イベントレポート

【パリ航空ショー 2019】ボーイング、「Boeing NeXt」の進展を説明。テスト飛行に成功したeVTOL(電気垂直離着陸機)展示

2019年6月17日~23日(現地時間)開催

Boeing NeXtの取り組みとして作られたeVTOL、見た目は巨大なドローンだ

 フランス ル・ブルジェ空港で6月17日~23日(現地時間)、世界最大級の航空展示会「パリ航空ショー(International Paris Air Show)2019」が開催されている。

 ボーイングは6月17日(現地時間)、会場内で記者説明会を開催し、同社が2018年に社内ベンチャーとしてスタートした新しい部門「Boeing NeXt」(ボーイング・ネクスト)の進展を説明した。

 Boeing NeXtはこれまでの航空機の枠に入らない新しい乗り物を開発するプロジェクトとして発表した新部門で、極超音速飛行機(Hyper Sonic Speed Airplane)なども含めて、現在のボーイングのビジネスにはないような新しい形の乗り物の研究を行なう。

 その成果として、1月にテスト飛行に成功したのが同社の子会社Aurora Flight Sciencesが開発した「eVTOL(Electric Vertical TakeOff and Landing、イーブイトール、電気垂直離着陸機)」と呼ばれる大きなドローンのような機体。パイロットは乗らず自律操縦で飛行する。

 ボーイング 副社長 兼 Boeing NeXt事業部長 スティーブ・ノルドランド氏は、「乗客にとって大事なことは時間を有効に使うことだ。こうした新しい乗り物は、これからの交通の仕組みを大きく変える可能性がある」として、空港と周辺を結ぶこうした新しい形の乗り物の研究を今後も進めていくという。

Boeing NeXtの最初のプロジェクト「eVTOL」はテスト飛行に成功

ボーイング 副社長 兼 Boeing NeXt事業部長 スティーブ・ノルドランド氏

 ボーイングが推進しているBoeing NeXtは、言ってみれば「未来の乗り物研究所」という部門で、現在ボーイングがビジネスとはしていないような飛行機を開発する部門となる。現在のボーイングの主力製品と言えば、言うまでもなくジェット機だが、ノルドランド氏によれば、Boeing NeXtでは例えば極超音速機(Hypersonic)、超音速機(Ultrasonic)、空港と都市中心部などを結ぶ自動運転の飛行機、そしてそれらをインフラを含めて実現する方法を研究しているという。

「乗客にとって何よりも重要なのは時間だ。将来的には極超音速が実現すれば世界中どこにでも2~3時間でいけるようになるかもしれないし、自動運転の小型機が実現すれば空港までの時間も短縮できる。我々が目指しているのはラストワンマイルの議論から、ファステストマイル、つまり少しでも早く移動を実現することだ」と述べ、今後Boeing NeXtではこれまでの常識にはとらわれない、それこそボーイングのビジネスが大きく変わってしまうようなことを研究していきたいと述べた。

未来の飛行機はアプリで呼べるようになるかもしれない

ボーイングのeVTOL。9.1×8.5m。8つの浮上用モーターと1つの推進用モーターを備えている。航続距離は80.5kmで、最高時速200km

 その成果としてボーイングが公開したのは、同社がeVTOL(イーブイトール)と呼んでいるもの。eVTOLという名称からも分かるように、バッテリから供給される電力で駆動するモーターによって、回転翼(ローター)を回す。その電動回転翼が左右4つ、合計8つ用意されており、それにより垂直に浮上し、回転翼と中央後部にある回転翼や水平尾翼に用意されているフラップなどを利用して方向を変えたりしながら前に進む。言ってみれば、このeVTOLは巨大なドローンのようなものだと考えれば理解しやすいだろう。

浮上用の回転翼が左右それぞれに4か所あり、電動モーターで回転する
後部には推進用のモーターと回転翼、水平尾翼などがある
ボーイングの子会社となるAurora Flight Sciencesが開発
パッセンジャーシート

 ただし、ドローンと大きく違うところは、ドローンがカメラを乗せて空中から撮影したり、農薬を散布したりといった特定用途向けであるのに対して、eVTOLは2つのシートが用意さていて人間が乗れることだ。ただし、用意されているのはパッセンジャーシートのみで、パイロット用のシートはない。では誰が操縦するのかと言えば、テスト飛行時点ではリモートで、将来的には自動操縦になる見通しだという。ノルドランド氏によれば「将来的には都市中心と空港の間を結ぶ新しい交通システムを考えている」とのことで、その第一歩がこのeVTOLということだ。

テスト飛行の様子

 もちろん、現状では、自動操縦の飛行機というのは各国の規制当局が認めていないし、そのためには法律も変えないといけないし、自動操縦の飛行機に対する管制をどうするのかという問題など、課題は山積みだ。ノルドランド氏もそれらの課題があることを認識しつつ、だからやらないのではなく、何はともあれ作ってみてテストフライトをしてみることで、どのような問題があるのかを理解して次へ進むという考え方でやっていると説明した。

 自動車の世界ではMaaS(Mobility as a Service)という考え方が徐々に市民権を得てきており、ITの考え方を導入して、交通システムをサービスにしてしまおうと各国が取り組んでいる。ノルドランド氏によればボーイングも飛行機もそのなかの1つになっていくだろうと考えており、「将来的には飛行機もなんらかの形でアプリになっていく」と述べ、例えばスマートフォンのアプリでeVTOLのような自動操縦の飛行機を呼んで、都市中心部から空港に移動する、そんな未来が現実になってくる可能性があると説明した。