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国交省、「東京港臨港道路南北線」の海底トンネルで使用する日本最長の沈埋函を初出渠
有明と中央防波堤地区を結ぶ、2020年に向けた東京臨海部の新たなアクセス道路
2016年12月29日 06:00
- 2016年12月28日 出渠
国土交通省 関東地方整備局は12月28日、2019年度末の完成を目指して整備している「東京港臨港道路南北線」に使用する、海底トンネル用の沈埋函(鋼殻)を報道関係者に公開した。
これまで国内で製作されたもののなかで最長のものになるという沈埋函鋼殻の最初のものが完成し、同日、製造が進められた三菱重工業のドックから初出渠するのに合わせて公開されたもの。取材はドックへの注水が開始される前後を見学することができた。
東京港臨港道路南北線は、東京都の有明地区と中央防波堤地区を結ぶ道路で、2014年度に事業がスタートし、2016年に工事に着工したもの。
東京港は2015年度の海上コンテナ取扱量が463万TEUと、18年連続で日本一となっている。それに伴う周辺道路の交通量も多いが、中央防波堤地区と都市圏側とを結ぶ南北のアクセスは、中央防波堤地区~青海を結ぶ青海縦貫線「第二航路海底トンネル」のみとなっているのが現状。
2012年に開通した東京ゲートブリッジを使って新木場方面を経由するルートや、国道357号の東京港トンネルの整備などで多少緩和したとはいえ、青海縦貫道の第二航路海底トンネルの混雑は依然として激しく、臨海副都心・お台場周辺で一般車両と港湾関係車両が同じルートを走行することによる安全性も課題となっていた。
加えて、コンテナ貨物の増加や船舶の大型化に対応すべく、中央防波堤地区外側に新たなコンテナターミナルの建設工事が進められている。計画ではY1~Y3の3つのバースが設置され、Y1とY2バースを2017年度に供用開始し、Y3バースを2019年度に完成させる予定となっている。
さらに、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開かれ、バレーの競技会場が有明に、馬術会場となる「海の森クロスカントリーコース」が中央防波堤地区内側に建設予定となっているほか、カヌーとボートの競技会場として予定されている「海の森水上競技場」も中央防波堤地区の内側と外側の間を流れる水路に設ける計画。選手村が晴海埠頭に設けられることになっており、会期中はその関係車両の通行も増加するが、当然ながら一方で物流を確保する必要もある。
そこで計画されたのが、第二航路海底トンネルの東側に並行し、中央防波堤地区と有明地区の10号地とを結ぶ東京港臨港道路南北線となる。オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年を前に、2019年度中の完成を目指す。このうち中央防波堤内側と有明とを結ぶ2.5kmの区間を国土交通省の事業、その前後を港湾を管理する東京都が事業を行なっている。
試算によると、新コンテナターミナルのY1~Y3バース供用開始後、青海縦貫道・第二航路海底トンネルのみのルートの場合、新コンテナターミナルから有明二丁目交差点までの所要時間は約13分だが、東京港臨港道路南北線とのダブルネットワークとなった場合は約7.3分と半分近い所要時間になると見込んでいる。
国土交通省の事業となっている2.5km区間のうち、海上部の約930mが沈埋トンネル工法による海底トンネルとなる。このほかの部分は、海と陸のトンネルの接続部がその前後各35m、地上とトンネルとを結ぶアプローチ部が有明側560m、中央防波堤地区側570mとなっている。
東京港臨港道路南北線の海底トンネルで用いられる沈埋トンネル工法とは、地上で製作された複数の「函」を、海底に掘った溝に掘って沈め、それぞれを接合したのちに土砂を埋め戻してトンネルとなる工法。掘削による工法に比べて地上部の延長を短くできるほか、工期も短くできるという。
東京港臨港道路南北線では7函の沈埋函を海底で接合して構築する計画となっている。7函は沈設時の道路設計や接合のために多少形状は異なるものの、サイズは134×27.8×8.35m(長さ×幅×高さ)で、長さはこれまでに沈埋トンネル工法を使った国内28トンネルのなかでも最長。従来は、川崎市東扇島と浮島とを結ぶ首都高の川崎航路トンネルで使われた長さ131mの函が最長だったという。
沈埋函は、鋼殻と呼ばれる鉄鋼でできた枠が二重になっており、そこにコンクリートを打設したものとなる。鋼殻は全国9工場で80ブロックに分けてパーツが製造され、それを三菱重工業のドックで組み立てた。
今回、最初の鋼殻完成となった3号函は2016年5月から東亜建設工業、鹿島建設、若築建設のジョイントベンチャーによって製作が進められてきた。このほかに1号函、2号函も、千葉の三井造船のドックで組み立てが進められており、2017年の春から夏にかけて組み立てが完了する見込みとなっている。
組み立てが完了した沈埋函の鋼殻には、水に浮かべるために“バルクヘッド”と呼ばれる赤いフタがされ、その周囲に水密を確保するためのゴムガスケットを保護するカバーが見えていた。道路は片側2車線の計4車線で、中央に3.5mの歩道を整備。この歩道は緊急避難路としても活用される。そうした道路のレイアウトは、バルクヘッドの形状から垣間見ることができる。
製作中、夏場の溶接作業では函内の気温が50~60℃の高温に達したという。そのため昼間は仮溶接とし、気温が下がる夜間に本溶接をするなど工夫。そうして完成した3号函は、長さ、幅、高さそれぞれ設定されていた21.3mm、5mm、10mmという許容範囲内の誤差に収まっており、とくに長さ方向についてはプラスマイナス10mm以内という高い精度に仕上がったという。
12月28日の出渠後は、コンクリートの打設を行なうために千葉県葛南地区の京葉食品コンビナート埠頭へ曳航し、同埠頭に係留した状態で、年明けの1月からコンクリートの打設作業を開始。1函あたり約2.5万トンのコンクリートを打設していく。
この初出渠にあたり、施工に携わったスタッフの前で、国土交通省 関東地方整備局 港湾空港部長の加藤雅啓氏が挨拶。
まず、東京港臨港道路南北線について、「国際コンテナ戦略港湾・京浜港の一翼を担う東京港の物流機能を強化を果たすうえで必要不可欠な要素。現在整備中の中央防波堤地区の国際海上コンテナターミナルの接続を円滑に進めることにおいて、たいへん重要な役割を担っている。来たる2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に開催にあたっても、臨海部に多くの会場がある。物流に影響をきたさない渋滞緩和のためにも、非常に重要な役割を果たすものとなる」と説明。
そのための工事について、「非常に限られた工期でこれを進めなければならないという、たいへんな工事、仕事であると認識している。そのようななかで、この東京港臨港道路南北線が整備されるわけだが、これだけの難度の高い技術力を発揮しなければならない工事、併せて精度が求められる事業を進めていくということは、普通でも10年ぐらい、少なくとも8年はかかるであろうという工事。それを今年度(2016年度)に着工して、4年間という非常に短いなかで完成していくのは大変なことだと思う」と述べ、このような状況のなかで上述のような高精度の沈埋函が完成したことを讃え、敬意を表するとともに、その苦労をねぎらった。