イベントレポート

【パリ航空ショー 2019】JALも登壇したBoomの超音速旅客機記者会見。試験機「XB-1」は2019年12月ロールアウト

「JALが名乗りを上げることで開発気運を高められる」とJAL 森田氏

2019年6月18日(現地時間)実施

米Boom Supersonicがパリ航空ショーでプレスカンファレンスを実施

 フランス ル・ブルジェ空港で6月17日~23日(現地時間)、世界最大級の航空展示会「パリ航空ショー(International Paris Air Show)2019」が開催されている。

 米Boom Supersonicは6月18日(現地時間)、会場でプレスカンファレンスを開き、同社が開発する超音速旅客機の進捗について説明した。BoomにはJAL(日本航空)が2017年12月に1000万ドルの出資を行なっており、定期航空運送事業者としての視点で技術仕様のサポートを実施しているほか、将来的な優先発注権も保有している(関連記事「JAL、超音速旅客機開発企業と約11億円の資本業務提携。20機の優先発注権も」)。

Boom Supersonic Founder&CEO Blake Scholl氏

 Boomは現在、同社が「Overture」と呼ぶ本番機のための3分の1サイズの試験機「XB-1」を開発しており、12月のロールアウトを目指している。その後、2020年に試験飛行、2021年にOvertureの製造を開始するという。

 試験機XB-1のシートは2席のみ、3機のGE J85-15を搭載し、洋上をマッハ2.2(時速2335km)で飛行する。本番機Overtureはシート数55~75席、マッハ2.2、巡航高度は6万フィート(約1万8000m)というスペック。

 プレゼンのなかでBoom Supersonic Founder&CEOのBlake Scholl氏は、開発に航空機シートなどを手がけるJPA Design、グループに航空機メーカーを擁するソフトウェア企業ダッソー・システムズ(Dassault Systemes)、3Dプリンタメーカーのストラタシス(Stratasys)などが参画していることを挙げ、開発が順調に進んでいることをアピールした。

Boomによるインフォグラフィック。コンコルドとの比較
Scholl氏が示したスライド

 ゲストとして登壇したJAL イノベーション推進本部 事業創造戦略部 事業戦略グループ グループ長の森田健士氏は、なぜJALがBoomのパートナーとなったのかを話したいと切り出し、「超音速旅客機は日本と世界の距離を縮め、飛行時間が短くなることは新しい価値を生み、JALはそれを顧客に提供できる。この新しい価値を生むには、これまでと異なるアプローチとプロセスが必要で、Boomとは高品質な顧客サービスを旨とする航空会社の視点から協力している」と説明した。

日本航空株式会社 イノベーション推進本部 事業創造戦略部 事業戦略グループ グループ長 森田健士氏

JAL イノベーション推進本部 事業創造戦略部 森田健士氏に聞いたBoomの超音速旅客機

 会見後、森田氏が取材に応じた。

――登壇後、今の気持ちは?

森田氏:パリ航空ショーという世界的な舞台で、我々がアレンジをしているということを話せるというのはなかなかない機会ですし、非常にエキサイティングでした。

――ローンチにどのくらい関わっているのか?

森田氏:2017年12月に資本提携という形で出資をして、彼らが開発をしていく段階で技術的なサポートをするという契約。開発のプロセスに合わせて我々が関わる部分が増えていく。現地に我々の部門が足を運んだり、Boomの技術者が来日して我々を見学したりと、現状はこんな状況。

 今年できて来年飛ばすのは、デモ機の「XB-1」。今年無事に開発が終わって来年飛ばすことができれば、そのデータをもとに彼らが本番機である「Overture」を作ることになっている。

――さらに提携を深める予定は?

森田氏:現時点では我々が一番に名乗りを上げて彼らを積極的に応援していくというスタンス。我々のような航空会社が、航空機ができる前から名乗りを上げることで、例えばエンジンメーカーやパーツメーカーが、「エアラインが興味を持っているならBoomと一緒に開発してみよう」という気運を高めることもできる。

 さらに資本を投入といったことは考えていないが、彼らが航空機を仕上げていく段階で、実オペレーションの部分、「商業飛行をやっているエアラインはこういうところを気にする。JALは安全面でこんなところを気にしている」というようなことをインプットすることで、仕上がりに貢献できるのでは。

――運賃はビジネスクラスの1.5倍くらい?

森田氏:最終的に価格はお客さまが決めるもの。彼らが提供するデータに基づけば、十分既存の運賃体系+αのなかでやっていけると試算を出している。専門的な分析は必要で、何機保有するかでも変わってくるが、既存運賃+αで商用飛行ができるのであれば、十分経済性は見込める商品

――彼らに対して期待するのは快適性よりも時間価値の実現か?

森田氏:そこが一番重要だと思う。既存の航空機のインテリアなどは我々の商品開発部がこれまでもずっと研究し続けてきているもの。一方で、そこに価値を置くのは限界があって、過去にはコンコルドもあったが、仮に(飛行)時間が半分になるのが価値になるなら、我々のような部署が出資を含めて第一歩を踏み出す必要がある。

――基本は太平洋路線か?

森田氏:(騒音のため)陸上を飛ぶことはできないので、基本は洋上飛行。路線としては、洋上を飛ぶ路線が考えられる。

――優先購入権を獲得して、ローンチカスタマーになる可能性は高い?

森田氏:ヴァージンも契約関係を持っているが、我々は内装を含めて彼らの試行飛行機が仕上がった段階で契約上、一言二言どころではない意見を言える立場にあるので、少なくともアジアにおいて最初に導入したいという気持ちを持って手を挙げている。

――Boomから一番感謝されたことは?

森田氏:2017年12月時点で手を挙げたことについて感謝されている。彼らの製品は業界の常識にない、今のマーケットでは新しいものなので、JALのようなどちらかというと「高い品質のサービスを安定して供給する」ことをブランドイメージとして掲げているエアラインが、「こんなチャレンジをするんだ」ということで注目を浴びたし、Boomからすればアジアのフルサービスキャリアが出資という形でコミットしていることもバリューになっている。

――スライドの客室は完成度が高く見えたが。

森田氏:客室そのものにはまだ関わっていない。ただ、彼らが話をしているメーカーは、JALのファーストクラスのシートを作っている同じメーカー。

 例えば、これから飛行機が仕上がってきた段階で、座席の微妙な配置やテーブルの出方でサービスのやり方が変わってくるというような部分については、JALが導入する場合にはいろいろコメントすることになる。