旅レポ
徳島で世界初の乗り物に乗ってきた。線路も道路も走れる二刀流「DMV(デュアル・モード・ビークル)」がおもしろい!
2022年3月23日 11:00
バスの顔して線路も走るDMVって!?
徳島県と高知県にまたがる阿佐海岸鉄道の阿佐東線で、道路と線路の両方を走れる乗り物が走っているのをご存じですか? その名もDMV(デュアル・モード・ビークル)。
鉄道用の鉄車輪を出し入れし、乗客を乗せたままわずか15秒で車体を変身させる「モードチェンジ」が見どころです。このDMVの本格営業運行はここ阿佐東線が世界初! 徳島県が主催するプレスツアーに参加して、この次世代の乗り物「DMV」に乗車してきました。
現在DMVは地域の公共交通機関として、決められたダイヤで決められたルートを走っています。土日祝には室戸岬を経由して「海の駅 とろむ」を終点とする1日1往復もありますが、こちらはバスモードでの運行。鉄道モードからバスモードへ、バスモードから鉄道モードへの「モードチェンジ」が体験・見学できるのは徳島県海陽町の「阿波海南駅」と、高知県東洋町の「甲浦駅」の2か所のみになります。
DMVの鉄道区間は阿波海南駅~甲浦駅間の4駅10kmです。まずは阿波海南駅にある撮影スポットで、鉄道モードからバスモードへのモードチェンジを見学。ドキドキしながらカメラを構えて待っていると、やってきました、青いDMV! (わわわっ~! 本当にバスが線路の上を走ってる~!)とココロのなかで大興奮。その姿ったらとってもシュールでかわいいのです。
バスとして発着点である阿波海南文化村へ向かったDMVは、折り返して再び阿波海南駅に戻ってきます。ということで今度はバスモードから鉄道モードへのモードチェンジを見学。線路用鉄車輪が車体からぐわ~っと出てきたと思ったら、またまたしれっと今度は鉄道の顔して走っていきました。おもしろい、おもしろ過ぎる~!
いよいよDMVに乗車!
モードチェンジの楽しさは見るだけでなく実際に乗ってこそ! ということで、阿波海南駅から8kmほど南の「道の駅 宍喰温泉」に移動していよいよDMVに乗車です。徳島が全国シェアほぼ100%を誇るすだちがモチーフの緑のDMVがやってきました。
今回私が座ったのは前面展望がよい「1B」という席。運転手さんの後ろです。DMVは座席が空いていたら当日でも乗車することができますが、高速バス予約サイト「発車オ~ライネット」で事前購入が可能です。18席と乗車定員が少ないので、行楽シーズンなど確実に乗りたい人は事前予約がオススメです。
さて、私たちを乗せた緑のDMVはバスモードで「道の駅 宍喰温泉」を出発し、路線バスとして道路を走ります。ほどなくして高知県東洋町に入り「海の駅 東洋町」で数名のお客さんを乗せたら、いよいよ鉄道モードに切り替わる甲浦駅へ。DMVのために作られたというスロープを上がった先がモードインターチェンジ(MIC)」です。
モードチェンジ時は車内放送が流れます。日本語のあとに英語のアナウンスが続くのはやがて戻ってくる訪日観光客をしっかり意識してのこと。「モードチェンジ、スタート」のアナウンスで車体が少しずつ浮き上がってきました。車体の前後に隠れていた鉄車輪が下りてレールに接地すると(と想像しながら)モードチェンジ完了。最後の「フィニッシュ」という脱力系アナウンスに車内ではププッと笑いが上がっていました。
鉄道モード時は時速60キロで走行するDMV。レールの継ぎ目で出る“ガッタン、ゴットン”という音とシートに伝わる振動がローカル線に揺られているような旅情を誘ってきます。鉄道区間はトンネルが19か所と多いですが、ずっと高架の上なので見晴らしもよく、海が臨める区間もあります。
再び阿波海南駅のモードインターチェンジでバスモードになったら発着場所の阿波海南文化村へ。約35分、運賃800円の区間を楽しみました。クルマで訪れる人は発着場所の「阿波海南文化村」か「道の駅 宍喰温泉」の駐車場を利用することになると思うので、一方通行だけでなく往復で楽しめますね。
聞いてみた
DMVについて阿佐海岸鉄道 代表取締役専務の井原豊喜氏にお話を聞くことができました。
井原氏:このDMVという乗り物は、もともとJR北海道が約20年前から車両開発をしてきたものです。6年ほど前には国交省から“安全性に問題なく運行できますよ”とのお墨付きをもらっていましたが、結局実用化にはいたらず導入を断念しています。
――そんなDMVをなぜここ阿佐東線で?
井原氏:30年前に第3セクターの運営で開業した阿佐海岸鉄道ですが、人口減少と高齢化で厳しい経営が続いていました。しかし廃線にしてバスに置き換えるのではなく、DMVを導入して線路を残し観光客を呼び込んで地域活性化に使えないかと考えたのです。10年ほど前から車両を借りてきて実証運行を行ない、2017年に正式導入することが決定しています。おかげさまで昨年12月の開業日には鉄道ファンを中心に全国からたくさんの方が来てくださいました。
――DMVが阿佐東線で導入できたのはなぜでしょうか?
井原氏:DMVには国が定めた運行前提条件がいろいろあるんです。例えば2両以上が連結しない単車運行であることや、線路上ですれ違いをしてはいけない、DMV専用線区にしないといけないことなど。運行ダイヤは一方通行で組むしかないわけです。そうなると路線が長ければ長いほどダイヤを組みづらいんですね。通勤ラッシュなどがある地域だと役に立ちません。しかし阿佐東線は利用者が少ないこと、線路は8.5kmしかなく短いこと、高架を走っているので道路との踏切もなく、あまり長いトンネルもない。そんなさまざまな条件がぴったり合っていたのです。
ある意味“とほほ”な状況が導入に適していて世界初の営業運行につながったのですね!
井原氏:今はいくつかの自治体から視察依頼も来ています。バスに乗っているときは単なるバスなんですが(笑)、DMVの一番の魅力は線路に乗ったとき。バスなのに音は列車なんです。外から見てもかわいらしいんですが、実際に乗るとスピード感を感じると思いますよ。約10kmの線路区間のうちトンネルが19ありますが、どれも短いトンネルなので、その隙間から見える景色を楽しんでもらえたらと思います。
お土産に買ってきたプラモナカを組み立ててみた
阿波海南文化村内にある「三幸館」で、おもしろいお土産を買ってきたので最後にご紹介しましょう。それが地元・海陽町の和菓子屋「宝来堂」から発売されているDMV組み立てモナカ(648円)。箱を開けると小分けあんこが2袋、車体モナカが2個、それから車輪5個。組み立て方の説明書付きです。さっそく作ってみました!
にゅるにゅるっとあんこを絞り入れて、まずはDMVバスモードのできあがり。次に残った半分だけの車輪モナカを車体の下にくっつければ鉄道モードの完成! さらに阿佐東線の風景写真がプリントされた箱を組み立てれば撮影台に早変わり。向きやアングルを変えて自分だけのミニジオラマで撮影を楽しめます。作って楽しい、撮って楽しい、食べて美味しいユニークなお土産でした。
次回はDMVに乗りに行ったらぜひ立ち寄ってほしい徳島県海陽町の観光スポットやお宿をご紹介します。お楽しみに!