荒木麻美のパリ生活

パリ郊外に新築アパートを買う。新型コロナウイルスの影響でパリを離れる人が増加中

3区のアパートは、この中庭が特に好きでした

 新型コロナウイルス感染症による春のロックダウン(都市封鎖)がきっかけで、パリ市内から住環境の向上を求めて郊外や、もっと離れた地方都市、自然の多い田舎などに引っ越す人が増えているようです。職種によってはテレワークが広く行き渡ってきたこともあるでしょう。

 我が家は新型コロナの騒動が始まる前から引っ越し先を探しており、今もまだ引っ越しできていないのですが、私の経験をもとに、コロナ禍におけるパリの不動産購入事情をお伝えします。

 若くてもローンを組めるようになるとすぐに小さくてもアパートを購入しようとし、親もそれを応援することが私の周りでは多いです。そのあとはライフスタイルの変化に伴って最初に買った物件を売り、次の家へと移っていくので、「終の住処」みたいなことを言う人はあまりいません。

 私がパリに引っ越してきたのは2003年。最初に住んだのはパリ3区にある40m 2 のアパートでした。ここは夫が独身時代、20代半ばで買ったところなのですが、「できるだけパリの中心にあって、親に頼らず自力でローンを払える額」くらいの条件で決めたようです。「え、それだけ?」と思いますが、気に入ったエリアの適当な不動産会社に入り、数軒紹介してもらった中からすぐに決めたとか。当時はそれくらいのノリでも買える値段だったというのもあり、気に入らなかったら売って引っ越せばいい、と思っていたようです。

 でもそのアパートは静かですてきな中庭もあり、私もとても気に入って10年ほど住みましたが、夫婦2人だけとはいえ、40m 2 では狭いなと思うようになりました。ただこのときすでにパリの不動産価格は急騰していたので、当時はパリ市内でも比較的安かった10区まで2kmほど北上し、65m 2 のアパートを購入して引っ越しました。2013年のことです。

パリの中古アパート価格の変遷。2000年から2019年にかけて、1m2当たり約3.6倍の上昇です(「Le Parisien」2019年9月5日の記事より)
パリの区ごとの1m2当たりの不動産価格。1年前に比べ、新型コロナの影響もあったと思います。4区と6区だけ少し下がりました(「Se Loger」2020年8月時点の調査)

 このコラムを書いている現在も10区のアパートに住んでいるのですが、ちょっと気になるのは、部屋が一般道に面しているために窓を開けるとうるさいところ。築100年くらいの中古物件(パリではこのくらいの築年数はごく普通)のため防音が今ひとつで、上階の足音や話し声もときどき聞こえます。日々長い時間を過ごすキッチンが北向きなので、「キッチンがもっと明るいといいなぁ」とか「家庭菜園をやるための庭かテラスが欲しいなぁ」といった希望もどんどん大きくなってきました。

 これらの希望のなかで一番難しいのは広い庭やテラスで、パリ市内にはそういう物件自体が少なく、あっても我が家の予算ではパリ市内では不可能です。私はずっと郊外または田舎に引っ越したいと思っていたのでいいのですが、夫からは仕事の都合上、パリ市内からあまり遠いのは困るし、パリ高速鉄道のRERではなく、メトロの駅が近くにあるところ、という希望がありました。メトロの駅近くとなると、郊外でも一軒家は予算的に無理なので、アパートに絞って探すことにしました。2019年秋ごろのことです。

 駅に関して、パリを拡張しようという大都市圏構想「グラン・パリ」が始まっており、パリ市内から郊外に向けて、新しいメトロの駅がどんどん作られています。私があと20歳若かったら、将来できるであろう駅の近くの物件も見ていたかもしれません。

グラン・パリに伴い拡張されているメトロの駅。すべてが開通するのは2030年以降の予定(Grand Paris expressのWebサイトより)

 一般的に、パリ市内もそうですが、パリ郊外も南西のエリアが治安のよいイメージです。でも私は予算、日々の活動エリア、庶民的な雰囲気などから北東エリアを気に入っているので、北東にある郊外のなかでも、知り合いが住んでいたりして何となくいいなと思っていたモントルイユ、パンタン、レ・リラという町にあるアパートを中心に見ていきました。

 見るといってももっぱらオンラインで、私がよく見ていたのは個人間(不動産会社もときどき入っていますが)で不動産の賃貸や売買をするサイトPAPと、大手不動産ポータルサイトのSe Logerと、Bieniciです。扱う物件は少ないものの、掘り出し物のよい物件が出ていることがあるNegonotaireもときどき見ていました。

 不動産会社のサイトを直接見るとよい物件が出ていることがあるので、検索サイトに条件を入れて見てもいました。後述しますが、結果的にはこれで不動産会社のサイトに直接ひっかかった物件との出会いがありました。この件について不動産会社に聞いたところ、Se LogerやBieniciなどに掲載すると問い合わせが来過ぎるので、まずは自社サイトに掲載して、反応が落ち着いたころに出すのだそうです。

 物件をたくさん見ていくなかでさらにハッキリしたのは、「静か」「キッチンが明るい」「家庭菜園ができる」に加え、「新築」「戸数が少ない」がいい、ということです。

 3区のアパートも10区のアパートも歴代の持ち主の趣味や使い勝手が気に入らないので全面的にリフォームをしたのですが、大変な苦労をしました。パリでのリフォームはできるところは自分たちでやり、できない部分を専門の業者に頼むことが多いのですが、頼むにしてもその管理もとにかく大変。日本のようにリフォーム業者にほとんど丸投げ、というようにはいかないのですね。

3区のアパートのリフォーム開始時はこんな感じ。部屋の仕切りを壊すところからすべてやり直しました
10区のアパートも間取り以外のほぼすべてをリフォームしました。義父にも手伝ってもらって古い床をはがしてから新しい床を張り、オレンジ色の壁紙をすべてはがして白いペンキで塗り直し
古いキッチンの撤去、床のタイル張り、壁の塗り替えは自分たちでやり、新しいキッチンの設置は業者に依頼
トイレも自力でリフォーム。日本で買ってきた温水洗浄便座も設置

 その点これから建つ予定の新築物件であれば、内装はもちろん、間取りも自由に決められ、実際の作業はすべて建設業者にお任せです。入居後もたとえば室内の壁のひび割れや水漏れといった問題が起きた場合、アパート全体に関わる修繕・補修工事が必要になった場合も、10年間は建設業者が費用を負担します。「スピネッタ法」という、1979年以降に建てられた建築物に適用される制度がフランスにあるためです。

 これは大変魅力的で、3区のアパートも10区のアパートも室内のメンテナンスのほか、アパート共有の水道・ガス管、共有敷地の壁・ドアなど、古いということもあって、結構ひんぱんに建物全体の修繕・補修工事が入ります。この費用はアパートの持ち主たちで分担するのですが、実際の請求書を見て「……」となることは何度もありました。

とあるアパートの外装工事中。町の景観を守ることを主な目的として、10年に1回の外装工事がパリでは義務付けられています

 新築であれば防音や省エネ対応もきちんとされているでしょうし、パリの古いアパートにはないことが多いエレベーターやパーキングも付いています。新築の場合、公証人にかかる費用(中古物件で価格の7~8%、新築物件で2~3%くらいなので侮れない額)を割引、または無料にしている物件も多いです。うちの場合は無料となりました。新築は同じエリアの中古物件より割高なのですが、こういうことを合わせて考えると決して高くはないと思っています。

 戸数が少ない、については、近所の顔が見えるので安心感があります。3区のアパートは戸数が少ないうえに管理人さんが常駐していたので、ちょっと不審な人が敷地内に入ってきたらすぐに分かりますし、管理人さんが身元を確認してくれたりもして安心でした。でも今住んでいる10区のアパートは80世帯くらいあるうえに、管理は外注の会社から派遣された人が短時間通いで来るだけなので、前のアパートに比べると安心感に欠けます。

 こうしてさらに絞られた条件をもとにオンラインで不動産情報をチェックしながら、ときどき不動産会社にアポイントを取って物件を見ていたのですが、「これ!」というものがないまま、春のロックダウンに突入。

 それでも毎日オンラインで物件を探していたところ、「これはいい!」と見つけたアパートが突然出てきました。我が家の条件をすべてクリアしています。あとでわかったのですが、この物件は販売後すぐに予約が入っていたのですが、買主が新型コロナの影響で失業したためにキャンセルになったのだそうです。

 物件情報を見てすぐに不動産会社に電話をしたのですが、そのときすでにうちは優先順位3組目とのこと。これはなかなか難しそうだなと思っていたのですが、ロックダウンがそろそろ終わる、というタイミングで不動産会社から電話が。前の2組も資金繰りや家族の問題でキャンセルになったので、うちにぜひどうか、ということでした。

 ロックダウンが終わってすぐに現地で不動産屋と待ち合わせをし、アパートの建設予定地を初めて訪れたのが2020年5月中旬のことでした。場所はパンタンとレ・リラに挟まれた、ル・プレ=サン=ジェルヴェという小さな町です。アパートの最寄り駅からパリ市内まではたった1駅分なのですが、私も夫もまったく知らない町でした。周囲のフランス人に話しても「そこどこ?」とよく言われます(笑)。

ここがアパート建設予定地。今ある建物を壊してアパートを建てます

 ル・プレ=サン=ジェルヴェはいい意味でこれというものがなくて静かな町というのが第一印象です。すてきな一軒家の並ぶエリアもあります。それでも町の中心に行けば、常設の市場や日々の生活に必要なお店はそろっています。近所にはロマンヴィル公園や以前ご紹介したヴィレット公園(関連記事「パリで最大の公園、ラ・ヴィレットに行こう!」)、ウルク運河もあります。最寄りのメトロの駅からは徒歩8分くらいで、これまで住んだアパートに比べるとだいぶ遠く感じますが、我が家はメトロを毎日使わないので大した問題ではありません。私も夫もル・プレ=サン=ジェルヴェがとても気に入り、すぐに不動産会社のオフィスに行って仮契約を結びました。

 その後手付金も払ったのですが、問題はそのあと。ローン審査をお願いした長い付き合いの当時のメインバンクから思わぬ「貸付不可」の知らせが! あとで分かったのですが、この銀行は新型コロナの影響もあり経営方針を大幅に変更したため、住宅ローン申請をなかなか通さなくなっているようです。そこで複数の銀行にローン審査の依頼をしたところ、とても金利のよいところが見つかりました。メインバンクのサービスに不満が出てきて、そろそろ変えようかと話していたところだったので、結果的にはメインバンクに断られて今のところはよかったです。

 このとき知ったのですが、我が家のようにまだローンの終わっていない物件から新築物件に買い替える場合、いわゆるネットバンクは審査が通りづらいみたいです。でもネットバンクは一般的に金利が低いので、ローンのない人が購入する場合や、ローンがあっても中古物件に買い替える場合であれば、ネットバンクを検討してもいいと思います。

 その後も細かいことは本当にいろいろあるのですが、売主である建設業者と2021年年明け早々に正式な契約を交わすところまできています。ただ、肝心のアパート建築工事は7月に始まる予定でしたが、これまた年明け早々の開始予定と大幅に遅れており、当初の予定では2021年秋ごろ入居予定でしたがだいぶ延びそうです。でもこれはフランスではよくあることで、アパートの新築物件を買って2年経ってもまだ工事が始まっていない、一軒家の中古物件を買ったものの、リフォーム完了予定が1年延びた、という知り合いもいます。

 日本の家族などに話すと「大変ねぇ」と言われますが、我が家はすぐに引っ越さないと困るということもないので、建設業者と設計・内装についてのやりとりをしながら様子を見ています。また今後、今のアパートを売るわけですが、去年取った査定価格が新型コロナの影響でどうなっていくのか、こちらも合わせて状況を見ていきたいと思っています。

今住んでいるアパートの近所にある不動産会社で扱っている「販売済み」となっている物件。ほとんどのアパートが1m2あたり1万ユーロくらいとなっていました

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/