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JR西日本、尾道駅開業式典。歴代駅長が揃って国鉄分割から民営化、現在までを振り返る

2019年3月10日 開業

JR西日本が尾道駅の新駅舎を開業した

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は3月10日、尾道駅の新駅舎を開業した。当日はあいにくの雨にも関わらず、新しい尾道駅を一目見ようと地元の人々らが集まり、新しくオープンしたテナントや、新駅舎建設時に使用されていた臨時改札での催し物は終日多くの人出でにぎわった。また、駅前広場では来賓関係者らによる記念式典を実施した。

 尾道駅の新駅舎は、先代駅舎の老朽化に伴い2017年より建て替え工事を行なっていたもので、1891年の開業以来3代目の駅舎となる。駅舎のデザインはJR西日本や尾道市の関係者らの意見をもとに、アトリエ・ワン一級建築士事務所が監修したもので、初代駅舎の特徴だった瓦屋根と深い軒先のイメージを受け継いだものとなった。

 改札口などの動線は旧駅舎よりも広くゆったりととられており、コインロッカーなども大幅に増やしている。また駅利用者以外でも2階眺望デッキに上がることができ、いつでも尾道水道を眺めることができる。

新しい駅舎を一目見ようと、開業当日には地元の人々が大勢訪れた
初代駅舎のデザインを踏襲した長い軒先は、開業初日から役立っていた
駅舎2階は鉄道利用者以外でも立ち寄れる眺望デッキ。尾道水道が目の前だ
自動改札機の隣には、TWILIGHT EXPRESS 瑞風の乗客専用の出入口、通称「瑞風ゲート」がある
列車が到着し、駅利用者が改札を通って真新しい駅舎に足を踏み入れる
改札の東側にはみどりの窓口、西側には観光案内所もオープン
尾道駅のスタンプにも列ができていた

 駅舎の1階ではショッピングや軽食、本格的な食事が楽しめたり、レンタサイクルが利用できたりするテナントが入居、また2階にもカフェレストランがオープンしたほか、駅直結で自転車も預けられるホステルも同時に開業した(関連記事「尾道駅の新駅舎公開。自転車旅の拠点になるホステルやレンタサイクルも入居」)。

 これらテナントでは多くの市民が訪れ、パンフレットを求めたり店員と話したりと、さながら大規模な内覧会のような状態となっていた。また、尾道駅長との記念撮影を求める人々や、尾道とゆかりのあるマスコットキャラクターと遊ぶ子供たち、新駅舎建設中に臨時改札があったエリアでの催しにも人々が集まり、さながら地域のお祭りのようなムードで終日にぎわった。

尾道市レモン島からは「おのにゃん」もお祝いにやってきた
1階「おのまる商店」はショッピングや休憩する人でにぎわう
便利な立地の1階「セブン-イレブン ハートイン」
1階「食堂ミチ」も店の外まで行列
2階「m3 HOSTEL」フロントも盛況
2階「喫茶NEO」も終日満席状態が続いていた
駅舎工事の期間中に使われていた臨時改札でも催しを開催
缶バッジ、開業記念スタンプ台紙を無料配布
記念台紙には初代、2代目駅舎の写真が印刷されている
缶バッジはデザインを選べば目の前で作ってもらえた
打音検査にヒントを得た、いわば鉄琴でメロディを奏でる
鉄道模型サークルのぞみ会によるNゲージジオラマ展示
懐かしいサボ(行先標)も展示された

尾道駅新駅舎開業記念式典

 新駅舎開業式典は13時よりスタート。エフエムおのみちパーソナリティ 河上典子氏の司会のもと、来賓の祝辞や地元小学生による記念の合唱、テープカットやくす玉割りなどの行事が滞りなく進んだ。

記念式典は駅前広場の特設会場で開催された

 式典の冒頭、主催者を代表して、JR西日本 代表取締役社長兼執行役員の来島達夫氏があいさつを行なった。この日はじめて尾道駅の新駅舎の全貌を見たという来島氏は、新駅舎が瓦屋根、深い軒先といった過去のイメージを踏襲してデザインされたものであることに触れ、「長きにわたり尾道で愛されてきたこの駅を、私ども一同を上げて盛り上げていきたい」と話した。

 また、尾道はしまなみ海道(尾道~今治)、やまなみ街道(尾道~松江)の出発点であることや、現在“せとうちパレットプロジェクト”が進行中であること、TWILIGHT EXPRESS 瑞風の立ち寄り観光が行なわれていることについても触れ、「この駅を海と山をつなぐ拠点として、ぜひ瀬戸内全体が国内外の方から愛されるように努力して盛り上げてまいりたい」と述べ、あいさつを締めくくった。

西日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長兼執行役員 来島達夫氏

 続いて来賓の紹介があり、うち5名の来賓が祝辞を述べた。

 冒頭に祝辞を述べたのは、衆議院議員 佐藤広治氏。佐藤氏は、この日を迎えるまでにさまざまな苦労をしてきたJR西日本、国土交通省、広島県、地元尾道市と関係者に感謝を表し、「伝統と歴史あるこの尾道に新たな駅舎が誕生したことを、尾道に生活する市民の一人としてとてもうれしく思います。(尾道の)新たな玄関口となるこの新駅舎を中心に、観光はもちろんのこと、尾道のさらなる伝統と文化を作り上げ、この素晴らしい尾道を後世に引き継いでいけるように、私も微力をつくして参りたい」と話した。

衆議院議員 佐藤広治氏

 続いての祝辞は、衆議院議員 小島敏文氏。インバウンドの大ブームにより2018年は海外からの来訪者が約3000万人に達したが、その多くは東京や京都、大阪など大都市圏にとどまっていると現在の観光産業の実態に触れた。そのうえで、観光産業は現在の4.5兆円から、将来は8兆円産業になると見込まれると述べ、「この尾道には素晴らしい景色と食べ物と伝統があります。こうした素晴らしい資源を活用して、この尾道を出発点とし、尾道と近隣がますます発展することを祈念いたします」と締めくくった。

衆議院議員 小島敏文氏

 式典の前に駅舎やテナントのホステルなども見学したという国土交通省 観光庁長官 田端浩氏は、祝辞の冒頭で「大変魅力的なものができました」と述べた。また、尾道やしまなみ海道では、サイクリストをはじめとするインバウンドが増加していることを挙げ、「観光庁としては今後、買い物はもちろん、体験や経験といったコト消費を重視していいます。また、地方入客というものを大事にしておりますので、ぜひモデルとなるような取り組みを今後も尾道エリアで進めていただきたい」と話した。

国土交通省 観光庁長官 田端浩氏

 広島県からは、広島県副知事 田邉昌彦氏が出席。田邉氏は「先ほど駅舎を拝見しました。素晴らしい駅舎に生まれ変わったと思います。日々の通勤通学、また買い物など日常生活で利用する人にとっても、また県内外、国内外から尾道を訪れる皆さまにとりましても、本当に素晴らしい拠点になろうかと思います」とあいさつした。

 また、2018年の豪雨災害では広島県も甚大な被害を被り、観光も大きな痛手を受けたと前置きし、国の力も借りながらこの局面を打開していきたいと語った。また、2020年秋には広島県と瀬戸内エリアを中心とした観光デスティネーションキャンペーンを開催するとしたうえで、「この尾道が間違いなく大きな拠点となります」と述べ、県民の暮らしと観光産業がますます活気づける拠点となることを祈念すると締めくくった。

広島県副知事 田邉昌彦氏

「市民が誇りをもって、この街に住み続けたいと思うことが一番大切です」。こう話したのは尾道市長 平谷祐宏氏。「尾道駅の新駅舎については、市民の皆さまに愛してもらえるということを基本にして、JR西日本や関係者の皆さまと英知を結集して作り上げてきました。素晴らしい建物ができたと確信していますが、これからも市民の皆さまの意見をいただいて、この駅を中心として尾道の街をつくってまいりたい」と語った。また「今年は新元号に変わり、尾道港の開港850年を迎え、しまなみ海道は20周年を迎えます。その大きなスタートを本日3月10日に切ることができ、市民とともにうれしく思っています」と述べた。

尾道市長 平谷祐宏氏

 祝辞、祝電披露に続いて、JR西日本 岡山支社長 有田泰弘氏が平谷市長に対して新駅舎開業記念入場券「0001番」の贈呈を行なった。なお、この記念入場券の入ったパネルは、3月22日まで尾道市役所1階ロビーで行なわれる「尾道駅新駅舎開業記念パネル展」に展示する。土日祝日を除く、8時30分から17時15分まで見学可能。

JR西日本岡山支社長 有田泰弘氏(左)より平谷市長に記念入場券が手渡された

 次に、開業記念ソングとして「われは海の子」の合唱が披露された。この曲は尾道駅に列車が到着する際の入線メロディとして使用されており、市民にもなじみの深いもの。歌ったのは尾道市立土堂小学校5年生の20名の児童たちだ。

尾道市立土堂小学校5年生が「われは海の子」を合唱
テープカット&くす玉開きの瞬間
テープカットとくす玉が開き、記念式典は終了した

開業記念トークセッション

 式典に続き、駅前広場では2部に分けてトークセッションを実施した。第1部のパネリストは、駅舎のデザインを監修したアトリエ・ワン一級建築士事務所共同主宰の塚本由晴氏、貝島桃代氏の2名の建築士と、尾道駅長 片岡茂樹氏。デザインの決定など駅舎誕生までの裏話が聞けるとあって市民らが多数詰めかけた。

有限会社アトリエ・ワン 塚本由晴氏
有限会社アトリエ・ワン 貝島桃代氏
尾道駅長 片岡茂樹氏

 終電から始発までの数時間で仮駅舎から新駅舎へ引っ越しをするため、開業前日は徹夜したという片岡駅長は、開口一番に「新駅舎を初めて訪れた市民の皆さまの笑顔に感激しました」と、駅舎への反応が上々であることを報告、それを受け「尾道の皆さんは、本当に尾道のことが大好きなんだなと、私もこの数年通い続けてよく分かりました」と塚本氏がコメントした。貝島氏は、大林宣彦監督、原田知世主演の映画「時をかける少女」で描写される尾道の街並みに憧れ、建築の勉強もかねて学生時代から何度も尾道を訪れたことを明かし、尾道の坂と海のよさをこの建物に取り入れたいと思っていたと語った。

 尾道駅の魅力について塚本氏は、「地上駅ですので、下り列車を降りるとすぐ目の前に海が広がっていることですね」と述べた。塚本氏によると、鉄道でベニスの中央駅を降り立つときに目の前の1段下がったところに広がるカナル・グランデ(街の中央に作られた大運河)と、尾道水道は非常に似ているという。

 駅コンコースの開口部をフレームに、ドックやクレーン、船などが絵のように収まるこの美しい風景を活かせる設計にしたいと思ったことや、この“絵”を誰もが楽しめるようにすればよいのではないかと話し合い、2階に眺望デッキを設けるプランが誕生したことなどを明かした。

 また貝島氏によると、「海側から駅を見たときには山と海が近いことを実感してもらうため、背後にある千光寺山がはっきりと見えるように駅舎を低く抑える工夫をしました」という。2階に広く明るいデッキを作りながらもなだらかな屋根とするため、2階のテナント部分は駅のホーム側にオフセットした設計にしたことや、そのため列車を見下ろせる位置まで建物が張り出し、そこにはホステルのラウンジを設けることでこの景色を楽しめるようにしたことなど、尾道駅のデザインが決まっていった経緯などが明らかにされた。

 トークセッションでは、尾道の人々の人情についての話も出た。「尾道の人々は、世代を超えて尾道らしさをずっと受け継いでいこうとしています。街づくりに欠かせない(伝統を受け継ぐ)力が尾道には根付いているのを実感します」と塚本氏。片岡駅長も「今朝も、記念入場券の販売に、鉄道ファンと地元の方が列を作って並んでいたのが印象的でした。街の記念を自分の記念にしたいという方が多いですね」と返した。実際この日は、市民と駅長が記念撮影を行なっている場面を何度も目撃した。これほど駅や駅長が人々に親しまれる街はめずらしいのではないか。

 最後に、塚本氏から駅コンコースから2階眺望デッキにつながる階段「おのたびゲート」について、「設計段階では使い方までは考慮しておりませんので、駅と街の人々が一緒に考えていってほしいですね」とコメント。貝島氏も「駅と駅前広場も合わせて、地域の顔になるようになっていってほしいです」と述べた。これに対し片岡駅長は「市民の皆さんと一緒に、楽しいワクワクする空間にしていきたいと思っています。素敵な駅をありがとうございました」と締めくくった。

地元尾道の人々が話を聞き入った
デザインに込められた想いを披露
約30分にわたり興味深い話を聞くことができた

 続くトークセッション第2部は、JR西日本発足からの歴代尾道駅長10名により行なわれた。登壇したのは、初代、2代、3代、7代、9代、10代、11代、14代、15代、現16代の各駅長。

 話の内容は国鉄分割民営化から現代までの旧駅舎や駅イベントなどの思い出、その際の裏話など貴重なもの。話を聞く市民も、懐かしそうにうなづいたり声を上げて笑ったりと和やかなムードで進行した。

JR発足以来の歴代尾道駅長が揃ってのトークセッション

 新幹線新尾道駅の開業に合わせて、主要各駅に収蔵されている絵を一度尾道駅に集めて展示会を実施したという初代駅長。

 今日も林芙美子氏「放浪記」の“海が見えた。海が見える。5年ぶりに見る尾道の海は懐かしい。”という一節を思い浮かべながらやってきたという2代目駅長は、本当に海がきれいな駅だと振り返る。

 3代目駅長は地元尾道の出身。在任中、列車が到着する寸前にホームから転落した子供が列車の下でじっとしていて無傷だったというエピソードが忘れられないと話した。

 7代目駅長の在任中には市民待望の東尾道駅が開業したことや、建設中のしまなみ海道を見学する観光船や納涼船などを何度も見送ったことを披露した。

 前任地の岡山駅から転勤し、美しい海と尾道の優しい人々に感動したという9代目駅長。大雨が降ると古い雨どいの排水能力を超えてコンコースが水浸しになることを話すと、歴代駅長が顔を見合わせて苦笑する場面も。

 10代目駅長は入社後最初の赴任地が尾道であったことや、向島で映画「男たちの大和」の実寸大戦艦大和ロケセットの公開時、駅から先を争って渡船に駆けていく人々に切符のお釣りを間違わないように販売した思い出を話した。

 地元を知り街に親しむため、歩いて尾道の路地まで覚えたものの、わずか1年で次の勤務地に転勤になって残念だったと語るのは11代目駅長。今でも尾道の街は問題なく歩けるという。

 大林監督の「時をかける少女」を家族で見て、娘が登場人物のセリフを真似ていた駅に赴任することが決まって心が躍ったという14代駅長は、建築学会から旧駅舎に見学者が訪れたことで、明治の建築技術を再確認したと述べた。

 15代駅長は、街並みや猫などがクローズアップされ、またサイクリングの拠点としても尾道の評価が高まってきたなか、TWILIGHT EXPRESS 瑞風の立ち寄り観光や新駅舎の計画も浮上し、それらの実現を駅長として迎えることを楽しみにしていたが転勤になったとやや残念そう。

 そして現在の16代目駅長。入社は20年前で、最初の赴任地が尾道駅だったという。ちょうどしまなみ海道が全通し、尾道駅が再注目されるきっかけともなった年だったと話した。最後に全駅長を代表し、「尾道はすごく温かい街ですので、その温かさを皆さまにお伝えしていきたいと思います。また、駅、市民の皆さんみんなでおもてなしをして、尾道のよさを伝えていきたい。そして一度ならずとも、2度、3度とお越しいただけるように取り組んでいきたい」とまとめた。

 トークセッションは、歴代駅長10名全員での敬礼で締めくくられた。

聴衆からも「あの駅長さんは覚えてる」などと話す声が聞こえた
初代駅長の掛け声により、全員が敬礼してお開きとなった

 開業初日の心境について尾道駅長の片岡茂樹氏は、「着任して3年、やっとこの日を迎え、ようやくスタートラインに立ったというホッとした気持ちです」と話した。また、あいにくの雨にも関わらず、鉄道ファンだけでなく地元の人々も多く集まっていることについて、「地元の皆さまにも興味と関心を持って、皆さんで支えていただいているんだなと実感しました」と述べた。ちなみに記念入場券の販売について聞いたところ、最初に並んだ人はなんと前日の午前10時に来駅しており、当日の11時過ぎには売り切れたと明かした。

西日本旅客鉄道株式会社 岡山支社 尾道駅長 片岡茂樹氏

 どのような駅にしていきたいかとの問いに対しては、「この駅は、尾道の玄関口です。(列車で到着された)皆さんが、尾道はどんな街で、どんな魅力があるのかということを最初に感じていただく場所です。さまざまな形で尾道の情報を知っていただいて、今回だけでなく次回もまた来たくなるように感じていただける情報の展示をしていきたいと思っています。

 そのために、階段のディスプレイも例えば季節ごとに変えていったりだとか、いつでも皆さんの目を引く展示を、市民の皆さんとともに作っていきたいと考えています」と回答した。片岡氏によると、尾道駅の一番の見どころは、尾道水道を見渡せる2階のデッキだという。「ここは鉄道を利用されない方や市民の方でも無料で訪れることができる憩いの場です。尾道の持つ魅力を肌で感じていただき、思い思いに過ごしていただければと思っております」と話した。