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山の日は大混雑も、富士山五合目の規制ゲートは効果あり。奥庭からの絶景や麓からのルートで新しい富士登山を知ろう

山の日の富士スバルライン五合目

 8月11日は「山の日」。「山に親しむ機会を得て、 山の恩恵に感謝する」という趣旨で制定された祝日で、お盆休みも近いことから長期休暇を取って、日帰りが厳しい各地の頂を目指す人も多い。そのようなにぎわいのなか、国内外から多くの人を集める富士山の山梨県側にある富士スバルライン五合目を見てきた。

富士スバルライン五合目にはやはり人が集まる

 何回かお伝えしてきたように今年から登山規制が始まっており、吉田ルートから登れる人数は1日最大4000人まで(山小屋の宿泊客は除く)という上限が設けられた。加えて、1人あたり2000円の通行料、任意であるが富士山保全協力金の1000円が徴収されるようになり、16時~翌3時の時間帯は登下山道入口に設置されたゲートが閉められることから、夜間に入山できないようになっている。

 8月8日に行なわれた山梨県の定例記者会見において長崎知事は「これまで登山規制はご案内のとおり、大きな混乱もなく、順調に実施できていると認識をしております。21時から24時に六合目を通過した登山者数は、昨日時点で前年比、約マイナス94%となっておりますので、これは規制の効果が現われているのだろうと思います」と述べているように、来訪者のコントロールや弾丸登山を防ぐ手立てとして成果を上げている。

 ちなみに山小屋を予約している登山者は16時以降もゲートを通過できるが、原則としては規制前の通行をお願いしているとのこと。

今年から設置されたゲートでは登山者はリストバンドをかざして通過する
通行料が必要であることを知らずに通過しようとする中国人らしき男性が止められていた

 筆者が富士スバルライン五合目に到着したのは11時ごろで、ほぼ満員状態の大型バスが次々に到着しては乗客を降ろしていた。それらの光景を見ていたのだか、意外にもそこまで混雑してはいないというのが第一印象だ。もっと、すれ違うのも困難なほど人であふれかえっているのではないかという光景を予想していたからだ。

 もしかしたら、8月8日に発生した日向灘で起きた地震による南海トラフ地震臨時情報が発表されたことも関係あるかもしれない。それでもこの日のWebによる登山予約はすべて埋まっている状態で、当日枠としては2455人が用意されていた。

大型バスが続々と到着するバス停付近
富士登山オフィシャルは公式X(@fujisanclimb)にて当日枠の人数をアナウンスしている。時間が進むにつれ、残り1000人までのアナウンスも流れた

 例年では12~13時あたりが人出のピークと言われていたので、さらに取材を続けていると広場も多くの人で埋まっていった。ここに集まっている人たちのほとんどは大人数によるグループ登山の一行やツアーの団体客で、ガイダンスや通行に必要なリストバンドの受け渡しを行なっていた。

 それとは別に、五合目からの眺めと山の空気を楽しむ外国人観光客のグループもかなりいた。富士スバルラインが開通したことで、気軽に来れる観光地として認知されている姿だが、その一方ではユネスコの諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)から世界遺産(文化遺産)に登録するにあたり、「人が多いので来訪者のコントロールが必要」と課題を突き付けられている。

 山梨県としては、富士スバルライン五合目に多くの人が集まる現状を解決したいことから富士山のさまざまな魅力を発信し、分散化させていきたい考えだ。

ガイダンスを受ける登山グループ
こちらは台湾から来た登山ツアーのグループ

あまり知られていない富士山のオススメポイント

 そこで、まだ知られていない富士山の観光スポットとして今回は、「御中道」と麓からの昔ながらの登山道を紹介する。

 御中道は富士山の中腹を一周するルートで、かつて富士講(富士山信仰)が盛んだった頃は、富士山に3回以上登頂した者だけに歩くことが許された信仰の道として知られていた。現在は大沢崩れが年々拡大していることから(100m以上の絶壁なので大変危険)その手前までしか通行できないが、途中にある「御庭」や「奥庭」は絶景スポットなので一度は訪れてもらいたい。森林限界の過酷な環境下でたくましく葉を伸ばすカラマツや低地では見られない高山植物の数々も見どころの一つになっている。

バス停のそばにある御中道の入口。とにかく通る人は少ない
自然豊かで歩きやすい遊歩道
奥庭と呼ばれている場所からは標高によって変わる山肌がクッキリと見渡せる

 富士山を登るなら麓からというのもおもしろい。富士山の麓には1900年以上の歴史がある北口本宮冨士浅間神社があり、境内に吉田口登山道の起点がある。信仰の道としては、起点よりもさらに下にある金鳥居をくぐるところから始まる。ここから神社までは、富士信仰を伝え、入山料を徴収していた御師が住む町が広がっており、登山者の宿坊としても機能していた。ちなみに金鳥居から頂上までは、登りで約11時間30分、下りで約6時間20分とガイドには記載されている。

古くから親しまれている北口本宮冨士浅間神社
本殿の奥にある鳥居の先が吉田口登山道
御師町のお休み処(富士吉田市観光インフォメーションセンター)に飾られている昔の町並みを表わしたジオラマ
御師町の入口にある金鳥居

 とはいえ、昔の人もこのルートをすべて歩いていたわけではなく、一合目の手前にある「馬返」までは馬に乗って進んでいたそうだ。なにしろ北口本宮冨士浅間神社の先にある遊歩道入口から馬返までは7.4kmあり、標高も860mから1450mまでアップするタフな道のりだ。現在は富士急山梨ハイヤーが1日に2便ほど富士山駅からバスを運行している。ちなみに馬返から吉田口五合目(2300m)までは3時間30分の道のりで、富士吉田市の小学6年生は遠足で登るそうだ。

この先は徒歩でしか登れないということから名付けられた馬返
山頂までは515分!
登山道は聖域であったため、大正時代にはお祓いを受けるための「冨士山禊所」が設置されていた
ここから15分ほど登るとようやく一合目に到達する

 このほか、天然記念物に指定されている原生林の青木ヶ原樹海や点在する“自然のクーラー”である風穴など、富士スバルライン五合目のほかにも富士山の魅力はいたるところにあるので、それを見つけて楽しみたい。