インタビュー
いつものクレジットカードで電車やバスに、地方から広がるVisaのタッチ決済
2021年1月29日 12:06
都市部の公共交通機関ではSuicaをはじめとする交通系ICカードの利用が一般的になっているが、地方では導入コストなどの課題もあり、なかなか全国隅々まで利用できる状況にはなっていない。
キャッシュレス決済への対応が国策として掲げられるなか、いつも使っているクレジットカードやデビットカードで、もっとスムーズに電車やバスに乗れるようにはならないものか――そんな課題の解決にチャレンジしているのが、ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)だ。
公共交通機関で少しずつ広がる「Visaのタッチ決済」の利用シーン
Visaでは、「Visaのタッチ決済」という名称で一般の加盟店向けのNFC方式(ISO14443 Type A, Type B)の非接触決済サービスを一足先に実現していたが、東京オリンピックが開催される2020年をターゲットに公共交通機関での非接触決済サービスの実現に取り組んできた。
そして、国内の公共交通機関で同サービスが利用できるようになったのは2020年7月29日、茨城交通の高速バスだった。その後、9月28日には岩手県北バス、10月28日には福島交通・会津バスと、立て続けに地方のバス会社で導入。さらに、11月25日には京都丹後鉄道で距離制運賃に対応するソリューションが組み合わせて導入され、利用シーンが少しずつ拡大している。
昨年には福岡市市営地下鉄で乗り放題きっぷの実証実験に採択されたが、新型コロナウイルスの感染拡大もあって実施が見送られ、改めて実施に向けて準備が進められているほか、今春には南海鉄道が改札機をVisaのタッチ決済に対応させて実証実験を行なうことになっている。
同社 デジタル・ソリューション ディレクターの今田和成氏は、「当初は交通系ICカードが普及している日本において、本当に公共交通機関での(Visaのタッチ決済への)ニーズがあるのか、という疑問もあった」と振り返る。
同氏によれば、さまざまな事業者と話をするなかで、交通系ICカードが普及していない地方の事業者が個別に課題を抱えていることが分かった。また、実際に海外からの観光客と話をするうちに、Visaのタッチ決済が交通系ICカードを補完するとともに、公共交通機関のキャッシュレス化を加速するという役割を見出すに至ったという。
たしかに普段使っているクレジットカードでそのまま電車やバスに乗車できるというサービスのメリットは、勝手がわからない観光客にとって大きく、とりわけ言葉の壁もある外国人観光客にとって嬉しい話だ。移動に対する障壁を取り払い、行動範囲を広げることで、観光客の流動性を高めれば、観光産業全体の振興にもつながるはずだ。
先行する海外の国際観光都市
実際、海外の大きな観光都市では、すでにタッチ決済の導入が進んでいる。
最もわかりやすいのはロンドンで、2012年のオリンピック開催をきっかけに地下鉄やバスでの導入が進んでいった。そもそもロンドンの公共交通機関では、「Oyster Card」なる非接触ICカードがすでに導入されていたが、Visaのタッチ決済にも追加で対応。事業者が券売機などにかかっていたコストを削減できた一方で、事前のチャージが不要で、スマートフォンやスマートウォッチなどでも利用できることから、観光客をはじめとする利用者にも大きな利便性をもたらした。
このほか、シンガポールやニューヨークなどでも公共交通機関でタッチ決済が利用できるようになっている。日本と比べると、これらの都市で使われている券売機や改札機では、往々にして何度やっても紙幣や磁気カードを読み取らないというメカニカルな面でのトラブルに直面するケースもあった。タッチ決済に対応することで、券売機の利用を省略しつつ、改札機のスワイプエラーのリスクを取り払うことが可能となり、事業者と利用者の両方にメリットが生じた。
さらに、公共交通機関以外でも、街中での食事や買い物を含め、店員に「Visaで」と伝え、リーダーにタッチするだけで過ごせる環境が整ってきている。一定金額までであればサインやPINコードの入力も不要で、素早くスマートに決済が完了するのも魅力の一つだろう。
ちなみに、自分が持っているクレジットカードがこうしたタッチ決済に対応しているかどうかは、カードの券面上にタッチ決済対応マークがあるかどうかで確認できる。つまり、このマークが付いていれば、旅先での移動をスマートに行なえる可能性が広がっていくということだ。手持ちのカードが非対応という方は、旅行前に対応カードに切り替えるなどの手続きを済ませておこう。
あらゆる場面でタッチ決済を
国内でもイオンやマクドナルドなどの店舗においては、「Visaで」と伝えれば、Visaのタッチ決済が利用できる……はずなのだが、店員教育が追いついていないのか、時折カードリーダーへの挿入を求められることもある。
このため、Visaでは大型加盟店に対して磁気・接触IC・非接触の“3面待ち”を基本のオペレーションとするように推奨しているという。クレジット決済を選択すれば、スワイプ・挿入・タッチのすべてのインターフェイスを待受状態にし、方法を利用者に委ねるというスタイルだ。
ただし、先行して普及しているFeliCa系のタッチ決済や、近年成長が著しいQRコード系の決済システムとはオペレーションを切り分ける必要がある。すべてを自動的に認識して処理できるようにするには、業界の壁を超えて調整を行なう必要があるため、もう少し時間がかかるものと思われる。
また、未成年の扱いも課題の一つ。Visaのタッチ決済に対応したプリペイドカードも用意されているので、一般的な加盟店では問題にはならない。しかし、小児運賃が設定されている公共交通機関においては対処が難しく、現時点では国内では未対応となっている。この点については、今後、オペレーションなどのプロセスの整理が完了すれば、システム上は設定や導入が可能だという。
さらなる普及に向けての課題は残されているものの、今田氏は「入場ゲートを応用することで映画館や動物園などへの導入も可能で、割引を含め、MaaSにつながる取り組みとして次のフェーズで挑戦していきたい。Visaだけでなく、スマートワレット協会など業界全体で議論していく」としており、タッチ決済対応マーク付きのカードがさまざまな場面で使えるようになることに期待したい。