旅レポ

「ユーレイルパス」で欧州を鉄道で巡る旅(その4)

まさかの列車事故! チェコのスパリゾート「マリアンスケー・ラーズニェ」にたどり着けるか?

チェコの「美しい村」マリアンスケー・ラーズニェ

 欧州28カ国の鉄道などを自由に乗り降りできるユーレイルパスを利用して、JATA(日本旅行業協会)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6カ所を巡る旅の第4回。今回はハンガリーのショプロンからいったんオーストリアのウィーナー・ノイシュタットに戻り、そこからチェコの首都プラハへ。さらにもう一度乗り継いでマリアンスケー・ラーズニェに向かう。乗り換え回数こそ少ないが、全行程は9時間以上、計1000km近くの大移動ともなれば、前回夜行列車の遅延や減便に遭遇したように、トラブルが起きないはずがない。

列車事故でトンネルが塞がれた!?

 この日は朝から夕方まで、日中の大部分を列車による移動に費やす。朝7時46分ショプロン発の私鉄に乗り、40分ほどでウィーナー・ノイシュタットに着いたあとは、前日にも乗車したレイルジェット(前日はオーストリア国鉄だったが、この日はチェコ国鉄)で4時間半かけてチェコ・プラハへ。プラハからは日本でいう快速列車に乗って3時間、ようやく目的地のマリアンスケー・ラーズニェに到着する……はずだった。

ショプロン駅にあった蒸気機関車
ウィーナー・ノイシュタットでレイルジェットに乗り換え。窓の清掃中
一等車の座席
手前の3席は一等席だが、そこから向こう側はさらに上のクラスのビジネスシートとなっている
ビジネスシートは一等席よりもゆとりがある作り
インフォメーション窓口がある
食堂車ではチェコならではの食事が提供されている
途中駅でカートレインに遭遇
プラハ本駅に到着。プラットフォームの天井が改装されている
こちらはまだ古い天井。いずれすべて新しくなるという
チェコ国鉄のスタッフやキャビンアテンダントから熱烈な歓迎を受ける
チェコはドイツ、ポーランド、スロバキア、オーストリア、ハンガリーに囲まれており、それぞれの主要都市にアクセス可能なハブとしての役割を果たしている。それぞれの都市までにかかる時間も長すぎず、利用しやすいとの説明を受けた

 プラハまでは順調に移動でき、待ち構えていたチェコ国鉄のスタッフやキャビンアテンダントから熱烈な歓迎を受けていたところで、現在地のプラハ本駅から数百メートルも離れていないすぐ近くで列車の脱線事故が発生したとの一報。幸いにも乗客のいない列車で、駅の目の前にあるトンネルの壁に激突した単独事故だったものの、これから乗り換えようとしている列車の路線が一部塞がれる形になり、予定していた列車が入線できず、乗ることができなくなってしまった。

到着したタイミングでプラハ本駅から見える場所にあるトンネル内で事故が発生。事故を起こした列車が停車していた
オレンジ色のベストを着ているのは鉄道のレールなどインフラ部分を担う会社の従業員。列車を撤去後、調査に当たっていた

 こういった事故はよくあるもの……というわけでは決してなく、チェコ国鉄のスタッフによれば「年に1回あるかないか」とのこと。まさにたまたま、偶然、我々がチェコに到着するという見事なタイミングで発生したトラブルだったようだ。

 が、このままでは目的地にたどり着けない。我々の心配をよそに、終始笑顔のキャビンアテンダントに導かれるまま別の各駅停車に乗って1つ目のプラハ=スミホフ駅で降りると、そこにはもともとプラハ本駅で乗る予定だった列車が。どうやらこの列車もプラハ本駅にたどり着けなかったため、手前のスミホフ駅で待機していたと思われる。

 無事本来の列車に乗ることができ、大きな遅れもなく3時間でマリアンスケー・ラーズニェに到着。ヨーロッパの鉄道の旅は滞りなく、すべてが順調にいく、というわけにはいかないかもしれないが、線路が続いている限りなんとかなる、と思わせてくれる出来事だった。

かろうじてプラハ本駅に入線してきた2階建ての列車にひとまず乗車。次のスミホフ駅で本来の列車に乗り換えることができた
マリアンスケー・ラーズニェに到着
プラハから424キロメートルのメルクマール

8つのホテルビル群で多彩なスパ、トリートメントを堪能できる(筆者はできず)

 4つ目の美しい村、マリアンスケー・ラーズニェは、プラハの西、ドイツとの国境近くにある温泉保養地として知られる地域。修道僧カール・カスパー・ライテンベルガーが温泉を発見し、その後ヨセフ・ネール博士が温泉の効能を明らかにした。街としては200年の歴史があり、温泉発見以後多くの湯治客が訪れ、ゲーテ、ショパン、カフカ、英国王エドワード7世といった著名人も好んだとされている。冬は雪が積もり、スキーやクロスカントリーなども楽しめるという。

街の中心となっている広場のランドマーク
内部には土産物店などが入っている。雨の日には保養のために来ている観光客がここでエクササイズをしたりするという
天井や壁には絵が描かれているが、これらはさほど古いものではない
30年前に描かれた天井画。宇宙飛行士は当時のソ連への配慮で描かれたという
広場にある噴水は、毎日定時に音楽が流れるとともに、それに合わせて水が噴き出す。ゆったりできる場所でもあるが、このイベントは観光客が大勢集まってくるにぎやかな瞬間だ
日没後の噴水はライトアップされる
街中は馬車で巡ることができる。国境が近いこともあってドイツからの観光客が大勢訪れ、保養地という性格上、長めに2~3週間程度滞在する人が多いという
駅と街を巡回するトロリーバスも運行中

 豪壮なホテル、住宅が取り囲むように林立し、ドイツ、イギリス、フランスなど、各地の代表的な建築様式が混在しているのも面白い。黄色い壁の建物が多く見られるのは、周囲の自然(緑)とのコンビネーションの美しさを狙ったもの。見栄えよく配置された花壇や庭園は、ワツラフ・スカルニクという庭師がデザインし、ライテンベルガーとネール博士とともに、街を発展させた最大の功労者として名を残している。

噴水のそばに建つ修道僧カール・カスパー・ライテンベルガーの銅像
街のあちこちでは美しく植栽された花壇を見ることができる

 マリアンスケー・ラーズニェのなかで最も大きなホテルリゾートの1つが、「Marienbad(聖母マリアの温泉)」。計8つのビルがあり、それぞれが連絡口や地下通路ですべてつながっている。屋外に出ることなく移動して、各温泉棟のユニークなスパやマッサージなどのトリートメントを受けることが可能だ。大きなローマ風呂、天然のミネラルが豊富に含まれた湯に浸かるミネラルバス、バブルによるマッサージバス、温水プールほか、バリエーション豊かな施設とプログラムが用意されている。

中央左のピンク色の建物が受け付けのあるメインビル。そこから右奥に続いているすべての建物が「Marienbad」のビル群となっている
この建物は少し離れたところにあるが、Marienbadのビル群の1つ
取り囲むように立ち並ぶホテルや住宅

 ローマ風呂やマッサージバス、ミネラルバスなどは事前に予約が必要な場合があるが、ほかのローマ風呂や温水プールは自由に入浴できる。1日中バスローブのまま、温泉棟を行き来してあらゆるスパを体験してみるのもいいだろう。ただ、一連のビルの端から端まではおよそ700メートルあり、起伏のある土地に建っているため連絡通路も建物によって1階や地下4階だったりして上り下りが激しく、まるで迷路。離れたビルまで行くときは、素直に服を着た状態で屋外を行き来した方が早そうだ。

Marienbadの見取り図。すべて通路でつながっており、端から端まで700メートル。頻繁に階段やエレベーターを使って上り下りしながら行き来することになる
建物をつなぐ長い通路。筆者も早朝に一度バスローブに着替え、長い地下通路を歩いて移動しようとしたが、途中で鍵のかかった扉があり、周囲に従業員の姿もなかったため挫折。あとで聞いたところによれば、行き方が間違っていたらしい……
通路にはこの街の歴史が分かる写真と解説が掲示
Marienbadのジュニアデラックススイートルーム
英国王エドワード7世のために1896年に作られた“ネオ・ルネッサンススタイル”の「ロイヤルキャビン」
この椅子のようなものは体重計
プールのように広いローマ風呂
豊富なミネラルが含まれるというミネラルバスに入ったり、マッサージなどのトリートメントを受けられる部屋
結局時間が取れず、筆者が唯一体験できた酸素浴
濃度の高い酸素をチューブで鼻に供給。ここは服を着ていてもOK。ほかは水着で入浴する
足元には温かみを感じるドライアイスによるスモークで、身体の内と外からリフレッシュ
施設内のプロジェクターにはマリアンスケー・ラーズニェの歴史を紹介するビデオが映し出されている
建物内のあちこちには飲用の温泉の蛇口がある。備え付けのコップで飲むと、鉄分多めな味わい。硫黄のような臭いもあり、少しずつ飲んだ方がよい。蛇口によって味もやや異なる
飲泉用の陶製のカップが販売されている
コンサートなどが開かれる「カジノ」と呼ばれるホール
至るところに掲げられている3色旗は、白が温泉の水を、青が空を、黄色が建物によく使われている色を表す
リゾートホテル群のある中心部からクルマで数分の「ボヘミアンパーク」
チェコの代表的な建物を模したミニチュアが多数展示。栃木の東武ワールドスクウェアのような場所だ
1426年に建設されたというプラハの北東にある城
オタワ側にかかる13世紀に建造された石造りの橋
1723年までに建てられたとされるバロック様式の宮殿
バロック様式とロココ調の家々が連なる小さな村
チェコ初の蒸気機関車は1839年にデビューしたという
消防船。手元に設置されたスイッチを押すとこのように水を噴射するなど、ギミックが仕込まれた展示もいくつかある

 ユーレイルパスを使った鉄道の旅も半分を過ぎた。次回はマリアンスケー・ラーズニェからチェコ西端の街ヘプ、そこから北のドイツ・ライプツィヒへ。さらに北上してベルリンで一泊のあと、早朝に出発して西のマクデブルクで乗り換え、魔女伝説が残る「クヴェドリンブルク」を訪ねる。

日沼諭史