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JAL、ダイバーシティを推進する第3期「なでしこラボプロジェクト」研究発表会を実施
パラリンピック車椅子バスケ元日本代表・根木慎志氏による講演も同時開催
2018年8月21日 00:00
- 2018年7月17日 開催
JAL(日本航空)は7月17日、JALグループの女性活躍を含むダイバーシティの推進や、働き方改革に関する研究に取り組む「JALなでしこラボ」の第3期メンバーによる発表会「なでしこフォーラム」を開催。JALグループ各社から集まったメンバーによる、1年間の研究成果を発表した。
また、発表会に続いて日本財団パラリンピックサポートセンター「あすチャレ!スクール」プロジェクトディレクターの根木慎志氏による「出会った人と友達になる ~誰もが違いを認めて素敵に輝ける社会を目指して~」と題した講演も行なわれた。
3期目を終え、より広がりを見せるJALなでしこラボプロジェクト
「JALなでしこラボプロジェクト」はJALグループ横断で行なわれ、「なでしこラボプロジェクト」と「グループプロジェクト」との2本柱で実施。「グループプロジェクト」は各社の総務部のダイバーシティ担当が参加し、行動計画のとりまとめを行なっている。
一方の「なでしこラボプロジェクト」はJALグループの全社員から有志・推薦でメンバーが参加。第3期はメンバー7名とメンター1名ずつで3チームを結成し、東京地区2チーム、大阪地区1チームに分かれて1年間研究を実施した。
第3期の東京地区では、考え方のクセや思い込みを意味する“バイアス”との向き合い方を意識し「INCLUSION of BIAS」をテーマに研究。大阪地区では“地域特性を含めた多様性をどう活用するか”を「DIVERSITY & INCLUSION in JAL」というテーマで取り組んだ。
開会にあたり、JALなでしこラボ所長の福家智氏があいさつを行ない、第1期からの取り組み内容やグループプロジェクトについて説明。「これから発表するのは、第3期のメンバーが10か月間の議論と苦悶を重ねて出した成果です。皆さんにとっても身近な内容ですので、ぜひ自分ごととして聞いていただければと思います」とコメントした。
1期生から女性活躍推進、2期生から働き方改革の提言をグループプロジェクトで実施
3期生の発表に先立ち、1期生・2期生による提言を実践しているグループプロジェクトについて紹介。1期生からは女性の管理職率を上げるための「管理職パネルディスカッション」について、2期生からは働き方改革を念頭に残業時間削減のための「『定時退社音楽』の実施」についての取り組み結果が発表された。
まず、2期生からの提言である「『定時退社音楽』の実施」についてJALカーゴサービスの逢坂理恵氏から発表。定時退社時間に「蛍の光」の曲を流すというシンプルな方法で、JALカーゴサービスの総務部20名が約2週間実施した。具体的には、定時の17時39分にラジカセで「蛍の光」を一度流し、18時にもう一度曲を流して退社を促したという。
結果としては「退社時間を意識するようになった」「早く帰らなきゃという気持ちになる」「定時時刻になったことが分かりやすい」などの感想が多くあったという。時間の意識醸成と、形骸化していた残業ルールの認識につながったことから、今後はJALカーゴサービス全体の間接部門へ広げていきたいと説明した。
続いて1期生からの提言「管理職パネルディスカッション」についてJALナビアの蛯子佳奈氏が発表を行なった。「女性社員の割合が98%と多い会社だからこそ、女性がリーダーになるべき」と説明。しかし、実際には「管理職になりたいと思いますか?」との質問に「なりたい」が17.4%なのに対して、「どちらでもない」「なりたくない」が82.6%と非常に高いという結果だったという。
そこで、意識の改革を目的に女性管理職のパネルディスカッションや通信の発行により管理職を知る機会を作り、自身のキャリアを考えるきっかけ作りを実施。さらに今秋には全センターを中継した「管理職パネルディスカッション」を実施し、今後も意識の変化を促していくという。
これら1期生、2期生によるグループプロジェクトは、継続して研究が進められている。今後も引き続き行なわれる取り組み結果に注目していきたい。
また、3期生の発表に先立ち、なでしこラボ事務局の阿部氏から21名のメンバーで実施してきた第3期を紹介。東京の2チームが「INCLUSION of BIAS」というテーマでバイアスをどう受け入れるかについて研究。各チームはそれぞれ「障がい者」と「グローバル」についての研究を深めたという。一方、今期初めて拠点が設置された大阪チームは「DIVERSITY & INCLUSION in JAL」をテーマに研究を実施したことが説明された。
大阪地区「www.(スリー・ダブリュー・ドット)」チーム。「DIVERSITY & INCLUSION in JAL」で見えた、個性の発揮と「受け入れてもらう努力」
3期生の発表は大阪チームの「www.(スリー・ダブリュー・ドット)」からスタート。チーム名の由来は、「西日本の私たちが、ダイバーシティとインクルージョンを実現するために新しい風を巻き起こしたい」という思いを込めた「West」「Woman」「Wind」の頭文字とのこと。ドットには、URLのイメージから「ドットの先に多様な価値観をもって広く全方位的に発信したい」という思いが込められているという。
www.は、まずダイバーシティやインクルージョンを紹介するペーパー「www.通信」を2か月に1回発行し、その内容を語り合う「www.サロン」などを実施。それらの活動を行なうなかで、「本来はほめ言葉であるべき“個性的”という言葉をネガティブにとらえている」と気付いたという。「本来我々は、一人一人自分らしさを持っているにも関わらず、大きな組織のなかで周囲の空気を読むうちに同質集団の1人になってしまっている」と指摘。「同質集団のなかでは新しい発想や考え方は生まれない」と語った。
そして、11月に初めて出会ってチームになったwww.のメンバーたちが、ダイバーシティ&インクルージョンを実現する過程で気が付いたことが3つあったと説明。
1つ目の気付きは、「同じ女性同士、同じ西日本で働く私たちでも、さまざまな点が異なり、私たち自身が多様な個性の集まり、すなわちダイバーシティそのものだ」という点。
2つ目の気付きは、「インクルージョンには本音でぶつかり合うことが必要」だという点。www.チームでも最初はそれぞれの持っている個性を活かそうとはせず、遠慮がちに意見を言っているだけだったという。しかし、なかなか研究が進まず、事務局から「本音で語り合えていない」と指摘を受けて気付いたという。「自分とは異なる人の意見について真剣に考え、活発な意見ができるようになり、自分1人では出てこなかったような発想が生まれるようになりました。これこそがダイバーシティ&インクルージョンの実現なのです」と語った。
3つ目の気付きは「インクルージョンには、相手を受け入れるだけでなく、自分を受け入れてもらう努力も必要」だということ。「人と同じになろうとするのではなく、人との違いを大切に、活用することが大切。一人一人が異なる存在であると受け入れることが、真のインクルージョンへの第一歩となるのです。受け入れることと、受け入れてもらうことの循環が、相互に理解を深めることになります」と説明した。
ダイバーシティ&インクルージョンを実現するためには、「自らを振り返り、個性を知る」「その個性を発揮する」「一人一人の個性もお互いに認め合う」という3つのステップが必要だと解説し、「これらを続けることで、全社員が個性を活かし、生き生きと輝いて働ける職場となる」と語った。
そして、ダイバーシティ&インクルージョンのなかでも、特に「個性を発揮すること」を意識できるよう、今後シールを作成する予定だという。トライアルでは、シールを貼っていると「個性を発揮しようと意識して業務に取り組むことができた」という意見が大多数だったという。
「今後も、www.のチーム名の由来のとおり、まずは私たちから情報発信をし続け、私たち自身が各職場でのダイバーシティ&インクルージョンの渦の中心となります」とまとめた。
発表後の質疑応答では、会場から「シールを配られただけではなかなか動かない。自分たちが事務局から指摘されて次のステップに進めたように、どのようなリーダーシップを取っていこうと考えているか」と質問があった。
メンバーからは「事務局からの的確な喝だけでなく、一緒に働く仲間からの前向きな意見や、個性を発揮することをためらっていた仲間がサロンで語ったことなどにも影響を受けた。シールを配るだけでなく、通信も発行し続け、大阪ならではの規模を活かして各社揃ってサロンを開催して、今後もダイバーシティ&インクルージョンに対する意識を西日本に広めていきたい」と回答した。
東京地区「カラフルJAL」チーム。INCLUSION of BIASの「グローバル」を主題に研究。一歩を踏み出す勇気を
東京地区の1チーム目は、「カラフルJAL」チーム。チーム名の由来は「人種、国籍、年齢、性別、性格などの異なる個性を色に見立てた」と説明。研究テーマは「どうすればいろいろな個性が輝く、カラフルなJALになっていけるのか」を考えた結果、「グローバル」としたという。
「世界のJALに変わります」というフレーズはJALの中期経営計画にも登場するJALビジョンだが、ではなぜ世界のJALに変わる必要があるのか、と人口ピラミッドの図を使って説明。「世界のJALに変わることが、この先、生き残っていく唯一の道」なのだと説明した。
そのためには価値観と人材の多様化が必要であり、単に海外採用スタッフを増やすだけでなく、大多数を占める日本人が異文化を理解し、価値観を知ることが必要だと説明。しかし今回社内アンケートを実施した結果、「グローバル化に賛成」と答えた社員は95%と高いものの、「海外採用スタッフが日本語を話せなくてもよい」と答えた割合はわずか4%、さらに約70%が「海外採用スタッフがいても日本語のみでミーティングを行なう」と回答したという。
逆に、海外採用スタッフ自身にグローバル化に必要なことを尋ねると、一番必要なことは「異文化理解」であり、語学力が第一ではないと答えたそうだが、日本人スタッフは「語学力が第一」と考えていることが分かったという。
つまり、「英語ができないとコミュニケーションができない」「今のやり方を変えるのはめんどうだ、と思ってしまう」ことがグローバル化を阻むJALのバイアスだと解説。このバイアスを受け入れるためにどうしたらよいのか実践を通して考えたという。
例えば、あるメンバーは自分の「英語ができないとコミュニケーションができない」というバイアスは、「客室業務員として働くなかで、中国人のお客さまと、英語も日本語も使わず表情やジェスチャーだけで自然とコミュニケーションが取れている自分に気が付いた」ことで、言語ができないからコミュニケーションが取れないという考え方は思い込みなのだと気付けたという。
そして、「今の日本のやり方を変えるのはめんどうだ」というバイアスを変えるため、バンコク便のフライトでタイ人の乗務員仲間に、タイ流のおもてなしを聞いてみたという。すると、タイの「ワイ」と呼ばれる合掌のポーズは、お客さまに対しては鼻の高さまで合掌を掲げることによって敬意を表わしたあいさつとなると教えてくれ、サービス向上につながったという。「今身近にいる外国人クルーをリスペクトし、より深いコミュニケーションを取るという小さな一歩が、自分自身のグローバル化を進めるのを感じました」と語った。
「皆さんが今、一歩を踏み出せないでいるのは、グローバル化を大きくとらえ、身近なこととして考えられていないからではないでしょうか」と会場に語りかけ、一人一人が異文化に興味を持ち、一歩を踏み出せるように、グローバル推進室と連携して異文化理解のためのWebコンテンツを用意したと紹介。「世界のJALに変わるには、皆さん一人一人の一歩を踏み出す勇気が必要です。その小さな一歩一歩の積み重ねが、JALを、世界のJALに変えるのです」と発表をまとめた。
発表後の質疑応答では、グローバル推進室と連携したコンテンツについての具体的な内容について質問があり、「異文化を楽しく学べるようなクイズ形式のWebサイトを用意している」と紹介。会場にプリントでその一部を配布した。
さらに、発表を行なった2チームのメンバーが所属する各社社長からのビデオメッセージが紹介され、ダイバーシティ&インクルージョンによって多様性を活かし、より風通しがよく創造性の高い会社を目指そうと語られた。
東京地区「Hybrid×Navi」チーム。勇気を持って行動してみよう「TOMODACHI」への一歩~障がい者に対するBIAS~
東京地区の2チーム目は、「障がい者に対するバイアス」をテーマに研究した「Hybrid×Navi」チーム。まずメンバーの各社社長からのビデオメッセージが流され、すでに各社多くの方が雇用されていること、一緒に働くときには理解や共感が必要なこと、自然体であることが大切なこと、などさまざまなメッセージが紹介された。
チーム名の由来は、「Hybrid」をダイバーシティの意味に置き換え、人種、性別、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れようという思いを込めたと解説。「Navi」は航空機の翼端・尾部に装備されているナビゲーションライトを引用したという。「ナビゲーションライトは、航空機の位置と方向を示す灯火であり、私たちはこの活動をとおしてJALグループ社員のナビゲーションライトになっていこう、という思いが込められています」と語った。
チームでは、社会貢献(SDGs)達成の一歩として、「社員の気持ちの変化、モチベーションの向上こそがダイバーシティの推進、そしてJALグループの発展につながる」と考えたと語り、「お客さま目線での空港の利便性、企業の発展、社員、この3つの三角相関図を作成し、そのなかで相関性の高いと考えた、“障がいのある方”に研究対象を絞り、障がい者に対するバイアスについて研究活動をした」とテーマ選択の意図を説明した。
発表は、檀上で車椅子に乗って状況を演技で見せたり、車椅子で登場しながらプレゼンしたりと、スクリーンだけでなく会場全体を使ったダイナミックなものだった。「車椅子に乗られた方が困っているとき、声をかけることはできますか?」「白杖を持った方がいらっしゃったとき、まずどう感じられますか?」と語りかけた。
チームでは、「かわいそう、不自由そう、大変そう」という健常者目線で決めつけている状態がマイナスのバイアス。「対話し、相手を知ること」でそれをマイナスからゼロへ。さらに「パラスポーツなどを知り、体験すること」でゼロからプラスに転換していったと説明。
その過程で、障がいについても理解を深め、例えば健常者が高い場所にあるものを取ろうとするとき、「高さ」という障がいを解決するため台を使う。それと同じように、車椅子に乗った方が台の上に上がろうとするとき、「段差」が障がいになる。つまり、「障がい」とは人にあるのではなくまわりに存在しているものなのだと解説した。
「こうしたバイアスの転換を行なったら、勇気を持って行動し、インクルージョンすることが大切」と話し、チームが編み出した方法は「友達」であると解説。「対等に交わること、頼られること、受け入れること、助け合うこと、応援すること。友達を思うことと同じこの思いを、行動につなげることが大切なのです」と力説した。
そして「友達への思いを行動につなげたい」「勇気を持って行動したい」「思いを行動につなげたい」を形にするために、後押しするためのツールとして「TOMODACHIチャーム」を作成したことを紹介。「障がいのある・なしに関わらず、有効的に使用することができます。このチャームが、みんなを応援してくれる。応援が皆の力になるのです。友達への思いを行動につなげていきましょう」と語りかけた。
発表の最後に、「私たちの友達を紹介させていただきます」と日本財団パラリンピックサポートセンター「あすチャレ!」プロジェクトディレクターの根木慎志氏を檀上に招き入れた。
パラアスリート 根木慎志氏による講演を実施。「出会った人と友達になる ~誰もが違いを認めて素敵に輝ける社会を目指して~」
拍手に迎えられながら、会場後方からバスケットボールをドリブルしながら車椅子で疾走してくる根木氏。スピード感に会場が驚くなか、笑顔で登壇し、「出会った人と友達になる ~誰もが違いを認めて素敵に輝ける社会を目指して~」と題した講演を行なった。
根木慎志氏は、シドニーパラリンピックで車椅子バスケ日本代表のキャプテンを務めたパラアスリート。リオ・オリンピックの映像を使い、パラリンピックの魅力や、想像以上に大きいその大会規模について紹介。パラリンピックがブレイクするきっかけとなったと言われている、2012年のロンドンオリピックの際に制作されたCM「Meet the Superhumans」(超人たちに会おう)を例に取り、障がい者の見方を変えるひとつのきっかけになったことなどを説明した。
自身については、小・中・高と柔道・水泳・サッカーを続け、水泳で奈良県の記録を出したり、柔道で全国大会に出場したりとスポーツ少年だったと紹介。しかし高校3年生で交通事故に遭って車椅子生活になったという。その入院中、病室に車椅子で現われた人物に、笑顔で車椅子バスケに誘われ、実際に参加してみて車椅子バスケの魅力に引き込まれたことなどを紹介した。
難しいシュートを軽々決める車椅子バスケの選手たちを見て、人間の可能性が果てしなくあると感動したという。それまで自分がすべてを失ったと思っていたことや、世間から「かわいそう」と見られることのギャップが大きかったという。
車椅子バスケの選手として取り組むなか、中学校の恩師から生徒への講演を頼まれたという。障がい者が感じる普段の生活の困難さを伝えてほしいと言われ、「それはイヤだ」という感覚があったというが、あまり気乗りしないまま、いわゆる“泣き”の講演を多く行なったという。
しかし、本当は生き生きした車椅子バスケの選手たちもいると知っており、「かわいそうな根木さん」として見られることは自分の求めることではないと思い直して、車椅子バスケを使った躍動感があるポジティブな講演にしたところ、小学生たちの反応ががらりと変わったという。
「かっこいい!」「すごい!」という生徒たちの反応を見て、障がい者スポーツで人間の可能性やチャレンジすることの素晴らしさを伝えることが自分のすべきことだとはっきり認識したという。それからは自前の車椅子などを使って体験してもらったり、障がいとは何かについての講演したりすることをコツコツ続けていったという。
講演では、障がいについての説明も会話のなかで理解できるよう工夫され、例えば根木さんが「あとで教室に遊びに行くよ」と言うが、教室に移動するときの「障がい」に階段があると小学生たちが気付く。みんなで持ったり引っ張ったりすればその障がいはなくなるが、そもそも障がいを作ったのは社会である、というところまでシミュレーションで理解できるようになる。つまり、生きていくなかで「困ること」(=障がい)とは、実は社会が作り出しているものだと理解できる。しかし、みんなで作っているからこそ、みんなの力でなくすことができることも分かるという。
根木氏は、こうした活動を30年以上続け、約3000校、80万人以上に障がいについての考え方を伝えてきた。「大変、かわいそう」だけの障がい者に対するイメージを変える活動のきっかけを、車椅子バスケとの出会いや、講演先の小学生たちの「かっこいい!」という素直な反応が引き出してくれたと語った。自分のかっこいい姿もつらい姿も友達に分かってもらいたいという感覚。その思いで、行く先々で「出会った人と友達になる」と言い続けているという。
この活動は2016年度から日本財団パラリンピックサポートセンターの協力を得て、「あすチャレ!スクール」として現在は全国の小中高を訪れてパラリンピックの周知活動を実施。JALもこの「あすチャレ!スクール」に協賛している。根木氏は、障がいについてだけでなく、パラスポーツを通してチャレンジすることの素晴らしさを伝えたいと繰り返し語った。
最後に「あすチャレ!スクール」の活動を紹介する動画を紹介し、学生たちの笑顔あふれるスクールの様子が紹介され、「友達は一人一人違うもの。その人を深く知れば知るほど、逆に違いがあることを理解し、認められる」と“友達”になることの効果を解説。「もし世界中が友達になったら、世界が笑い声の渦に包まれるはず。世界のどこかで悲しいことが起これば世界中で悲しんで、自分に何かできないかと考えることができる。世界のどこかでがんばっている人がいると、みんなで応援することができる。
結果として、みんながそれぞれに違いを認めて、素敵に輝ける社会を目指して、僕たちは活動しています。この出会いをとおして、皆さんがまた友達について考えたり、障がいについて考えたりしていただけたらうれしいです。今後もあすチャレ!スクールで日本中・世界中を回りたい」と語った。
JALなでしこラボ統括責任者 大川順子氏からの総評。知らず知らずの間に染み込んでいく効果に期待。来年は地方へさらに拠点を追加
最後になでしこラボ統括責任者のJAL 副会長 大川順子氏からの総評が語られ、「ネジー(根木氏)と会うと、自分が明るく元気になれる。ネジーはいつも車椅子で不便なことがあるのに、がんばって私たちを明るくしてくれる。だから私たちもがんばらなくちゃ、と最初は思っていた。でも、本当はネジーの個性に、ただただ惹かれているんだと今日の講演で確信しました。車椅子に乗っているかどうかは関係なかった。それが本当のインクルージョンだと思う」とコメント。
なでしこラボ第3期の発表については「今日から明日で急に考え方が変わるわけではない。日々理論で行動するわけでもないので、ダイバーシティ&インクルージョンは簡単には実現できないと思う。それでも、考え方や行動のあり方を分析・研究することは非常に大切。メンバーや今日この場で聞いた皆さんに、知らず知らずの間に染み込んでいき、変えていくと思う。研究したり聞いたり実感したりすることで少しずつ変わっていける。こうした取り組みは、自分も幸せになり、相手も幸せになり、友達にもなれる。そして社会も幸せになれる。JALなでしこラボは来年ももちろん続け、もう1か所拠点を増やす予定。さらに進化するJALなでしこラボに期待してほしい」とまとめた。
発表・講演後、第3期のなでしこラボプロジェクトに参加したメンバーを代表して、「Hybrid×Navi」チームのJALの尾上真澄氏と、JALグランドサービスの野村織江氏がインタビューに答えた。2期連続参加したという尾上氏は、昨年は「JALバイアス」について研究。今年のテーマ「障がい」については、「最初はかわいそうとか、つらそうといった障がい者に対するマイナスなイメージがありました。その方々と対話を繰り返す機会を持つうちに、友達として接するようになりました。今は障がい者の方に対して躊躇なく、自分が助けたければ声をかければよいんだと考えが変わりました」とコメント。
また、今回初めてなでしこラボプロジェクトに参加した野村氏は、「どういう活動をするのか最初は不安でしたが、チームのメンバーと活動していくことで今まで知り得なかったことを知り、いろいろなメンバーとも知り合えました。研究活動を続けるなかで、壁にぶつかった際、チームのなかで何度も話し合いをして解決し、今日の発表会までこられたことが大きな経験となりました。事務局のサポートも大きかったと思います」とコメント。
さらに尾上氏は、「自分の場合、多様性を受け入れることはできる方ですが、受け入れるばかりだと意見がまとまらない場面もあると知りました。受容はだけではなく、違うと思ったときにはチームのメンバーを信頼して意見を言うということが、このチームで初めてできるようになりました。信頼なくして言いたいことは言えないのだ、と知ったことが、自分が成長できたポイントだと思います」と参加した意義を語った。さらに野村氏は「苦しんだ分、達成感もありますが、これでチームが解散することに寂しさもあります。また声がかかればぜひ参加したい」とコメントした。
毎年、難しい課題にほぼ1年間かけて新規チームで研究に取り組むJALなでしこラボプロジェクト。参加したメンバーは終了後に“なでしこロス”になるといい、それだけ充実した研究が行なわれているのが垣間見られる。1年で種まきからある程度実施結果まで見える研究もあるが、「なぜそうなのか」「何が必要なのか」という原因を探るところからスタートするだけに、結果まで刈り取るには時間が足りない研究も多く、介護施設の利用者を対象とした「なでしこチャーター」もグループプロジェクトで引き続き取り組まれている。
来年度は4年目を迎え、拠点をさらに増やして進化していくというJALなでしこラボプロジェクト。今後も、これまでの取り組み結果と新しい取り組みの両方に期待していきたい。