旅レポ

観光情報アプリ「めぐるっと」を使って小笠原を旅してみた

観光情報アプリ「めぐるっと」

 ゴーガが2月にリリースしたスマホ向け観光情報アプリ「めぐるっと」は、リコーの全天球カメラ「THETA」で撮影した観光地の360度映像を楽しめるユニークなアプリだ。

 現在、同アプリでは実証実験として、小笠原諸島の父島と母島のコンテンツを提供している。このアプリを使いながら、小笠原の父島と母島を巡ってみた。

新アプリ「めぐるっと」は小笠原旅行の新たな情報源

 小笠原といえば飛行場がなく、船でしか行けない絶海の島々として知られている。定期船「おがさわら丸」による船旅は東京の竹芝から丸々24時間かかるし、週に1~2回ほどしか出航しないため、飛行場のある伊豆大島や八丈島などと比べると年間の観光客数は限られる。

 しかしその分、手つかずの自然が残っているのが島の魅力であり、2011年6月には世界自然遺産にも登録されている。

おがさわら丸

 伊豆諸島などに比べると訪れる人が少ないためか、ガイドブックも多くはないので、小笠原の新たな情報源として、観光アプリ「めぐるっと」が加わったのは旅行者にとって喜ばしいことだ。

 開発元のゴーガは地図を使ったソリューションを提供している企業で、この「めぐるっと」も地図を活かした作りになっている。父島と母島の地図上で観光スポットの位置を確認することが可能で、見たいスポットをタップすると、映像とともに詳細情報が表示される。360度映像が含まれている場合は、画像をタップすると臨場感のある映像を楽しめる。

「めぐるっと」には、さまざまなテーマに沿ってお勧めスポットをまとめた「コース」がいくつか収録されている。3月22日現在、父島のお勧めコースとしては、村営バスを使って回れる「村営バスでめぐる観光名所」、宿や飲食店が集まる大村地区を中心にまわる「街中散策コース」、入場料がかからず小笠原の自然や生き物を学べる「無料で入れる観光施設」、高台からの景色を楽しめる「景色の良い展望台」の4コースが用意されている。

メニュー画面
父島には4コースを収録

お勧めコースを見ながら街中を散策

 筆者は小笠原に行くのが初めてで、現地の観光スポットについてほとんど知識がないため、今回はこの「めぐるっと」を頼りに島内を散策することにした。

 船が父島に到着した旅の2日目、この日は徒歩での移動となるため、「街中散策コース」コースをまわってみる。このコースには、小笠原に生息している魚類などを見学できる「小笠原水産センター」や、二見港のすぐ横に広がる「大村海岸(前浜)」、世界遺産の情報を得られる「小笠原世界遺産センター」など7か所が登録されている。

街中散策コース

 各コースに収録されているスポットは地図を見ながら位置を確認できるため、効率よく巡ることができる。また、施設の詳細が分かりやすく書かれているのに加えて、360度映像で臨場感のある映像を楽しめるので、時間が足りなくて訪れるスポットを取捨選択したいときにも役立つ。

 まずはコースに登録された7つのスポットのなかで、宿から最も遠く離れたところにある小笠原水産センターまで歩いてみる。ここは東京都の水産試験施設で、資源保護や養殖漁業の研究などを行なっている。小笠原に生息しているさまざまな生物を、水族館のような感覚で見学できる。

小笠原水産センター
水族館のようにさまざまな生物を見られる
アカバ(アカハタ)の歯磨きも体験できる(写真提供:小笠原村観光局)

 続いて訪れたのは、大村地区の商店街の後方にある山に建つ大神山神社。長い階段を上がり、神社でお参りをすませてからさらに上へと続く階段を上がると、見晴らしのよい高台に出た。行きに乗ってきたおがさわら丸が停泊する二見港の様子が一望できる。本州の海とは明らかに違う青い海の色を味わいつつ、再び商店街のほうへ降りていった。

大神山神社
神社から登ったところには展望台もある

 小笠原世界遺産センターや小笠原ビジターセンターなどの観光客向け施設を巡っていくと、商工観光会館「Bしっぷ」でおもしろそうな張り紙を発見。おがさわら丸が入港した日の夕方には、近くの展望台にて、小笠原ホエールウォッチング協会による「クジラの陸上観察会」が無料で行なわれるという。会場となる「ウェザーステーション展望台」には2日目に行こうと計画していたのだが、前倒しして行ってみることにした。実はこの展望台は美しい夕日を見られるスポットとしても知られており、「めぐるっと」の360度映像を見て楽しみにしていた。

 大村地区から近いとはいっても、歩いていくにはそれなりに時間がかかる。30分ほど坂を登っていくとようやく到着した。観察会では、ホエールウォッチング協会のスタッフがフリップを見せながらクジラの生態などについてレクチャーしてくれる。また、双眼鏡の無料貸出も行なっており、陸上からでもクジラやイルカが泳ぐ様子をしっかりと眺められる。スタッフの説明を聞きながら双眼鏡でクジラの姿を追っていたら、瞬く間に1時間が過ぎ、辺りが暗くなった。残念ながら雲が多く、極上の夕日は見られなかったので、明日また来ることを誓う。

ウェザーステーション展望台

展望台だらけの父島をクルマでドライブ

 翌日はレンタカーを借りて、「景色の良い展望台」をベースに、「無料で入れる観光施設」で紹介されている施設も織り交ぜて父島全域を巡ってみた。天気は雲が多めで風が強いが、暑過ぎず寒過ぎず実に快適だ。

「めぐるっと」のアプリ自体にはナビ機能は付いていないが、各スポットの詳細ページ下部に掲載された地図をタップするとOSの標準マップアプリが立ち上がり、マップアプリのナビ機能を利用して現地にたどり着けるようになっている。今回はこの機能を使いまくったので、ほとんどの場所には道に迷うことなく到着できた。ただし、途中でときどき携帯電波が圏外になるエリアがあり、そのような場合はナビが止まってしまったが、父島の道路はそれほど複雑ではないので、迷うことはなかった。

「景色の良い展望台」コース
地図をタップするとマップアプリが起動する

「めぐるっと」の地図を見ると分かるが、父島は展望台だらけの島である。島の随所に絶景ポイントがあり、スポットごとに多彩な景色を楽しめる。これらの展望台のなかには、クルマだけで行けるところもあるが、自分の足で登らなければならないところも多く、それなりに体力を使うので、展望台巡りをするときは、ハイキングの服装でリュックを背負っていくことをお勧めする。登っているときは暑くなるが、展望台に出ると吹きさらしの風で冷えるので、何か羽織るものを持っていった方がよい。

 前日にウェザーステーション展望台と、その近くにある三日月山展望台に行ったので、この日は兄島を眺められる長崎展望台からスタートする。続いて島の東側に位置し朝日をきれいに見られるスポットとして知られる旭平展望台、周辺に防空壕などの軍用施設跡がある初寝浦展望台などを次々に訪れた。

長崎展望台
旭平展望台の近くにある防空壕

 どれも素晴らしい景色を楽しめるが、特に気に入ったのはそのあとに訪れた中央山と、小港海岸の近くにある中山峠展望台だ。中央山は父島中央の峰で、展望台からは周囲360度のパノラマビューが楽しめる。残念ながら「めぐるっと」には360度映像が用意されていないが、島を一望できる随一の絶景ポイントだ。

 中山峠展望台は、遠浅で波静かな小港海岸入口付近から登ったところにある展望台で、小港海岸の美しいコバルトブルーの海を楽しめるほか、南島周辺の島を望める、展望台から隣の峰への尾根が続いていて、どこまでも歩いて行きたくなる。ここは「めぐるっと」の360度映像を見て絶対に行こうと思っていたスポットだ。

中央山の山頂付近にある展望台
中山峠展望台。「めぐるっと」に360度映像と見比べてみる

「景色の良い展望台」のほとんどを制覇したので、次は「無料で入れる観光施設」のなかにある東京都の農業研究施設「小笠原亜熱帯農業センター」にも訪れた。小笠原にはここでしか見られない固有植物が存在し、「東洋のガラパゴス」とも言われている。この農業センターでは、小笠原の固有植物や熱帯植物を数多く栽培・展示している。実はここにも展望台があるのだが、残念ながら訪れたときは倒木で立ち入り禁止となっていたため入れなかった。

小笠原亜熱帯農業センター

 このほか、直径約20mの電波望遠鏡アンテナである「VERA小笠原観測局」にも行ってみた。ここは夜間にアンテナがオレンジ色にライトアップされ、ナイトツアーの目玉の1つにもなっている。父島にはこのほかにもJAXAの小笠原追跡所や国土地理院のVLBI観測所など、巨大アンテナがいくつか設置されている。

VERA小笠原観測局

 展望台巡りをしている最中、お昼に大村地区に戻って、「めぐるっと」でお勧めの「島寿司」という店で寿司を食べた。頼んだのは、醤油漬けにした鰆を使った名物の「島寿司」と、アオウミガメの握りのセット「島カメ」というメニュー。島寿司は醤油が染みていてとても味わい深い。小笠原でしか食べられないアオウミガメの寿司も、くさみがなくとても食べやすかった。

島寿司(上)とアオウミガメの握り(下)

 この日は前日よりも天気がよかったため、最後は再びウェザーステーション展望台に行って夕日を見ることに。美しい夕焼けに染まるなか、数多くのクジラが潮を吹く姿はとても幻想的だった。

2日目はきれいな夕日を見ることができた

密林を抜けて日本一南にある故郷富士に登頂

 小笠原に着いて3日目の朝は、「ははじま丸」に乗って母島へと移動した。朝7時30分に出港した船は、2時間後の9時30分に母島の沖港に到着。宿に荷物を置いてからクルマで島を巡ってみた。島は南北に細長く、船が着く沖港は真ん中よりも少し南に位置する。

 3月22日現在、「めぐるっと」には観光スポットとして島内全域の約11か所のスポットが登録されている。今回はこれらの観光スポットを中心に島を1日かけて巡ってみた。母島は、父島よりさらに人が少なく、その分、落ち着いて散策を楽しめる。もちろん、日本離れした素晴らしい景色を楽しめる点は父島と同様だ。

 母島では、沖港付近を中心に散策できる「歩いて行ける観光スポット」の1コースが収録されており、これにはロース石で作られた郷土資料館の「ロース記念館」、ホエールウォッチングもできる「鮫ヶ先展望台」などが収録されている。めぐるっとはリリース以来、順次コースが追加されているので、今後のコース追加に期待したい。

「歩いて行ける観光スポット」

 最初はレンタカーで島の南側を目指した。母島はとにかく山ばかりで、平地がほとんどなく、道路のアップダウンが激しい。坂を上がったり下りたりしながら、あっという間に南端の「南崎ロータリー」に到着した。ここはなんと「都道最南端」である。環境に優しいバイオトイレが設置してある駐車場で、ここからさらに南へ行くためには、自分の足で歩かなければならない。

南崎ロータリー。ここより南へは歩く必要がある。

 密林のなかを歩き、まずは「めぐるっと」に掲載されていた蓬莱根(ほうらいね)海岸に行き、コバルトブルーの海を間近に楽しんだあとは、赤土がスリバチ状に露出した「スリバチ展望台」を通って、最南端の山である「小富士」に登った。

 途中、金属製のハシゴが設置されているほど急な山道で、なかなか足にはきついが、頂上からその苦労に十分見合う素晴らしい景色を楽しめる。日本各地には「富士」と呼ばれる山が数多くあり、それらは「故郷富士」「郷土富士」「ふるさと富士」などと呼ばれているが、この「小富士」は日本一南にある故郷富士だそうだ。毎年、「日本で最も早い初日の出登山」がここで行なわれているという。

蓬莱根海岸
スリバチ展望台
小富士の頂上からは大パノラマを楽しめる

 しばらく絶景を楽しんだあとは駐車場へ戻り、今度は島の北端の入江である「北港」を目指す。沖港近くの集落を過ぎると道路が狭くなるが、クルマ通りがほとんどないので運転のストレスはなく、快適なドライブを楽しめる。父島も同様だが、小笠原のドライブはとても楽しい。美しい海と山を見ながらスピードを出さずのんびりと走っているだけで心が無になり、北港にたどり着くまでの約30分はあっという間に過ぎた。

 北端にはかつて北村という集落があり、戦時中に強制疎開が行なわれる前は約600人が暮らしていたとか。近くには海軍によって建立された「北港忠魂碑」や、明治20年(1887年)に開校した「北村小学校」の門柱などが残る。このほか島の北部には、旧日本軍の高角砲や、探照灯や電源車の残骸が残されている基地跡などの戦跡もある。

 これらのスポットに立ち寄りつつ、沖港周辺に戻り、お勧めコースで紹介されている郷土資料館「ロース記念館」や、沖港近くの「脇浜なぎさ公園」のなかにある「鮫ヶ先展望台」を巡ってみた。この展望台は標高こそ低いものの、その分だけ海面に近く、海の美しさを間近に眺められる。海面をボーッと眺めながら展望台に立っていたら、瞬く間に時間が過ぎていった。

北港の休憩所
北村小学校跡
戦時中の高射砲
母島の南北を結ぶ道路
脇浜なぎさ公園
鮫ヶ先展望台
コバルトブルーの海
ロース記念館

 翌日の昼に再び「ははじま丸」で父島に戻り、東京行きの「おがさわら丸」に乗り換える。父島から「おがさわら丸」が出航するときは圧巻だ。帰る人たちのために小笠原太鼓が鳴り響き、島民が総出で見送りをしてくれる。この盛大な見送りを見たときに、「また来たい!」と強烈に思った。父島では時間がなく見ることができなかったスポットがいくつかあるし、母島では乳房山とか石門とか、もっといろいろな山に登ってみたかった。後ろ髪を引かれながら島をあとにした。

盛大な見送り

 今回はダイビングなどのアクティビティは行なわなかったが、「めぐるっと」に登録されたスポットを巡るだけでも小笠原の旅は十分に楽しめる。海や空の色が本州と全然違っていて、これはアプリの360度映像を見るだけでも十分に伝わってくるが、やはり実際に現地に行くと迫力が段違いだ。「めぐるっと」に収録されている映像を見て小笠原に興味を持ったら、ぜひ一度訪れてみていただきたい。筆者のようにもう一度行ってみたくなること請け合いだ。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。