荒木麻美のパリ生活

19世紀、パリ大改造によって下水道網が確立。現役下水道の一部が博物館に

アルマ橋からの眺め

 2018年から3年にわたる大規模改修を経て、パリ下水道博物館(Musée des égouts de Paris)が再オープンしたのは2021年のこと。ずっと行きたいと思っていたのですが、やっと行くことができました! 場所はパリ7区、セーヌ川にかかるアルマ橋のたもとにあります。

パリ下水道博物館の入口

 博物館の歴史はとても古く、オープンしたのは1867年のパリ万博時というから驚きです。当時の見学者は、排水路を船で移動していたとか。今は地下3m、500m2の広さがあるこの博物館内を自由に歩きながら、パリの下水道の歴史、維持、管理、排水処理について学ぶ場となっています。

 パリの下水道は全長約2600km。パリ中の地下に張り巡らされています。パリの下水道の歴史自体はローマ時代にさかのぼるほど長いのですが、今日のような形になったのは「パリ大改造」によるもの。パリ大改造は1853年、セーヌ県知事のジョルジュ・オスマンの指揮の下で始まります。それまでのパリは非常に不衛生なところで、コレラが流行することもたびたびでした。しかしこのフランス最大の都市整備事業により、パリは衛生的な近代国家に生まれ変わりました。

 下水道事業に関しては、オスマン知事のもとで土木技師として働いていた、ウジェーヌ・ベルグランが指揮を執りました。博物館にも彼の功績を賛える展示や胸像があります。

ウジェーヌ・ベルグラン

 パリ下水道博物館は現在使われている下水道の一部にあります。そのためなかに入るとごーっという水の音が響き、しばらくは下水道独特の臭いにうっとなりました。

 なかにはビデオ上映やタッチスクリーン、インタラクティブパネルがあり、とても分かりやすくなっています。例えば雨が降ったとき、シャワーを浴びたとき、水はどうやって流れていくのかが一目瞭然。下水道管が用途によってサイズや形が違うことを示すパネルや、セーヌ川の水質をチェックする機械を見ることもできます。

家で使われる水が、下水までどう流れていくかが分かります
用途によって大小さまざまな下水道管があることを説明しています
セーヌ川の温度、汚染度などを示す機械
雨などで下水の水量オーバーとなった水は、ここからセーヌ川に流して調整します

 パリの下水道のために、現在270人ほどの職員が働いているそうです。彼らが具体的にどういう仕事をしているかはあまり知られていないと思いますが、溺れたり、落下したり、汚水からのガス発生といった危険を伴う仕事です。作業員が使用する機材のほか、安全のための装備も紹介されています。

昔の装備
仕事中の作業員に会うことも

 作業員のもっとも重要な仕事は、下水道にたまる石やほこり、砂、そのほか残留物などを掃除することです。下水道のゴミを取り除くために使われる特殊船・車、詰まりを取るためのボールなども展示されています。

 今でもセーヌ川がきれいかと言われるとうーん、です。でもパリ大改造以前は、これとは比べ物にならないほど川だけではなく、町も汚染されていたのでしょうから、下水道が整備されているというのは、本当にありがたいことだなぁと、感謝の気持ちで博物館をあとにしました。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/