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熊本県天草市、東京大学、ANA総研の3機関がドローンの地域活用協定を締結

12月19日に日本初となる有人ヘリコプターとドローンの連携実験実施

2016年12月18日 調印式実施

 熊本県天草市、東京大学、ANA総合研究所は、「ドローンを活用した社会基盤構築に向けた協定」を3者間で締結した。日本各地で地方創生事業を行なうANA総研と、ドローンの自律飛行技術や有人機との共存について調査研究を行なってきた東京大学の鈴木・土屋研究所が、天草市に呼びかけを行ない、今回の協定に結びつく形となった。12月18日に天草市役所で協定調印式が行なわれた。

 協定調印式は、天草市役所2階の庁議室で行なわれた。天草市長をはじめとする市職員、ANA総合研究所関係者、東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻 鈴木・土屋研究室(以下、東京大学)の鈴木真二教授が出席した。

協定調印式は天草市役所2階の庁議室で行なわれた

 出席者の紹介、続いて署名書へのサインが終了後、3者の代表者より挨拶があった。

写真左より、ANA総合研究所 代表取締役社長 岡田晃氏、天草市長 中村五木氏、東京大学教授 鈴木真二氏
天草市側の出席者は、写真左より、総務部長 宮﨑哲彦氏、総合政策部 部長 金子正秀氏
ANAグループからは、写真左より、ANA総合研究所 主席研究員 山田圭一氏、ANAデジタルデザインラボ チーフディレクター 津田佳明氏が出席し、次の日に行なわれる実証実験のために天草入りした
署名書へのサイン
天草市長 中村五木氏

 中村五木天草市長は、「この調印式を迎えることができましたのも、東京大学の鈴木教授、ANA総研 岡田社長ならびに関係者の皆さま方のおかげでございます。心から感謝申し上げます。最新の国勢調査によりますと、本市の人口は8万2739人となり、10年で1万4000人が減少した形でございます。

 本市に限らず、日本全国で高齢者人口が生産者人口を上まわってきている地域が出てきているのが実情でございます。各産業の担い手不足が大きな課題となっています。そのなかで安心できる生活を支える技術として、ドローンの活用に注目が集められているところでございます。今後、さらなるドローンの技術活用に期待が寄せられております。

 私といたしましても、現在のインターネット環境のようにドローンの活用が当たり前の時代が来ると考えています。本市におけるドローンの利用について、観光地などで個人が利用するケースがでてきていますが、民間企業や工事現場、養殖業者にとっての生け簀の状況確認など、さまざまな場面で利用がはじまろうとしています。

 本市では、2016年6月に予算化を行ない、災害時における車両や人員の到着が困難な場所などに活用できるように導入を行ないました。しかしその一方で、プライバシーの侵害や誤操作による危険が伴うことなどで、指摘されているところであります。2015年12月、改正航空法が施行されドローンの基本的な飛行ルールが導入されましたが、安全性の確率に向けた協議は継続して進められているとお聞きしています。

 私が強く望んでいる“安全第一”に関しまして、今回、鈴木教授の研究室さま、ANA総研さまとつながれたことは、本市にとりまして大変意義深い第一歩となりました。今後、ルールの制定、操作職員の育成、防災面や赤潮にと、幅広い活用がしていけると思います。それがモデルケースとして、全国の地域活性につながることも期待しております」とコメント。

東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻 鈴木・土屋研究室 教授 鈴木真二氏

 東大・鈴木真二教授は、「本日は、こうした協定を結ばせていただきありがとうございます。これまで我々が活用できていなかった150m以下の低い空域を、新たな目的のために利用すると。空の産業革命を開く、そういった取り組みがなされていく協定となりました。

 空を飛ぶものでございますから、安全を確保するためのルールづくり、システムや技術が必要になってきます。今回、私は天草市を初めて訪れたわけですが、こうした自然に恵まれた環境のなかでこそ、ドローンの技術は相応しいのではないかと考えています。ANA総研さまにおかれましても、これまでの航空輸送の経験を踏まえて、ドローンの安全な利用に向けたさまざまな知見を提供していただけるということで期待しています。それらが、ここ天草でさまざまな実験をさせていただけるということで、非常にうれしく思っています。

 19日は、有人ヘリコプターとドローンの安全な運用に関して、日本で初めての実験が行なわれます。どうぞ、よろしくお願いいたします」とコメントした。

ANA総研 代表取締役社長 岡田晃氏

 ANA総研 岡田晃代表取締役社長は、「この度は、天草市さまと東京大学さまと協定を結ぶことができて、ドローンの新たなステージを迎えることとなりました。私どもの事業の一環でもありますが、地域活性化も行なっておりまして、ここ天草市でも“天草宝島戦略マネージャー”を2名常駐させています。4年目になりますが、さまざまな面で連携しております。また鈴木先生と航空イノベーション研究会で、さまざまな研究を共にさせていただいております。

 中村市長からは、ドローンを活用して防災に取り組みたいというお話をいただいておりました。鈴木先生からも地域のニーズに合った研究を進めたいと。海上での離着陸に適した場所を探しておられました。航空会社ではありますが、社内で新たにドローンと共存する新たな事業として、12月に新たなプロジェクトがスタートしたところでもあります。

 今回、このドローンの新たな架け橋になりたいと思い、協定に向けて進めさせていただきました。19日の実験も、新たなスタートになると思います。空は無限大に見えますが、例えば民間機との共存といったルール作りが必要です。研究と実証がなにより必要だと思い、19日の日本初の実験を楽しみにして参りました。

 私どもANAグループは、航空会社として安全が一番大事なことだと、ずっと取り組んできました。他部署との連携含め、ANAグループ総力をあげて、すべての経験を今後のドローンの将来に向けてお役に立ちたいと思っております」とコメントした。

操縦者育成や有人ヘリとの情報共有システムの構築が今後の課題

代表者によるフォトセッション

 今回の協定が締結され、今後進められていく3者の協力関係は以下のとおり。

天草市

・東京大学で研究を進めるドローンの実証実験フィールドの提供
・防災や地域課題の解決に向けたドローン活用及び研究に資するデータの提供(赤潮情報など)
・東大&ANAグループのサポートによるドローン安全運航体制やマニュアルの構築

東京大学

・海上での自律離発着や飛行をロバストに(安定的に)行なえるドローンの実証実験の天草市での実施
・天草市のドローン運用に対するアドバイス(技術・法規・安全)
・有人機と無人機の共存に向けた調査研究

ANA総合研究所

・天草市のドローン導入に対する安全運航体制やマニュアルの構築支援
・ドローンの活用を通じた地域活性化支援
・有人機と無人機の共存に向けた調査研究

 会見終了後に、鈴木真二教授に現状の課題などを聞いたところ、「19日の実験ではDJI製のドローンも使います。ドローンの機器については市販品で十分性能を発揮すると思います。それよりも、扱う側の技術であったり、運航ルールや、安全面のプログラムの構築の方が、解決すべき大きな課題となっています。

 国の方でも、有人ヘリとドローンの情報連携について協議しておりますが、そちらのデータも蓄積できれば委員会の方へ報告していきたいと思います。これから構築が必要となりますが、ドローンの情報を近くのヘリコプターにどうやって送るのか、また、その逆もしかりですね。そのあたりはほかの分野の技術者と、協力し合っていかなければなりませんね。

 今回の実験は、消防庁さんに協力していただくので、私たちとしてもそこで今後の進み方が見えてくると思っています」とのことだった。

 ドローンの技術だけでなく、法規整備や有人ヘリとの情報通信方法の確立など課題は多い。3者の協力関係で実証実験を繰り返すことによって、課題解決のスピードが増していくことが期待される。

 なお、12月19日に行なわれる実証実験の模様についても、別記事でレポートする。