荒木麻美のパリ生活

サン=ジャン=ド=リュズでフランス・バスク地方の食、文化、歴史に触れる(前編)

ルイ14世ゆかりの地には日本とバスク文化の新しい交流スペースも

フランス・バスク地方にあるサン=ジャン=ド=リュズ(Saint-Jean-de-Luz)エリアを今回から2回に分けて紹介します

 私の夫はフランスの映画業界で働いているのですが、ある映画の撮影のためにフランスの南西部、バスク地方にあるサン=ジャン=ド=リュズ(Saint-Jean-de-Luz)という町に行くことになり、私も一緒に行ってきました。

 サン=ジャン=ド=リュズには10月上旬から2週間滞在したのですが、サン=ジャン=ド=リュズとその周辺のエリアを2回に分けてご紹介したいと思います。

 今回の宿泊先は「Résidence Prestige Odalys Domaine Iratzia」というアパートホテルでした。同じ敷地内には「Hôtel Prestige Odalys Erromardie」というホテルもあります。全体的に若干年季を感じる施設ですが、手入れはきちんとされていましたし、部屋も清潔で、私は外食が続くと体調がわるくなるのですが、自炊をできたので快適に過ごせました。

 敷地内にはテニスコートやプールもあります。ホテルから徒歩数分で海にも行けます。夏のバカンス時期などには満室になることも多いそうですが、私が滞在していたときは年齢が高めの人がちらほらいるくらいで、とても静かでした。

ほぼ毎日散歩に行っていたホテル近くの海。サーファーが多く、見ていて飽きません

 ホテルはサン=ジャン=ド=リュズの中心地から3kmくらいです。ホテルの目の前からバスが出ているものの本数が少なく、クルマの運転をできない私は最初「ちょっと不便だな。自転車を借りようかな」と思っていました。でもホテルの裏から町の中心地につながる海沿いの道は静かに歩け、10月とはいえ町中は人が多かったので、私にはよかったです。

 サン=ジャン=ド=リュズは小さな町です。町のメインストリートはレオン・ガンベッタ通り(rue Léon Gambetta)になるのですが、ここと海沿いの道を歩くだけでも十分に楽しめます。観光案内所で聞いたところ、近隣の大きな町を拠点に、日帰りで来る観光客も多いそうです。

町のいたるところに「ラウブル」と呼ばれるバスクのシンボルマークがあります。バスク十字とも呼ばれています
サン=ジャン=ド=リュズの役所
海岸に沿って歩いて行くとポワント・ド・サント=バルブ(Pointe de Sainte-Barbe)という高台に出ます
高台から先も遊歩道が続いています
火曜日と金曜日の午前中には屋外市場ができます。それ以外の日の午前中は屋内市場のみです

 さて、サン=ジャン=ド=リュズの超定番観光名所から見ていきましょう。

 1660年、太陽王ルイ14世とスペイン王女マリー・テレーズがサン=ジャン=ド=リュズで結婚式を挙げたのが、この町最大の歴史的事件でしょう。長年戦争を繰り返してきたフランスとスペインは、ピレネー条約によって講和を結び、スペインのフェリペ4世の娘マリー・テレーズが、ルイ14世に嫁ぐこととなったのです。

 結婚式はサン・ジャン・バティスト教会(Église Saint-Jean-Baptiste)で行なわれました。外観はゴシック建築なのですが、中には「バスク様式」といわれる、この地方独特の木製バルコニーがあります。

Église Saint-Jean-Baptiste

所在地:rue Léon Gambetta, 64500 Saint-Jean-de-Luz

別の日に訪ねたら結婚式の真っ最中でした

 結婚式を挙げた際に、ルイ14世が40日間滞在した館も残っています。館の見学は決まった時刻になるとグループごとにガイド付きで行なわれるので、ホームページで時刻を確認してから行ってください。入場料は大人6.5ユーロ(約845円、1ユーロ=約130円換算)。建物内部は写真撮影不可です。

 1643年に建てられたこの家。裕福な船主の家だったそうですが、建設時から現在に至るまでその子孫が住んでおり、家の管理をしているそう。住居部分は見学不可なので、もう少しいろいろな部屋を見られたらよかったのですが、当時から残る家具や調度品を眺めつつ、ガイドさんの説明を聞きながら、当時の様子をなんとなく想像していました。

Maison Louis XIV

所在地:6 Place Louis XIV, 64500 Saint-Jean-de-Luz
Webサイト:Maison Louis XIV(英語)

 近くにはマリー・テレーズが滞在した家もありますが、中には入れません。

La Maison de l'Infante

所在地:rue de l'Infante, 64500 Saint-Jean-de-Luz

 この結婚式で、王室御用達のパティスリーだったMaison Adam(メゾン・アダム)がお祝いに献上したマカロンがあります。メレンゲにアーモンドパウダーや砂糖を混ぜて焼いたシンプルなお菓子で、現在のフレンチ・マカロンの原型ともいわれています。

 私はマカロンと、美味しいと勧められた「Crottins de Pottok(クロタン・ド・ポトック)」という、ブラックチョコレートをヌガーでコーティングしたものを買いました。「Crottins de Pottok」というのは“ポトック(バスク地方固有種のポニー)の糞”という意味です(笑)。

Maison Adam

所在地:
4 place Louis XIV, 64500 Saint-Jean-de-Luz
6 place Louis XIV, 64500 Saint-Jean-de-Luz
49 rue Léon Gambetta, 64500 Saint-Jean-de-Luz
Webサイト:Maison Adam(英語)

サン=ジャン=ド=リュズには店舗が3軒あります
マカロンと、地元の人が美味しいと言っていたので買ってみたCrottins de Pottok

 バスク地方のどこに行っても「ガトー・バスク」というお菓子を見かけます。厚めに伸ばしたアーモンド入りのクッキー生地に、この地方の特産品であるダークチェリーのジャムを入れたものがオリジナルらしいのですが、クリームを挟んだものなどもあります。

 1895年創業のPariès(パリエ)では、ガトー・バスク、特にクリームが絶品と地元の人が言っていたので食べてみました。アーモンドの風味が1月になると食べられる私の大好きなお菓子、「ガレット・デ・ロワ」に似ています。その後、オリジナルのジャム入りも食べてみましたが甘過ぎるので、私は断然クリーム派です。

 Parièsはパリの6区にも支店があるそうなので、また食べたくなったら私はそちらに行ってみます。なお、Parièsでは製造工程を見学できるそうなので、ご興味のある方はそちらにもどうぞ。

Pariès

所在地:9 rue Léon Gambetta, 64500 Saint-Jean-de-Luz
Webサイト:Pariès(仏語)

Parièsではマカロンのほかに「Mouchou(ムシュー)」という、よりフレンチ・マカロンに近いお菓子も売っていました
Parièsのクリーム入りのガトー・バスクとMaison Adamのマカロン
Parièsのジャム入りのガトー・バスク

 バスク織も大人気です。しっかりと織られた丈夫な木綿の生地に、基本は7つのストライプが入っています。このストライプは「海の波」を、7本のラインはバスクの7つの地域を表わしているそうです。

 サン=ジャン=ド=リュズには人気のあるバスク織のお店がいくつかあるのですが、町中で見かけたショッピングバッグを見る限り、Lartigue 1910(ラルティーグ1910)というお店が一番人気のようでした。サン=ジャン=ド=リュズ近くの村にある製造現場を見学することもできます。

Lartigue 1910

所在地:67 rue Léon Gambetta, 64500 Saint-Jean-de-Luz
Webサイト:Lartigue 1910(英語)

 このほかにサン=ジャン=ド=リュズで有名なのは、エスパドリーユという夏のカジュアル靴を売るBayona(バヨナ)。1890年創業です。帆布や木綿布に靴底は麻を張ってあり、色がカラフルなので、見ているだけで楽しいです。

Bayona

所在地:60 rue Léon Gambetta, 64500 - Saint Jean de Luz
Webサイト:Bayona(仏語)

 さて、ここからは私がサン=ジャン=ド=リュズで特に気に入ったところをいくつかご紹介したいと思います。

Exte Nami

所在地:11 avenue Jaureguiberry, 64500 Saint-Jean-de-Luz
TEL:+33(0)5 59 85 51 47
Webサイト:Exte Nami

 2年前にオープンした、日本をコンセプトにしたお店です。エチェ・ナミと読みます。「波の家」という意味です。オーナーはフランス人女性の2人なのですが、オーナーの1人はお母さんが日本人です。

以前ご紹介した「ZOOM Japon」も置いてありました

 この日のランチはメニューが3種類。ベジタリアン定食、魚定食、うどんです。素材はほぼすべて地産のオーガニック。夜はアラカルトメニューとなります。

 私は魚定食を注文しました。ご飯の炊き具合といい、いろいろ乗っていたハーブといい、新鮮なお刺身にマッチしてとても美味しいです。でも一番「これは美味しい!」と思ったのは味噌汁。具はほとんど入っていないのですが、深い味わいです。

 シェフの柳瀬恵美さんに聞いたところ、「出汁は調理中に出た野菜くずなどをじっくり煮込んで作る野菜出汁なんですよ。お味噌はフランスでオーガニック味噌を作っているところから仕入れています」とのことでした。

 デザートも美味しそうだったので、悩んだ末にかぼちゃのクリームを。これももちろん絶品でした。私は本当に美味しいものを食べるとお腹だけではなく、心まで十分に満たされた感じがするのですが、Exte Namiの料理はまさにそれでした。

デザートに選んだかぼちゃのクリーム
柳瀬さんは和洋のシェフ歴18年。京都で懐石を作っていたこともあるそうです

 レストランから半地下に行くと、和食器や和雑貨などが置いてあります。どれもオーナーが厳選した商品です。ここではさまざまなテーマのアトリエも定期的に開催しており、日本をテーマにしたものだけでなく、例えばタロット占いといったユニークなものもあります。

 柳瀬さんが話していたお味噌、フランス在住の日本人にはよく知られていると思うのですが「さんが」という、フランス中部のトゥール市近郊で日本人夫婦が作っている美味しい味噌です。Exte Namiでは「さんが」を招いての味噌作りワークショップを開いたこともあるそうです。

焼き物のアトリエで作られた作品が完成を待っていました
オーナーの一人、グロリア・玲子・ペドゥモントさん。毎年日本を訪れているそう

 1920年にサン=ジャン=ド=リュズで創業したコーヒーとお茶の専門店もお勧めです。私はここでオリジナルブレンドのハーブティーをお土産として買いました。ハーブ自体はバスク地方産ではないそうですが、サン=ジャン=ド=リュズの近くにある村、Sare(サール)の名前を冠しています。リラックス効果と消化を助ける効果のあるお茶だそうです。

Maison DEUZA(メゾン・デュザ)

所在地:18 rue Joseph Garat, 64500 Saint-Jean-de-Luz
Webサイト:Maison DEUZA(仏語)

 お茶に関連して、オリジナルのハーブティーに力を入れている薬局もありました。店内の約半分に単品または目的別にブレンドされたハーブティーが所狭しと並んでいます。

 しかもこの薬局、ただ商品を売るだけではありません。オーナーである薬剤師が個人カウンセリングもしています。初回45ユーロ(約5850円)で、体の状態に合わせたビタミン、ミネラル、ハーブ、精油などを詳しく提案してくれるそうです。町中からちょっと離れているのですが、自然療法に興味のある人には楽しいところだと思います。

Pharmacie de Jalday(ジャルデ薬局)

所在地:18 avenue de Jalday, 64500 Saint-Jean-de-Luz
Webサイト:Pharmacie de Jalday(仏語)

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/