旅レポ
ルーベンスからモンドリアン、ミッフィーまで! アートに触れて美食に酔いしれるオランダ&ベルギーの旅(その3)
アントワープの名所めぐり、後編
2017年10月30日 11:00
アントワープの街歩きレポート、後編は“これぞアントワープ”という定番の見どころ満載でご紹介します。出発前夜にアニメ「フランダースの犬」の第1話と最終回を見直して臨んだ今回の旅。ネロとパトラッシュゆかりの地は芸術にあふれていました。
ネロが最期に観た2枚の絵はココ! アントワープのシンボル・聖母大聖堂
アントワープはバロック絵画の巨匠ルーベンスが活躍した街。ルーベンスと言えば「フランダースの犬」の少年ネロが憧れた画家であり、涙なくしては見られないラストシーンでネロが最期に見ることができた有名な2枚の絵を描いた人です。その絵が飾られている聖母大聖堂は1352年(日本は室町時代!)から約170年かけて建てられたゴシック建築の教会。123mの鐘楼は世界遺産にもなっていて、その姿はアントワープの街中なら大抵の場所から見えるランドマークとなっています。
ここでアニメ「フランダースの犬」の最終回をおさらいしましょう。普段はカーテンがかかっていて見ることができなかったルーベンスの絵。なぜなら昔はお金を払わないと見られなかったからです。しかしクリスマスイブの夜はカーテンが開いていて、ネロは吸い込まれるようにして絵の前に立ちます。まずは「キリスト昇架」を、次に数メートル右の「キリスト降架」を。そして絵を見上げながら言います。「とうとう! とうとうぼくは見たんだ! なんてすばらしいんだろう。あぁ、マリア様ありがとうございます」……その先はご存知のとおり思い出すと涙が止まらなくなるのでこのへんで。
2枚の絵はネロが見たとおり、左に「キリスト昇架」、右に「キリスト降架」が飾られています。“あっちからこっちにたったったっと走ってきたんだなぁ”とアニメと同じアングルで眺めると感慨もひとしお。これぞ究極の聖地巡礼ですわ。ネロと同じく感動で胸いっぱいになって外に出ると、広場の石畳に突如として盛り上がる一角が。これが2016年に造られたネロ少年とパトラッシュの像です。
ルーベンスを極めたいなら「ルーベンスの家」へ
聖母大聖堂でルーベンスの傑作を鑑賞したら、お次は徒歩10分ほどの所にある「ルーベンスの家」へ。ここはルーベンスがイタリアから帰国後、亡くなるまで約30年間暮らした自宅兼アトリエで、彼自身が設計したという歴史ある建物です。ルーベンスの作品はもちろん、たくさんの収集品も展示されていて見応えがあります。
見学は住居として使われていた建物からスタート。ダイニングルームや寝室、家事室など、ルーベンスの作品が飾られている各部屋を回ると、17世紀当時の上流階級の人の暮らしが垣間見えます。
続いてアトリエとして使われていたバロック建築の建物へ。教会や君主といった大パトロンを多く持つ売れっ子画家だったルーベンスは、この場所でたくさんのお弟子さんたちとともに膨大な数の作品を制作しました。外交官としての顔も持つルーベンスを訪ねて、ヨーロッパ中から数多くの著名人がやってきたそうですよ。
ルーベンスの家
所在地:Wapper 9-11, 2000 Antwerp, Belgium
Webサイト:ルーベンスの家
小じんまりしていて居心地のいい「ロコックスの家」でコレクションを鑑賞
ここは17世紀前半のアントワープ市長ニコラス・ロコックスさんという人の邸宅だったところ。現在は絵画や調度品など収集家だった彼のコレクションを展示する美術館になっています。ルーベンスとも大親友だったというニコラス・ロコックス。先ほど紹介した聖母大聖堂の「キリスト降架」は当時市長だった彼の発注なのだとか。
ロコックスの家
所在地:Keizerstraat 10-12, 2000 Antwerpen, Belgium
Webサイト:ロコックスの家(英語)
ルーベンスも手がけた聖カロルス・ボロメウス教会
ルーベンスつながりでもう1つ。聖母大聖堂から400mほどのところにある聖カロルス・ボロメウス教会は、ルーベンスが正面の外観や内部の装飾を手がけたとされるイエズス会の教会。画家としてだけではなく、建築の分野でも名を残しているルーベンス、すごい!
この教会、かつては天井にルーベンスや彼の弟子で、のちにイタリアで活躍したヴァン・ダイクの作品がありましたが、雷による⽕事で消失してしまったのだそう。しかし最近になって朗報が。この教会の祭壇のために描かれ、18世紀以降、長らく行方不明だったルーベンス作「聖家族のエジプト逃避」が最近発見され、近々戻ってくるのだそうです。
世界でもココだけ! めずらしい印刷博物館
プランタン・モレトゥス印刷博物館は、ユネスコの世界遺産に指定されている活版印刷の博物館。ベルギーの印刷技術の歴史は古く、16世紀ごろ黄金時代を迎えるのですが、その第一人者といえるのが博物館の名前にもなっているクリストフ・プランタンさん(ちなみにモレトゥスは娘婿の名前)。ここでは活版印刷の機械や道具類のほかに、豪華な調度品や肖像画で飾られる私邸も見学できます。ちなみにこのプランタン・モレトゥス家ともルーベンスは親交が厚かったのだとか。ここにも上流階級の輪がっ! というか、どの業界にも顔が利くルーベンスの大物っぷりを実感!
プランタン・モレトゥス印刷博物館
所在地:Vrijdagmarkt 22, 2000 Antwerp, Belgium
Webサイト:プランタン・モレトゥス印刷博物館(英語)
アントワープ港湾局の本社“ポートハウス”のかっこよさ
ここからはアントワープの建築スポットをいくつかご紹介します。街の北側の運河近くにある斬新なデザインの建物はアントワープ港湾局の本社ビル。手掛けたのは世界的に有名なザハ・ハディド建築事務所です。
下の部分は以前消防局として使われていた建物で、新しく造られた上部は角度を微妙に変えたガラスで覆われています。青空や雲、そして水辺のきらめきまでも反射して、まるで光る巨大な宝石みたい! そうなのです。これはアントワープの重要な産業“ダイヤモンド”に敬意を表わしているのですね~。ガイドツアーもやっているので建築に興味のある方はぜひ!
アントワープ港湾局ポートハウス
所在地:Zaha Hadidplein 1, 2030 Antwerpen, Belgium
Webサイト:アントワープ港湾局ポートハウス(英語)
屋上の展望スペースがオススメ! MASミュージアム
ポートハウスからそれほど遠くないところにもう一つ現代建築でオススメの場所があります。それがMASミュージアム。港町のコンテナをイメージしているという茶色のどっしりとした建物は遠目からでも目立つ斬新なデザインです。眺めのよい屋上デッキは美術館の営業時間外でも無料開放しているのだとか。ここから見る夜景もよさそう!
MASミュージアム
所在地:Hanzestedenplaats 1, 2000 Antwerp, Belgium
Webサイト:MASミュージアム(英語)
アントワープ市裁判所
イギリスの建築家リチャード・ロジャースの設計、船の帆をイメージしているという三角屋根が特徴というこちらの建物もアントワープの近代建築物巡りには欠かせない場所の一つです。東京ビッグサイトみたいなイベント会場かと思ったら、なんとアントワープ市の裁判所! 「ぇぇえ!? 裁判所!?」と二度聞きしてしまいました。フツー裁判所って……という常識を覆されるのが面白い、アントワープの近代建築群なのです。
アール・ヌーヴォー建築が立ち並ぶ高級住宅街を散策
近代的建築をいくつかご紹介したところで、時代を一気に遡ってみましょう。景観保護地区に指定されているズーレンボルグ・ベルヘム地区には、約100年前のアール・ヌーヴォー全盛期に建てられた個性的なおうちが軒を連ねています。思わずテーマパークを歩いているかと錯覚してしまうほど。高級車が停まっていたり、庭や出窓のお花がしっかり手入れされているところで「あぁ、人が住んでいるんだなぁ」と感じました。
アントワープの街なかにひっそりと佇むステキな小径
アントワープの街のど真ん中に、かつて貧しい人々が暮らしていたという古い一角がそのまま残っている場所があります。その名も「ブラーイケンスガング」。1人だったら絶対に躊躇しちゃいそうな入り口を進むと、別空間にワープしたかのよう! 正真正銘“隠れ家”的なレストランやカフェがあってとってもよい雰囲気。来た道を引き返すのではなく、そのまま進んで再びどこかの裏通りに出ました。ガイドさんについて行ったので入り口をはっきり覚えていないのですが、たぶんココ。
Goole Mapで「Oude Koornmarkt16」と入力すれば入り口付近が出てきますのでぜひ探してみてください。
スヘルデ川を渡るトンネルに向かう木製エスカレーターがすごかった!
アントワープを流れるスヘルデ川には地下通路「St Anna Tunnel(セント アナ トンネル)」があって、川を横断して対岸へ行くことができます。そのトンネルへはエスカレータで降りるのですが、そのエスカレータがなんと木製! レトロっぷりがたまりませんでした。
エレベータもあるのですが、これもまた古くて巨大。そのぶん動きが遅いからなのか、ほとんどの人は木製エスカレーターを使っているように見えました。
アール・ヌーヴォー好きにはたまらない聖ウルスラ修道院のガイドツアー
アントワープとブリュッセルの中間あたりにある街メッヘレン。その郊外にある聖ウルスラ修道院を訪ねました。ここは1900年ごろに建てられ上流階級の女子生徒が暮らしていた寄宿学校。アール・ヌーヴォー全盛期だった当時の装飾芸術を間近に見ることができます。英語とオランダ語のみですが、ガイドツアーも可能です。
聖ウルスラ修道院
所在地:vzw Wintertuin OLV-Waver, Bosstraat 9, 2861 Onze-Lieve-Vrouw-Waver, Belgium
Webサイト:聖ウルスラ修道院(英語)
オランダの中にベルギー領土!? 国境だらけの街バールレ・ナッソーが面白い
ベルギーからオランダへの移動中、バールレ・ナッソーという面白い街に立ち寄りました。この街があるのはオランダなのですが、街のところどころにベルギー領土の飛び地が点在しているという国境だらけの街なのです。
なかにはその飛び地のなかにオランダの飛び地があったりするというハチャメチャっぷり。どうしてこんなことになっちゃったのか? という歴史はかなり古くて12世紀末まで遡るそうで、きっといろいろ面倒なことが繰り返されてきているんだろうなぁ~というのが島国ニッポン出身ゆきぴゅーの感想でした。なかなかやる機会のない“国境を自分の足で超える”体験ができて楽しかったです。
前編、後編でお送りしたアントワープの街めぐりでしたが、私が一番心に残っているのはやっぱり街のシンボルである聖母大聖堂の姿です。クリスマスイブの夜、賛美歌をBGMにネロとパトラッシュが天使に導かれながら天国に上っていくあのラストシーンを想像しながら撮った1枚を最後にお見せして、ベルギー・アントワープ編はこれにておしまい。
次回はいよいよオランダ編。ミッフィーのふるさとユトレヒトに、ハーグ、ロッテルダム、アムステルダムと各都市でたっぷりアートに浸ってきました。お楽しみに~♪