【イベントレポート】ツーリズムEXPOジャパン2016

変わりゆく海外旅行のスタイル。大手旅行会社の将来と、中小旅行会社の生き残る術とは?

JTBなど大手3社がパネルディスカッション

2016年9月22日~25日 開催

JTB、阪急交通社、H.I.S.の大手旅行会社社長がパネルディスカッションを行なった

 ツーリズムEXPOジャパン2016で、「日本における海外旅行の将来」と題したセミナーが開催された。ヨーロッパで日本人観光客が大幅に落ち込んでいる厳しい状況に加えて、海外旅行の一般化にともなってFIT(Foreign Independent Tour:パッケージではなく個人で計画する海外旅行)化やWebサイトを通じた旅行商品の購入も当たり前になり、現在旅行業界は大きな変化のなかにある。

モデレーターのJATA副会長 菊間潤吾氏

 こうした状況で大手旅行会社、あるいは中小の旅行会社はどういった道を進むべきなのか、JTB(ジェイティービー)代表取締役社長の高橋広行氏と、阪急交通社 代表取締役社長の松田誠司氏、そしてH.I.S.(エイチ・アイ・エス)代表取締役社長 の平林朗氏が登壇し、モデレーターを務めたJATA(日本旅行業協会)副会長でワールド航空サービス 代表取締役会長 菊間潤吾氏とともに、旅行会社の将来の道筋を議論した。

さまざまな課題の解決には旅行会社間の“アライアンス”が必要に!?

 海外旅行市場は不調が続いていると思われがちだ。実際、年間の海外渡航者数は2012年の1849万人をピークに右肩下がりを続け、2015年は1621万人にまで落ち込んでいる。ところが、中国・韓国への渡航者を除くと、実はむしろ微増の傾向にあり、堅調に推移していると高橋氏は解説する。さらに2016年は1月~7月の実績が前年同期比104.5%の伸びを見せており、海外旅行市場は回復基調にあるという。

株式会社ジェイティービー 代表取締役社長 高橋広行氏
全体で見ると海外旅行市場は減退しているように見えるが、中韓を除けば微増傾向にある
さらに2016年はその中韓への旅行も復調しつつあり、1月~7月は前年同期比104.5%の伸びとのこと
シニア層に多い10回、もしくは20回以上海外渡航しているリピーターに対して、魅力的な商品を作れるかどうかも重要だとした

 であるにも関わらず、旅行会社は軒並み危機感を抱いている。なぜなら、「旅行代理店の売上が、マーケットの伸びに追いついていない」からだと高橋氏。市場としては回復、もしくは成長の段階にあるのに、旅行会社は売り上げ不振にあえいでいる。

 これには複数の要因があると高橋氏は述べ、ユーザーの急速なFIT化、Web(購入)へのシフトに加え、大手旅行会社がこれまで主軸に置いてきたパッケージツアー商品、募集型企画旅行商品がユーザーのニーズにマッチしなくなってきたからだと分析している。

 さらに、主に冒頭で述べたテロを原因とするヨーロッパ旅行の敬遠によって大幅な販売不振があり、大手旅行会社にはヨーロッパに代わる新たなディスティネーション(観光地)を見つける課題も迫られていると語る。1社単独でこれらを解消するのは困難であるとし、業界全体で解決に当たる必要性を強調するとともに、数年前から業界目標として定めている出国者数2000万人の達成も「今のままでは難しい」と述べた。

株式会社阪急交通社 代表取締役社長 松田誠司氏

 阪急交通社の松田氏はこの出国者数2000万人という数字を目指すうえで、地方居住者の出国者率を増やす必要性を訴えた。全国平均では人口に占める出国者率が12.8%と、これでも年間2000万人には届かない率だが、地方では1桁%のところも多く、こういった低出国者率の地域を伸ばすことが一つの方策だとした。これに対して高橋氏は「地方から空港へのアクセス性を高める」「地域発の海外旅行プランを充実させる」「地方にLCCを誘致する」といった案を提示した。

阪急交通社は今後特化型旅行商品の開発にも力を入れていくという

 H.I.S.の平林氏は海外旅行市場の今後の見通しを語った。まず、日本人が海外旅行をする際の一つの障壁ともなっている「言葉の壁」について、近年の翻訳技術の向上によって、近い将来にこのハードルが取り除かれるのではないか、との見方を示した。また、訪日外国人の増加に合わせて業界が航空機、客船のキャパシティ拡大に取り組んでいることから、それと同時に逆方向、つまり日本から海外へのキャパシティも増えていると指摘し、5~7年後には2000万人を達成できるのではないか、とやや楽観的な考えを披露した。

 また、高橋氏が言及した“業界全体で解決に当たる必要性”に近しい内容として、平林氏も航空会社にアライアンスがあることを例に挙げながら、宿泊や航空座席を旅行会社が共同で仕入れるなど、旅行会社間のアライアンスもあってもいいんじゃないか、と提言した。

“スタティックな仕入れ”から“ダイナミックな仕入れ”へ

 先述の通り、大手旅行会社が危機感を覚えているのは、既存のパッケージツアーや募集型企画旅行商品、より大きなくくりで言えばホールセール(卸売り)商品の売上が急激に落ち込んでいるのに対し、大手がまだそれほど力を入れていないFITやWebを通じた商品販売が、特にOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の拡大によって一つのトレンドになりつつあることだ。

 高橋氏は、FITやWeb販売が進んでいくなかで重要なのは、どこで何を売るか、という販売チャネルごとの商品選別だと語る。例えばホテルのみ、航空券のみ、といった単品商品の販売は価格競争になってしまうため、付加価値をどう付けるかを考慮しながらコストをかけずにWebで販売し、コンサルテーションを伴う高額FIT商品は店頭で、ホールセール商品はリテーラー(販売代理店)で、といった使い分けが重要だとした。

 また、ホテルや航空券などの商品の仕入れに関しては、「事前に固定レートで在庫を確保し、それをノンリスクで販売する“スタティックな仕入れ”は、早晩通用しなくなるだろう」と見ており、「ある程度リスクを負って、価格は変動相場で仕入れる“ダイナミックな仕入れ”」を進めていく時代がやってくると予測する。

 一方、FITやWeb販売、OTAへの対抗策として、松田氏は“特化型”の商品開発を挙げた。現在阪急交通社では9割が従来型の旅行商品で、残る1割が一人旅や秘境、絶景巡りなどを中心に据えた特化型旅行商品になっているという。しかし、同社ではここ何年も特化型商品の開発を続けているものの人気商品が生まれにくいと話し、さらなる商品研究に取り組むだけでなく、特化型専門の旅行会社との提携も視野に入れたいとした。

 さらに中小の旅行会社のように「お客様との関係性を強固に」すべく、旅行説明会の開催やスマートフォンを使った予約システムの整備、ポイント制度の導入なども検討していくと語った。

株式会社エイチ・アイ・エス 代表取締役社長平林朗氏

 平林氏、はまた違った視点で、旅行会社の定義や存在意義が問われる課題に直面していることを訴えた。9月19日にGoogleからリリースされた旅行支援アプリ「Google Trips」を引き合いに、「OTAすらも飛び越えて」ユーザーに直接販売する動きが出ており、旅行会社の競争相手は果たして旅行会社なのか、という新たな疑問が生まれつつあるのだという。

 同氏によれば、この流れに大手旅行会社が対抗できるのは、「企画力、提案力、コンサルテーション能力」であるとし、「コンサルティングで本当に勝てるところについては専門店化を図り、対人セールスをさらに深掘りしていく」ことが必要だと述べ、逆にそれができない店舗は「新たな道を探るか、存在意義が薄れていくことになるだろう」と話した。

 この点については高橋氏も同様に、「マーケットを自ら作り出す“企画力”」と「FIT化が進むなかで顧客の細かなニーズに応じられる“コンサルティング力”」が大手旅行会社にとって重要であり、この2つにジェイティービーならではの「添乗員を同行して旅の安全・安心を担保する“斡旋力”」を加えた3つの力を発揮することが鍵だと語った。

中小のリテーラーはコミュニケーション力、コンサル力で勝負

 では、ホールセール商品を中心に販売するリテーラーなど、年々店舗数が減少傾向にある中小の旅行会社、旅行代理店は今後どうあるべきなのか。

 平林氏は、中国企業のアリババが運営する旅行商品販売サイト「Alitrip」を紹介した。Alitripは、同氏いわく「ネットモールに企画力のある小さい旅行会社がテナントで入っているイメージ」であり、そういった小さな会社でも旅行商品をユーザーに注目されやすいよう掲示できる仕組みになっているという。このような旅行会社の機会創出を拡大する仕組みはいずれ日本でも登場するだろうと話し、“企画力”を磨き続けることと、多くの顧客にアプローチ可能な方法を模索することの重要性を訴えた。

 松田氏は、阪急交通社が北は札幌、南は鹿児島まで大小異なる支店を構え、それぞれの支店が独立採算制に近い形で営業、広告展開していることを紹介。「(会社や店舗の)大きい、小さいは関係ない。(お客さまとの)コミュニケーションを通じて、要求されるものをうまく(商品として)作っていけばよい」と述べた。

「CRMに尽きる」と断言したのは高橋氏だ。大手旅行会社とは違って、顧客との“密着度”が高い中小の旅行会社の場合は、「いかにお客様を囲い込むか」にかかっているとし、顧客が求めている深いところまで応えられる高いコンサルティング力を発揮することが生き残る方法だとアドバイスした。