井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

似てるようで違う、往復乗車券と往復分の片道乗車券

西武池袋線の稲荷山公園駅で。平素はそれほど利用が多い駅ではないが、年に一度だけ、このように多数の人が押し寄せる。この日に限り、臨時改札ができたり、臨時きっぷ売り場ができたりする

 以前は、大きなイベントがあると、会場の最寄り駅で「帰りのきっぷは先にお買い求めください」と告知するのが日常だった。特に平素の利用が少ない駅では、券売機の台数も多くない。そこに急に多くの利用者が押し寄せると、きっぷを買うために長蛇の列ができてしまう。しかし交通系ICの普及により、大都市圏では「過去のノウハウ」と化した感がある。

往復乗車券と往復割引は2026年3月まで

 JRグループの旅客会社6社が2024年12月2日に、「往復乗車券と連絡乗車券の発売を2026年3月で終了する」と発表したのを受けて、鉄道旅行を多用する人が騒然とした。

 往復乗車券とは、同一経路で同一区間を往復する場合に発券できる乗車券で、往路と復路の2枚でワンセットになる。そして、それぞれの券面に「ゆき」「かえり」の字が入る。

 さらにJRグループの往復乗車券には往復割引の制度があり、営業キロが片道601kmを超える往復乗車券について、往路と復路のそれぞれで運賃が1割引になる。この制度の廃止が決まったことで、長距離の往復が値上がりするからざわついたわけだ。

 現在の制度では、片道の距離が600kmにちょっと足りないぐらいの区間では、わざと目的地より先の駅を行先とする往復割引の乗車券を購入する方が安くあがる、なんていうこともできる。それも通用しなくなる。

片道乗車券×2と何が違うのか

 見た目のうえでは、往復乗車券といっても、片道乗車券を個別に発券するのと変わらないように見える。

 実は、片道乗車券と往復乗車券の大きな違いは有効期間にある。JRグループの旅客営業規則第154条に、片道乗車券の有効期間に関する規定があり、その内容はこうだ。

・営業キロが100kmまでは1日
・100kmを超え200kmまでは2日
・200kmを超えると、200kmまで増すごとに、200kmに対する有効期間に1日を加える

 例えば「東京都区内→福岡市内」の片道乗車券は、営業キロ1174.9km。すると200kmまでの2日に対して5日分を上乗せして、有効期間は7日間となる。

 同じ第154条で、乗車券の効力について「往復乗車券 片道乗車券の有効期間の2倍とする」と定めている。だから、「東京都区内→福岡市内」の往復乗車券は、有効期間が片道乗車券の2倍、すなわち14日間となる。

 なお、大都市近郊区間内のみの利用では、距離に関係なく有効期間は当日限りとなる。以前に途中下車の話に絡めて書いた話だが、ことに関東甲信越と近畿圏では大都市近郊区間が広いので、注意を要する。例えば、「水戸→松本」でも有効期間は1日なのだ。

最上部の2枚が、往路と復路の乗車券。片道の距離が601km未満なので、往復割引は適用されていない
上の2枚が、往路と復路の乗車券。片道の距離が601km以上なので往復割引が適用されており、「復割」の記載が加わっている

 ここまではJRグループの話だが、民鉄でも往復乗車券を設定するとともに、有効期間に関する規定を定めている場合がある。

 例えば東武鉄道は「片道乗車券の有効期間は1日、往復乗車券の有効期間は2日」とシンプルだ。小田急電鉄は「片道乗車券は1日。往復乗車券は片道乗車券の有効期間の2倍」と規定している(いずれも2025年4月現在)。

長期滞在の場合には期限切れが問題になり得る

 往復乗車券の場合、往路の行程を終えて目的地に滞在している間にも、有効期間のカウントは続いている。先に例示した「東京都区内→福岡市内」の往復乗車券は有効期間14日間だから、福岡で長居をしていると、その間に有効期限切れになってしまう可能性が出てくる。有効期間すなわち14日の間に、行って帰ってこなければならない。

 一方、片道乗車券では使用開始日を個別に指定できるから、こうした問題は起こらない。往路の出発日と復路の出発日を、それぞれ使用開始日にするだけである。

帰りのきっぷを買うのが難しい場面もある

 往復割引の適用を受けるには、最初に往復乗車券を発券する必要がある。しかし、発着駅が入れ替わる片道乗車券のペアなら、帰りの乗車券は、乗車の前に買えば済むはずである。ところが実際には、これが簡単に行かない場合がある。

 まず、何かの事情があって駅が大混雑しており、券売機や窓口には長い行列ができている場合。大イベントなら事前に予測できるが、輸送障害の発生などが原因で、突発的に混雑することもある。

 次に、きっぷを買う手段が物理的に存在しない場合。具体例を挙げると、無人駅を発駅とする長距離の乗車券が該当する。無人駅でも自動券売機が置かれていることがあるが、それは近距離券だけだ。しかも最近、その近距離券の自動券売機すら撤去される場面が出てきている。

富良野線の西神楽駅で。右手に自動券売機が置かれているのが分かる。ただし、これは2320円、営業キロでいうと100kmまでの近距離券しか扱わない。だから、例えば札幌駅までの乗車券を購入することはできない
何度も訪れている伯備線の豪渓駅。ここも近距離用(2010円まで)の自動券売機が置かれていたが……
「2024年11月30日限りで自動券売機が撤去される」との告知が。ICOCAエリア内なので、岡山近隣の近距離利用ならICOCAがあれば済むが、長距離券は話が違う

 車掌が乗務している列車なら、乗車後に車掌を呼び止めて発券してもらう手はある。それができなければ、降車駅まで行ってから精算するしかない。これはこれで手間のかかる話である。それに、運賃を支払っていない状態で長いこと列車に乗り続けるのは、不正をする意図がなくても、あまり気分がよいものではない。

復路の乗車券も出発前に揃えておく

 となると、往路だけでなく復路の乗車券も最初に揃えておく方がいい、という話になる。往復乗車券や往復割引が廃止になっても、片道乗車券の個別発券はできる。

「えきねっと」の経路指定画面には「往復」というタブがある。また、検索オプションを展開すると、「乗車券のみ購入」チェックボックスが現われる。これらを使えば、往復分の乗車券をまとめて発券できる。往復乗車券が廃止になったあとは、往路と復路のそれぞれで片道乗車券を出すことになるのだろうか

 ただし、復路の乗車券まで最初に揃えてしまうと、その時点で行程が決まってしまう。もしも行程を変更することになれば、改めてきっぷを手配したり、発券済みのきっぷを払い戻したりといった手間が増える。

 なお、近距離券では話が複雑になる。制度として存在していても、自動券売機の設定に起因して、発券できない場合もあるようだ。また、事業者によっては、そもそも往復乗車券の設定がない場合もある。それでは当然ながら、片道乗車券しか購入できない。

 幸い、今は昔と違って、Webサイトで乗車券に関する案内を見れば、往復乗車券の有無を調べられる。だから、「現地に行くまで分からない」とはならないだろう。