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ポルシェ×東大が仕掛けるスカラーシップ「LEARN」、2024年は熊本・天草へ。人と話して人から学ぶ旅に密着してきた

LEARN with Porsche 2024レポ前編

今年の「LEARN with Porsche」には約200名の応募者のなかから選抜された中高校生9名が参加した

 2021年からトラベル Watchが同行取材を続けている「LEARN with Porsche(ラーン ウィズ ポルシェ)」が、今年も8月後半に開催された。

「LEARN」とは、教科書や時間割などに縛られがちな現在の学校教育とは違った学びを提供するスカラーシッププログラム。東京大学 先端科学技術研究センター「個別最適な学び研究」寄付研究部門が運営を行ない、中邑賢龍(なかむらけんりゅう)シニアリサーチフェローらが中心となって展開している。

「LEARN」のディレクターを務める東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍先生

 その「LEARN」の取り組みに賛同したポルシェジャパンが、CSR活動の一環として毎年支援しているのが「LEARN with Porsche」だ。未来の壁に立ち向かっていく子供たちに、これからの学びに必要な心構えと夢をプレゼントするサマープログラムは、2024年で4年目になる。

行った先の地域の人たちが先生。「紙からではなく人から学べ!」というプログラムだ

 今回の「LEARN with Porsche」の舞台は、熊本県・天草。熊本ルートと鹿児島ルート、それぞれに向かう2チームに分けられ、プログラム前半は別行動。3日目のある場所で、2チームが突然落ち合うというサプライズな行程が組まれていた。本稿では、熊本チームに同行した前半をレポートする。

東京駅から一人で新幹線に乗って熊本、鹿児島へ

 5日間のスケジュールは子供たちに一切明かされていない。しかも今年は東京駅でのチケット受け渡し場所、さらには新幹線の座席まで、全員ばらばらに指定していたため、ほかのメンバーの姿を見ることなく「今から熊本(あるいは鹿児島まで)行くように」と告げられる。

「僕だけですか? ほかの人は?」と聞いても中邑先生は何も答えてくれない。それがLEARNだ

 例年同様スマホなどの情報機器は使用禁止。東京駅からざっと6時間半、スマホなし一人旅のスタートだ。ちなみに渡された封筒その1には、向かっている熊本県あるいは鹿児島県について自分が知っていることをノートに書き留め、さらに車内の人と会話をして新たな情報を得たら書き留めよ、というミッションが書かれていた。

新幹線チケットやミッション封筒、旅のお供の文庫本(司馬遼太郎。渋い!)などが渡される

 熊本に着いたら開封する封筒その2に書かれていたのは、現地での待ち合わせ場所と時間。遠くからこっそり様子を伺っていると、すでにひとかたまりになって会話をしている様子。そこへ中邑先生が登場。東大先端研の客員研究員で料理研究家の土井善晴さんも一緒だ。

同じメンバーだと分かって集まっていた5人の前に、東大の中邑先生と料理研究家の土井先生が現われた

 熊本チーム全員と顔合わせした中邑先生が、初日に伝えたミッションは「これから土井先生と“こかいしょうてんがい”に行って干筍を見つけよ」というものだった。タケノコ?

「ようこそLEARNへ!」。顔合わせして、いよいよプログラムがスタート
「これから土井先生と干筍を探しておいで」と言われる

 さっそく目の前の観光案内所で“こかいしょうてんがい”がどこにあるのか? どうやって行ったらいいのか?を聞く子供たち。スマホがあれば、子飼商店街へのアクセスはもちろん「奈良時代からの歴史を持つ交通の要衝である」ことがすぐに分かるのだが、とにかく人に聞くしかない。目指せ、干筍!

20分ほどバスに乗って子飼商店街に到着
土井先生が熊本名物のからし蓮根を買ってくれた
その場で切ってもらってみんなで実食。揚げたては美味しい!
からし蓮根を初めて食べたという子がほとんど

 実は、中邑先生は熊本駅で「今回のプログラムでは、たくさんの人と話をして、熊本のさまざまな文化を調べるように」と、メインのミッションを示していた。熊本は全国有数のたけのこの産地。歴史ある子飼商店街で干筍を見つけるというミッションは、ちゃんと意味のあるものなのだ。

ついに干筍を発見! 煮しめなどに使うといいのだそうだ。土井先生お買い上げ
熊本中心地に戻って聞き取りスタート
すっかり打ち解けた様子の5人
土井先生と、鹿児島を往復後(!)に再び合流した中邑先生との夕食

2日目は不知火海の離島、御所浦島へ渡る

肥薩おれんじ鉄道からの車窓

 前夜に「朝8時に荷物を持って熊本駅集合」とだけ伝えられていた2日目がスタート。駅の券売機前で水俣駅までのきっぷを買うように告げられ、「今日は(いるはずの)別チームと会えるのかなぁ?」などと言いながら全員元気に電車に乗り込む。

「水俣ってどこ?」

 熊本から水俣までは約2時間の鉄道の旅だ。海のすぐ近くを走る肥薩おれんじ鉄道の車窓に目を奪われる子供たち。この辺りは柑橘類の産地なので“おれんじ鉄道”という名が付いているのだが、実は数時間後に彼らは、その柑橘と深く関わることになるのだった。

この特等席が気に入ってずっと立ちっぱなし
実は海の向こうに見えるのが、これから行く天草
水俣駅周辺でタクシー運転手さんや地元のおばあさんに聞き取り調査。ついでにお昼ごはんを食べる場所も

 昼食を済ませた水俣から向かったのは、天草の離島・御所浦島(ごしょうらじま)だ。御所浦へは定期船かフェリーを利用するのが一般的だが、今回は貸し切り船(海上タクシー)をチャーターしていた。どこに行くのかは分からないけれど、船に乗ると分かるとテンションアップする子供たち。

海上タクシーなんておそらく初めての経験だろう
「ごしょうらじまに着くんだって」。船長さんから聞いたようだ
この日お世話になった御所浦の民宿「亨庵」は嵐口港の近くの小さな宿

 船が着いた嵐口港から徒歩2分のところにある民宿に荷物を置き、一息つくまもなく向かったのは甘夏畑。御所浦は温暖な気候を利用して柑橘類の栽培が盛んなのだ。今回は生産者・荒木スエミさんの甘夏畑で、摘果(てきか)作業を手伝うことになっていた。

背戸輪(せどわ)と呼ばれる住民の細い生活路を歩いて甘夏畑へ
島の傾斜を利用して作られている甘夏畑は高台にあって見晴らしがいい
生産者の荒木スエミさんとご主人の信一朗さん

 摘果とは、傷果や被害果・色の薄いものなどを選んで枝から切り落とす間引き作業。これをやらないと果実が多過ぎて樹に負担がかかってしまうそうだ。高枝切りハサミを各自渡されてお手伝いスタート!

密集している果実を間引く摘果は夏場に行なう作業。収穫時期は冬なのでまだ硬くて緑色
「ほら、そこのを切って」「これ落としちゃっていいんですか!?」
みんな真剣な表情で作業する

 甘夏畑は陽当りのいい傾斜地にあるため、8月の日中の暑さはそうとうなもの。そんななか、噴き出る汗を拭いながら黙々と作業する子供たちの姿が印象的だった。

冷凍しておいたという天草晩柑をいただく。みずみずしくて美味しい!

「普段はこんな暑い時間にはやらないんよ」と言いながら、冷凍しておいたという天草晩柑をおやつに振る舞ってくれた荒木さん。木陰での休憩タイムには、甘夏栽培の楽しさや苦労話、たっぷりの甘夏愛を聞くことができた。

甘夏の樹の木陰に腰を下ろして休憩
デッザンをはじめる子も

宿のご主人や島の活性化を目指している若手から御所浦のことを学ぶ

子供たちからは次から次へと質問が飛んでいた座学

 肉体労働のあとは、甘夏畑から歩いてすぐの「嵐口老人いこいの家」で、民宿のご主人の鶴岡耕三郎さんをはじめとする“生まれも育ちも御所浦”という年配の方々との交流タイム。天草市の文化財保護審議会委員でもある鶴岡さんは天草・御所浦の歴史に精通している方だ。

初っ端「ここは熊本県ですか?」という質問に「そうだよ、熊本県天草市御所浦島」と言って、九州の地図を書いてくれた鶴岡さん

 数時間前に船で到着するやいなや甘夏畑に直行した子供たちは、ここがどんな島なのかまったく知らない。古くから漁業の町として栄え、昭和初期にはカタクチイワシ漁が盛んだったこと、山の斜面には昔の人が石垣で作った段々畑があることなどを聞く。昭和30年代は1万人近くだった人口が、今は2300人余りと聞いてびっくりする様子も。

ようやく自分たちのいる島の位置を把握した
加藤清正や小西行長といった歴史上の人物の話に夢中
御所浦の名の由来や方言、天草五人衆、不知火海などいろいろなことを学んだ
夕食は御所浦港近くの食事処で魚料理

 夕食後、その日の情報共有をしているところに、隣の母屋から鶴岡さんが顔を出してくださった。昼間に「御所浦のことが書いてある古文書を見てみたい」と一人の生徒が言ったのを覚えていて持ってきてくれたのだ。その後スタッフから「明日の朝は6時半出発で、また甘夏畑に行く」と告げられ、就寝。長く充実した2日目が終わった。

宿のダイニングでその日の情報共有
鶴岡さんと古文書の読み解きタイム

3日目は早朝摘果作業からスタート、御所浦をさらに深く知る一日に

早朝に甘夏畑へ出発

 3日目の朝は荒木さんのご主人の運転で、前日とは別の海の近くの甘夏畑へ連れて行ってもらう。対岸に水俣方面を望む、気持ちのいい場所だ。

クルマで到着した甘夏畑
朝から日差しが強い

 前の日と同じく、高枝切りハサミを渡されてお手伝いスタート。果実の日焼け防止にガムテープを貼るという作業もあった。朝ごはんの前に汗をかきながら、これだけ体を動かす経験は普段の生活ではないだろう。

腰をかがめて低いところで密集している実を探す
少し日焼けしている果実にガムテープを貼る
「おつかれさん」と声をかけてくれる荒木さん
クルマで送迎してくれたご主人ともおしゃべり
2日間お世話になった荒木さんご夫婦と
宿に戻って豪華な朝食。なんとウニ乗せごはん!

 お世話になった民宿をチェックアウトしたあとは、御所浦港周辺で聞き取り調査だ。が、困ったことに暑い日中は歩いている人がいない。そんななか、お年寄りがたむろしている一角を発見! 3日目ともなると、ためらうことなく話しかけている。地元の方々は、若者グループが島にいること自体がめずらしいようだった。

御所浦の方言についていろいろ聞く
前日お話を聞いた森さんにばったり
お年寄りからは決まって「ここはなんもなかよ~」の返事が返ってくる

 続いておじゃましたのは、御所浦港近くにある民宿「エンジョイもりえだ」さん。2人の若手の島民との座談会がセッティングされていた。鍬崎智広さんは設計事務所と地域おこし協力隊の仕事を両立させながら、空き家の再利用などに取り組んでいるという。

民宿「エンジョイもりえだ」へ

 御所浦には約400軒の空き家があること、人口が年間約100人ずつ減っていること、人材確保が大変なことなどを聞く。今の御所浦、未来の御所浦についてのディスカッションは、とても刺激になった様子だった。

熊本生まれの鍬崎智広さんは、2021年に御所浦に移住してきたそうだ
「この島のインターネット環境は?」など積極的に質問も
11月中旬に池袋で開催される「アイランダー2024」という全国の島々が集まる祭典での再会を約束
「御所浦には日本一静かな海がある」と言っていた鍬崎さん。そんな海を高台から

 しばしのフリータイム後、御所浦港に集合した子供たちに、スタッフから「今から本渡というところに船で行くので、各自きっぷを買うように」と告げられた。突然やってきて、さまざまなことを学んだ御所浦島とはここでお別れだ。

「本渡ってどこだろう?」。本渡行きの定期船時刻表をチェックしてきっぷを買う
甘夏農家の荒木さんが見送りに来てくださった
本渡までは45分の船旅だ
3日目にして疲れが出てきたようだ
本渡港に到着。歩いてホテルに向かう

鹿児島チームは天草の南の玄関口・牛深で燻製蒲鉾作り

鹿児島チームがお世話になっていた貝川かまぼこ店

 もう一つのチームの動きも紹介しておこう。熊本チームが御所浦島で摘果のお手伝いをしていたころ、鹿児島チームがいたのは天草最南端の牛深。古くから漁業が盛んな牛深の対岸は鹿児島県で、薩摩文化が影響しているエリアだ。そんな牛深にある「貝川かまぼこ店」で、4人の子供たちが燻製蒲鉾作りのお手伝いをしていた。

アジなどの魚をさばいてすり身にし、形成して蒸す作業をしていた鹿児島チーム

 天草の中心都市である本渡で、ついに熊本・鹿児島の両チームが合流した3日目の夕方以降の様子は、次回の後編でお伝えする。

⇒後編へ続く(10月4日公開)