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初昇格の影に“岡田元監督”の尽力あり! J2昇格のFC今治、40億円の「ほぼ自前スタジアム」建設までの道のり
2025年2月17日 18:00
「同県内にJ2が2チーム」は静岡・愛媛だけ!
愛媛県今治市を本拠地に活動するサッカークラブ「FC今治」が、2024年シーズンを「J3」2位で終え、初の「J2」昇格を決めた。
1975年に創立したFC今治は、同じ愛媛県内の「愛媛FC」の下部組織(愛媛FCしまなみ)などを経て、2017年からJFL、2020年からJ3と順調に昇格を果たしてきた。またこのクラブは、サッカー日本代表監督の経験を持つ岡田武史氏が、チームの運営会社である「今治.夢スポーツ」の代表かつ大株主として、経営手腕を発揮し続けることでも知られている。
そんなFC今治の本拠地がある愛媛県今治市は、人口約14万8000人。造船の街として全国的に知られているものの、プロサッカークラブを持つ都市としてはコンパクトだ。かつ、人口50万人を擁する県都・松山市は、先にJ2で十数年も戦い続ける「愛媛FC」が本拠地を置いている。
にもかかわらず、FC今治の2024年の平均入場者数は「3786人」(平均収容率71%)と、集客面でなかなかの健闘を見せている。また2023年には本拠地「アシックス里山スタジアム」を“ほぼ自前”で建設しており、チーム・クラブ経営ともにまだまだ伸び盛りだ。
J2で迎える2025年、街は盛り上がっているのか? さっそく今治の街を訪れ、2025シーズン開幕戦「FC今治 vs. 秋田ブラウブリッツ」戦を観戦しながら、スタジアムや「サッカーがある街」の魅力を見つけてみよう。
「選手のために=船主のために」? 造船の街・今治ならではのサッカーの楽しみ方
FC今治の本拠地・アシックス里山スタジアムはJR今治駅から5kmほど離れているものの、隣の敷地には「イオンモール今治新都心」があり、日中でも1時間に1~2本の路線バスや、1回300円で指定地点まで運んでくれる予約制モビリティ「mobi」、そして広めの駐車場もある。駅からの距離はやや遠いものの、スタジアムとしては比較的足を運びやすい。
またこのスタジアムは、試合がない日も解放される。高台にあるスタジアムからは今治の街を一望できるうえに、周辺の里山はトレッキングコースのように歩くのにぴったり。買い物帰りの親子連れや高齢者が、静かなスタジアム周辺をぶらぶら散策する姿も見られるという。クラブ直営のカフェ「里山サロン」でスコーンとドリンクをいただきながら、ゆっくり時間を過ごすのもよいだろう。
試合日のスタジアム、とりわけ開幕戦は、地元とおぼしき方々がスタンドを埋め尽くし、見事に満員御礼! あたりを見渡すと……近所や職場で誘い合わせた人々も多いようで、年齢層もやや高め。しかも「付き合いで仕方なく観戦」というわけでもないようで、おのおのがグッズを身に着け、容赦ない応援の熱量もなかなかのものだ。
今治の街はコンテナ船・タンカー船など新造船の建造量で全国1位の「今治造船」本拠地でもあり、取引先の中小企業や船主などで「社長・個人事業主の数なら日本一」とも言われる地域でもある。各社は小規模スポンサーとして普段からFC今治を支え、試合になると、かなり響く声援を選手に送る。
地域密着のJリーグクラブが「住民+クラブ」とすれば、FC今治は「住民+中小企業・個人事業主+クラブ」とも言える、独特なスタイルのようだ。そういえば、スタジアムDJのアナウンスでも「本日は多くのスポンサー企業の皆さま、とりわけ今治造船の関係者の皆さま」と言及され、配布されたメンバー表にも、片側には「選手のために」、もう片側には「船主のために」とプリントされている。
もちろん、家族連れでのサッカー観戦も十分に楽しめる。スタジアムの敷地がかなり広めにとられているために、子供が駆け回って遊べるスペースがいっぱい! 空き地には鋼線を巻き取る「ケーブルドラム」を再活用したテーブルが多量に設置されており、観戦で疲れたらちょっと一息、といった楽しみ方もできるのだ。
そして、その敷地で展開するスタジアムグルメは、去年までJ3だったクラブとは思えないほどに充実! 今治名物のB級グルメ「焼豚玉子飯」だけでなく、鯛だしの塩ラーメンや独特の唐揚げ「せんざんき」(骨付き唐揚げ)、ホットドッグにカレー……。スタンドには里山サロンのスコーンの売り子さんまでいる。「ビールいかがですかー?」「スコーンいかがですかー?」と掛け声が飛び交うのは、おそらくFC今治くらいだろう。
こうして見ると、FC今治は今治市やサッカーファンだけでなく、さまざまな支持層を集め応援されているのが分かる。しかし、クラブは長らく経営問題に揺れ、岡田武史氏が運営に関わるようになってからも苦労は多かったという。苦境が続いていた当時から、FC今治の念願であった自前の本拠地完成にいたるまで、地域とチームの関係がどう変化していったかを追ってみよう。
最初は「地域の御用聞き」から。FC今治が「40億円のスタジアム」を建設するまで
4年前までサッカー日本代表チーム監督、2年前までJFA(日本サッカー協会)理事であった岡田武史氏が、FC今治の運営会社「今治.夢スポーツ」の経営に関わり始めたのは2014年11月のこと。当時は運営会社の社員も6人しかおらず、地縁も血縁もない今治でのサッカークラブ経営は「地域の人々が試合を見に来てくれない」「会食をセッティングしてもキャンセルされる」など一定の距離を置かれ、スポンサー探しや集客にはひときわ苦労したという。
サッカーチームとしては2016年に「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」制覇を果たすなど、しっかりと実力を蓄えてきた。あとは、FC今治が少しでもこの地に浸透すべく、岡田代表は「社員・選手全員が地域で5人友達を作る」という目標を掲げ、市内で困りごとがないか聞いて手伝いに行くという「孫の手活動」を開始。サッカー選手とスタッフが、高齢者のお宅の庭先で伸び過ぎたイチョウの木を伐採したり、小学生の下校を見守ったり……。
小さな取り組みを積み重ねた結果、応援に来る人々も徐々に増え、スポンサーは2015年に67社、2016年は146社、2017年には245社と順調に増加。今も後援だけでなくスタジアム内の広告、抽選会などで協力を惜しまない今治造船の支えもあり、2023年度は「年間売上高12.9億円・スポンサー収入7.3億円(いずれもJ3の20チーム中2位)と、経営は徐々に安定してきた。
ただ、かつての本拠地であった「ありがとうサービス. 夢スタジアム」は、照明や放送ブースなど、J2に昇格できる要件を満たさず、かつ山あいで客席の拡張も難しかった。チームはJ3で、2020年の7位から11位→5位→4位と上位に定着しているものの、このままでは1位、2位を獲ったとしても、J2昇格を逃がしてしまう可能性もある。
しかしスタジアムの建設には数十億円の資金が必要だ。もちろんFC今治にそんな余裕はなく、かつ今治新都心の建設そのものが「ムダな投資」として長らく紛糾したこともあり、行政からの補助には頼れない。
土地だけは今治市から30年間の無償提供を受けたものの、建設のための「総工費約40億円」は自前調達という条件で、スタジアムの建設が始まった。岡田代表はのちに、「(土地を提供してもらったのに)お金が集まりませんでしたって言えるわけない。腹くくったよ」とインタビューに答えている。
こうして、小さなサッカークラブの運営会社としては経営リスクを伴う増資を決断。それだけでなく、個人的な人脈を駆使して、首都圏のベンチャーやスタートアップ企業に次々と声をかけ、地元・今治市だけにとどまらない協力を取り付けた。さらに、伊予銀行、愛媛信用金庫など金融機関からは、環境保護の目標数値で金利が変わる融資を引き出す。岡田代表が経営者としてネットワークを駆使して資金調達に奔走したからこそ、コロナ禍での資金調達に成功し、今治にほぼ自前の「アシックス里山スタジアム」(完成当時は「今治里山スタジアム」)を建設できたのだ。
これからFC今治が目指すのは、四国では「徳島ヴォルティス」(現在はJ2)以来2チーム目の「J1昇格」のみ。今は収容定員5316人のスタジアムも、1万人、1万5000人と、拡張が可能になっており、勝ち続けて観客も増えればスタンド増設の話も出てくるだろう。
開幕戦・J2初戦のブラウブリッツ秋田戦では、相手の3倍(25本)のシュートを放つも0-1で敗れたFC今治が、どのような熱戦を繰り広げ、サッカークラブとして戦力・経営力を蓄えていくか。要注目だ。
【お詫びと訂正】初出時、チーム名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。