旅レポ

禅と銭湯で「ととのう京都」を体験してみた。ココロとカラダを穏やかにする旅

2022年冬の「そうだ 京都、行こう。」は、禅と湯でととのう京都

「そうだ 京都、行こう。」のキャッチフレーズでおなじみのJR東海(東海旅客鉄道)の観光キャンペーン。2022年の冬は「禅と湯 ととのう京都」をテーマに“京都で身も心もととのえる旅”を展開しています。

 具体的には、京都に点在する「禅」と深いつながりのあるお寺を訪ねて、禅宗の修行法である坐禅をしたり、凛とした空気のなか石庭を眺めたりして「ととのいましょう」という提案。

 もう一つの「湯」は、昨今のサウナブームで街の銭湯の魅力が見直されるなか、歴史ある銭湯が数多く残り、サウナーの間で聖地とも呼ばれる京都の銭湯を訪れて「ととのいましょう」というもの。

禅と湯でととのう京都!

 そんな、ととのう京都を楽しめるツアーのポイントとして、オリジナルロゴ付きの銭湯タオルが入った「ととのうセット(2000円)」も発売中です。ととのうタオルのほかに、5か所の対象寺院の参拝整理券(いずれか1か所分)と銭湯入浴券(1枚)、ととのうマップが入っています。この「ととのうセット」は、ずらし旅商品やEXサービス向けコンテンツなどで購入可能です。

こちらが「ととのうセット」。利用期間は1月7日~3月13日

 ということで1月上旬に行なわれた報道向けツアーに参加して一足早くととのってきましたので、その様子をレポートします。

マジョリカタイルに心躍る船岡温泉で「ととのえる」

キングオブ銭湯・船岡温泉の脱衣所の欄間

 まずご紹介するのは、国の有形文化財に登録されている銭湯「船岡温泉」です。場所は京都市北区紫野。京都駅から市バスで約35分、千本鞍馬口で下車して徒歩5分のところにあります。歴史を感じる町家が軒を連ねる静かなエリアで、近くには織田信長公を祀る建勲神社なども。

唐破風造りの威厳ある外観は大正時代に料理旅館の浴場だった当時の姿を残しています
京都の銭湯はどこも1回450円と同一料金

 お風呂も楽しめる料理旅館「船岡楼」に併設する浴場として大正12年(1923年)に誕生したという船岡温泉。当時の主なお客さんは高級織物で知られる西陣織の職人衆だったようです。

 現在のような一般公共浴場となったのは昭和22年(1947年)で、今では地元の人はもちろん、銭湯ファンや外国人観光客にも親しまれているキングオブ銭湯です。ちなみ京都には「温泉」と名の付く銭湯が多いそうですが天然温泉ではなく、インパクトのある屋号を付けたためと言われています。

ぐるりと脱衣場を取り囲む欄間の透かし彫りは圧巻
けやきの格天井の中央には鞍馬天狗と牛若丸の彫刻
こちらは上海事変(!)の様子が彫られた欄間の透かし彫り

 船岡温泉の魅力は、なんといっても豪華でレトロな非日常空間です。脱衣所の格天井の一画には鞍馬天狗&牛若丸の彫刻がどど~ん! 部屋をぐるりと取り囲む欄間には、さまざまなモチーフの透かし彫り。浴室へ続く通路には美しいマジョリカタイルの装飾が楽しめたりと歴史ごちゃまぜのミュージアムのよう。こんなワクワクする銭湯に通える地元の方々がうらやましくなります。

脱衣所から浴室へ続く通路には壁一面にマジョリカタイル。イギリスをルーツに持つマジョリカタイルは、日本では明治時代末以降さかんに生産されました

 実はこの日は見学&撮影のみだったのですが、どうしても船岡温泉に入ってみたくなった私は、ツアー解散後に市バスに揺られて再び来訪。通常営業時間に改めて赤い暖簾をくぐったのでした。もちろん手には「ととのうタオル」です!

通路の外には鯉が泳ぐ池も
浴室は男女日替わり制です

 脱いだ服は黄色い脱衣かごに入れ、そのかごごとロッカーに入れるのが京都流。緑鮮やかなマジョリカタイルに心躍らせながら浴室へと向かいます。泡風呂や電気風呂などがあるメインの浴槽をはじめ、打たせ湯やくすり風呂、露天風呂にサウナ、水風呂もぜ~んぶ制覇して大満足。ここで毎日ととのっている地元のおばちゃんとの会話も楽しむことができました。京都の銭湯、サイコーです。

くすり風呂や打たせ湯、岩風呂などいろいろある浴室。サウナは80℃とゆっくりじっくり温まれるタイプ

 大正、昭和、平成、そして令和と歴史を紡いできた唯一無二の銭湯「船岡温泉」。大規模な空襲を免れた京都市には船岡温泉のような戦前に造られた銭湯が数多く残ります。京都に行ったらわざわざ立ち寄りたい場所が1つ増えました。

現在京都府には約100軒の銭湯があるのだとか。脱衣所を出る際には「さいなら」と言って出る京都の銭湯、ぜひお試しあれ!

銭湯をリノベーションしたレトロカフェ「さらさ西陣」

唐破風の屋根が目印の「さらさ西陣」

 船岡温泉に行ったなら、ぜひ訪れてほしいカフェが徒歩3分の場所にあります。それが「さらさ西陣」。銭湯として営業していた築80年以上の建物内部を素敵にリノベーションした人気店です。店内の壁一面には和製マジョリカタイルが施されていてなんともノスタルジック!思わず長湯、ではなく長居をしたくなる空間です。

店内の壁はまたまたかわいいマジョリカタイル
天井を見上げると銭湯時代を彷彿とさせる換気窓が
とっても落ち着く店内。こんなお店が近所にあったらなぁと思いました
キャラメルチーズケーキ、アップルウォールナッツケーキ、キャロットケーキなど、種類豊富
お好きなケーキ+ドリンクのケーキセットは1000円
ミニサラダ、自家製タルタルソース&濃厚デミグラスソースがけ手仕込みロース豚カツ(玉子かけ)、海老フライ、トマトソースパスタ、スープがワンプレートのトルコライス(1300円)が人気メニュー

坐禅体験で「ととのえる」萬福寺

実際に坐禅を体験!

 話を再び「禅と湯 ととのう京都」に戻しましょう。ととのうセットにある「参拝整理券」で拝観できる対象寺院は、天龍寺、東福寺、南禅寺、萬福寺、興聖寺(宇治)の5か所ですが、今回は宇治市にある萬福寺と興聖寺の2寺を訪ねました。まずは萬福寺から。

こちらは隠元禅師を祀っている開山堂

 黄檗宗大本山萬福寺は、1661年に中国福建省の高僧「隠元禅師」によって開かれたお寺です。この隠元和尚は、お名前にもあるいんげん豆を中国から日本に持ち込んだお方。ほかにもスイカやタケノコ、レンコン、原稿用紙、明朝体の文字などのルーツとなる経典を江戸時代の日本に伝えたと言われています。

桃戸。中国で桃は厄除けの意味があるそう
龍のお腹を模しているという蛇腹天井
卍字くずしのデザインの欄干

 現在は62代目のご住職で、萬福寺では今までに計16名の中国人がご住職を務められたそう。そんなわけでここ萬福寺はすべてが中国式。伽藍や仏像、本堂へと続く道も中国式。お経も唐音と呼ばれる中国語を基本とする読みで唱えるそうですよ。

境内全体が龍に見立てられて造られているのも中国式。参道の真ん中にひし形に敷き詰められた石は、龍の背中の鱗を表わし、この上を歩けるのはご住職のみ
萬福寺の玄関として設けられている天王殿には弥勒菩薩坐像、いわゆる布袋様がいらっしゃいます。日本では七福神の一神として信仰されていますが、七柱のうち唯一実在した仏僧です
本堂にある十八羅漢像のうち、自分の胸を両手で大きく切り開いてお釈迦様の顔を見せている羅怙羅尊者(らごらそんじゃ)は必見。「人はその心のなかに必ず仏の心を宿す」という教えを伝えるため
開梛(かいぱん)といって木魚の原型。魚は寝るときも止まらない、目を開けて寝ることから不眠不休の象徴なのだとか。口にある丸い玉は煩悩を表わしていて、木の棒でお腹を叩くことで煩悩を吐き出させるという意味があります

 さて、そんな萬福寺でのととのう体験は法堂(はっとう)での坐禅です。まず靴を脱いで座布団の上に正座します。禅の修行は「すべて捨てる修行」なので、通常は靴下も脱いで、身に着けている指輪などのアクセサリーも外すそう。

 合掌して礼をすると木魚が一度鳴り、それが坐禅開始の合図。正座から坐禅に切り替えます。このとき少し体を揺らして軸を決め、ととのう体勢にするのがポイント。目線は1m先下を見て半眼に。次に木魚が3度鳴ったら、そこからは一切動くことは禁止です。

 坐禅で大切な要素は3つで、1つ目は「調身(ちょうしん)」で、姿勢をととのえること。2つ目は「調息(ちょうそく)」で、呼吸をととのえること。3つ目は「調心(ちょうしん)」で心をととのえることなのだとか。

普段修行僧が坐禅の修行をする場所「法堂(はっとう)」

 通常は15分ごとに小休止しながら約1時間の体験ですが、この日は時間の都合でわずか5分のみ。それでも心のなかのざわざわが次第に消えて気持ちがとっても穏やかに。外は小雪が舞う寒い日でしたが、坐禅をしていると空気が動かないからか、まったく寒さを感じなかったのには驚きでした。わずかな時間でしたが“ととのう”を実感できた萬福寺での坐禅。次はぜひとも1時間の体験をしてみたいです。

一般の団体向けに坐禅や写経、法話などの禅修行体験を行っている萬福寺。社内研修などでの利用も多いとか
修行者の肩を打つ棒は警策(けいさく)といいます
手は右手を下、左手を上にして親指をくっつけ法界定印(ほっかいじょういん)を結びます

宇治市の興聖寺では癒やしの香りで「ととのえる」。いとをかし香の手作り体験

抹茶のお菓子のようなお香を作ってきました

 萬福寺同様に、ととのうセットにある「参拝整理券」で拝観できる宇治市の興聖寺では、「ととのう京都」の現地観光プランとして、「宇治抹茶お香づくりと僧侶がご案内する興聖寺」が用意されています。この宇治抹茶お香づくりを今回体験することができました。

講師は「INCENSE KITCHEN」代表 後藤恭子さん

 お香づくりを教えてくださったのは宇治市に工房を構える「INCENSE KITCHEN(インセンスキッチン)」代表の後藤恭子さん。宇治で抹茶を使った新しい体験コンテンツはできないものか?と考えて、京都産宇治抹茶を入れたお香作りを考案したのだそう。

用意されていたのは京都産宇治抹茶と、つなぎとして使う「タブ粉」と少量の水
菓子木型を使います。茶壺や茶釜などさまざまなモチーフがあってかわいい!

「いとをかし香(こう)」と名付けられたこのお香、茶席などで振る舞われる茶菓子にそっくり! それもそのはず、菓子木型で型をとって作るんです。粘土状にした材料を木型に入れて抜き出すと、ころんと小さくてかわいらしい、食べてしまいたくなるようなお香ができあがります。もちろんお茶のよい香りも!

抹茶とタブ粉を合わせたらそこに水を少しずつ加えていきます。最初はすりこぎ棒で、粘土状に固まったら手でこねます。ひとかたまりになったら木型へぐいぐいっと押し込みます。反対側からそうっと押し出したら完成!
菓子木型はいろいろあるので選ぶ楽しみも

 作っている間もお抹茶の香りに癒やされる、とっても京都らしい“コト体験”になりました。大人はもちろんお子さんも一緒に楽しめますよ。私もアロマポットで温めて、部屋に広がる抹茶の香りをときどき楽しんでいます。

「そうだ 京都、行こう。」の特別バージョン木型もありました
「いとをかし香(こう)」は直接火を点けるのではなく、こうして電気香炉やアロマポットなどで温めて香りを出すタイプのお香

 お香づくり体験のあとは、僧侶が興聖寺の見どころを案内してくださいます。禅道場として全国から修行僧が集まるという宇治の禅寺・興聖寺には、道元禅師作と伝わる法堂のご本尊「釈迦牟尼仏坐像」や、宝物殿の「聖観音菩薩立像(手習観音)」など見どころいろいろ。冬の凛とした空気のなかでの参拝はよいものです。

興聖寺にある聖観音菩薩立像(手習観音)は右足を少し前に出して親指が少し浮いているのが特徴。これは人々の願いを聞いて一歩動き出そうしたときの姿を表わしているのだそう
すぐに駆けつけるという意思がこの親指に! 尊いですね
興聖寺でも坐禅体験が可能。丁寧に作法などを指導してくださいます(要予約)

宇治抹茶お香づくりと僧侶がご案内する興聖寺

設定日: 2022年3月12日、13日
代金: 7500円(大人・子供同額)
申込締切日: 4日前

「京の冬の旅」初公開、大徳寺大光院

大徳寺大光院の襖絵「雲龍画」

 現在京都ではデスティネーションキャンペーン「京の冬の旅」も展開中。今年は通常非公開の大徳寺大光院が「京の冬の旅」で初公開となっています。

侘び寂びを感じる庭

 大徳寺大光院は豊臣秀吉の弟・秀長の菩提寺で、奈良の大和郡山に創建されたあとに、ここ大徳寺山内に移されました。客殿の襖絵「雲龍画」や茶室「蒲庵」が見どころで、1月17日~3月18日まで特別公開しています(2月15日~18日は拝観休止)。

茶室「蒲庵」(※取材により特別に撮影したもので一般の方は写真・動画撮影禁止)

閑臥庵(かんがあん)で隠元禅師が伝えた精進料理「普茶料理」を堪能

黄檗宗独特の中国風外観がライトアップで浮かび上がります

 本記事でご紹介してきた禅宗とは、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗の総称ですが、最後にご紹介する「閑臥庵(かんがあん)」はそのうちの黄檗宗の禅寺です。今回はこちらで幻想的にライトアップされた庭を眺めながら夕食に普茶料理をいただきました。

江戸時代初期に隠元禅師によって中国から伝えられた普茶料理。写真は竹膳(9680円)で4人前

 普茶料理は精進料理なので、肉や魚を一切使わず植物性の食品のみで作られています。ここ閑臥庵の京普茶料理は油を巧みに使ったしっかりした味付けが特徴。メニューには、肉や魚などに似せた「まぐろのさしみもどき」や「かまぼこもどき」などがあって、何の食材で作られているんだろう?と食べる前からも楽しめました。

 旬の新鮮な食材を使い、高タンパクで低カロリーな閑臥庵の京普茶料理は、2名からの予約制。気軽に普茶料理を楽しめるお昼のみのコースもあります。

筝羹(シュンカン)と呼ばれる、旬の野菜や乾物の煮物などを盛り合わせた煮合わせ料理には石や草花で小さなお庭が演出されていて感動(※食べられません)
どう見ても栗のイガですが、実はこれ、さつまいもと茶そうめんで作られた「くりもどき」。普茶料理って奥深くておもしろい!
黄檗禅宗 瑞芝山 閑臥庵

 1月27日から京都府全域に「まん延防止等重点措置」が適用されています。混雑する場所や時間を避けた行動など、基本的な感染症対策の徹底のうえで旅行を計画するようにしましょう。またJR東海担当者は「感染状況が落ち着いたタイミングで、ぜひ京都でととのってみてください」とコメントしています。

ゆきぴゅー

長野生まれの長野育ち。2001年に上京し、デジカメライター兼カメラマンのお弟子さんとして怒涛の日々を送るかたわら、絵日記でポンチ絵を描き始める。独立後はイラストレーターとライターを足して2で割った“イラストライター”として、雑誌やWeb連載のほか、企業広告などのイメージキャラクター制作なども手がける。