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雨が止んでもすぐ動かないワケは? 台風や大雨はなぜ鉄道に影響するのか
2026年9月23日 18:00
以前に、降雪が鉄道の運行にもたらす影響について書いた。冬期に寒冷地で降水があると雪になるが、それ以外は雨が降る。そして雨もまた、鉄道の安全運行に大きく影響する。
最近、雨天による被災、ダイヤ乱れ、予防運休といった場面に遭遇することが多い。そこで、台風や大雨の影響についてもおさらいしておこう。
なぜ雨が降ると規制がかかるのか
クルマを運転しているときに大雨に見舞われると、前方の視界が著しく妨げられる。しかし信号保安システムが整備されている鉄道の場合、視界不良が原因で運行不可能になる場面は多くない。雨による影響は主として、土木構造物や設備の方に現われる。
つまり、雨が降って大量の水が降り注いだ結果として、土木構造物や設備が損傷したり塞がれたりして、列車の安全な運行ができなくなる危険性がある。また、乗客を乗せた列車が土石流の直撃を受けた事例が実際にあった。
そうした事態を避けるため、降雨の状況を監視したり、天気予報を参考にしたりしながら、事故を未然に防止するために規制をかけて、列車の運行を止める措置を講じている。ことに近年では、豪雨が予想される場面で早めに予防運休を行なう場面が増えてきた。
まず具体的な被害例として、2011年7月の新潟・福島豪雨で大きな被害を受けた、只見線の会津川口~只見間における被害状況を示す。
土木構造物と雨の関係
鉄道の土木構造物というと、地面の上に路盤を構築する場面に加えて、「築堤」「切り通し」「高架橋」「橋梁」「トンネル」といったものがある。
築堤というと何のことかと思うが、要するに盛土である。地平レベルよりも高いところに線路を通すときに、土を盛って土手のような構造物を造り、これが軌道を支える基礎層になる。
豪雨のあとで「○○線で路盤流失が発生」などと報じられることがある。土を盛って、そこに水をかけてみれば容易に理解できることだが、土が水分を多く含むと緩んでくる。線路を支える路盤が雨で緩んで崩れてしまえば、線路を支える土台がダメになったということだから、列車は運行できない。
在来線のみならず、新幹線でも建設時期が古い東海道新幹線では、建設に際して盛土が多用された。既存の道路などと立体交差にして踏切を作らないようにするためだ。しかしその後の新幹線ではコンクリート高架橋が主流になっており、こちらの方が雨には強い。
東海道新幹線で、上越新幹線のような散水消雪を行なえない理由が、これである。自然のものか人為的なものかに関係なく、盛土に大量の水が降り注げば緩んでくる可能性がある。だから、積もった雪を完全に溶かしてしまうほどに大量の水をまくわけにはいかないのだ。
かといって、土木構造物を全部作り直すわけにもいかない。そこで東海道新幹線では、盛土の内部に排水パイプを設けて、水が溜まらないようにしたり、法面(のりめん。盛土の表面のこと)などが流失しないようにコンクリート覆工を施したりといった改善策を講じてきている。
築堤だけでなく、切り通し、斜面に隣接する線路、あるいはトンネル坑口付近では、降雨によって緩んだ土砂が線路内に流入することがある。崩落にいたらなくても、斜面で落石が発生して、落ちてきた岩石が線路を塞いで支障することもある。このほか、雨で地盤が緩んだ結果として倒木が発生、それが線路内に倒れ込んできて支障することもある。
線路冠水と機器の損傷
河川の氾濫によって浸水が発生することがある。そこに線路が通っていれば、線路冠水ということになる。現場が土路盤であれば、線路冠水は路盤を緩める原因になるが、それだけではない。
例えば、氾濫した水と一緒に何かが流されてきて、それが線路上に鎮座していたら支障物になる。それが見て分かるものならまだマシだが、溜まった水のなかに支障物があれば、それと知らずに走ってきた列車がぶつかってしまう可能性も考えられる。
路盤流出に加えて、道床流出という被害様態もある。レールは枕木に固定したうえで、その下に道床(バラスト。砕石のこと)を入れて支える構造だが、その道床が水で押し流されてしまう被害だ。
また、線路沿いに設置されている信号・通信関連の機器やケーブルなどが、冠水によって損傷する可能性がある。信号・通信関連の機器は「電気製品」だから、水は大敵。ポイントの切り替えを行なう転轍機も電気製品で、これが水に浸かってダメになった事例はいくつもある。
ちなみに国土交通省では、浸水深が10cmで「通信ケーブルに支障が出るおそれがある」、50cmで「土砂を含む水の浸水によりポイント設備が故障するおそれがある」としている。
ときには、車両基地が冠水して車両が使えなくなってしまうこともある。近年の事例では、長野新幹線車両センターで2019年に、近隣を流れる千曲川の堤防が決壊、留置していた新幹線電車10編成が水に浸かって廃車になってしまった。
車両基地の冠水は、車両のみならず、検修に必要な設備・機器にも影響がおよぶことから、ダメージが大きい。長野新幹線車両センターの件では留置していた車両の脱線も起きたが、これは流れ込んできた水によって車両が浮き上がったためであろう。
河川増水による橋梁の損傷・流失
大雨が降ると、河川の水位が上昇する。今は多くの河川でダムが設置されているが、そこで流れを食い止めて平準化するとしても限度がある。
近年、降雨によって橋梁が流されて長期不通に見舞われるローカル線の事例は少なくない。例えば、2011年7月の新潟・福島豪雨では、只見線の橋梁が3か所で流失するなどの大被害になった。
もちろん、河川に鉄道を渡す場面で橋梁を設置するときは、増水を考慮に入れたうえで設計しているが、設計時の想定を越える事態に見舞われることもある。
・JR九州「『令和2年7月豪雨』による当社の被災状況について」
橋梁を支える橋脚は河川の流れのなかに建っているから、それが被害を受ければ橋梁にも影響がおよぶ。その「大物」の事例として、1982年8月に発生した、東海道本線・富士川橋梁(下り線)の流失がある。
このときには、8基の橋脚があるうち第4橋脚が転倒して、それが支えていた前後の橋桁・2連が流失した。このときの河川流量は、当時の観測史上最大となる、毎秒1万5000トンに達したという。
現在、東海道本線の列車に乗って富士川を渡ると、下り線のトラス橋のうち2連だけ、トラスの形状が異なるのが分かる。これは、流失した部分だけ新しいトラス桁を作って架け直した結果である。この橋梁の全体像は、Googleストリートビューで確認できる。
降雨と規制の関係とは
降雨に関する状況把握のため、沿線の要所要所に雨量計が設置されている。そこで問題になるのは、時雨量(1時間あたりの雨量)と、累積雨量の両方である。
短時間に大量の降雨が発生するとよくないのは容易に理解できる。この場合の被害は主として、表層浸食や冠水といった形で現われる。ところが、時間あたりの降雨が多くなくても長時間におよぶと累積雨量が多くなり、土中の水分量が増えて法面崩壊みたいな被害につながる。
そこで、時雨量と累積雨量を組み合わせて、降雨に関わる規制の基準を定めるのが一般的だ。規制の指標により、減速したり、運転を止めたりするわけだ。ときには、特定の地点について雨天時に速度規制を強化するよう定めていることもある。
なお、東海道新幹線では2025年から、降雨によって土壌中に溜まった水分量を数値化した指標、つまり土壌雨量を基準とする、新たな規制を導入している。
・JR東海「東海道新幹線における新しい降雨運転規制について」
落石や土砂流入に対しては、斜面に防護柵を設置するのが一般的。それに加えて検知装置を設けて、落石や土砂流入の発生を把握できるようにすることもある。設置場所の手前に特殊発光信号機を設置して、それを作動させて運転士に急を知らせる仕組みだ。それを見て非常停止すれば、現場に突っ込む前に止められるという理屈である。
雨が止んだら即座に運行再開、とはならない理由
ついつい、「雨が小降りになったから、もう運行を再開できるよね」と考えそうになるが、話はそこまで単純ではない。
前述したように、さまざまな場所で降雨被害が発生する可能性があるし、目に見える被害がなくても、土壌の内部に溜まった水分が多ければ危険要因が残る。
そこで、まず安全に運行できるかどうかを確認しなければならない、そのため、雨のピークが過ぎたあとで、徒歩巡回などによって点検を行なう必要がある。それが終わって初めて、運行を再開できる。
豪雨に見舞われたときに、強引に運行を続ければ、途中駅あるいは駅間で身動きとれない状況に陥るリスクが増える。それを防ぐための予防運休だが、ときには予測が外れて、さほどの大雨にならずに済むこともある。とはいえ、それは結果論というもの。輸送の安全を最優先する観点からの、予防運休の必要性は理解しておきたいものだ。
































