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日本旅行業協会、観光業向けに「第25回 JATA 経営フォーラム 2017」を開催

テーマは「構造変化に強い旅行業経営」。古田貴之氏がAIとロボット技術について講演

2017年2月28日 開催

JATAは2月28日、東京都内において「第25回 JATA 経営フォーラム 2017」を開催した

 JATA(日本旅行業協会)は2月28日、東京都内において「第25回 JATA 経営フォーラム 2017」を開催した。このセミナーは旅行業に関わる企業や団体のマネジメント担当者を対象としたものであり、メインの基調講演のほか、さまざまなテーマのプログラムが用意された。ここでは基調講演「AIとロボット技術が変える 2020年の産業と生活」を紹介する。

「2017年は旅行会社自らが仕掛け、真価を発揮する年に」と田川会長

日本旅行業協会 会長の田川博己氏

 25回目を数えるJATAの経営フォーラムの開会にあたって、まず始めに JATA会長である田川博己氏が300名を超える参加者を前に「トランプ政権下における米国経済や欧州の政府の行方など、往来の自由を増やすことで交流の輪を広げていくというツーリズムの理想に反する動きが出ています。しっかりと注視をし、必要な時期には声を上げていくことも必要だと考えています」と、目まぐるしく変わる情勢について冒頭でコメントした。

 一方で、海外渡航者数は3年振りに前年比増となり、訪日旅行も2000万人を突破するなど、観光産業に対する関心や期待も高くなっているが、海外・訪日旅行ともに市場の拡大基調にあるなか、残念ながら旅行会社の取り扱いが伸びていないのも実情であるとのことだ。さらには2017年は昨年と比べると大きなイベントがないことから、「旅行会社自らが仕掛けをしないといけない」とし、「旅行会社の真価の発揮」を今年の事業のテーマに掲げて取り組んでいくと話した。

 海外旅行については2月に、旅行会社、海外政府観光局、大使館、旅行メディアからなる「アウトバウンド促進協議会」をJATA海外旅行推進委員会の菊間潤吾氏のもとに立ち上げた旨を報告。日本の海外旅行を促進するために、送り手と受け手の情報交換や意見交換、海外旅行のセミナーやフォーラムを開催することによって、商品に直結するような企画担当者との密なコミュニケーションを図っていき「お客さまに旅行会社を使ってもらえるような、そういった仕掛け作りを推進していきます」と語った。

 また、世界最大級の観光イベントである「ツーリズムEXPOジャパン」が3回目を数え、成果を上げてきたことにも言及。2017年は新たに、JNTO(日本政府観光局)が主催に加わり、日本観光振興協会、日本旅行業協会の3団体が主催する。「『ツーリズムEXPOジャパン』は日本の観光業を代表するイベントに成長いたしました。しかしながら今後はさらに、海外旅行会社との商談やネットワーク作りの機能を強化し、アウトバウンド需要を喚起していきます。また、インバウンドについては、ビジネス関連商談会やランドオペレーター商談会を新設し、ここにいる皆さんが積極的に参加・活用していただくようにお願いしていきたいと思います」と話した。

 最後に「貸し切りバスや情報セキュリティ対応、東北の地震の復興支援など、企業としての責任、あるいは業界団体の使命としての安全や安心とコンプライアンスの徹底、観光による復興支援、地域創生に向けた活動、そういったものをさらに一段高いレベルで推進していくことも“旅行会社の真価の発揮”には重要です」と語った。

訪日外国人旅行者数は2000万人を超えて着実に成長

観光庁長官の田村氏に代わり担当官が代理で挨拶

 次に観光庁長官である田村明比古氏の来賓挨拶が予定されていたが、公務のため急きょ観光庁の担当官が代理として出席、以下のように述べた。

 まず最初に「訪日外国人旅行者数は歴年で初めて2000万人を超えて2404万人となったほか、消費額も3兆7476億円となり 製品別輸出額と比較しても、自動車、化学製品に次いで第3位になるなど、訪日観光は着実に成長を遂げています。

 一方、日本人の海外旅行者数は対前年比5.6%増の1711万人あまりとなり、地域によってバラつきはあるものの、落ち込みの激しかった中国や韓国への旅行者数が戻ってきつつあるなど、回復の兆しも見えた1年でありました。さらに国内旅行については、速報値でありますが全体として消費額は微増。日取りの関係などで宿泊旅行よりも日帰り旅行が好調という2016年でありました」と、2016年の観光市場について振り返った。

 また、2016年3月に政府が取りまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年には訪日外国人旅行者数4000万人、消費額8兆円との新たな目標を掲げており、「観光資源の魅力向上」「観光産業の国際競争力の強化と基幹産業化」「ストレスフリーな旅行環境の整備」の3つの視点から総合的に施策を講じ、観光先進国の実現に向けて政府一丸となって取り組むこととし、「今年はこの観光ビジョンを本格的に形にしていく1年になると思います」と述べた。

 インバウンド市場の急拡大、航空会社や宿泊室の直販拡大、LCCの成長、インターネット取引の急増など、さまざまな状況の変化が起きている昨今に対し、海外との交流や知見を増やす「アウトバウンド促進協議会」が設立されたことにも触れ、大変前向きな取り組みと評価し、観光庁としても協力していく旨を語った。

 最後に「軽井沢の痛ましい貸し切りバスの事故から1年が経過し、再発防止策の実施が始まっています。バス業界だけでなく、宿泊業も含めた観光産業の全般に関わるものが見直すべきとこは見直し、しっかりとした経営体制に変えていくことを観光業界のリーダーである旅行業界の皆さんこそが率先していけることができるし、そのような役割を果たすことを強く期待申し上げます」と結んだ。

古田貴之氏がAIとロボット技術の影響を講演

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏

 基調講演では、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターの所長であり、千葉工業大学 常任理事(兼務)の古田貴之氏が登壇。「AIとロボット技術が変える 2020年の産業と生活」をテーマに、現在のロボット開発や導入などを数々の事例を交えて語った。

 まず最初に自身の自己紹介として、今まで関わっていたプロジェクトを公表可能の範囲で紹介した。有名なところでは、福島第一原子力発電所において、原発建屋全フロアを踏破可能な災害対応ロボットを開発・提供し、災害の鎮静化に務めたことが挙げられるが、そのほかにも企業にロボット技術を提供したり、ロボットを使った観光企画のタイアップなども行なっているそうだ。

テレビや講演など数多く出演している同氏だけに、FURO(未来ロボット技術研究センター)を“Furuta Robotics”と紹介するなど、会場に笑いを巻き起こしながら基調講演は進められた
今まで開発してきたロボットの数々。その中には福島第一原子力発電所で活躍したロボットもある
「関連省庁の許諾を得ているのでお見せいたします」と断りを入れたうえで、福島第一原子力発電所内で撮影した映像を公開

 次に現在のロボットがどのようなものかを交流関係のある企業が開発したものをスライドで紹介した。そのなかでは、50kg以上の荷物を載せて斜面を登る軍事用ロボットや、物をつかんで放り投げるもの、床に置かれた荷物を棚まで持ち上げるもの、周囲を認識して障害物を避けたり扉を開けて人のように散歩したりするロボットなど、さまざまな技術を使ったものが紹介された。

 このようなことは「ロボットにとってはお茶の子さいさいで簡単なことです」とし、「だからハウステンボスでロボットに手荷物を預けるといったようなものが出てくるのです」と話した。そして、ロボットはバックヤード的な裏方仕事は得意だが、利用客に対する接客はまだまだ難しい。ロボット導入にあたってのポイントは2つあり、「人件費」と「お客さまの満足度」を、どううまく帳尻を合わせるかが重要だと語った。また、このようなロボットを貸し出すサービスを着々と準備している会社があり、今後はどんどん増えていくとのことだ。

アメリカの企業が開発した軍事用の荷物運搬用ロボット。54kgの荷物を載せて35度の斜面を登ることができる。スライドにあるように人に蹴られてもそう簡単にバランスを崩さない
手前のブロックを持ち上げて放り投げているところ
床に置かれた荷物を棚に持ち上げているところ
周囲をマッピングしながらドアを開けて脱走(古田氏談)しているところ

東京ソラマチにある実物大「バルキリー VF-25F」が観光名所に

 冒頭の自己紹介で古田氏は、ロボットと観光のタイアップも行なっていると話していたが、大きな事例として東京スカイツリーのソラマチにある「千葉工業大学 東京スカイツリータウンキャンパス」を紹介。

 これは東京ソラマチの8階フロアをすべてを使ったテナント。東京ソラマチは4000もの応募のなかから選ばれた312のテナントで構成されているが、唯一、東武鉄道の代表取締役社長である根津嘉澄氏に要請されて立ち上げたものだそうだ。

 根津社長からは「最先端技術で遊べる施設を作ってくれ」と依頼されたそうで、同じくヨーロッパで科学技術を使った博物館が大変な入場者数で盛況なのにヒントを得て作ったとのこと。ちなみに、古田氏はお台場にある日本科学未来館の監修も手掛けていると話した。

 この狙いは的中したようで、オープンしてから3年間で60万人が来場。実は高齢者がポイントで、「押上は古くて新しい街なので、平日の午前中は高齢者ばかり。でも、次の週に孫を連れてくる」とのことで、これからの狙い目だと説明した。

 また、フロアの1/3ほどを使って展示されている実物大のマクロスFの「バルキリー VF-25F」は、これ目当てに外国からの来場者も多く、マクロスの聖地といわれているそうだ。「技術とアニメーションなどのメディア、観光業の組み合わせは思っていた以上にたくさんのお客さんが来るし、リピータも多い。狙い撃ちでメーリングリストを作って送ると、人が殺到します」と古田氏は語った。

東京ソラマチにある千葉工業大学 東京スカイツリータウンキャンパス
館内には福島第一原子力発電所で使われたロボットを実際に操縦できたり、NASAの協力で火星の表面を再現したシミュレータを操作できたりと、最先端の科学技術を集めた展示物を楽しめる
バルキリー VF-25Fのガウォーク形態の実物大。全長約9m、全幅約8mの巨大な展示物

東京オリンピックに向けてロボット開発が進む

 次にロボットの未来に関する話として、2020年の東京オリンピックについて「経済効果は8兆円とも10兆円ともいわれているオリンピックはチャンスです」と話し、内閣府が掲げている「改革2020」プロジェクトのロボットに関連する項目は同氏が発案したものだと説明。通称「オリンピックのプロジェクト」とも呼ばれているそうで、お台場がこれから大きく変わると話した。

内閣府が掲げている「改革2020」プロジェクト一覧

プロジェクト1:次世代都市交通システム・自動走行技術の活用
プロジェクト2:分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決
プロジェクト3:先端ロボット技術によるユニバーサル未来社会の実現
プロジェクト4:高品質な日本式医療サービス・技術の国際展開(医療のインバウンド)
プロジェクト5:観光立国のショーケース化
プロジェクト6:対日直接投資拡大に向けた誘致方策

2020年に開催される東京オリンピックに向けた国のプロジェクトのなかには、ロボットによる未来社会の実現が入っている

「オリンピック公式の乗り物候補の1つです」として紹介されたのが移動支援ロボット「ILY-A(アイリーエー)」だ。ILY-Aは1人乗りの三輪型・小型電動モビリティで、4種類の形態「キャリーモード」「ビークルモード」「キックボードモード」「カートモード」に変形させることで、多種多様な用途に対応する。

 キャリーモードは持ち運びの際に使い、ビークルモードは移動時の形態として、またキックボードモードは人力と電動の併用が可能となっており、カートモードは荷物を運ぶカートのようにして使う。

 ロボット技術により周囲を常に監視しているので、突然飛び出してくる人や障害物などを認識し、自動で車体の速度を減速するほか、キックボードモードでは足で蹴飛ばすと自動で判別してタイヤが空回りし、あたかも人力で動かしているような動作になるそうだ。近い将来、渋谷やお台場のアミューズメント施設でお目見えするという。

 そして、経済産業省の担当官と一緒に茨城県の筑波で実地テストを重ねて警察庁と議論しているものとして、「将来は道路交通法の解釈が変わり、公道でセグウェイなどの乗り物が乗れるようになります」とも語った。

 今年のモーターショーについても言及し、自動車メーカーが通信業者とタイアップしてこのような乗り物を出展すると予告。すでに市場が立ち上がる段階にきており、自動操縦などの機能が入ってアミューズメントパークなどで自動でモノを運んだり、人を運んだりするサービスが展開されるとの話で、「オリンピックまでに間違いなく4つのメーカーが発売します」と説明した。

 「お台場の一部では、出力の高い液晶プロジェクタで街にプロジェクション映像などを映し、街中で国立競技場をランナーが走っているのを体感できる。自動操縦みたいなものが走り、道路に矢印が出てカーナビゲーションする。そのようなことを本気で今やろうとしています」と、ロボット技術を使った未来像を解説した。

オリンピック公式の乗り物候補である「ILY-A」。目的に合わせて4つの形態に変形可能。2015年のグッドデザイン賞も受賞している

人工知能(AI)にはデータが重要

 今後の人工知能の使われ方としては、モノと同じで、今まで富裕層向けであったものが技術と結びつくことで大衆に使われるようになり、色々なものが人工知能を使ってその人専用にカスタマイズできるようになる説明。

「人工知能によって20年後に職が奪われるなんて言う人がいるが、ありえません。今の人工知能の技術を使って、ドラえもんやターミネーターなどの脳は絶対に作れません。人工心臓は人工の心臓ですが、人工知能は人工の脳ではありません」と、人工知能が人になり替わるものではないと強調した。

 人工知能は、経験に基づいた分析によって推奨するのはとても得意であり、囲碁や将棋などもだから強いとのこと。例えば、囲碁は3000万試合をコンピュータ同士で対局させ、そのデータを学習させているそうだ。今の人工知能ができるのは、その人の今までの傾向がそうだったから、過去の傾向に従ってお勧めすることであって、喜怒哀楽などは絶対に作れないと語った。

 受け答えが決まっている銀行のATMの操作案内や、その人の趣向に合わせたラーメン屋さんの推奨など、膨大な情報を記録して、出せるような用途では、これからますます人工知能が活躍すると説明した。

 古田氏が強調したのは「データを持っている人が勝ち」ということ。日々の事柄をセンサーなどを使って、どう上手くデータ化するか。昔はアンケートでしか収集できなかったが、今ではいろいろなセンサーを使ってデータさえ集めればどうにかなると語り、「データさえあれば、ディープラーニングで解析は結構すぐにできます。フリーのソフトウェアも公開されていて、大学4年生とか大学院生くらいの知識があればいろいろな傾向をはじき出すのは簡単」とし、最近では人工知能を使って解析するのはもはや当たり前であると紹介した。

人工知能の深層学習(ディープラーニング)についてまとめたスライド
人工知能をどのようにビジネスに当てはめていくかも重要であるとのことだ

ビッグデータの集め方

 では、どのようにこのようなビックデータを集めるか。古田氏は先ほど紹介したILY-Aを例に「先の乗り物、実はGPSと感情認識のカメラが付いていて、データ化して蓄積しています」と話し、「ある場所に行ったら、その人がどのような反応をするのかといったデータを集めてマーケティングに活用します」とタネ明かしをした。

 そのほかでは、たとえば家の中にいろいろなセンサーを設置しておき、住んでいる人はとくに気も使わずに普通に生活を送る。そうすると、日々の情報をもとに人工知能が解析し、健康管理支援システムとして役立てる。

 また、ホテルなどにおいても、個人情報保護法に抵触しない範囲で、どのタイミングで寝たか、どのタイミングでテレビを見たか、といった情報を集めておけば、これも利用客の傾向を知っていろいろなサービス展開を考えることができるとしている。

 これらのデータは個人の名前に紐付けると個人情報保護法に引っかかってしまうので、年齢、性別、出身地域くらいにオブラートにくるんでデータを整理しなおす。「一度、個人の色を消すのがポイントです」と説明した。

 実際にすでに身近にあるものでは、iPhoneにセンサーが組み込まれていることを紹介。「3年前くらいからM7というチップが入っていて、万歩計とかどれだけの距離を移動したかとか、いろいろな情報をセンシングし、それでアップルはiPhoneをヘルスケアに使おうとしているのです」と実際の使われ方にも言及した。

 近いうちには自動車にもシートなどにセンサーが埋め込まれるそうで、その人の脈拍数とか、視線の動かし方などでドライバーの体調が分かるようになるそうだ。「これはJAFの人間バージョンで、体調がわるければ救急車やレスキューが出動する、そんなものが展開されていくのももうすぐです」と話した。

 家の中にセンサーを設置してデータを取得するということは、すでに積水ハウスと共同で開発・研究しているそうで、かなり近いうちに事業化される予定らしい。

 可能な範囲でいえるのは、健康管理だけでなく「太り気味であれば低カロリー」「塩分過多であれば減塩メニュー」といったように、総菜メーカーとタイアップして、その人にカスタマイズしたお勧めの料理とかレシピを提示してくれるサービスが展開されるとのことだ。

 これからは、人が長く使うもの、人が長く滞在する場所、そんなところからいかにデータを吸い出すかが最重要ポイントであり、ホテルなどでも昔から台帳とか情報からマーケティングしていたが、それをもう少し賢くできる世の中になっていくと話した。

住宅のあらゆる場所に生態センサーを設置することで健康管理に役立てる
千葉工業大学と積水ハウスは共同で在宅健康管理・支援システムを開発。近く実用化するとしている

 古田氏が講演で繰り返し述べていたのは、ロボットや人工知能が人間の代わりになるわけではないこと。洗濯機や掃除機といった家電が普及し、主婦がそれらに使っていた時間を家族団らんの場にできた。それと同じことで、ロボットや人工知能に任せることで、人と人とが接する時間をもっと作れるのが理想としている。

 大事なのは「ものづくり」ではなく「ものごとづくり」であり、社会・コミュニティ形成、人の心、生きる活力を対象として人工知能とロボット技術は社会に実装されるべきと話した。

衣食住のあらゆる場所にコンピュータシステムを導入することで、時間を有効活用して生活シーンが広がる未来が理想的と解説