荒木麻美のパリ生活

不動産価格の上昇率は緩やかに。パリでアパートを売る

 新型コロナウイルスのパンデミック、ウクライナ戦争、インフレなどにより、2022年4月までの1年間、パリの不動産価格は全体では7.3%上昇したものの、上昇率は大きく下がりました。エリアごとにいうと、1区、4区、16区が1.3%から4.4%価格を下げました。

パリの区ごとの1m2当たりの不動産価格(「SeLoger」2022年5月10日の記事より)

 以前ご紹介したとおり、我が家はパリ郊外にアパートを購入しました。建設予定地を初めて訪れたのは2020年5月中旬でしたが、いろいろあって正式な契約を交わしたのは2021年の8月。その後、完成予定だった2021年秋はとうに過ぎ、建築資材の価格がさらに高騰するといったこともあり、計画は進んではいるものの亀の歩み。もはや来年中に引っ越せたらいいなぁくらいの気持ちでいます。

 それでも住んでいたパリ10区のアパートを売ろうと決めたのが2021年初秋のこと。パリの不動産市場が不透明なのと、賃貸に出していた物件が空くことになったからです。早速3軒の不動産会社に査定を依頼しましたが、査定額の差は80万ユーロくらい、手数料の差は1万5000ユーロくらいと、会社によってかなりの差があることに驚きました。

 手数料を節約するため、個人間で売買するPAPやleboncoinといったサイトがあって利用者も多いのですが、見学希望者の出す書類のチェック、見学スケジュールの調整、売買手続きのやり取り、問題が起こったときの対応に不安があったので、我が家は不動産会社に依頼することに。

 複数社に依頼してもよかったのですが、やり取りが大変になることと、どこもSeLogerやBien'iciといった大手不動産ポータルサイトに掲載するので、査定を取った3社のうち、一番手数料の安いLiberkeysという会社に依頼をして様子を見ることにしました。ここ数年こういう手数料の安い不動産会社が複数社出て来て人気があるのですが、最初は若干不安だったものの、結果的にはおおむね満足しています。

 依頼を決めるとすぐ、撮影のプロが3Dウォークスルー、つまり実際に物件内を見て回っているかのような疑似体験をするための写真を撮りに来ました。

これがカメラ。どういう風に撮影されて3Dウォークスルー化されるのか、興味津々で見学
サイトへの掲載はこんな感じでされました
3Dウォークスルー

 とんとんと準備は進み、サイトに情報が掲載されたのは2021年10月のこと。さぁどんな人が見学に来るのかな!とワクワクしていたのですが、実際には見学希望はほとんど来ません。少し価格を下げても、1週間に1組か2組くらいのペースでしか来ません。興味を持ってくれる人はいたのですがオファーにはいたらず、市場が動かないクリスマスが来たため、掲載はいったん中止に。

 2022年が明け、掲載を再開してもあまり動きがないまま2月となりました。急いで売りたいと思っていなかったとはいえ、さすがに不安になってきます。そこで、別の不動産会社に話を聞きに行ったのですが、そこの担当者が言うには、

・市場相場より少しでも値段を高くすると売れなくなってきた。我が家が出している値段はまだ高い
・買い手は住み手と同じ家族構成の人になることが多い、つまり我が家の場合はカップルのみの家庭なので、こういう人からの見学を大事にする
・平均的に10組くらいの見学者が来た時点で決まる

とのこと。売ろうとしていたアパートはこの担当者から買ったのですが、明るく信頼できる人柄、長年の経験による的確なネットワークへのアプローチ、売り手と買い手両方へのフォローの手厚さなど、とにかくものすごくできる人なのはよく分かっていました。ただ手数料がLiberkeysの4倍ととても高い! でももう仕方がないのでこちらに頼もうかな……と思っていました。

 しかしそんなところに現われた救世主カップルが! アパートをとても気に入ってくれ、見学後すぐに買いたいというオファーが来ました! そのうえ大抵はある値引き交渉もなし。あんなに動かなかったのに、決まるときはあっさりと決まるものだなぁと、当たり前ですが、これもタイミングと縁ですね。

 その後すぐに売り手と買い手の双方が揃って公証人のところに行って仮契約を交わし、さらに正式な契約を再度公証人のところで交わしたのは4月末のこと。買い手が決まるまでは時間がかかりましたが、その後の契約成立まではかなりのスピードだったとLiberkeysの担当者が言っていました。普通は3か月くらいかかるのだそうです。

 といっても両家で必要な書類が揃わなかったり、上階からの水漏れが起きたりと、細かいハラハラはいろいろあったので、無事に契約が済んだときは心からほっとしました!

 買い手は2番目の不動産会社が言っていたとおり、我が家と同じ家族構成、30代のアフリカ系新婚カップルです。頭金はほとんどなく、ローン期間は今のフランスで組める最長の25年です。金利がとてもよかったそうでし、子供ができたりしたら引っ越すつもりでしょうけど、ご主人がフランスの大手銀行勤務とはいえ、堅実路線の我が家からするとなかなかのチャレンジャー。大きなお世話ですが、今後支払いに問題が起きず、2人にたくさんの幸せがありますようにと願いながらカギを渡しました。

不動産会社と買い手が来ての、契約前のアパートの最終チェック。買い手のカップルは真っ白な壁が嫌いだそうで、カラフルに塗り直すと言っていました(笑)
アパートのカギは公証人のところで契約が済んだ時点で渡します

 今回売却したアパートを買ったのは2014年ですから、そこから8年で大体17万ユーロくらい価格が上がったことになります。ただしアパート内部のリフォーム代や建物全体の維持・修繕費、そのほかの諸経費を除くと純粋な「儲け」にはほぼならず、9年間無料で住んだ、というくらいの感じです。

 こうして無事にすべての売買手続きが終わりました。そのあとは昔しばらく住み、賃貸に出していたパリ3区の小さなアパートにまた戻ってきました。ここもあちこちにガタが来ていたのでかなりのリフォームをしましたが、狭いながらも快適に暮らせるようになったので、ここで郊外の新しいアパートが完成するのを気長に待っています。

パリ3区のアパートは、間取り以外はほぼ全面リフォームとなりました。自分たちでやったところも多数
パリ10区から3区への引っ越しはレンタカーを借り、友人たちの協力のもと、数日かけてこれまた自分たちでやりました。私のまわりでは引っ越し業者には頼まない人が多いです
荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/