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JAL客室乗務員の海外基地で最大規模の500名強が所属するバンコク基地

アイデアを出し合って乗客に寄り添うおもてなしを実践

日本航空バンコク支店

 JAL(日本航空)がバンコク就航60周年を迎えたことは別記事でお伝えしたが、バンコクは2016年10月時点で1日5便を日本~バンコク間に運航する重要拠点だ。ワールドワイドで見た場合、JALにとってバンコクには一つの特徴がある。それは現地採用のCA(客室乗務員)が所属するバンコク基地があることだ。

 JALの海外基地は、ロンドン、フランクフルト、香港、上海、台北、シンガポール、そしてバンコクと7カ所しかない。そのなかでもバンコクは2016年10月時点の所属人数が514名と非常に多い。一時は1000名ほどが在籍していたという。ほかの海外拠点は多いところでも150名程度とのことで、その規模の違いは歴然としている。

 このバンコク基地の歴史は、1990年にジャパンエアチャーターが設立され、同社によるバンコク路線の運航がはじまった時期にさかのぼる。翌1991年にバンコク基地1期生が入社。1994年には訓練センターが設置され、モックアップ設備を使ったCAの訓練を現地で行なえる体制を整えた。その後、1999年にJALウェイズへの社名変更、2006年のスワンナプーム国際空港開港などを経て、現在は日本航空に所属。訓練センターは2015年12月に閉鎖され、現在は日本で訓練を受けることになる。

 バンコク基地所属のCAは、バンコク、ホノルル、ロサンゼルス、ボストン、サンディエゴ、シカゴ、ジャカルタ、マニラ、ホーチミン、ハノイ、デリーの各路線で乗務する。毎日50~60名程度が乗務に出かけていくという。

 バンコク就航60周年記念イベントの取材の折、そんなバンコク基地に所属するタイ人CAのスダラット・レックンガオディーさん(愛称はパットさん)と、日本からの派遣で2016年5月からバンコク基地に来ている三浦文子さんに話を聞く機会を得た。国は違うが入社13年目で同期の2名だ。

パットさんことスダラット・レックンガオディーさん(左)と、日本から派遣されている三浦文子さん(右)

 日本人が日本の航空会社を選ぶ理由の一つに、日本語対応が挙げられると思う。現地採用スタッフといえども、日本人の利用者が多いJALのCAとしては、日本語が話せることは保安要員としての観点からも必要になる。

 ただ、タイ人スタッフの採用にあたって日本語能力は問われないそうだ。タイにおける日本語学習熱などもあって現在では大学などで日本語を習った人の入社も増えているが、パットさんが入社した時代はそうでない人が多く、実際にパットさんも入社時は日本語をまったく話せなかったという。バンコク基地では入社してから日本語を学び、敬語やサービス、緊急時に必要な用語などを新人訓練で学習。さらにブラッシュアップ訓練を定期的に行なう。

 パットさんは「日本人の乗務員が優しくて、間違っているところをすぐに直してくれます」と話す。会話をしていてもネイティブスピーカーでないことは分かるが、コミュニケーションには支障がない。いまでは、クラス責任者(インチャージ)として乗務できる資格も取得しているほどキャリアを積んでいる。

 バンコク基地でクラス責任者の資格取得者は41名、先任客室乗務員(チーフパーサー)の資格取得者は管理職を含めて20名とのことで、いかに厳しい資格であるかが分かる。ちなみに、上記の写真で三浦さんが巻いている水色のスカーフが、そのフライトでクラス責任者を務めているCAが着用するもの。JALの飛行機に乗ったときは気にしてみるとよいだろう。

 CAから見たバンコクから日本へ向かう各路線の特徴を尋ねてみると、「成田と羽田、関空、中部でお客さまの層が違いますので、それぞれの路線で気を付ける、気を遣うべきところが違います。ほかの路線に比べても男性ビジネスマンが多い路線だと思いますので、そのあたりは頭に入れて乗務しています」(三浦さん)という。

 参考までに、ごく大ざっぱに各路線を特徴付けてみてもらった。「羽田線は日本人のビジネスマンが多い路線。成田線は成田以遠へ乗り継がれる方も多いので、エコノミークラスの半分ぐらいは欧米人のお客さまです。S7航空とのコードシェアをしているのでロシア人も多いです」と、東京エリアの2空港でもかなり異なる様相。

「関空線は、タイ人のお客さまが増えてきました。最近聞いたところでは、タイ人は日本のいろんなところを見て回るのが主流らしいので、関空から陸路で東京へ行って、東京からタイに戻るという旅程も多いそうです。中部も観光、特に団体のお客さまが多いですね。飛騨高山、白川郷など昇龍道の観光に出る人も多いようです。ビジネスクラスにはビジネスマンが多いですね」と、両路線とも観光客は多いものの、その旅のスタイルがやや異なる傾向にあるようだ。

 タイ人から見た、日本観光の魅力としてパットさんは、「四季があって、いつもいろいろなところに行けますね。これからは紅葉を見るために(タイ人向けの)京都のツアーが多くなります」とのこと。パットさん個人としては「日本のクレープが好き。皮が柔らかく、生クリームが甘くてとても美味しいです」とのことだ。

 逆にパットさんにバンコクのスポットを尋ねてみると、「空港の近くですとショッピングモールの『メガバンナー(Megabangna)』はタクシーで20分で行けます。ダウンタウンですとサイアム(Siam)の辺りですね。『White Flower Factory』という伝統的な料理を食べられるレストランが美味しいです」。またバンコク以外では、「クラビィは海がきれいです。北部ですとチェンライもお勧めです。チェンマイに比べて自然豊かで静かな街です。北部は料理もバンコクとは違っていて、少し辛みが弱いですね」とのことで、タイ観光の参考にしてほしい。

 三浦さんのお勧めはマッサージ。「日本式マッサージの『あんまや』というそのままの名前(笑)のところですとか、何店舗か展開しているアジア・ハーブ・アソシエーションが有名ですね」とのことだ。

 CAの仕事に話を戻すと、出発前ブリーフィングは「日本は先任客室乗務員、クラス責任者と発言する人が限られて、わりと淡々と進みます。バンコクの方が活発ですね。若手も発言して、それを優しく聞いている(笑)ような感じで、和気あいあいと進むイメージです」(三浦さん)と日本発便とバンコク発便では雰囲気が異なる。この際の言語は日本語、英語が入り交じったような感じになるそうだ。

 また、パットさんはお客さま満足度向上に関するチームリーダーをしていたので、それについてブリーフィングでも積極的に牽引したとのこと。今は“アイコンタクト”“ステップイン”“感謝の気持ちを伝える”の3点がテーマになっている。「日本のお客さまは思っていることをなかなか話していただけないので、こちらから気付いて声をかけられるようにして、話していただけるようにしたいと思っています」(パットさん)と、お客さんの心に近付けるよう努力しているという。

 こうした取り組みの成果は、「DVS(Daily Value Score)」という指標で出される。これは乗客にメールでアンケートに回答してもらうもので、このなかの客室に関する評価として1~7のスコアを付けてもらった集計結果だ。スコアは掲示されており、アップダウンが一目で分かる。こうしたこともモチベーションとなったり、緊張感を高めることにつながっているのだろう。

 三浦さんは、「こういった活動もバンコクは盛んで、アイデアが次から次へと出てくるイメージはあります」と日本とバンコクの違いの一つとして挙げた。

 このほか、バンコク基地でのCAの取り組みとしては、月ごとにいわゆる“ベストCA”を決めている。身だしなみでの評価が高かったり、安全面で貢献があったりした人を、CA同氏で選出する。こうして乗務員同士で褒め合う文化も醸成しているとのことだ。

 また、ワールドワイドでは年に1度、保安訓練を受ける必要があるが、その成績で満点を取ると「Safety Master」として掲示。さらに好成績者を表彰する仕組みもある。2015年度はバンコク基地の成績が特に優れていたことから、バンコク基地として表彰を受けている。

 また、身だしなみに対する意識も非常に高く、乗務するチームのなかでもっともよい身だしなみだった人の“チェキ”も貼ってあったり、コスメ用品を自由に使えるようにしてあったりしていた。

いわゆる“今月のベストCA”。CA同士で褒め合う文化の醸成にもなっている
年に1度実施される保安訓練の成績優秀者を貼り出しているほか、2015年度はバンコク基地が成績優秀で表彰を受けた
チームでもっともよい身だしなみの人のチェキや、お勧めアイテムの紹介、コスメを自由に使えるようにしてあるなど、身だしなみに対する高い意識が感じられる
ブリーフィングを行なうテーブル
その脇には、10月4日の植木社長来訪を告知する張り紙も

タイ語のコールセンターなどを有するバンコク支店

 このバンコク基地を有するJALのバンコク支店は、CAを含めて600名ほどが勤務しており、スワンナプーム国際空港開港時に、隣接した建物に移転してきて以来、居を構えている。今年は就航60周年ということで、僧侶にお祈りをしてもらい、入り口にその飾り付けがしてあるなど、支店として特別な年になっている。

 ここには、地上旅客、営業、CA、運航オペレーションの機能などが集まっており、整備と貨物は別の場所に事務所がある。営業のチームは、法人営業などのほか、タイ語で予約を受けるコールセンターの機能もこのバンコク支店内に設けている。

バンコク支店の入り口には60周年にあたって僧侶にお祈りをしてもらった装飾が施されている
バンコク支店内
バンコク支店に置かれていた御巣鷹山慰霊碑のジオラマ。2015年にタイ人スタッフが初めて御巣鷹山へ慰霊登山を行ない、そこで感銘を受けたことから、このことをより多くのタイ人に伝えようと自主制作したものだという
パイロットがブリーフィングを行なうオペレーション部門のスペース。フライトが重なる時間帯があるので、カウンターを2カ所設置している