【イベントレポート】ツーリズムEXPOジャパン2016

観光を通じた地域活性化プランを競う「大学生観光まちづくりコンテスト2016」表彰式

2016年9月22日~25日 開催

 2016年9月23日、東京ビッグサイトで行なわれた「ツーリズムEXPOジャパン」において、「大学生観光まちづくりコンテスト2016」の表彰式が執り行なわれた。

 このコンテストは大学の実践教育の場として、そして大学生の自由な発想から生まれるアイデアを地域活性化に活かすことを目的として、産学官連携で実施されているもの。青森、大分、山梨、北陸、大阪の5つのステージでまちづくりのプランを公募し、それぞれで観光庁長官賞を選定。ツーリズムEXPOジャパンには、受賞したチームのメンバーが登壇し、それぞれのプランのプレゼンテーションを披露した。

青森ステージ

明治大学 市川ゼミ青森班のメンバー

 青森ステージで観光庁長官賞を受賞したのは、明治大学 市川ゼミ青森班の「三しょく兼備~津軽で楽習しへんが??~」で、3つの“しょく”をとおして楽習し、成長を目指す体験型プランとして企画されたもので、青森県五所川原市と中泊町を巡るツアーとなる。

 このプランは子供連れの家族向けのもので、観光客と地域の人々との交流を通じて地域全体の活性化を図るという目的が示された。具体的なツアーの内容は、“職”と“食”、そして“色”を家族で体験していくというもの。

 まず“職”は、五所川原でしかできない職業体験をするという内容で、コミュニティカフェやケーキ屋さんなどで実際の仕事を体験する。

“食”は中泊町の名物となっているメバル膳作りの体験となる。これにより、子供は魚に親しみを持ち、親は魚の調理法を習得、そして中泊町は日本有数の水揚げ量を誇るメバルの人気や知名度の向上が図れるとする。

“色”は津軽鉄道とチームラボの協力による鉄道を使った「トレインマッピング」で、「未来の五所川原を作ろう」をテーマとして参加した子供たちが絵を描き、その内容を電車内にプロジェクターで映し出す。このトレインマッピングの初期投資は約2000万円必要だが、この企画によって津軽鉄道の収入が年間で1001万5200円増加するため、2年間で初期投資を回収可能だとした。

青森ステージを制した「三しょく兼備~津軽で楽習しへんが??~」の概要
このプランで行き先として選定されたのは、津軽鉄道の始発駅である五所川原市と、同じく津軽鉄道の終着駅である中泊町
裏ターゲットに設定されたのは、旅行先となる地域の人々で、観光客と地域の人々との交流を通じて地域全体の活性化を図るとした
企画内容は観光協会や町役場、地域の人たちに現状や課題、ニーズなどをヒアリングし、それぞれの承認を得たうえでプラン化しているという
職業体験である「ゴショアカ(五所川原アカデミー)」の内容。スタンプ3つで卒業証書が授与される
中泊町では、同町の名物となったメバル膳を実際に作って食べる。子供はメバルの煮付け作りや刺身の盛り付け、親はメバルの三枚おろしとイカの下処理を体験する
色では、津軽鉄道とチームラボの協力を得て、参加者に「未来の五所川原を作ろう」をテーマとしたトレインマッピングを体験してもらう
このプランを実施することにより、合計で8115万1200円の経済効果が生まれると試算している

大分ステージ

県立広島大学「湯とりガール」のメンバー

 大分ステージで観光庁長官賞に輝いたのは県立広島大学のチームである「湯とりガール」が企画した「運トレ」である。現在九州地方では、「オルレ」と呼ばれる韓国人をターゲットにしたトレッキングコースが人気を集めている。そこでこの企画では、九州自然歩道から牧ノ戸峠、黒岩山などを巡るオルレコースを韓国の若者たちに歩いてもらうことを目的とする。

 キーワードとなっているのは「開運」だ。韓国では、尾根には気が流れていて、そこを歩くと運気が溜まるといわれているという。そこで長い時間、雄大な景色を見ながら尾根を歩くことができる大分県の九重連山を歩き、受験や就職活動で苦労している韓国の学生に運を付けてもらおうというわけだ。

 トレッキングは九州自然歩道から牧の戸峠、黒岩山、泉水山、タデ原湿原、長者原ビジターセンターを巡る約12kmのコースで、約4時間の道程となる。トレッキング終了後は、バスで宝八幡宮に向かい、そこで開運グッズを入手できるという。

「湯とりガール」のメンバー
九州地方には各地にオルレが設定されていて、年間4万2000人の韓国人観光客を集客しているという
大分県の国籍別訪問客数
ソウル私立大学生へのアンケート結果。3人に1人が幸せになれるトレッキングに興味があると自信を見せた
韓国の風水では、尾根には気が流れていて、そこを歩くと運気が溜まるとされていると説明した
開運トレッキングツアーの旅程表。2日目にトレッキングを行ない、3日目は福岡市内でショッピングを楽しんでもらう
運トレの推進体制。トレッキングには、NPO法人であるくじゅうネイチャーガイドクラブが有償ガイドとして協力

山梨ステージ

山梨英和大学のブランディング研究会のメンバー

 山梨ステージでは、地元である山梨英和大学のブランディング研究会が「宿場町として復活する石和宿」で観光庁長官賞を獲得した。もともと石和は甲州街道の宿場町として栄えたが、現在はゴールデンルート(東京から名古屋、京都、大阪へと至る、主要観光都市を東海道に沿って巡るルート)から外れていることもあり、宿泊者数は減少しているという。しかし2027年に開通するリニア新幹線は山梨県を通るため、ゴールデンルートは東海道から石和がある甲州街道に変わるとしたうえで、石和に観光客を呼び戻せるとする。

 このプランでターゲットとされたのはタイの人々で、その理由としてセルフィー(自撮り)が好きで、さらに富士山と一緒に写真を撮るのが好きだという理由を挙げた。ただ、現状は富士山とセルフィーしたあとに東京や名古屋へ移動してしまうが、このプランでは夜にセルフィーができる場所を作り、石和温泉に泊まってもらうことを目的に据えている。

 夜にセルフィーするための場所として、彼らが提案したのは湯畑だ。観光名所として、地域のランドマークとして機能している草津温泉の湯畑を例に挙げ、石和宿に新たに湯畑を作って自撮りスポットにする。これによって石和に宿泊する観光客を増やし、宿場町として栄えた頃の賑わいを取り戻すとした。

甲州街道の宿場町として栄えた石和。甲斐の国を治めた武田氏は、ここを政治の本拠地としていた
石和に温泉が湧出したのは1961年で、1987年に新日本観光100選に選ばれている
現在のゴールデンルート。東京から箱根や富士山、名古屋を経由して京都、大阪へと至るルート
2027年にリニア新幹線が開通すれば、ゴールデンルートに変化が生じるとした
ターゲットとしたタイからの観光客は国別訪日外国人者数で4位。またタイの観光客が訪れる都道府県ランキングで、山梨は4位に入っている
石和がある笛吹市に宿泊してもらうために、夜に写真が撮れるスポット作りを提案する
セルフィーのスポットとして、新たに湯畑を開発する。ただ石和は源泉の温度が低いため、木ではなく鉄で作るという

北陸ステージ

跡見学園女子大学の村上ゼミ「Hokuriku GO」のメンバー

 北陸ステージで観光庁長官賞に選ばれたのは、跡見学園女子大学の村上ゼミ「Hokuriku GO」の「いいね!~ポチっとつながろう、北陸~」だった。このプランでは、しあわせ県と言われる北陸3県(福井県、富山県、石川県)に、若者の力で輝きを取り戻そうと提案する。

 ターゲットとして設定されたのは女子大生で、旅行先には石川県金沢市と福井県大野市を選ぶ。女子大生は風情がある場所に旅行したいと考えているという自らの調査結果を紹介し、その条件に合致するのがこの2つの場所だとした。

 誘客に使うのはSNSだ。多くの女子大生が旅行の内容をSNSに投稿し、さらにその情報がリツイートなどでシェアされたことがあるという調査結果から、専用クーポンや独自の特典によってSNSへの投稿を促すことで、多くの女子大生を誘客できるとする。

「いいね!~ポチっとつながろう、北陸~」は、ターゲットとする女子大生をSNSを使ってしあわせ県と呼ばれる北陸3県に誘客するというプラン
独自の調査により、約60%の女子大生が風情がある場所に旅行したいと答えたとする
旅行先を選定する際、女子大生の約90%がSNSの情報を参考にしているという
旅行した内容をSNSにアップする女子大生は88%に達し、さらに約8割がその情報がシェアされたと答えたという
SNSへの投稿を促すため、SNS専用クーポンやSNS投稿特典を設け、新規集客やリピーターの創出を目指す
すでに金沢市51店舗、大野市の36店舗から協力を取り付けているとした
さらにSNSへの投稿を促すための仕掛けとして、Instagramのフレームも用意する

大阪ステージ

県立広島大学のチーム「娘とかなる娘(ニャンとかなるコ)」のメンバー

 大阪ステージでは、県立広島大学のチーム「娘とかなる娘(ニャンとかなるコ)」の「大阪葡萄酒旅行」が観光庁長官賞に選ばれている。あまり知られていないが大阪はワイン造りの適地であり、その歴史も1907年からと長い。しかし認知度の低さなどから販売不振に陥っているが、この現状を改めるべくこのプランが企画された。

 旅行客のターゲットとされたのは台湾の訪日観光客。ワインの輸入量が増加している台湾の人々に、大阪ワインのよさを知ってもらおうというわけだ。コンセプトは大阪ワインを軸に「飲む・食べる」「体験する」「学ぶ」「交わる」「つながる」「支える」を経験してもらうというもので、これによって来訪者一人一人を在台湾大阪ワイン特使にしていくと意気込む。

 実際のプランは昼から夕方まで楽しめるデイピクニックと、夜のブドウ畑の魅力を体感するナイトピクニックの2つを用意し、それぞれブドウ畑の手入れ体験やワイナリー見学などの要素を盛り込む。また中長期の計画として、ぶどうの木のオーナーになる「マイツリー・マイワイン制度」や、宿泊しながら旅行客同士で交流ができるゲストハウスなども提案した。

大阪は昭和初期の段階でぶどう栽培面積が日本一だったという。またワインの生産も早くから行なわれていた
台湾では甘みの強いフルーツが好まれており、この嗜好は大阪ワインにもマッチするという
大阪ワインを通じてさまざまな経験をしてもらい、それによって参加者が在台湾大阪ワイン特使になることを狙う
デイピクニックの内容。ぶどう畑の手入れ体験やワイナリー見学のほかにも、さまざまなプログラムを用意する
ナイトピクニックではピザづくり体験や星空鑑賞会、音楽演奏会などで旅行者に楽しんでもらう計画だ
プランの実施体制案。広報には台湾の雑誌やソムリエ協会、ワイン専門会社に協力を依頼するほか、台湾の人たちに人気のYouTuberも起用する
本プランの実施によって想定される効果