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電車はなぜ雪で止まる? 意外と知らない鉄道の雪害と対策の数々

鉄道が豪雪に見舞われると何が起きるのか

 鉄道が豪雪に見舞われると、どんな問題が生じるか。2月5日から6日にかけて、北海道の石狩地方などが豪雪に見舞われた。そのため6日の午後から7日にかけて、札幌圏のJRが全面的に運転見合わせになっている(8日も続く見込み)。また、同じ週末には日本海側の広い範囲で降雪があり、東海道・山陽新幹線でも徐行による遅延が続いた。

 線路に雪が積もれば、列車を走らせる際の障害になるだろうな、というぐらいのことは誰でも想像がつく。しかし鉄道の場合、雪による影響はそれだけでなく、さまざまな分野に影響がおよぶ。

分岐器の不転換

 降雪の際に生じる問題の1つが、「分岐器の不転換」。平たく言えば、駅構内などにあるポイントの切り替えができなくなる。すると車庫から次々に列車を出すことができなくなるし、到着した列車が反対方向に折り返す際の支障にもなる。では、どうして雪が降ると分岐器の転換ができなくなるのか。

 分岐器のうち、実際に進路を切り替える装置を転轍機(てんてつき)という。転轍機は手作業で動かすものもあれば、電気などの動力で動かすものもある。それが、トングレールと呼ばれる、側面を削いで楔状にしたレールを左右に移動させることで進路を切り替える。

 下の写真は、踏切が開いているときに道路上から撮影した分岐器の一例。側面を削いで、先を尖らせたレールが2本あるのが分かる。これが左右に移動することで進路が切り替わる仕組みで、写真の状態では左奥に向かう方向に進路を構成している。

分岐器の例。トングレールが左右に移動することで進路を切り替える構造だから、トングレールの動きが妨げられると転換ができなくなる

 このとき、左側のレールと、それに隣接するトングレールの間にある隙間に、モノが入り込んだらどうなるだろうか。トングレールは動けなくなるから、転換もできない。そして、降雪があると雪が降り積もるだけでなく、上を通る車両の床下に固着した雪、あるいは氷が落下して、トングレールのところに入り込む可能性がある。分岐器の可動部が凍結して動かせなくなることもある。

 では、どのように対策するか。ヒーターなどの加熱手段を設置して雪や氷を溶かす方法に加えて、隙間に入り込んだ雪や氷を吹き飛ばす方法もある。気温が低い地域を走る北海道新幹線では、水を噴射するとそれが凍結する可能性があるため、高圧空気を噴射している。秋田新幹線で先に導入された仕掛けだ。

分岐器のところに入り込んだ雪や氷を除去するために、水を噴射させている例。左手奥で、水煙が噴き上がっているのがそれ(東海道新幹線・米原駅)

 また、分岐器に雪が積もらないようにするため、スノーシェルターで覆ってしまう方法もある。しかし、上を通過する列車が持ち込む雪氷はどうにもならないし、降雪が多くなると、今度はスノーシェルター自体の雪落としも必要になる。

北海道新幹線の共用区間終端で、在来線と新幹線の線路が分かれる部分。分岐器の構造がとりわけ複雑なので、全体をシェルターで覆っている(木古内付近)
分岐器をスノーシェルターで覆う方法は、石勝線における事例が知られている。しかし、スノーシェルターの上にも雪は積もるから、そちらの雪落としも必要だ

 つまり、線路上にたまった雪を除雪車や人手で排除するだけでなく、分岐器のような軌道設備をはじめとする諸設備を動かせるようにする必要もある。それで初めて列車を出すことができる。

新幹線における特有の雪害

 高速運転を行なう新幹線になると、新たな課題ができる。車両が高速で走る際に舞い上がらせた雪が床下に付着するだけでなく、それが降雪地帯を抜けて暖かい地域に入ってから落下する。つまり、降雪地帯から遠く離れたところでも影響が出る。広域を走る新幹線ならではの課題である。

 すると、先に述べた分岐器不転換のような障害を引き起こすだけでなく、軌道を構成する砕石(バラスト)を跳ね上げて、車体を傷つけたり窓を割ったりする。そもそも、落下する氷自体も危険物だ。

 ちなみに、JR北海道の特急車両などが、窓ガラスの外側にポリカーボネイト樹脂の保護層を追加しているのは、ガラス破損を防ぐためだ。これはバラストを跳ね上げたあとの対策だが、高速で走る新幹線など、床下機器にカバーをかけて雪が付着しにくくなるようにしている事例もある。

高速で走る新幹線では、雪がうっすらと積もっただけでもこのように舞い上がってしまう。通過列車でもホームに注意喚起の放送が流れるのには、相応の理由がある
在来線の速度でも、降雪があればこうなる。見た目は美しいが、いろいろ弊害を生む元でもある
在来線でも、雪が積もったところを走れば足回りはこのとおり。高速で走る新幹線では、雪の舞い上がりがさらに激しくなるし、冷却効果によって付着もしやすくなる。それが落下すると、分岐器不転換やバラスト跳ね上げの原因を作る
そこで、今の新幹線電車はすべて、床下機器をカバーで覆って平滑化することで、雪の付着を抑制している。在来線でも北海道に同様の事例がある
JR東日本の新幹線では、温暖地の駅で雪や氷が落下してバラストを跳ね上げる事態を防ぐために、バラストをカバーする策がとられている
JR北海道では窓ガラスの外側にポリカーボネイト樹脂のパネルを追加して、バラスト飛散時の破損防止策とした。最近の新造車は、これが最初から窓構造に組み込まれている

 ところが、床下機器はカバーによる平滑化ができるが、台車だけは露出せざるを得ないうえに構造は複雑だ。そこで、駅や車両基地で高圧洗浄機などを用いて雪落としを行なう。例えば北陸新幹線の金沢駅では、ホームの下にケルヒャーの高圧洗浄機を常備している。

舞い上がりと付着を防ぐ

 一歩進めて、雪の舞い上がりを防ぐ事例もある。それが東海道新幹線の関ヶ原~彦根付近に設置されているスプリンクラー。誤解があるかもしれないが、あれは雪を溶かすものではなく、雪を重くして舞い上がらないようにするためのもの。それに加えて、降雪時に徐行することで雪の舞い上がりを抑えて、付着しにくくする策もとられている。

 さらに、雪を軌道上から取り除くために、左右のレールの間やその両側において、レール上面より下にたまった雪を取り除く手段もある。それが東海道新幹線独特のロータリーブラシ車で、回転するブラシで雪を排除する仕組みになっている。

 ちなみに、東北新幹線以降はコンクリート製の板にレールを固定する「スラブ軌道」が主力で、線路の土台となる路盤も土ではなくコンクリート。だから、バラストの跳ね上げが問題になる区間は限られるし、路盤の緩みとは無縁なので散水消雪もできる。費用はかかるが。

米原駅の構内で、スプリンクラーを作動させた状態。雪を溶かすのではなく、“濡れ雪”にするのが目的
東海道新幹線の米原保線所に配備されているロータリーブラシ車。中央の床下に回転式のブラシが付いていて、それが跳ね上げた雪を上部のダクトから排出する(敷地外から撮影)
走っている車中から撮影したので不鮮明だが、レール上面より下のレベルまで雪が取り除かれている様子が分かる。ロータリーブラシ車の威力であろう
新青森駅の構内における散水消雪の例。土路盤とバラスト軌道では、こうはいかない。なお、北海道新幹線では凍結の懸念があるため、散水消雪は用いられない

おわりに

 鉄道の雪対策というと、とにかく線路上にたまった雪を取り除けば済む、と考えてしまいがちだ。しかし実際にはもっと複雑で、多面的な対策が求められる。そこで今回、その一端を紹介してみた。いくらかでも理解を深めていただければ幸いである。

 新たに建設される新幹線では、相応に対策がとられているし、資金をかけることもできる。それと比べると、昔からある設備で運行を維持しなければならない在来線の方が桁違いに大変だ。安定輸送のために努力されている現場の方には頭が下がる。