旅レポ

うまし、うるわし、奈良の旅。注目スポット薬師寺で新型コロナの終息をお願いしてきた

「うましうるわし奈良」では薬師寺をピックアップ。写真は薬師如来が祀られている金堂

 JR東海(東海旅客鉄道)が展開する奈良の観光キャンペーン「うましうるわし奈良」。2005年から奈良の魅力的な場所をいろいろと紹介してきているが、2021年は「薬師寺」をメインに取り上げている。

 今回のプレスツアーでは、東塔の全面解体修理が終わった薬師寺をはじめ、写経に欠かせない墨の製造所や奈良のかき氷文化を支える老舗製氷所、まもなく大規模修理が予定されている興福寺の五重塔などを見てきた。

 なお、普段は撮影NGな場所も特別に許可をいただいているので、あらかじめお断りしておく。

薬師寺では解体修理したばかりの東塔の内部も見られる

 薬師寺は、天武天皇が680年に皇后鵜野讃良皇女(後の持統天皇)の病気平癒を祈って発願され、697年に本尊薬師如来の開眼が行なわれた歴史あるお寺。

 大化の改新から平城京遷都までの白鳳文化を現代に伝える貴重な寺院で、9件の国宝と26件の重要文化財が祀られていることから人気も高い。そのなかでも大変貴重な建造物として創建時から現存する国宝の「東塔」がある。730年に建造されてから1300年余り、幾多の災厄に見舞われながらも東塔だけはそのままの姿を残している。

 もちろん、現在まで残してこれたのは何度も修理を重ねてきたからであり、2020年12月までは解体を伴う大修理を約12年かけて行なった。修理が終わった現在は一般公開されており、金堂の左右に塔が配置された美しい薬師寺式伽藍を再び目にすることができる。

 高さ約34mの圧倒されるたたずまい、飾り屋根である裳階(もこし)を設けた美しい建築様式、新調された最上部の水煙など見どころ満載であるが、現在は期間限定(2022年1月16日まで)で特別開扉を行なっており、東塔の内部も見ることができる。入ることはできないが、初層の扉が開けられているので直径約90cmの心柱(しんばしら)や天井画を観賞できるまたとない機会だ。

約12年にもおよぶ大規模修理が終わった東塔。飾り屋根の裳階があることから6層構造に見えるが、内部は3層になっている三重塔だ。創建当時は1981年に再建された西塔(さいとう)と同じ色合いだったそうだが、年月とともに現在の姿になったという

 驚くのは、こちらの心柱は建物を支えているわけではなく、ただ真ん中にそれだけが象徴として建てられているということ。

 そもそも塔で重要なのは心柱の頂上部に設けられた相輪であり、相輪の上にはもっとも重要な仏舎利(釈迦の骨)が納められているからだ。創建当時は伽藍のなか、今でいう境内に入れるのは天皇と薬師寺の住職だけであり、なかに入れない人も拝めるようにと塔を建て、高い位置に仏舎利を納めたわけだ。

 それだけ重要な心柱には耐久性の高いヒノキが使われているが、時代の経過とともに油が抜け、内部はシロアリの食害を受けてスカスカ状態になっており、もっともひどい部分は表面から約7cmを残すのみとなっていたそうだ。工事ではその部分をキレイにくり抜いて新しい材を埋め込み、外側は残すという非常に高度な修繕が施されている。そのおかげで、目に映るのは1300年前の心柱であることに感動を覚える。

 また、天井には極楽浄土に咲くとされる宝相華(ほうそうげ)と呼ばれる花の文様が描かれているので、こちらも見ておきたい。2022年1月16日以降は仏像を納めてしまうことから内部は非公開になってしまうので、興味ある方はぜひとも足を運んでもらいたい。

今だけしか鑑賞できない東塔の心柱。足元には大きな鏡が2枚置かれているので、天井画もじっくりと堪能できる

 金堂には薬師寺のご本尊で国宝の薬師三尊像が祀られている。697年7月29日に開眼法要が行なわれているので、1300年間この地を見守ってきた貴重な仏像だ。

 金堂は享禄の兵火により焼失したが、仏像は青銅製のため今なお当時の造形をそのまま残している。中央には薬師如来、向かって右側が日光菩薩、左側が月光菩薩になる。月光菩薩は仏教で使われる呉音読みでは「がっこうぼさつ」になり、こちらが正式名称と説明された。

 病気や災難を除き、健康と幸福を与えてくれるとされる薬師如来は手に薬壺(やっこ)を持つ仏像が多いが、これは鎌倉時代からのことであり、薬師寺の薬師如来は薬壺を持っていないのが特徴。ただし、3月に行なわれる修二会(花会式)のときだけは手元に薬壺を1週間だけ置くそうだが、今だけは新型コロナの早期終息を願って常時薬壺が置かれている点にも注目したい。

案内してくれた僧侶の河野氏オススメのアングル。薬師三尊像が一度に見れ、美しく優しい横顔を見ることができる
夜勤の看護師に例えられる月光菩薩
医者に例えられる薬師如来。手元に置かれた薬壺に注目
日勤の看護師に例えられる日光菩薩

 薬師寺でもう一つ紹介したいのがお写経だ。年中無休、365日開かれているお写経道場で誰でも仏教修行が行なえる。しかもこちらでお写経勧進すると1968年から始めた伽藍復興のために役立てられ、納めたお写経はお堂のなかに永代供養されるというから微力ながらも貢献した実感がわくというものだ。

 現在まで約850万巻以上が納経されており、多くの人の力で薬師寺は美しい姿をかなり復元できたとのことだ。お写経をするには、開門時間が8時30分~17時なので、その間に受付で申し込む必要がある。道具は用意されているので、納経料(2000円~)だけ用意すればOKだ。筆者も穢れた心を無心にし、悔い改められるよう挑戦したかったのだが、時間の都合上またの機会となった。

一度に180名までお写経できる道場。お香を焚いている香象をまたいで入る
お写経に使う道具も用意されている
伽藍復興のため、お写経勧進を考えた高田好胤住職の像
270字の般若心経で所要時間は約1時間~1時間半
文字数の少ない「般若心経のこころ」も用意されている。こちらは約30分~1時間

握り墨体験と墨の歴史が勉強できる墨運堂

 お写経に欠かせない物として「墨」が挙げられる。奈良県は固形墨の国内シェア95%を誇り、日本製の墨はほぼほぼ奈良産だと考えて間違いない。

 今回は薬師寺の近くに居を構える、老舗の墨運堂を訪問した。創業は1805年(文化二年)と歴史があり、江戸時代後期から伝統ある墨作りを今に伝える会社だ。こちらの墨運堂の本社横には墨にまつわる資料を展示した「墨の資料館」が併設されており、詳細な製造工程を学んだり、職人による墨の型入れ作業の見学、オリジナルの墨を作る「握り墨」を体験できたりする。

 握り墨体験は職人が1丁の型枠に入れる前の墨を手渡ししてくれるもので、乾燥前の柔らかい状態を肌で感じることができ、自分の手形が付いた墨を持ち帰ることができるものだ。半年ほどそのまま乾燥させればオリジナル墨ができあがるので旅の思い出になるのもうれしい。

 こちらの墨の資料館は入場無料だが、にぎり墨体験は1100円。また、事前に予約する必要があり、期間も10月から4月までの型入れ時期に限られるので、体験してみたい方はWebサイトをチェックしておこう。

墨運堂の墨の資料館。入口にある市松模様は墨で塗装したものだ
職人は早朝からお昼まで作業するので、それまでに来場すれば作業風景が見れるかも
墨職人の松田英治氏は日本各地で実演も行なう
職人から手渡された墨をギュッと握る
紙で包み、半年ほど乾燥させればOK
保管に最適な桐箱(550円)も用意されている

興福寺では大修理前の五重塔の内部を期間限定で公開

 薬師寺より少しあと、710年に創建された興福寺も奈良を代表するお寺だ。730年に建てられた五重塔は高さが50.1mもあり、遠くからでもその壮大な姿を見ることができる。

 こちらの五重塔は1426年に再建されたものだが、時代の経過とともに劣化が顕著になってきたため、2022年4月以降からは120年ぶりの大規模修理が行なわれる。修理が始まると足場を組んだ素屋根にすっぽりと覆われてしまうため、今が目にできるラストチャンスとなっている。

 薬師寺の東塔と同じくこちらも国宝のため、状態によっては修理に時間を要し、再び見ることができるのは10年先になるかもしれないとのことだ。そのような理由もあり、現在は通常非公開の初層内部に入ることができる特別公開が行なわれている。期間は前期が10月9日~11月23日、後期が2022年3月1日~3月31日となっている。

 普段目にすることのない心柱やその四方に安置された薬師三尊像、釈迦三尊像、阿弥陀三尊像、弥勒三尊像を鑑賞できる大変貴重な機会だ。

重厚で壮大な興福寺の五重塔。奈良のランドマーク的なこの姿が見れるのもあと少し
五重塔の心柱
東方に祀られている薬師三尊像
南方に祀られている釈迦三尊像
西方に祀られている阿弥陀三尊像
北方に祀られている弥勒三尊像

JR東海とコラボした新幹線かき氷が期間限定で楽しめる

 奈良には氷の神様を祀る氷室神社があり、昔から氷に縁のある土地柄だ。最近では見た目も美しい豪華なかき氷を提供する店が次々に登場していることから全国のスイーツ好きも注目しており、夏場シーズンには美味しさと“映え”を求めて多くの人が訪れている。

 そんななか、ホテル日航奈良では10月1日の東海道新幹線開業記念日に合わせて、「かき氷新幹線N700S」と「かき氷新幹線ドクターイエロー」を11月30日までの期間限定で提供しているので紹介しよう。

 JR東海では時間や行動をずらした旅を提案するキャンペーン「ずらし旅」を展開しており、今回の企画もその一環として「秋にもかき氷」とのコンセプトでホテル日航奈良とコラボレーションしたものだ。どちらも新幹線の外観をイメージした色合いになっているが、もう一つこだわりの共通点としてなかにドライアプリコットがふんだんに入っている。これはアプリコットに鉄分が多く含まれていることから“鉄分多め”な鉄道好きの方にも楽しんでいただきたいという考えからだ。

 ポイントである色については、かき氷新幹線N700Sは青をブルーライチシロップを使ったエスプーマで表現し、ロゴのゴールドを表わすために金箔を散りばめている。かき氷新幹線ドクターイエローは、北海道産トウモロコシのエスプーマを使って表現し、フレーク状のトウモロコシをトッピングすることでより鮮やかに黄色が映えるようになっている。

 味も秀逸で、かき氷新幹線N700Sはカットマンゴーと杏仁豆腐の濃淡のある甘さとフワフワのかき氷が絶妙にマッチし、かき氷新幹線ドクターイエローはトウモロコシの風味豊かな甘さとキャラメルムース、チョコシリアルの濃厚な甘さがあとを引くテイストになっている。今だけの期間限定なので、奈良を訪れた際はぜひとも寄ってもらいたい。

写真左が「かき氷新幹線ドクターイエロー」で、右側が「かき氷新幹線N700S」。どちらも1430円
かき氷新幹線ドクターイエローの断面
かき氷新幹線N700Sの断面
シェフが一つ一つ丁寧に作り上げる

奈良のかき氷はこだわりの氷から生まれる

 最後に紹介するのは、ほとんどの奈良のかき氷屋に氷を卸している日乃出製氷だ。

「大和氷室」と名付けられた氷は奈良の水をマイナス7℃でゆっくりと72時間かけて凍らせたもので、クリスタル硝子のような美しい純氷が、目にするもの、口にするものを虜にする。

 4代目の中孝仁氏によると、ここまでの道のりは楽ではなかったと話す。10年前は氷が売れずに廃業も考えていたそうだが、7~8年前から始まったかき氷ブームの際にもう一度チャレンジすることを決意し、日本全国の製氷所を訪れてはかき氷にも使える氷の製造方法を学び直した。その結果、現在では良質な氷を求める取引先が増え、このコロナ禍で夜の飲食店需要が減った痛手はあるものの、日中の需要が増えたおかげでこの春から夏にかけての売上は過去最高を記録したそうだ。

 現在も研究を重ねて製氷しており「素材や製法にこだわっているショップさんに出しても恥ずかしくない商品をお渡ししたいですね。そして、かき氷をブームではなく、文化として定着できるよう貢献していきたいと思います」とこれからについても話してくれた。ちなみに夏季限定で日乃出製氷もかき氷店「奈良の氷屋ヒノデさん」を出店しているので、興味を持たれた方はTwitterをチェックしておこう。

できあがったばかりの氷を見せてくれる日乃出製氷株式会社 代表取締役の中孝仁氏
奈良の美味しい水を空気で撹拌しながら濁りのもととなる不純物を真ん中に集める
できあがった氷は容器ごとクレーンで引き上げる
容器から氷を出すところ
表面を水洗いとワイパーがけで仕上げる
隣の冷凍庫に送り出す
冷凍庫に並ぶ美しい氷は圧巻の一言。氷の白い部分をいかに薄く小さくするかが腕の見せどころ
顧客の要望に合わせて氷をカットする
かき氷用にカットされた氷がこちら
「大和氷室」のブランド名で氷を販売している

 JR東海では東海道新幹線車内での酒類販売を10月25日に再開し、11月の東海道新幹線の臨時列車1392本はすべて計画どおり運転することを発表するなど、コロナ禍から少しずつ日常が戻りつつある。

 そのようななか、遠出を考えている人にとって落ち着きのある奈良は魅力ある場所の一つであることは間違いない。新型コロナウイルス感染症が一刻も早く終息するよう薬師寺を参拝し、開放感ある奈良でエチケットを守りながら旅を楽しんでみてはいかがだろうか。これから見ごろを迎える紅葉や、日本清酒発祥の地で飲む地酒もまた格別だ。