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JAL、多様性の受け入れに取り組むグループ横断プロジェクト「第3期JALなでしこラボ」
大阪地区 研究プレ発表会を実施
2018年7月9日 21:58
- 2018年6月5日 実施
JAL(日本航空)は6月5日、伊丹空港に隣接する大阪綜合ビルにて、JALなでしこラボプロジェクトの大阪地区プレ発表会を実施。発表会のあとには、「ダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けて」と題して同社副会長の大川順子氏の講演会も行なわれ、同プロジェクトの大阪地区での浸透を図った。
「JALなでしこラボ」は、JALグループで多様な人材が活躍するために必要なことは何かを探り、社員の意識改革や成長をグループ全体で推進していくためのプロジェクト。2015年に開始し、毎年メンバーを募って数人ずつのグループで約10カ月間研究を実施。最後に発表会でその取り組み結果を発表している。今期は3期目にあたるが、今回初めて地方展開を行ない、大阪・伊丹で活動するチームが設置された。
今回のは、JALなでしこラボ第3期 大阪チームのプレ発表会として位置づけられたもの。東京での発表会には参加しにくい大阪周辺のグループ各社から、約60名が参加した。発表会は、最初にJALなでしこラボプロジェクトの事務局からプロジェクトの狙いやこれまでの活動を紹介。続けて大阪チーム「www.(スリー・ダブリュー・ドット)」から研究発表が行なわれた。
大阪チーム「www.」による中間発表、「DIVERSITY & INCLUSION in JAL」への3つの気付き
「www.」は、研究員7名とメンター1名の合計8名のチーム。チーム名は、西日本地区から新しい風を巻き起こしたいという気持ちを込めたという「West Woman Wind」の略。「.」はインターネットのアドレス表記のドットのように「ドットの先に多様な価値観を乗せて発信していきたい」という意図からだという。
チームの研究テーマは、「DIVERSITY & INCLUSION in JAL」。チームでは、まず1月に西日本地区の中野支配人とともに車座を実施。中野支配人からは「まずは自分たちで行なってみること。失敗してもそれは成功のプロセスにつながる」とアドバイスがあったという。
さらに活動の紹介や、ダイバーシティとインクルージョン(多様性を受け入れること)に関する問題提起を行なった「www.通信」を発行。同時にダイバーシティとインクルージョンの浸透度についてのアンケートも実施した。3月には伊丹空港と大阪市内支店で1日ずつ「www.サロン」も開催し、アンケートの結果とサロンで得た気付きを元に通信第2号まで発行し、第4号までの発行を予定しているという。
www.では、これらの活動をとおして3つのことに気が付いたという。1つ目は、「職場への浸透」。「ダイバーシティやインクルージョンに関する本音と建前がある。上辺だけの理解で受け入れることができると思い込んではいないか、本音で考えなければ自分事として理解することができない、本音で考えなければ職場へ浸透することができない」と感じたという。
2つ目は「自らの意識改革」。「先入観や固定概念で思い込んでいたのではないか、という点で、視点を変えれば今まで見えなかったことが見えてくるということに気付かされた」とのこと。
3つ目の気付きは「チームビルディング」。「自分たち自身がダイバーシティそのものだと気がつきました。最初は、気遣いや思いやりから、なかなか本音で語り合うことができず、職場や年齢も違う自分たちが意見を伝え合うことの難しさを実感しました。しかし一方で、さまざまな意見を出し合うことで今までに出てこなかった新しいものができるということにも気が付きました」と語った。
大阪チームの結成以降、遠慮や思い込み、上辺だけといったさまざまなもやもやを抱えていたが、一人一人がそのもやもやを見つめ直すことで、ダイバーシティやインクルージョンへの取り組みを実感。お互いを認め合い、やっと一つのチームとして生まれ変わったという。
もやもやを見つめ直すことでダイバーシティとインクルージョン両方への取り組みが可能に
インクルージョンするには、ファーストステップとして「自分の言動を客観的に見つめ直す」ことが大切だとし、物事に対して受け身である自分や、周囲の意見に左右されている自分を発見できると説明。
そしてセカンドステップとして、この気付きを生かして「本音でぶつかり合う」。「多様な人材が集まるなかで、さまざまな意見が飛び交ってこそダイバーシティであり、多様な視点や価値観が芽生えるきっかけとなる」という。
そしてその先にインクルージョンのステップがあるとした。「多様な視点や価値観に触れることで自分自身はもちろん、働く仲間をインクルージョンし、自分とは異なる意見でも仲間の気持ちを大切に、皆が本気になり議論を重ねることで、チーム力の強化や新しい価値の発見をすることができます」と説明した。
「企業として生き残り、勝ち進んでいくためにダイバーシティ推進は必要なものです。本来それぞれ個性を持っていますが、大きな組織のなかに入ると、物事をうまく進めようとするあまり、自分の考えや意見を押し殺してしまうことがあります。月日が経つに連れ、いつの間にか自分らしさを忘れてしまい、同質集団の1人になっていないでしょうか」と語りかけた。
ただし、それだけでは十分ではないと説明。「ある部署では会議中、さまざまな意見が飛び交いまさにダイバーシティな状態です。しかしそれぞれが自分の意見を押し通すばかりで物事が進まず、会議として成立しないという問題を抱えています。つまり、ダイバーシティの状態では、十分とは言えません。そこで必要になってくるのがインクルージョン(=受け入れる)です。まずは相手の意見を聞いて一旦受け止める。そこから自分の考えと共通する点がないか、落としどころがないか、などもっと踏み込んで話し合っていく必要があると言えます」と解説。ダイバーシティとインクルージョンを、セットとして捉える必要があると語った。
ダイバーシティ&インクルージョンを実現するためには、各自が個性を認識し、自分らしさを発揮する必要があり、多様な視点、価値観を生かすために自分からどんどん発信するべきと説明。
さらに、多様な視点や価値観を持つ仲間とお互いを認め合うことでチーム力の強化や新しい価値の創造などよい効果につながるとした。ただし、すべての意見に賛同する、ということとはなく、尊重しつつもお互いに個性をぶつけ合うことで、ひょんなところから新しい価値が創造され、イノベーションが起きると説明した。
www.は、ダイバーシティ&インクルージョンが実現した理想の職場を飛行機に例えて「AIRBORNE(エアボーン)した職場」と定義。この「AIRBORNEした職場」を目指し、3つの行動をし続ける社員を増やすため、“AIRBORNEしよう”という意識を忘れないための施策を検討していくという。
7月18日に第3期JALなでしこラボプロジェクトの研究集大成として、成果発表会が行なわれるが、www.ではチーム名の由来どおり、「まずは私たちから発信し続けるということを念頭に残り2カ月、また3期活動終了後もそれぞれの職場で推進活動を行なっていきます」とまとめた。
会場には、東京で活動する「Hybrid×Navi」チームと、「カラフルJAL」チームからメンバーも2名ずつ参加。各チームの研究テーマや活動状況についても会場に向けて簡単に解説を行なった。
www.の発表についてコメントを求められた大川副会長は、「前回東京で中間発表を行なったときに比べて、ダイバーシティ&インクルージョンをより理解できていた」と評価しつつも、「理論は非常に分かりやすく解説していたが、理論だけを語っていても何も変化は起こらない。ここに実践を掛け合わせることで実績が出てくる」と指摘。「“自分自身がダイバーシティであり、こうして一つになった”のであれば、そのプロセスが実践部分に入ると思う。そこで何を意識してインクルージョンできたという経験談を具体的に入れることで、実績が分かりやすくなると思う」とアドバイスした。
大川順子副会長 講演会「ダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けて」を西日本地区に向けて実施
大川副会長自身が「ダイバーシティ」の当事者だった
続いて、大川副会長による「ダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けて」と題した講演を実施。「内容としては初歩的なもの」と前置きしながらも、JALフィロソフィを根幹にしてダイバーシティ&インクルージョンを推し進めようとしている背景や、女性活躍推進のハードルが上がることで、逆に地に足がついていないところで表層的な取り組みにならないよう、原点に戻るべきと指摘しながら解説を行なった。
まず、大川副会長は女性活躍推進やダイバーシティ&インクルージョンが、福利厚生ではなく、会社の経営戦略であると説明。大川副会長の経歴をとおして「自分自身がダイバーシティの事例」であると経験談を豊富に交えながら解説を行なった。
大川副会長は、理系の大学を経てキャビンアテンダントとして就職。30年間国際線の客室乗務員として乗務し、その間、出産・復職も経験している。チーフキャビンアテンダントに昇格し、安全・教育・サービス企画にも従事したという。さらに客室乗務管理職に就き、経営破たんを経験。その後客室本部長となり、現在は副会長を務めている。
30年近く客室本部という「現場」で育ってきた感覚から、女性が活躍するのは当たり前すぎて、現場では女性活躍推進を取り立てて考えることはなかったという。しかし、取締役になり経営陣に加わったことで、そのなかに女性が自分1人しかおらず、女性が活躍することが、必ずしも当たり前ではないことに気が付いたという。
JALが稲盛氏から学んだこととダイバーシティ&インクルージョンには類似性がある
経営破たんした際、当時会長に就任した稲盛氏(現・名誉会長)は「航空業界についてはまったくの素人」と記者会見で発言していた。しかしJALの役員は稲盛氏や管財人がいる社内の会議で専門用語や略語をそのまま使っていたという。そんなある日、稲盛氏が「お客さまの立場に立って考えよう、と皆さまはよくおっしゃいますが、あなたたちの今の姿は、まったく相手の立場に立っていない!」と爆発したという。
大川副会長は、「誰かと話し合う大前提として、相手を思いやり、発言する勇気、発言させる風土を作るのもインクルージョン。私たちは経営破たん以降に(JALグループの全社員が持つべき考え方や価値観がまとめられた)JALフィロソフィを軸にしたことで、知らず知らずのうちにインクルージョンの精神を植え付けられているという考え方もできる」と説明。
「JALが稲盛氏から学んだことには“さまざまな人材の多様な能力を生かし、社員の幸福度を高め、企業の競争力の源泉とする”という内容もあるが、これはダイバーシティ&インクルージョンそのもの。これを現実の課題に生かしていくか、具体的な施策を作り上げていくかということだと思う」と語り、ダイバーシティ&インクルージョン実現の要素をJALフィロソフィから引用しながら説明した。
難しいことを相手に分かるように伝えることこそ大切
大川副会長は、ダイバーシティ&インクルージョンの実現には2つのポイントがあると説明。1つは「ダイバーシティ推進は、企業としての『経営戦略』の一つである」という点。もう一つが「女性活躍推進の達成可否は『考え方』と『仕組み』に対し、経営のトップがいかにコミットするかにかかっている」という点だ。
一つ目のポイントについて、JALでは前述のJALフィロソフィのなかにダイバーシティ&インクルージョンの要素を盛り込んでいると説明。大川副会長が特に強調していたのが、「難しいことをいかに平易に伝えるか」という点だ。「専門用語や略語を並べ立てるのではなく、相手に分かりやすく伝えなければ会社も自分も成長しない」と指摘。
「中期経営戦略の冊子を、上司が読み上げて部下はただ聞き、何も質問しないような環境では何も進まない。難しいことを難しく語るのは誰でもできる。自分の言葉で難しいことをシンプルに捉えて、それぞれの職場のみんなに分かりやすく伝えることは、とても大事なこと。私はこの分かりやすさが、稲盛さんの言葉で言う“全員参加型の経営”であり、この分かりやすさこそがダイバーシティ&インクルージョンだと思っています」と解説した。
大川副会長は、その事例として2010年の客室本部の本部方針「お詫びと感謝」を取り上げ、「全員が一丸とならなければならないときに、自分なりの言葉で絞り出したのがこの言葉だった」と説明。現場に広く浸透し、今でもこの本部方針を覚えている社員が多いという。
定量的な話と定性的な話の両方が必要。必ず数値で検証を
もう一つの「女性活躍推進の達成可否は『考え方』と『仕組み』に対し、経営のトップがいかにコミットするかにかかっている」という点に関しては、「考え方」の面では毎年の社長メッセージを例に挙げ、トップからのメッセージをしっかり社員に伝えることが必要」だと説明。「仕組み」はJALなでしこラボも含めた育成強化やテレワーク制度などにあたるという。「自分たちがいかに考えてみんなの腑に落ちるようにして、自分の成長・会社の成長につなげるかが必要で、JALなでしこラボは会社を動かす大きな力になる」と指摘した。
また、「こうした取り組みには(数値化ができる)定量的な話と、(質に関する数値化が難しい)定性的な話の両方が必要」と解説。ダイバーシティ&インクルージョンも、「従業員満足度調査」などで定点観測できると説明した。「自分たちがやっている活動が実績を生んでいるかどうかを確認していく必要が絶対にある。でないと自己満足になってしまう」と指摘した。
大川副会長は、対外的な評価も高いJALのダイバーシティに関する取り組みについて、「今後もいろいろな方の意見を受け入れながら先に進めていきたい」とまとめた。
最後に、徐々に増えつつあるJALの女性パイロットからの「あれこれ悩まずに思い切って飛び込んでみたから、今の自分がある。固定概念に囚われないで、やりたいことをやりたいときに、後悔なくやってほしい」というメッセージを紹介した。
公演後の質疑応答では、会場から「保育所が増えて以前より復帰しやすい環境になってきたが、バラバラの時期に復帰するなど受け入れる側の難しさを感じている。どのように乗り越えたか、会社の仕組み作りや周りの理解について教えてほしい」という内容で質問があった。
大川副会長からは「私自身も育休を取って復帰したが、当時よりさまざまな仕組みが増えている。常にギリギリで回すと悪循環になるので、会社側もさまざまな制度を活用して、常に土俵の真ん中で相撲を取る(先手を取って早くから準備をする)こと。社員が復帰して好循環を生むことが大切」と回答した。
地方でのチーム設置や取り組みが東京との心理的な距離感を埋めるきっかけに
www.のメンバーを代表して、JALナビア 長田紗智子氏が今期の大阪チームの意義や効果についてコメントした。
長田氏は、2017年JALなでしこラボプロジェクトの2期の活動に参加。「虹の架け橋チーム」で大阪と東京を結ぶネットワークランチなども実施した。しかし、おもに東京での活動だったため、大阪地区に戻ってJALなでしこラボの取り組みに周りを巻き込もうとしても、1人の力では実際は難しかったという。
「今回の大阪チームの設置は、関西地方メンバーが集まりやすいという効率のよさ以上に、サロンの開催などをとおして西日本地区の社員に広くダイバーシティ&インクルージョンを浸透させることができたことが大きかったと思います。東京の本社が実施する取り組みとしてどこか遠くに感じていた、心理的な距離感が埋められたと感じています」とコメント。
www.の最終的な発表に向けては、「“AIRBORNE”の状態を職場で目指すために、見える化する施策を進め、西日本地区から個性を発揮できる社員を1人でも増やしていきたいと考えています」と語った。
今回、大阪地区へのチーム設置や大川副会長による講演などの実施で、JALのダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを、理論として東京で深めるだけでなく、自分事として実感できるよう、全国的に浸透させたいという狙いがよく伝わってくるようなプレ発表会だった。