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「年間1000万トンの石灰輸送」今はなく。JR美祢線、鉄道→BRT転換やむを得ず? 現地で実情を見てきた
2025年7月18日 15:00
山口県山陽小野田市から長門市へ、山脈を南北に貫く「JR美祢線」(厚狭駅~長門市駅、46km)の“鉄道としての廃止”が、ほぼ決定的となった。
7月16日に開催された「JR美祢線利用促進協議会」の臨時総会で、沿線3市が「バス高速輸送システム(BRT)」への転換で方向が一致したもので、2023年6月~7月の水害による運休から復旧することなく、鉄道路線としては廃止になりそうだ。
多くの人々は、「美祢線」と聞くと「石灰輸送」を思い浮かべるだろう。国内最大のカルスト台地「秋吉台」の石灰石を美祢駅・重安駅などで「赤ホキ」と呼ばれる貨物列車に積み込み、美祢線・宇部線などを経由して、宇部市内のガラス工場などに運び込む。1998年に石灰石輸送が終了するまで、全盛期には年間1000万トン近くにもおよぶ石灰石輸で収益を挙げてきた。
石灰石輸送の廃止以降、美祢線は地域の通勤通学の足として役目を果たしてきた。しかし、直近(2021年~2023年の平均)の営業係数は915、100円稼ぐのに915円の経費がかかる状態で、赤字額は年間3.8億円。2024年5月に開かれた会合では、JR西日本 広島支社長(当時)の広岡研二氏が「(美祢線は)JR単独で持続的な運行は困難」との見解を示しており、災害がなくともいずれは存続・廃止の議論が起こっていただろう。
ただ、地元の方々によると、朝晩の列車は近年混み合っていたという。なぜ、沿線3市(山陽小野田市・美祢市・長門市)は鉄道廃止・BRT転換という決断に至ったのか。現地で鉄道代行バスに乗り込み、「美祢線がBRTに転換する理由」を探ってみた。
各駅停車便・実証実験快速便、ともに客足は上々! でも……
沿線最大の駅である美祢駅を出発するバスは、平日の朝にはそれなりのにぎわいを見せる。7時台に2本発車する厚狭駅行きの各駅停車・代行バスは、数えたところ26人、43人。ほぼ全員が学生で、到着と同時にわらわらと乗り込んでいた。
厚狭川添いに谷を下る各駅停車の代行バスは、途中の南大嶺駅・厚保駅などにこまめに立ち寄る。駅ごとに子供を送迎するクルマが列をなし、厚狭・宇部方面向かうであろう学生が、5人~10人程度は乗り込んでくる。途中からの乗車の多さを見る限り、代行バスとしての朝晩の客足は上々の様子だ。
そしてもう1系統、この乗車の時点では快速便(2025年3月に実証運行を終了)が運行しており、30人以上の学生が押し寄せるように列を作って乗車していた。
美祢~厚狭間の移動ルートは、厚狭川両岸の狭い平地を美祢線・山口県道232号で抜けるルートと、国道316号で山あいをズバッ!と抜けるルートがあり、美祢~厚狭間のバスだと前者は34分、後者は25分と、圧倒的に国道経由の方が早い。ただし、快速便は途中ノンストップだ。
美祢~厚狭・小野田・宇部間は2016年の山口県内・学区制撤廃前からまとめて「厚狭学区」だったこともあり、双方向に通学需要がある。快速便の実証実験は終了してしまったものの、転換後のバスが増便するなら、この快速便を定着させたいところだろう。
機能性が低かった美祢線、中途半端だった代行バス。BRTで機能改善なるか?
現状での代行バスの課題は「湯ノ峠駅~厚狭駅間をカバーできていない」こと。厚保駅~湯ノ峠駅でバスが走れる並行道路がないこともあり、県道経由の代行バスは厚保駅で美祢線から離れ、湯ノ峠駅~厚狭駅間の1区間のみ、別に代行タクシーを仕立てている。なお、この区間には厚狭明進高校・厚狭高校があり、ここにバスを停めれば、美祢市からの通学の利便性は一挙に上がるだろう。
また、県道から各駅の駅前に入るため1~2分をロスしており、代行バスの所要時間が伸びる原因となっている。かといって、県道にバスを停めてしまうと、何もない道路脇に送迎のクルマが集中するうえに、学生がバスを待つ場所もない。
BRTで厚保駅~湯ノ峠駅間を専用道として整備すると、所要時間を大きく変えず、鉄道と同様の利便性と移動ルートを維持できる。余力があれば、各駅に進入する経路を整備することで、県道の右左折や迂回で生じる所要時間のロスを短縮しつつ、今の駅を活用できるだろう。
なお美祢線の線路は県道沿いに7か所も厚狭川をまたいでおり、美祢駅~厚保駅間の関しては落ちた橋を復旧してまで、鉄道の路盤を活用するメリットはなさそうだ。
美祢駅を含む美祢線の各駅は、幸いにしてローカル線の「駅までのクルマ送迎」を受け入れ可能な程度には、広めのロータリーや、しっかり待てる駅舎を持つ。これを地域の拠点として活かしつつ、厚保駅~湯ノ峠駅間の専用道を作って山を越えるルートを設定すれば、いま素通りしている厚狭明進高校・厚狭高校にも停車できて、通学の利便性向上も図れる。
これなら、鉄道とも代行バス・路線バスより機能的に優れたBRTとして、それなりの役割を果たせるのではないか。美祢線・代行バスの平日朝の状況を見る限り、そう感じた。
鉄道利用者減少も必然の理由「美祢市と山口市のつながり」
ローカル線の存続・廃止は全国で議論されているが、乗客数減少の背景には「クルマ社会」「高齢化」以外に、美祢線のように「目的地の変化に追いついていない」ケースも見受けられる。
美祢市と山陽小野田市・宇部市などは鉄道・国道・県道でつながり、先に述べたとおり、学区改変前も同じ学区だった。通勤・通学ともに、人の往来がもっとも多いのがこのルート……と思いきや、通勤・通学ともに、鉄道ではつながっていない山口市の方が、通勤・通学ともに多いという(美祢線利用促進協議会 資料より)。
特に通学に関する流動は「対:山口市238人、山陽小野田市98人、宇部市78人」という状態であり、学区制の撤廃によって区外への通学がかなり増加したそうだ。なお、離れているように見える両市は、中国道経由で「親送迎」なら、30分少々で移動できる。
そうなると、美祢線の旅客輸送を支えていた「美祢駅~厚狭駅」という移動需要の太い束が、山口市方面にバラバラに分散しているようなもの。もはやメインルートでないうえに、バスより快適に速達輸送ができるわけでもない美祢線の存続が、そこまで重要視されなかったのもうなずける(なお、美祢駅~長門市駅間は利用者が段違いで少なく、あまりにも並行道路と太刀打ちできていないため、本稿では触れていない)。
最初は「鉄道廃止は地域の衰退!」とばかりに廃止反対に血道を挙げていても、利用者の実態を調べてヒアリングするにつれて、途中で「あれ、この鉄道役に立たなくないか? バスで利便性上げた方がよくないか?」と気づく。ましてや、鉄道存続には最低でも年間数億円の維持費用が必要となり、そうなると「絶対に鉄道存続」といった姿勢に疑問を示す人々も多いはず。存続・廃止の議論が起こるローカル線で、利用者や沿線自治体が現実的な選択肢をとるケースは、美祢線に限らず増えてきそうだ。
今後は山口県とも協議のうえで「鉄道からBRT」は決定し、その後は「どんなBRTを作るのか」「どんな運行体系にするか」といった議論に変わってくるだろう。あとは、「鉄道存続」「鉄道の不便さだけ引き継いだ代行バス」ではなく、どれだけ使いやすいBRTを作れるか。特に美祢市の動きに注目していきたい。



































