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日本旅行業協会 髙橋会長「2024年は旅行復活元年に」。新春会見で現況と課題示す

2024年1月10日 実施

一般社団法人日本旅行業協会 会長 髙橋広行氏

 JATA(日本旅行業協会)は1月10日、都内本部で新春会見を開き、会長の髙橋広行氏が今後の取り組みなどについて説明した。以下、髙橋会長のコメントを抜粋する。

会見詳細

 新年を迎えて本来であれば明るい話題からお伝えしたいが、まずコンプライアンスについて。旅行業界では2021年以降、雇用調整助成金や国・自治体の旅行支援事業、受託事業などで複数の不正事案が発生している。

 こうした事態を受けてJATAではコンプライアンスの手引きの作成や経営層向けの座学研修など、再発防止にさまざまな取り組みを講じてきたが、2023年11月には会員企業5社に公正取引委員会が立ち入るという事態に至った。

 そこでさらなる取り組み強化の一環として、外部の専門家からなる有識者委員会を設置、具体的な対応策を年度内にまとめる予定になっている。また、コンプライアンス・内部通報窓口を設けることで業界全体で真摯に取り組んでいく。

 2023年を振り返ると、5月に新型コロナが5類相当に分類されたことで、マーケットの復活に大きく転じることができた。特に国内旅行とインバウンド(訪日旅行)は大きく回復し、ほぼコロナ前の状態に戻りつつある。一方で、人手不足やオーバーツーリズムの顕在化などさまざまな課題も現われている。

 また、新たな観光立国推進基本計画が閣議決定されており、インバウンドにさらなる弾みをつけるには双方向の交流が必要であり、アウトバウンド(海外旅行)の回復を狙う政策パッケージも策定された。

 こうしたなか、5月には海外旅行気運を高めるべく、観光庁と共同で「今こそ海外!旅行宣言」を発表。特にパスポート取得費用助成キャンペーンは大きな反響があり、機運醸成に一定の効果があったと認識している。しかしながら、いまだ海外旅行需要の本格的な回復には至っていない。

 イベント関連では、9月に北海道でアドベンチャートラベルワールドサミットを開催しており、世界各国から700名を超える関係者が参加。視察ツアーなどを通じて日本各地が持つポテンシャルが認識され、今後新たなマーケットとして大きな期待を持たれている。

 また、10月にはツーリズムEXPOジャパン2024を4年ぶりに大阪で開催しており、4日間で15万人近い来場があり、2022年の東京会場(約12万人)を超える盛況となった。このたびのEXPOでは未来の旅の形や新たな旅行先の魅力を伝えることができたほか、2025年の大阪・関西万博につなぐ一定の役割を果たすことができた。

 旅行マーケットの現況としては、国内旅行はJATAの主要旅行会社の取扱額が2019年比で9割以上に復活。インバウンドは中国の団体ツアーが回復していないなかで、10月の外国人入国者数が約251万人となり、コロナ以降初めて2019年同月を超えたほか、年間では2500万人前後になる見込みとなった。

 一方海外旅行は、10月の日本人出国者数は約94万人で、2019年比で6割程度に留まっている。明るい兆しとしては、法人を中心とする海外団体旅行需要が活発になってきており、例えば、コロナ禍に創業記念を迎えたような企業が実施できなかった社員旅行を行なおうとしていたり、インセンティブをストップしていた企業も復活させていたりする。海外団体旅行から動き出して個人にもインパクトを与える流れを作りたい。

 こうした刺激が続けば、今年度中にはコロナ前のレベルに近づく道筋が見えるのではないか。

 本年は、旅行復活元年と位置付けて取り組んでいきたい。そのための課題は2点あり、1つは海外旅行の復活、もう1つは旅行業界が目指すツーリズムについて。

 海外旅行は回復が遅れており、円安のほか、航空運賃・ホテル費用の高騰がネガティブに働いている。日本発の国際線の座席がインバウンド(の復路)に使われて、確保しづらくなっていることも挙げられる。双方向のバランスを確保するためにも、日本人の海外旅行回復は欠かせない。

 今年は1964年の海外旅行自由化から60周年の特別な年。この節目に海外旅行が完全に復活するよう全力を尽くしたい。

 もう1点、旅行業界の目指すツーリズムについては、コロナ禍を経て、サプライヤーの直販化の進行など環境が大きく変化しており、ビジネスモデルも変化を迫られている。旅行会社は商品やサービスの高付加価値化が求められている。新たな出会いや体験の提供、個人では行けない場所、ストーリー性のある旅などで、旅行会社の存在価値を示す必要があると考えている。

 その一例として、アドベンチャートラベルがある。欧米を中心に世界では70兆円規模に成長しているが、日本では未開拓の分野。JATAでは具体的な内容や取り組みについて会員企業に啓発を促すとともに、自治体やDMOと連携して新たなマーケットの拡大に努める。

 その前提として、アドベンチャートラベルの概念が理解される必要がある。アドベンチャーといってもハラハラするような冒険旅行を指しているのではなく、自然・文化・アクティビティの3つの要素のうち、2つを取り入れたものをアドベンチャートラベルと位置付けている。また、本格的な展開にはガイドの確保・養成が重要で、自然・文化・アクティビティに通じている人物である必要があり、アドベンチャーツーリズムはガイド次第と言える。

 業界の課題としては、まず人手不足が挙げられる。昨年から旅行が急速に回復したことでオーバーツーリズムが再燃。ホテルは空室があっても従業員が足りず、客室を提供できない例がある。貸切バス業界は運転手が足りないうえに労働時間の規制が厳しくなる(2024年問題)など、業界は深刻な人手不足に直面している。

 人手不足対応のためにもDXによる生産性の向上は不可欠と言える。各地の観光施設では、現金で紙のチケットを販売、もぎり、適切な入場制限を行なっていない場所もめずらしくない。チケットレス化、コンタクトレス化を含め、人手不足をデジタルの力でどう補うかが今後の課題と言える。

 また、JATAでは観光産業共通プラットフォームを12月から全機能稼働しており、宿泊施設や旅行会社の省力化につなげる取り組みを開始している。緊急時における迅速な情報共有も可能になっており、このたびの能登半島の震災でも実稼働させている。現在までに5000件の宿泊施設が登録しており、当面7000件程度まで増やしたい。

 3点目は休み方改革について。日本社会の生活スタイルや休暇の取り方まで踏み込む必要があり、産官学一体になった休み方改革が重要。2019年度ベースで日本人の宿泊を伴う旅行回数は、年間で1.3回、平均日数は2.3日で非常に低い。さらに日本人の有給取得率は60%程度、欧米の80~90%や政府目標の70%にも達していない。

 全国の知事会の休み方改革プロジェクトでは休暇の使い方の取り組みを行なっており、例えば愛知県では、保護者の休暇にあわせて子供が休みを取っても出席扱いになるラーケーションを年間3日まで設定している。JATAはこうした動きとあわせて国内旅行需要の喚起、旅行需要の平日への分散、平準化をいっそう促進する新たな施策を展開していく。