荒木麻美のパリ生活

マダガスカルの子供たちのサポートも。パリ郊外で自然農法を実践する日本人夫婦

更谷夫妻

 以前、農薬と化学肥料不使用の家庭菜園をご紹介しましたが、今とても気になっているのは自然農法です。農薬と化学肥料を使わない有機農法ともまた違い、有機であっても肥料を使わないのが自然農法です。厳密には自然農法、自然農、自然栽培とあり、それぞれに違いがあるようですが、ここではすべて自然農法とします。

 そういった日本人自然農法家たちのなかでも、フランスで有名なのは福岡正信氏だと思います。フランス語に訳された著書が数冊出版されているので、「福岡正信の素晴らしい本を読んだことがある?」とフランス人から聞かれたことも何度か。日本の福岡氏の農場で学んで帰って来たというフランス人たちもいるようなのですが、残念ながらパリまたは近郊で実践している人はいないようです。

 でも最近、福岡氏の自然農法ではありませんが、パリ郊外で自然農法をしている日本人夫婦がいると知り、畑の見学をさせてもらいました!

 場所はパリ北西の郊外、といってもパリ中心部にある我が家からは電車で30分くらいのところにありました。畑をやっているのは更谷浩幸・麻美夫妻。

 縁あって2人がパリに居を構えたのは2006年のこと。2人とも自然農法に関する事務方の仕事をしていたので、自然農法の知識はあったものの、実践経験はほとんどなし! それでも自然農法の畑を実際に見て、できた作物を食べてほしいと、自分たちで畑を作ることにしました。

 場所探しは難航したそうですが、オンラインで見つけたというフランス人家族の庭を借りることができたのが2020年。現在農地として使っているのは1000m2くらいだそうですが、大家さんにはできた作物をお分けするという契約で、賃貸料は払っていません。オフシーズンの冬季以外は、住まいのあるパリ市内からほぼ毎日通って畑の世話をしています。

取材のために訪ねた3月の畑はこんな感じ
ビニールハウス内では種をまいたばかり
冬でも元気なネギ、ケール、フダンソウ
夏になると畑は大変身! これは去年の様子 ©SARATANI
畑にはお手伝いに来る人もちらほらと ©SARATANI

 更谷夫妻の自然農法で大事なことは、自然順応、自然尊重。自然から学び、自然と調和することです。具体的には、

清らかな土:無肥料、無農薬
清らかな種:自然農法で自家採種した種
生産者の心:感謝の心、生産者の愛

が柱となっています。生産者にとって悩ましい動物、カタツムリ、ナメクジ、さまざまな虫なども、「害獣」「害虫」ではなく、彼らがいるのには意味があるとし、殺さずに共存または来なくなる作物作りを目指しています。

 自然農法といってもいろいろなやり方があり、例えば「耕さない」ということを大事にしているところがありますが、更谷夫妻は耕しますし、その土地の草や落ち葉を集めた堆肥を作り、それを使用することもあります。ただ堆肥といっても、作物に肥料を与えるというよりも、土を乾かさない・温める・固めない、つまり土をよくするために使うのだそうです。

畑の隅で作っている自然堆肥

 開墾当初は木の根が張り、石がゴロゴロした土地だったそうですが、上記の柱以外は試行錯誤・臨機応援で農業をはじめて4年目、失敗もあるそうですが、よい畑になってきました。

 現在はここで約15種類の作物を作っています。シーズン中にできた作物は、レストランや、おまかせパックとして個人向けに販売しています。去年の写真を見ると、ほれぼれするほど美しい作物たち! 日本の野菜もちらほらとあります。このうちの一部は自家採種もできているというので、「短期間ですごいですね」と私が言うと、穏やかな表情で「土と植物の力を信じることです」と浩幸さん。

立派に美しく育った作物たち ©SARATANI

 麻美さんは自然農法で作られた貴重な材料を使い、味噌やぬか床作りのアトリエもやっています。畑でできた作物以外にも、米、酢、ほうじ茶(日本産)、オリーブオイル、ワインなど、主に欧州産の、自然農法による商品も販売しています。

麻美さんお手製の米味噌、スペイン産米、英国産リンゴバルサミコ酢、イタリア産バルサミコ酢

 私が畑を訪ねたときはまだ購入できる作物がなかったのですが、加工品のいくつかを購入して食べたところ、私が普段食べているオーガニックの商品と比べても、パワーを感じるというか、特別な美味しさでした! 特に私が一番食べたかった自然農法のお米は、欧州で自然農法によるRiz Rod(丸い米の意、日本で食べるお米に一番近い)を作っているのはおそらくここだけなのでとても貴重。夏に向けて販売される野菜のおまかせパックもぜひ食べてみたいです。作物と商品の価格は、私が普段買っているオーガニックスーパーのものと大差ありません。どうせ買うなら私はできるだけこちらがよいですね!

 浩幸さんはこれまた縁があって定期的にマダガスカルに行き、現地の自然農法活動をサポートしています。だんだんと成果が出てきており、学校の校庭に作った畑で、先生や子供たちが給食用の野菜を作ったり、そもそも貧しくて学校へ行けず、ご飯も食べられない子供にも、現地のアソシエーションと一緒にご飯を提供したりする活動をしています。

マダガスカルで自然農法の普及をサポートする浩幸さん ©SARATANI

 慣行農法、有機農法、自然農法と、どの農法にもメリット・デメリットがあるのでどれがベスト、とは言えませんが、消費者としては余計なものを入れない、土の力だけで育つ作物のエネルギーに興味がありますし、農業ド素人ではありますが、肥料代の高騰が問題になるなか、肥料を買わなくてよい、自家採種により種を買わなくてよい、というのはとても魅力的。

 私はこれから自宅で小さな家庭菜園をするつもりです。更谷夫妻の自然農法やそのほかの自然農法を参考に、プランターでもできるという、私なりの自然農法を少しずつやっていけたらと今からとても楽しみにしています!

完成予定から大幅遅れでのんびり建築中のアパート。ここのテラスで家庭菜園をはじめる予定
荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/