという。「1人で育児は絶対できません。夫や、自分または夫の家族、友人や近所の方など、そういうネットワークを持っている方は宝だと思いますし、企業の子育て支援の制度や保育所、学童保育とかの社会的サービス、家事サービスや育児サービスといった商業的サービス、これらを組み合わせれば誰にでも仕事と育児の両立はできると思います」と語った。

 旧労働省時代には長時間勤務が多く徹夜もあり、転勤もあったなか、苦労して子育てしたという同氏だが、今になってみると「当時は当たり前だと思って仕事で無理をしてしまった」という反省があるという。キャリアアップを目指していても無理な働き方は肯定されるべきものではない、労働時間ではなく生産性を重視すべきで、キャリアと育児の両立のためには子育て支援の充実や、残業ゼロなど長時間労働の削減、転勤のルール作りなど、働き方のスタンダードの変革が必要だと話を締めくくった。

女性がキャリアをあきらめない取り組みとは

質疑応答において参加者からさまざまな質問が寄せられた

 講演のあと、岩田社外取締役とフォーラム参加メンバーの間で質疑応答が行なわれた。「時間あたりの生産性を高める方法は?」といった質問について、同氏は資生堂時代に業務の効率化として行なった「働き方改革」について説明。人事部が「働き方改革」についてのガイドラインを作り、部門の責任者、事業所の責任者がそれに基づいて時間外労働や年休の消化率を盛り込んだ行動計画を策定して社長に提出するといった取り組みを行なったという。

 また、資生堂では本社は20時に消灯し、20時以降の残業は事前に担当役員の決裁を取るという厳密な手続きを課す、残業をさせない体制を作ったと話す。ただし、「ノー残業デーとか20時に消灯するといった施策は多くの会社が行なえる半面、業務改革を行なわずに制度だけ設けるのは、残業しない対策を社員個人に丸投げすること」と指摘する。今ある仕事を棚卸しして検証したうえで優先順位が低い仕事は廃止し、優先度が高い仕事に集中すること、決裁権限を現場に下す、グループ内で重複する職務は集約する、といった業務プロセスの簡素化が残業の削減に結び付くと強調した。

 また、「出産と育児から復帰した時に時短勤務などでキャリアをあきらめている人が多いなか、どうやってキャリアアップのモチベーションを上げるべきか」という質問に対し、同氏は21世紀職業財団で2年前に調査した育児休暇から復帰した女性でモチベーションが高い人は少数という結果を説明。

 さらに財団で調査を行なったところ、育児休暇後の女性のモチベーションに関わる要因が4つあったという。1つが「入社した時の職業観」。結婚や出産後もその会社で頑張ろうと考えた女性ほど出産後もモチベーションを落とさない。2つ目は産休に入る前に仕事を見てくれた上司が責任ある仕事を任せるなどして本当に育成してくれたかという点。入社時に職業意識が低かった場合でも、上司が鍛えることで仕事の面白さや責任感が芽生え、出産後のモチベーションに繋がっていく。

 続いて3つ目の要素として挙がったのが配偶者。夫の育児への参加の度合いが重要で、ほとんど育児を行なわない場合、モチベーションがあっても物理的に仕事を続けるのが難しい。そして最後の要素として挙げたのが、復帰したあとの上司がどういう仕事を与え育成するかという点。男性上司の場合はしばしば、女性に対して過剰に気を使い、「責任ある仕事を与えたら、子育て中の女性には気の毒ではないか」と、容易ではあるもののやりがいの少ない仕事を与えることが多い。また、同氏は仕事と子育ての両立はしやすいものの昇進から縁遠い職場に配属するいわゆる「マミートラック」はやるべきでないと話し、「仕事の量は調整しないといけないけど、仕事の質を落としてはいけない」と語った。

参加メンバーで女性活用の現状における意見交換へ

 岩田社外取締役の講演と質疑応答のあと、行動計画策定メンバーとなでしこラボプロジェクトの研究メンバーとの意見交換を実施した。これは、4月1日に社外へ公表する行動計画の策定を行なっているJALグループ各社の担当者が、なでしこラボプロジェクトの研究メンバーに対して、現状分析により見えている課題やその対応策を説明。質疑応答を行ないながら課題を共有し、研究テーマに役立てるためのもの。

 意見交換では各社ごとの現状分析シートに則り、年齢ごとの男女比率や女性の勤続年数、育児休暇の日数などを比較。同じJALグループにおいても職務内容や企業の歴史により、女性の仕事環境に違いがあり、フォーラムの参加者の間で活発なディスカッションが行なわれる一幕も。意見交換を通して各社ごとの課題を顕在化させていった。

JALグループ各社の行動計画策定メンバーが分析した資料を元に意見交換が行なわれた
意見交換では現状分析の内容に基づいて質疑応答が行なわれた

 意見交換のあと、なでしこラボプロジェクトの研究メンバーによるセッションを実施。なでしこラボプロジェクトでは、ダイバーシティを実現するうえで意識改革やモチベーションなどを研究する「意識」、役職を切り口にキャリアパスやロールモデルを考える「ポジション」、女性の結婚や出産といったライフプランから仕事のあり方を追求する「継続性」という3チームが設けられている。セッションでは、それぞれのチームで講演や意見交換を元に、ディスカッションを行ないつつ会社に対して提案する内容を固めていく。

 研究メンバーの1人で、「意識」チームに所属するJAL空港企画部の中島絵梨さんは、仕事に対する意識の変化を調べているという。「今は、仕事を続けていくなかで何か変化が生まれているのか、ということを切り口に、自分のなかで持っている職業観と現在の職場で自分が感じている職業観とのギャップをあぶりだすことで調べていくところです。仕事を続けられない、と感じるのにさまざまな理由がありますが、その気持ちに対して何がアプローチ方法なのかというのを、これからもっと勉強していきたいなと思います」と語った。

 また、「ポジション」チームに所属する研究メンバーでJAL成田第1客室乗員部の廣野仁さんは「管理職になりたいかどうかという点で、JALグループが持っている課題を出していった結果、出てきたのが本人や職場の意識や職場の風土といった「意識」の問題と、もう1つが復職や育児に関する制度などといった「制度」自体の問題でした。今後はその意識や制度についてカテゴライズし、どういうことが影響して管理職になりたいという気持ちにつながるのか調べたいと思います」と昇進に対する意識の問題について話した。

日本航空株式会社 空港企画部の中島絵梨さん
日本航空株式会社 成田第1客室乗員部の廣野仁さん

 なでしこラボプロジェクトでは今後、研究結果を論文としてまとめたうえで、3月に研究内容の中間発表を行ない、7月に開催されるフォーラムで研究結果を発表する予定だ。

 2016年4月1日から従業員が301人以上の企業を対象に女性活躍推進法案が施行され、企業での女性の活用が注目されている。そんななか、JALグループ全体の積極的な取り組みである「JALなでしこラボ」はどんな成果を上げるのだろうか。

「JALなでしこラボ」において女性活躍推進のための研究活動を担当する「なでしこラボプロジェクト」

(丸子かおり)