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日本旅行業協会 髙橋会長「2025年は若者の海外旅行促進が特に重要」。新春会見で展望と課題示す
2025年1月9日 18:31
- 2025年1月9日 実施
会見抜粋
昨年を振り返ると、一言で言えば「旅行マーケットが飛躍した年」だった。訪日旅行については円安の追い風、航空便の回復を受けて大きく伸長し、過去最高だった2019年を人数・消費額ともに大きく上回る見込み。国内は宿泊ベースで見た場合、地域などでばらつきはあるが、コロナ前の水準までほぼ回復したと言える。一方で海外旅行は想定よりも回復が遅れてコロナ前の7割弱に留まっており、復活には道半ば。
JATAとしては旅行市場への対応に加え、最近の一連の不祥事に対してコンプライアンス強化を行ない、研修の実施、組織改編などで強化に向けた具体策を打ってきている。
旅行マーケットが回復するなかで、多くの課題が見えてきた。最大の課題は「海外旅行の完全復活」であり、これは業界だけでなく国にとっても重要と認識すべきだと考えている。国際交流は国と国との互恵関係で成り立つものだが、現状はインバウンド/アウトバウンドのバランスを著しく欠いた状態であり、これを早急に是正する必要がある。
また、政府は2030年の目標として「訪日6000万人」を掲げているが、この達成には地方空港を含めた国際線の維持・拡大が不可欠で、そのためにもアウトバウンドの回復が必須であり、国際線はインバウンドだけでは維持できない。
さらに、若者の海外旅行渡航が減っていることも、国際舞台で活躍できる人材育成という面でも憂慮すべきであり、国際競争力にも関わると考えている。そこでJATAの海外旅行復活に向けた施策3点に取り組んでいく。
1点目は高付加価値化の商品展開、情報提供により2国間の相互交流を拡大させること。各国政府観光局と連携を深めることで、高付加価値化につながる観光素材、交流拡大につながる素材をJATA会員各社へ提供していく。
例えば今年の取り組みとしては、ETC(ヨーロッパ観光委員会)との協働でヨーロッパの地方への誘客を目的に「美味しいヨーロッパ」を実施、食のPRを進めていくほか、ハワイは団体旅行の拡大を目的に、セールスパーソンの販売コンテストを実施する。
2点目は教育支援の強化。コロナ禍で海外旅行がストップした影響で、旅行会社内部で海外旅行販売の知識や経験が不足している。今年は教育研修に加えて、現地の最新情報を把握するために政府観光局や航空会社と連携して視察ツアーを積極的に実施、販売力強化に努めていく。
3点目は若者の海外渡航促進。これは特に重要と考えている。
日本人のパスポート保有率はコロナ禍を経て17%まで低下しており、先進国では著しく低い状況にある。若者の海外旅行は減少傾向が続いており、コロナ禍で海外への修学旅行は激減、コロナ後も旅行代金の高騰などで行き先を国内に変更せざるを得ない状況も出てきている。
JATAでは若者の海外旅行促進のため、昨年も行なった「今こそ海外!」キャンペーンの第2弾を予定している。期間中はパスポート取得費用支援などを行なう予定で、詳細は決まり次第お知らせしたい。
一方で、政府への働きかけも行なっている。昨年、予算税制等に関する政策懇談会に対してANTA(全国旅行業協会)と共同で要望書を提出した。その中身は、「初めて海外渡航する若者へのパスポート無償配布」「海外政府観光局と連携したSNS・インフルエンサーを活用したPR」「公立の中学・高校の修学旅行代金の上限見直し」など。
不安要素はあるものの、今年海外旅行はさらに活発化すると考えられるが、日本だけ取り残される状況は避けなければならない。円安・旅行費用の高騰という逆風にあっても、顧客ニーズに合致した高付加価値商品は必ずある。旅行会社ならではの企画力と関係各所との連携で、今年は海外旅行の完全復活をなんとしても果たしたい。
インバウンドについては、ゴールデンルートのオーバーツーリズムは喫緊の課題。これに対して地方への分散が必須であり、ゴールデンルートに代わる新たな観光ルートの開発に加え、二次交通の整備、デジタル化、多言語化、あるいは各種コンテンツをワンストップで提供できる観光型MaaSの確立などを目指さなければならない。
このなかで、すでに世界で70兆円超の市場規模になっているアドベンチャーツーリズムへの取り組みは有効で、日本には豊かな自然と独自の文化があり、大きなポテンシャルがある。アドベンチャーツーリズムの成否を握るのはガイド。地方の自然や文化に精通し、英語を話せるガイドの育成を官民連携で取り組む必要がある。現在は各地で個別に育成を行なっているが、これを全国ベースで実施できるよう国の支援を求めていく。
国内旅行はコロナ前まで回復しているが、頭打ちになってきている。国内旅行の実態に触れておくと、日本人の宿泊を伴う旅行は、年間平均1.4回、日数は1回につき平均2.3泊であり、この傾向はここ10数年まったく変わっていない(コロナ禍を除く)。
その背景には大人が平日に休みが取れない、子供は学校を休めないという事情があり、旅行需要が特定の休日に集中してしまっている。この傾向が変わらない限り、人口が減少すれば国内マーケットが縮小するのは明白と言える。
その解決策の1つが、全国知事会が休み方改革の一環として進めている「ラーケーション」(学び+バケーション)で、学校を離れてさまざまな社会体験を通じて学びを得るというもの。具体的には、公立の小中高の児童・生徒が保護者とともに旅行など校外活動で休みを取る場合、あらかじめ定められた日数まで欠席扱いにならないという制度になっている。これが全国で定着すれば、間違いなく平日の旅行需要が増えて、国内旅行市場全体を押し上げる効果を期待できる。
さて、2025年は業界にとって大きな2つのイベントが控えている。
1つは4月からの大阪・関西万博で、想定来場者数は約2820万人、うち外国人は約350万人を見込んでおり、旅行業界にとって大きなビジネスチャンス。また、世界160の国・地域から出展されるパビリオンを通じて、日本人の海外旅行熱が高まることも期待したい。
キーワードは万博+観光。訪日旅行者には、万博の前後に各地に足を運んでもらえるような商品を用意し、万博による来日で地方分散の流れを作りたい。万博そのものの成功はもちろん、業界としても万博を通じて地域と日本経済への貢献を行なっていきたい。
もう1つのイベントはツーリズムEXPOジャパン2025で、初めて舞台を愛知県に移して実施する。その意義は大きく3つあり、1つは愛知・中部・北陸には昇龍道やジブリパークなど世界に通用する観光コンテンツがあり、TEJ会期中に国外へアピールしたい。北陸への新たな人流創出とオーバーツーリズムの緩和にもつながっていくはず。
2つめは、観光を通じて被災地域への息の長い支援を実施すること。甚大な被害を受けた能登半島エリアの本格的な回復はまだまだ。復興支援への思いや行動を風化させないためにも、この地で実施することの意義は大きい。
3点目はセントレア(中部国際空港)の活発化。国際線は全体的には回復しているが、地方によってばらつきがあり、なかでもセントレアは国際便の回復が遅れている。中部地方にはトヨタなどものづくりで知られる世界的な企業が複数あるものの、国際線の便数が回復していない状況がある。TEJを契機に地域の活性化を図りながら、玄関口であるセントレアを交流の拠点として国際化の発展に貢献していきたい。
本年は旅行マーケット拡大に向けて、非常に重要でチャンスでもある。国内旅行・海外旅行・訪日旅行の三位一体のバランスの取れたツーリズムの実現を目指していく。