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JALのCAなら必ず実施する、実物大モックアップを使った年1回の定期救難訓練
乗客の安全を確保するため、CAのスキルを維持・確認
(2015/3/17 11:30)
空を飛ぶ航空機は、一気に長距離を短時間で移動できる旅の手段として最も便利なものだ。その航空機の旅に欠かせないのがCA(客室乗務員)の存在。機内に乗り込むときの手伝いから、機内に乗り込んだ後のサポート、食事やドリンクの提供などさまざまな作業を行っている。一見華やかに見えるCAだが、本来の業務の1つとなっているのが「保安要員」で、万が一の事態が発生した際に、乗客を適切に誘導するなど安全を最大限に確保する役割を担っている。
安全の確保のために必要なのは、CAが「緊急時の対応に係わる知識および能力」を持っていること。緊急時の対応は発生した状況によって異なり、また脱出時の手順などは航空機によって異なる。そのため勤務しているCAは、勤務している航空機の脱出方法などを熟知している必要があり、年に1度の救難訓練を必ず行っている。本記事では、その救難訓練に使用するJAL(日本航空)の救難訓練施設を紹介していく。
誕生月の前後1カ月以内に行なわれる定期救難訓練
今回取材で訪れたのは、2014年春にリニューアルしたJALの非常救難訓練センター。リニューアル前の救難訓練センターは、羽田空港(東京国際空港)の旧整備場地区にあったが、リニューアルを機に新整備場地区に設けられた。設備は旧施設に比べて約6割程度とコンパクトになったものの、スピーカーの設置や各種液晶ディスプレイの設置などで旧施設以上にリアルな救難訓練が可能になり、より緊張感の増した試験が可能という。旧施設の模様はCar Watchで紹介しているので、興味のある方はそちらも参照していただきたい。
JALのCAが年に1度行う非常救難訓練(Car Watch)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130917_615505.html
救難訓練は、新人CAに実施する「初期訓練」、異なる型式の航空機に勤務する前に実施する「型式訓練」、一定期間業務を行なわなかった際の復帰時に実施する「復帰訓練」、チーフパーサーなどの先任職務を遂行するCAに対して実施する「先任訓練」、すべてのCAが年に1度実施する「定期救難訓練」がある。JALでは約6000名のCA(邦人:約5000名、海外7基地:約1000名)が在籍し、それらCAはすべて年に1度、誕生月の前後1カ月以内に定期救難訓練を実施している。この定期救難訓練は、午前中に安全に関する筆記試験を行ない、筆記試験合格者のみ午後に実物大のモックアップを使った救難の実技試験を行なえる。救難訓練とはいえ、一定の技量に達しないと勤務から外されるとのこと。
今回、定期救難訓練の教官として取材対応いただいた、日本航空 客室品質企画部 客室教育・訓練室 安全訓練グループの石井啓子さん、竹島智江さん、香月瞳さんは、いずれもリードキャビンアテンダントで、以前は一般のCAとしての勤務も行なっていた。その際には、誕生日近くになると実施しなければならない定期救難訓練は、非常に強いプレッシャーであったという。試験に不合格となることは、一時的にとはいえCA勤務を行なえくなるため、必死の勉強が必要となる。
今回は実技部分を見せていただいたが、リニューアルされた非常救難訓練施設は、2アイル(2つの通路)を持つボーイング 777を実寸大で再現しており、室内に座っている限りは通常の航空機と変わらない。ただ、左の扉は777のものだったが、右の扉はボーイング 787のものとなっており、航空機に詳しい方は「アレ?」とすぐ気が付く仕様となっていた。もちろんこれは、1つの施設で2種類の航空機を訓練できるようするためのもので、効率的な訓練が行なえるよう配慮されている。
体験訓練では、最初に教官と一緒にラジオ体操を行なった。これは非常口からのシューター脱出を体験する際に怪我をしないためで、体をほぐしておくもの。シューター脱出は大きな滑り台のようなものと思ってもられば間違いないが、航空機の高さからの脱出となると意外とスピードが出ている。教官から手を前にまっすぐ上げる脱出姿勢を教えていただき実際に脱出してみたが、速度が出ているためマットに着地するのが難しかった。滑るのは楽しいが、着地も含めてうまくこなすには確かに訓練が必要だと感じる部分だ。
リアルなシチュエーションで緊急事態を体験
次は機内で、新設備の緊急事態を体験。機内には複数の大型モニターが設置されており、緊急事態のシチュエーションが流れる。1つ目の緊急着陸では陸上への着陸で、衝撃こそないものの機内の照明は明滅し、非常時であることを感じさせる。着陸前にCA役の教官は「頭を下げて! Head Down !」と繰り返し、衝撃対応姿勢を指導。機内のスピーカーからは着陸時の衝撃音も流れてきた。この音響に関しても新施設ではウーファーを増設するなど、リアリティをアップさせているとのことだ。
2つ目のシチュエーションは、海上への緊急着陸。左側の非常口扉はシューターにつながっているが、右側のボーイング 787の非常口扉はプールにつながっている。この海上への緊急着陸では右側の非常口扉を使うわけだ。緊急事態の状況が始まると、先ほどと同じように機内の照明は緊急事態対応となり、今度は機内にスモークまで漂ってきた。このスモークは、機内に発生装置が備え付けられ、自由にコントロールできるようになっている。
陸上への緊急着陸では頭を下げるだけでよかったのに対して、海上への緊急着陸では事前に救命胴衣(ライフベスト)の装着がCA役の教官から指示された。救命胴衣は基本的に各座席の下に備わっており、それを取り出して身に着ける。
救命胴衣を身に着け海上へ緊急着陸。教官の指示に従い、右の非常口扉から機外へ出てみれば、そこにはプールに浮いた救命用ボートが展開していた。救命用ボートといっても、それは脱出用のシューターそのもので、脱出用のシューターが2役をこなせるよう設計されている。この脱出シューターにも救命用ボートにもなるものは「スライドラフト」という名称がついている。
普段スライドラフトは扉の下部にしまい込まれており、緊急時には扉を開けると自動的に展開するようになっているとのこと。その緊急時と通常時を切り替えるのが、航空機の出発時に機内で耳にする「ドアモードをオートマチックにしてください」という言葉。CAは離陸前や着陸後にドアモードを切り替えており、万が一の準備をしていたわけだ。
万が一への備えが大切
この救難訓練施設以外に、救命胴衣の膨らませ方や、航空機に備わっている火災消火用の防火防煙マスクの使い方、やはり航空機に備わっているAEDの使い方のデモを行なっていただいた。施設の見学を終えて思ったのは、万が一への備えを、大規模に、そして確実にこなしていること。事故は起きてほしくないものだが、事故が起きる可能性がゼロでないのも事実だ。その際に、しっかり訓練されたCAが航空機に搭乗しているのは、当たり前だがありがたいし、当然そうあるべきものであろう。CAという職業は改めて大変な職業だと感じたが、利用者としてはこのような高度な訓練を受けたCAが搭乗している航空機を利用していきたいと思う。