旅レポ

「白霧島」や「黒霧島」の霧島酒造で芋掘り体験や焼酎の仕込みを見学してきた

地元・宮崎県都城市市長も「霧島酒造の市への貢献に感謝」

本格焼酎メーカー霧島酒造が本社のある宮崎県都城市でプレスツアーを実施した(芋の収穫時期は8月から11月ごろ)

 松坂桃李さんや横綱・白鵬関のテレビCMでおなじみの本格焼酎メーカー霧島酒造。「白霧島」や「黒霧島」などの本格芋焼酎のほか、麦や蕎麦焼酎、最近ではクラフトビールの醸造も行なっているが、その霧島酒造が本社のある宮崎県都城市において工場見学や企業の取り組みを紹介するプレスツアーを2016年10月5日~6日に実施した。

 記者も発酵の熱気あふれる仕込みの見学や、土にまみれた芋掘りなどを体験してきたので、その様子をレポートする。

焼酎の原料になるサツマイモ「黄金千貫」の芋掘り体験

霧島自然農園でサツマイモの芋掘り体験。好天に恵まれたものの、霧島山の方面は残念ながら雲が多く姿を拝むことはできなかった

 霧島酒造の芋焼酎用のサツマイモは、南九州エリア約2000軒の農家によって生産されている。「白霧島」や「黒霧島」に使用しているサツマイモは「黄金千貫(こがねせんがん)」という品種で、生産農家の森博幸氏の畑で「黄金千貫」の芋掘りを体験した。

 サツマイモを育てる土壌は肥沃というよりサラサラと水はけのよい土が合っているため、南九州のシラス台地は美味しいサツマイモを生産する土地として適しているという。

芋焼酎の原料に使用するサツマイモ「黄金千貫」について説明する霧島酒造株式会社 製造部の本部(ほんぶ)恭平氏
サツマイモと土壌の関係、収穫方法などについて説明する生産農家の森博幸氏

 遅霜の被害に遭わないよう、ビニールハウスで育てた苗を春に畑に植え付けて、約4カ月後に収穫となる。収穫時期は8月から11月ごろ。収穫にはトラクターを使うが、サツマイモがどうやって土の中で育っているかを見るために、手で芋掘りをしてみることになった。地面にはサツマイモの茎が少し見えていて、その周囲を少しずつ掘り下げていくと、サツマイモが姿を現わす。サラサラとした土壌なので、女性でも簡単にサツマイモがある深さまで手で掘り進めることができる。

トラクターを使った芋掘り。黄金千貫が土の中から姿を現わす
普段はトラクターで収穫しているのですが、せっかくなので自分の手で掘ってみましょうということに
土質はサラサラとしているので、手で簡単に掘り進めることができる
収穫!!

 黄金千貫は焼酎の原料に使われるほかにもちろん食べることもでき、現場では「がね」と呼ばれるかき揚げにしたものが振る舞われた。「がね」は都城市の郷土料理で、サツマイモをそのほかの根菜などとともに細長く切り、衣をまとい油で揚げたもの。火が通ることでサツマイモの甘みが増し、揚げたては外側のサクサク感と内側のホクホク感を同時に楽しめる美味しい一品だった。

黄金千貫を使った郷土料理「がね」が振る舞われた

人の力の継承とオートメーション化によって、質と量両面での安定化を実現

 霧島酒造には本社工場、本社増設工場、志比田工場、志比田増設工場があり、記者は本社増設工場での芋焼酎の製造工程を見学した。

霧島酒造の本社増設工場

 酒づくりといえば焼酎にしろ日本酒にしろ、従来はノウハウを持つ杜氏(とうじ)を中心に仕込みを行なうものだったが、安定した品質・味で商品を提供するため、杜氏のノウハウを再現できるオートメーション化を進めている。

 ただし、焼酎づくりに必要な酵母菌の増殖などは気象条件によって変化する繊細なものであるため、経験豊富なスタッフの力が必要になる。その人の力の継承とオートメーション化によって、質と量両面での安定化を実現している。

芋焼酎の製造工程を説明する霧島酒造株式会社 製造部の益田孝一氏

 芋焼酎は原材料のサツマイモと米麹の2ラインで仕込みが進み、途中で合わさり蒸留、貯蔵・熟成、ブレンドを経て商品となる。

 サツマイモは収穫時期になると1日85トン単位で工場へと運び込まれてくる。このサツマイモを洗浄し、ベルトコンベアで移動しながら品質に悪影響のある不良のイモを人の目で取り除いていく。選別工程を経たサツマイモは、中心温度が91℃になるようにして約1時間かけて蒸し上げられる。

 一方米麹は、原料米の洗浄、浸漬、水切り後、「外硬内軟」の状態に蒸し上げる。蒸し上げ後は冷まされて「製麹」という工程に入り、自動製麹装置で麹菌が加わり約42時間寝かせる。

 その後「一次仕込み」として「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」と呼ばれる地下水と酵母菌が加わり5日間寝かされて「酒母」と呼ばれる「1次もろみ」ができあがる。

搬入される原材料のサツマイモ。多いときには1日約85トンのサツマイモが運び込まれる
サツマイモは洗浄、選別を経て約1時間かけて蒸し上げられる
原料米の洗浄、浸漬、水切り後、「外硬内軟」の状態に蒸し上げる
「一次仕込み」として「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」と呼ばれる地下水と酵母菌が加わり5日間寝かされて「酒母」と呼ばれる「1次もろみ」ができあがる

 この酒母に蒸したサツマイモと、霧島裂罅水を加え約8日間で「2次もろみ」となり、これを蒸留することで原酒ができあがる。原酒をステンレス製のタンク(商品のよっては木製の樽や甕壺)で貯蔵して熟成後、ブレンダーによって商品にするために原酒がブレンドされ、瓶詰め・パック詰めされる。

酒母に蒸したサツマイモと、霧島裂罅水を加え約8日間で「2次もろみ」となる。発酵が進みアルコールのほのかな香りとともに発熱していることも感じる
蒸留して原酒となり、貯蔵・熟成後にブレンダーによって原酒がブレンドされ商品となる
1800mLパック商品のパッケージライン
パッケージラインについて説明してくれた霧島酒造株式会社 ボトリング本部の豊丸賢吾氏

焼酎の製造過程で発生した「芋くず」などは工場内の発電システムや飼料・堆肥へとリサイクル

霧島酒造の環境への取り組みについて説明する霧島酒造株式会社 グリーンエネルギー部の下石義仁氏

 霧島酒造には「グリーンエネルギー部」という部署があり、リサイクルにも取り組んでいる。芋焼酎の製造過程では、1日に約650トンの「焼酎粕」と約10トンの「芋くず」が発生するが、それらを処理するためのリサイクルプラントを設けて対応している。

 まず、発生した焼酎粕や芋くずはメタン発酵装置に送られ、メタンガス(バイオガス)を発生させる。得られたガスの一部は焼酎製造工程の蒸気ボイラーの熱源などとして使われ、乾燥した焼酎粕は飼料の原料となり業者へ販売している。これらの過程で発生したすべての排水は浄化されてから下水道へ流されたり、プラント内で再利用されたりしている。こうして工場から出るゴミを限りなくゼロに近いものにしている。

 また、2014年9月からはバイオガスによる発電と売電を開始している。発生したバイオガスはボイラー熱源の余剰分をほぼ100%活用して、年間約700万kWhの電気を生み出し、リサイクルプラントの電力の一部と、九州電力への売電に充てている。

工場敷地内にあるリサイクルプラント
焼酎製造の過程で「芋くず」は1日約10トン発生する
発生した焼酎粕や芋くずからエネルギーや飼料を生み出している

霧島ファクトリーガーデンで「霧島酒造のブランド価値」を最大限に体験していただくことが大きな使命

霧島ファクトリーガーデンの施設について説明してくれた霧島酒造株式会社 霧島ファクトリーガーデン事業部 支配人の冨吉健一氏

 霧島ファクトリーガーデンは、志比田工場敷地内にあるグラウンド・ゴルフ場、レストラン、工場見学などの設備からなる複合施設で年間約43万人が訪れているという。

 創業80周年の1996年に樫樽貯蔵庫と多目的ホールを併設した「霧の蔵ホール」が落成したことから始まり、1998年に「産業・文化・ふれあいの施設が融合したガーデンパーク」として霧島ファクトリーガーデンと命名。クラフトビール醸造施設とレストランが併設した「霧の蔵ブルワリー」、霧島裂罅水を育む都城市の地理や黄金千貫といったサツマイモについてなどを学べる「霧の蔵ミュージアム」、創業時の社屋を移築した「霧島創業記念館 吉助」、パンの製造販売を行なう「霧の蔵ベーカリー」などを見学、利用できる。霧の蔵ブルワリーのショップでは、焼酎やクラフトビールはもちろん、ショップ限定のアルコールやオリジナルグッズ、南九州産品などを多数取り揃えており、お土産を探すのにも便利だ。

 担当者は「この施設を通じて、焼酎文化、食と健康、そして仲間とともに楽しんでもらうという『霧島酒造のブランド価値』を最大限に体験していただくことが大きな使命」と語り、その一環として敷地内には霧島裂罅水の水汲み場もあり、営業時間内であれば誰でも無料で持参した容器に霧島裂罅水を汲んで持ち帰ることができる。

霧の蔵ブルワリー内のショップ。焼酎やクラフトビールはもちろん、ショップ限定のアルコールやオリジナルグッズ、南九州産品などを多数取り揃えており、お土産を探すのにも便利だ
霧の蔵ブルワリーではオリジナルのクラフトビールを購入できるほか、夏期にはビアガーデンも営業する
霧島裂罅水を育む都城市の地理や黄金千貫といったサツマイモについてなどを学べる「霧の蔵ミュージアム」
霧島周辺の地形を表現した模型。中央上にあるのが霧島山で、右に広がる平地が都城市の盆地
盆地の地形に地下水が集まり霧島裂罅水となった
サツマイモのルーツや種類について
創業時の社屋を移築した「霧島創業記念館 吉助」
創業当時の様子が再現されている
霧島裂罅水の水汲み場。営業時間内であれば無料で汲むことができ、地元の人たちが絶えず訪れていた
霧島ファクトリーガーデン

所在地:宮崎県都城市志比田町5480番地
営業時間:
[霧の蔵ブルワリー]工場見学11時~/13時30分~、ショップ9時~21時、レストラン(昼の部)11時~15時(ラストオーダー14時30分)、ティータイム14時30分~17時、レストラン(夜の部)17時~21時30分(ラストオーダー21時)、ビアガーデン(6月上旬~9月中旬)18時~21時30分
[霧島裂罅水の泉]9時~18時
[霧の蔵ホール]9時~21時
[霧の蔵ミュージアム]11時40分~/14時10分~
[霧島創業記念館 吉助]9時~17時
[グラウンド・ゴルフ場]9時~17時
TEL:0986-21-8111(9時~17時)
Webサイト:霧島ファクトリーガーデン

霧島酒造が国内本格焼酎メーカーで売上高1位に

霧島酒造株式会社 代表取締役専務 江夏拓三氏

 代表取締役専務の江夏拓三氏が霧島酒造を紹介する時間が設けられた。霧島酒造は初代・江夏吉助氏が1916年5月に「川東江夏商店」を開業し、焼酎の製造を開始。1949年4月に「霧島酒造株式会社」を設立、二代目・江夏順吉氏が社長に就任する。ちなみに江夏順吉氏は、江夏拓三氏や代表取締役社長の江夏順行(よりゆき)氏の父。

 二代目・江夏順吉氏は学者肌、「創意と工夫の学究者」だったそうで、この時代に霧島酒造の酒類に重要な役割を果たす霧島裂罅水の掘削、採用が始まっている。また、当時は新式の蒸留方法を「焼酎甲類」、旧式の蒸留方法を「焼酎乙類」と呼ぶことから焼酎甲類が優れているような誤った印象があったが、江夏順吉氏が原材料の風味をより楽しめる「焼酎乙類」を「本格焼酎」と表示することを提唱したという実績もある。

 江夏拓三氏が中心になって開発を進めた「黒霧島」は2000年ごろから売れ始め、その伸張とともに霧島酒造の業績も拡大。2012年からは国内本格焼酎メーカーで売上高1位となっている。

初代・江夏吉助氏
二代目・江夏順吉氏

霧島酒造とのタッグを強め「南九州のリーディングシティの確立」を目指す

都城市 市長の池田宜永(たかひさ)氏は地元出身。市のPRキャラクターであるぼんちくんとともにごあいさつ

 プレスツアーの途中には宮崎県都城市 市長の池田宜永(たかひさ)氏が、都城市と霧島酒造に関わりについてあいさつする場があった。

 都城市は「日本一の肉と焼酎」をテーマに地域の魅力を発信しており、そのうちの1つ「焼酎」について、具体的には法人税など市の財政への貢献、霧島裂罅水の無料提供や雇用の創出など市民への貢献が大きく、感謝しているという。

 全国的にネームバリューのある霧島酒造があるのは都城市である、つまり「黒霧島=都城」であることを広め、「南九州のリーディングシティの確立」を目指すためにも、今後も霧島酒造とのタッグを強め、地方創生を実現していきたいとのこと。都城市の「ふるさと納税」も霧島酒造の協力を得て納税額が500倍以上になったそうだ。

市内の飲食店や酒屋では、黒霧島や白霧島はもちろん、「吉助」などのハイブランドも頻繁に見かける

 霧島ファクトリーガーデンでは地元の人がふらっとクルマでやってきて、霧島裂罅水を容器に汲んでいく姿が見られ、飲食店には黒霧島など霧島酒造の商品が多く並び、地元に根ざした親しまれる企業であることを感じた。

 これまでの黒霧島・白霧島に加え、紫芋を使った「赤霧島」や、米麹ではなく芋麹を使い創業者の名を冠した「吉助<白>」「吉助<黒>」「吉助<赤>」の展開など、売上高全国1位になっても進化を続ける霧島酒造の今後がとても楽しみだ。

編集部:稲葉隆司