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JALの客室乗務員、乗客救命で蒲田消防署より感謝状を授与

心肺停止の男性を客室乗務員らが連携プレーで救命

2015年6月29日 開催

感謝状を授与された日本航空株式会社 客室乗務員 渕上円さん(左から2番目)、523便のチーフ客室乗務員 石井かお里さん(左から3番目)、東京消防庁蒲田消防署 署長 消防監高橋直人氏(左から4番目)、東京消防庁蒲田消防署 空港分署長 消防司令長 加藤英治氏

 東京消防庁蒲田消防署は6月29日、4月19日に羽田空港でJAL 523便(羽田発新千歳空港行き 乗客373名)に乗り込もうとして急性心筋梗塞による心肺停止で倒れた40代男性を関係者と連携して救助したとして、JAL(日本航空)客室乗務員(CA)の渕上円さんら523便の客室乗務員に対し感謝状を授与した。

 男性は523便の機内に向かう途中のボーディングブリッジ内で倒れ、そこに乗客からの通報で同便に乗務予定だった渕上さんが駆けつけ、医師が到着するまでのあいだ心肺蘇生法(CPR)と自動体外式除細動器(AED)を使用した救命活動を行なった。また石井さんをはじめとするCAや空港職員らもAEDの搬送や医師の手配、他の乗客の誘導や案内など迅速かつ的確に行動したことにより、乗客らの混乱は全くなく、523便は40分遅れながらも予定通り新千歳空港に出発できた。渕上さんや現場に駆けつけた医師の救命活動が功を奏し、男性は一命を取り留め無事に回復している。なお、救急救命を担当した医師からは「病院外の初期救命として大成功な事例だった」との評価を得ている。

 6月29日に羽田空港のJALオペレーションセンターで行なわれた表彰式では、東京消防庁蒲田消防署 署長 消防監 高橋直人氏と東京消防庁蒲田消防署 空港分署長 消防司令長 加藤英治氏、523便のチーフ客室乗務員 石井かお里さんら、JALの関係者が出席した。

東京消防庁蒲田消防署 署長 消防監 高橋直人氏

 東京消防庁蒲田消防署 署長 高橋直人氏は渕上さんら523便のCAらの功績に対し「心肺停止状態の方を皆さんチームワークよく救命して頂きました。2013年のデータですが、今回のように公共の場で倒れた方は約4700名いました。このうち、救急現場に居合わせた“バイスタンダー”により応急手当が行なわれた方は1900名(約40%)でした。さらに、このうち医療機関に収容前、医師が引き継ぎ前までに脈拍が再開した方は490名(26%)です。一方、応急手当が行なわれなかった傷病者2800名(約60%)のうち脈拍が再開した方は360人(13%)です。バイスタンダーによる応急手当が行なわれた方の方が13ポイント高い、倍という数字が出ています。これは、バイスタンダーによる救命手当が救命効果の向上に大きな効果をもたらすということです。当庁では都民の方々に対して応急手当の普及を積極的に推進しています。今年度の東京消防庁の救急の標語というものがあります。それは“大切な命を救うその勇気”です。皆さん、勇気を出して対応して頂きまして、ありがとうございました」と述べた。

日本航空株式会社 客室乗務員 渕上円さん(左)と523便のチーフ客室乗務員 石井かお里さん(右)

 523便のCAを代表して表彰を受けた渕上さんは「(職員のなかで)たまたま私が第1発見者として初期救命を行なう立場になりましたが、機内から駆けつけた先輩方や地上の係員の方、そしてご協力頂きました乗客や乗客としてお乗りになっていた医師の方、救急救命医の方と多くの皆様にお力をお貸し頂きました。皆様との連携が取れたことにより、お客様の救命ができたと思います。何よりもお客様の命をお救いできたのが、何よりもよかったと感じています。私は入社して半年ですが、入社時に受けたファーストエイドの訓練、そして入社後にも定期的に行なわれている同訓練がどれほど大切なものなのかということを改めて実感いたしました。今後、どこで同じケースが起こるかも分かりません。その際にお客様の一番近くに居る私たちが、お客様の命はもちろん、安心や安全をお守りできるように、これからも日々の努力を重ねていきたいと思います。ありがとうございました」と語った。

東京消防庁蒲田消防署 署長 消防監 高橋直人氏より表彰を受ける渕上円さん

523便出発時に起きた状況と対処

16時22分

 乗客より通報を受けた渕上さんが、523便に接続されたボーディングブリッジ中間付近にて乗客の40代の男性がうつぶせに倒れているのを発見。周囲には対応できる職員が渕上さんしかおらず、渕上さんが初期救命活動を開始、同時に渕上さんは付近の乗客に他に職員を呼ぶように要請。

 渕上さんは、男性を仰向けにし、状態を確認。呼びかけに対して応答はなく、呼吸にも異常が見られ脈拍は微弱。顔色や唇の色がわるく、手足も冷たいという状況を確認。循環状態が悪く心臓マッサージが必要と判断し、即座にCPRを開始。

16時26分

 乗客からの通報を受けた別のCAが523便の機内から現場に駆けつけ、渕上さんが状況を伝えると、機内に戻りドクターコールを実施。事態は即座に周辺の職員に共有され、空港職員がAEDを持って現場に駆けつける。また機内に戻ったCAもAEDなど持参して現場に戻る。

16時28分

 渕上さんらが倒れた乗客にCPRを行ない、AEDの電極パッドを貼ろうとしたときに、ドクターコールに応じ乗客として乗っていた2名の医師が現場に駆けつけ、AED、酸素ボトルなどを使用して措置を開始。さらに、同便に搭乗を予定していた救急救命医が加わり、その指示のもとに胸骨圧迫を行なう。3回の電気ショックで意識が戻ったかのように見えたが、はっきりと分からず、計5回の電気ショックを実施し、到着した救急隊に現場を引き継いだ。倒れた乗客は後に意識を取り戻し一命を取り留めた。

 なお、同便に搭乗した処置にあたった医師を除く370名の乗客に対しては、CAらが事態を説明するとともにドリンクやアメを配るなどのサービスを実施。乗客らは40分ほど機内で出発を待ったが1件のクレームも出ず、むしろ後日その行動を評価する旨のメッセージが届いたとのこと。

 渕上さんは、看護学校を卒業後、脳神経外科に3年間勤務してJALのCAとなっており、インタビューで「とっさのことで、何かを考えるというよりは身体が先に動きました。初期救命は3、4分以内に開始できなければ生存率が落ちていきます。看護師の経験やファーストエイドの訓練で受けたことが役に立ちました。今回の事を今後に生かすためにも、今までの経験や訓練を定期的に復習し、お客様に何かあったときに命をつなぎ留められるように努めていきたいです」と語っていた。

 なお、JALでは入社時と1年ごとにファーストエイドの訓練を行なっており、CAなどの職員は誰もがCPRやAEDを使った処置ができるとのこと。また、訓練時には実際に起きた過去の事例も紹介され、情報共有されるようになっている。今回の事例も次回のファーストエイドの訓練時に共有されるとのこと。今回の事例は看護師を経験した渕上さんならではの適切な現場判断と行動により乗客の命を救った。その経験は、JAL全体で共有され、次の現場で活かされていく。

編集部:柴田 進