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デルタ航空、CESで生成AIを活用したコンシェルジュ機能のFly Deltaへの統合、YouTube/Uberとの提携を発表
2025年1月9日 11:28
- 2025年1月7日(現地時間) 実施
米国の航空会社デルタ航空は、1月7日~1月10日に米国ネバダ州ラスベガス市で開催中の世界最大のテクノロジー関連展示会「CES」に参加し、ラスベガスの新しい象徴になりつつある球体劇場「Sphere」(スフィア)において基調講演を行なった。
このなかで、デルタ航空 CEOのエド・バスティアン氏は、同社が開発している生成AIを活用した新しいAIアプリケーション「Delta Concierge」を、同社が顧客向けに提供している「Fly Delta」アプリに統合していくと明らかにした。
また、バスティアン氏は機内エンタテイメントシステムのコンテンツとしてYouTubeと提携してコンテンツを提供していくこと、そしてライドシェア最大手のUberと同社のマイレージ「スカイマイル」が連携して、Uberに乗るたびにマイルがたまる提携を行なうことなどを明らかにした。
CESの公式基調講演としては初めてSphereで行なわれたデルタの基調講演
今回デルタが基調講演を行なった「Sphere」は、CESのサブ会場となる「The Venetian Expo」に隣接しており、The Venetian Expoから歩道橋でアクセスできる位置にある球体劇場だ。このSphereはそのユニークな半球体というユニークな形をしていること、そして何より近くの建物よりも大きな建造物であるため、ラスベガスの多くの場所からその姿を見られる。このため、企業の広告が表示されるサイネージとしても利用されており、CESの期間中にはCESに参加している企業が自社や自社製品のロゴなどを表示するサイネージとしても活用している。今回のCES期間中にも、デルタ航空のロゴなども表示されていたほか、CESの基調講演としては初めてSphereで行なわれるという話題性もあり大きな話題を集めた。
ただ、このSphereは、観客の安全を確保するため、大きな荷物やカメラなどが持ち込めない(この制限はCESの期間中だけでなく、普段の劇場としてのSphereもそうした制限がある)ようになっており、今回のデルタ航空の基調公演でもCESの参加者にはThe Venetian Expoに用意されたクロークにあらかじめPCやカメラ、大きなカバンなどを預けてから参加することになった。
Sphereの劇場は非常に独特の形をしており、すでに述べたように半球体というユニークな形状になっていることを利用して、スクリーンは球面になっている。観客の席からは上下左右にスクリーンが球状にある形になっており、そうしたスクリーンを利用したさまざまなユニークなコンテンツが提供されている。通常は、地球環境問題などを考える映像などが流されるのだが、そのときにコンテンツに合わせて風が流れてきたり、においが漂ってきたり、席から音が出たりと、ユニークな構造になっていることが特徴だ。今回のデルタの基調講演でもそうしたSphereの特長を活かしたユニークな講演が行なわれることになった。
デジタルによる新しい旅行体験に取り組んでいるデルタ航空、新しいコンシェルジュ機能をFly Deltaに実装
デルタ航空 CEOのエド・バスティアン氏は講演の最初に、60年以上デルタ航空に勤めている客室乗務員の女性(米国では定年という制度がないため、60年以上も務めているという従業員の例というのは少なくない)などの代表的な従業員を紹介し、「デルタは本年で就航から100年を迎えた。それを実現できたのも、パイロット、客室乗務員、地上係員など、すべてのデルタの従業員が日々安全で安心な運航を心がけてくれているおかげだ。そうした弊社の従業員に心から感謝したい」と述べると、参加しているCESの来場者だけでなく、今回の基調講演に詰めかけたデルタ航空の関係者からも大きな拍手が巻き起こった。
バスティアン氏は今回CESというデジタル技術を活用するイベントの、基調講演であることを反映して、多くの時間をテクノロジーに関する話題に使った。デルタ航空は、デジタル技術の導入に積極的な航空会社として知られており、同社がiPhoneやAndroidスマートフォン向けに提供しているアプリ「Fly Delta」は、先進的な機能をいち早く導入している。
例えば、Fly Deltaはいち早く預け入れ手荷物のトラッキング(今荷物がどこにあるのかをチェックする機能)できるようにしており、例えば荷物が自分の乗る飛行機に搭載されると、その通知がスマートフォンに届く仕組みになっている。国際線や長距離便の乗客にとって、遅延の次に怖いのが、ロストバゲージであることは論をまたない。しかし、アプリがそうした荷物が搭載されたことを通知してくれれば、安心して飛行機に乗れる。
スマートウォッチ(Apple Watch)への対応をいち早く実現したのもFly Deltaの特徴だ。スマートフォンと一緒にスマートウォッチを利用していると、前出の預け入れ手荷物のトラッキング通知や、搭乗開始の通知、遅延の通知などさまざまな通知がスマートフォンだけでなく、スマートウォッチにも届くので、通知の見逃しなどが減り乗り遅れてしまったなんてことも避けられる。
そうした旅行者に評価が高い「Fly Delta」だが、今回のCESの基調講演でバスティアン氏は、Fly Deltaの新機能として「Delta Concierge」(デルタ・コンシェルジュ)を追加することを明らかにした。
Delta Conciergeは、Fly Deltaアプリをインストールしたスマートフォンと、スカイマイルの会員が自然言語を利用して会話してさまざまな乗客の困りごとを解決していく機能だ。例えば、「空港まで何分かかる」とDelta Conciergeに聞くと、Delta Conciergeが「空港まで90分かかっています、空飛ぶタクシーを予約しますか?」などと答えてくれて、空飛ぶタクシーをFly Deltaが予約してくれて、あとはそれに乗るだけ……そんな未来が想定されていることなどがデモされた。空飛ぶタクシーは今の時点ではまだ検討段階だが、UberなどのライドシェアをDelta Conciergeが予約してくれる、そういう使い方は十分に可能だろう。
今回は一般消費者向けのイベントであるため、技術的な詳細などに関しては語られなかったが、OpenAIの「ChatGPT」やMicrosoftの「Copilot」のようなLLM(大規模言語モデル)を利用したAIアシスタント機能、RAGと呼ばれるマルチメディアを活用した高度な検索機能などなど、さまざまな生成AIと総称されるAIの機能がDelta Conciergeの背後で動作していると考えられ、IT業界ではそうした複数のAIを組み合わせてより高度なAI機能を提供することを「AIエージェント」と呼んでおり、Delta Conciergeもその一種だと考えることが可能だ。
YouTubeとUberとの提携を発表
デルタ航空のバスティアン氏は、米国ではよく知られるITを提供するベンダーとの提携を発表した。一つは動画ストリーミングサービスを提供するGoogle子会社のYouTubeで、デルタ航空が運営するクラウドベースのコンテンツパーソナライズ機能「Delta Sync」(デルタ・シンク)のコンテンツパートナーとして、YouTubeを迎えることを明らかにした。
基調講演にはYouTube CBO(最高ビジネス責任者)メアリー・エレン・コエ氏が登壇し、YouTubeとデルタ航空のエクスクルーシブな取り組みに関して説明した。デルタ航空はすでに飛行機のモニターのエンタテイメントシステムを、顧客一人一人にパーソナライズするDelta Syncという取り組みを明らかにしており、デルタ航空のマイレージプログラムであるスカイマイルでログインすると、無料のWi-Fiが利用でき、クラウドからスカイマイル会員のお気に入りのコンテンツを飛行機のストレージにダウンロードしてくる仕組みになっており、お仕着せのコンテンツだけでなく、パーソナライズされたコンテンツを楽しめることが大きな特徴となる。
今回の両者の提携によりDelta Syncのパーソナライズ化されるコンテンツの一つとしてYouTubeのコンテンツがDelta Syncで、乗客のモニターに同期されて、乗客がお気に入りのYouTubeコンテンツを自席で楽しめる。わざわざ自分のタブレットやスマートフォンで見なくても、目の前のモニターでそれが楽しめることの意味は小さくないだろう。
もう一つの提携はUberとの提携だ。日本ではUber EatsでおなじみのUberだが、米国ではライドシェア(自家用車を利用した配車サービス)の最大手として有名で、米国にいくと旅行者が必ずスマートフォンにインストールするアプリの一つになっている。
デルタの基調講演には、そうしたUberを運営するUber Technologies CEO ダラ・コスロシャヒ氏が登壇し、デルタとUberの提携に関して説明した。
コスロシャヒ氏が登壇すると、おなじみのUber Eatsのかばんを背負った配達員が、コスロシャヒ氏とバスティアン氏にドリンクを届けただけでなく、招待されていたスカイマイル会員のところにも、ドリンクを届けに行くというデモを行なった。そのタイミングで、Sphereの機能を利用して甘いにおいがするというにおいのデモも行なわれた。
デルタ航空とUberは今後スカイマイルの会員がUberアカウントと連携をすることで、スカイマイルのマイレージが貯まることを発表し、さらに将来的にはデジタルサービスで提携するなどの提携を行なうと明らかにした。
最後にバスティアン氏はデルタ航空が100周年を迎えることを紹介し、ステージに同社のパイロット、客室乗務員、地上係員などの従業員を呼び、一緒に100周年を祝いながら講演を終了した。なお、講演終了後には、米国の著名シンガーであるレニー・クラヴィッツ氏のライブが行なわれ、詰めかけた観衆はそのパフォーマンスに酔いしれた。