旅レポ
「ユーレイルパス」で欧州を鉄道で巡る旅(その5)
世界遺産の木組みの街並みと、魔女の森(?)をSLで走り抜ける「クヴェドリンブルク」
2016年6月2日 11:45
欧州28カ国の鉄道などを自由に乗り降りできるユーレイルパスを利用して、JATA(日本旅行業協会)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6カ所を巡る旅の第5回。いよいよ残りはドイツとオランダの2カ国となった。
スパリゾートであるにも関わらず、一度も風呂に浸かることなくチェコのマリアンスケー・ラーズニェを旅立ち、今回はドイツ・ベルリンで1泊してから「魔女伝説」が残るクヴェドリンブルクを観光する。ハルツ山やブロッケン山を舞台に現役で活躍する蒸気機関車も見どころだ。
自転車と共に旅行するにも便利な欧州の鉄道網
マリアンスケー・ラーズニェを発ったのは15時過ぎ。そこからチェコ鉄道に乗ってドイツの国境に隣接するヘプで乗り換え、ドイツに入国後はヴェルダウでドイツ鉄道のSバーンに乗車。どんどん北上し、ライプツィヒ中央駅では日本の新幹線に相当するICEを使ってベルリン中央駅に至る。到着したのは夜21時半を過ぎた頃だ。
ここでいったん駅前のホテルで1泊し、翌朝8時過ぎ発の快速列車でベルリンの西にあるマグテブルクへ。さらに私鉄のハルツエルベエクスプレスに乗り継いでクヴェドリンブルクとなる。マリアンスケー・ラーズニェからクヴェドリンブルクまで、実質移動時間は計10時間近く。時間に余裕があれば、ライプツィヒやベルリンでそれぞれ1泊して市内観光するのもいいだろう。
ところで、ユーレイルパスを使って各地を鉄道で巡っていると、自転車と一緒に乗り込んでくる乗客によく出会う。自転車のマークが表示された客車では、収納座席のあるやや広いスペースが駐輪スペースになっていたり、列車によっては自転車を縦に搭載できる専用の駐輪ラックが設けられてたりすることがある。自転車を分解して輪行バッグに入れる手間がなく、そのまま乗り込めるのは便利だ。
自転車と列車を使って長旅をしたり、あるいは少し離れたところにあるサイクリングスポットを目指したりと、人によって目的はさまざまだが、日本の都心のように人がすし詰めにならず、ゆとりをもって乗れる広い車内だからこそ可能な仕組みだろう。自転車を持ち込む場合は乗車券とは別に数ユーロの追加料金が必要になるが、ある意味そのような“お墨付き”があるおかげで、かえって利用しやすい環境にあるのかもしれない。
ドイツの初代国王が収めた、独特の木組みの家が残る街
クヴェドリンブルクは、人口約2万3000人の比較的大きな街。10世紀、ドイツの初めての国王ハインリッヒ1世の時代から集落として存在し、歴代の国王が各地の城へと移動する際に立ち寄る拠点の1つとして発展した結果、994年に街として成立した。
魔女伝説が残る地域としても知られ、毎年4月末日と5月1日は「魔女祭り」が開かれる。古くからの主な産業は、砂糖の原料となるビートの栽培。昔は砂糖を輸入でまかなっていたが、砂糖が不足するようになった1830年頃からビート栽培に取り組み始め、ビートによる砂糖生産の発祥の地となった。ビートは現在も同地域の農業における主要品目となっている。
街の中心部から外れたところには、かつての国王の城であり、現在はハインリッヒ1世らが眠る墓地となって、修道院や博物館としても利用されている城山と聖セヴァルティウス教会がある。また、さらに離れた丘の上では、旧市街である世界遺産のミュンツェンベルク地区を見学できる。2000軒以上あるという柱や梁がむき出しになった木組みの家は街の至るところで目にすることができ、1310年頃に建てられた現存する最古の木組みの家の独特な構造や、同じ時期に建設された趣ある市庁舎が、当時の風景をそのままいまに伝えている。
深い森を蒸気機関車で走り抜けるおとぎの国のような体験
クヴェドリンブルク駅からは、総延長140kmのハルツ狭軌鉄道が運行している。1887年に始まったこの路線は、ハルツ横断鉄道、セルケ峡谷鉄道、ブロッケン鉄道の3つがつながったもので、1897年製をはじめとする25両の蒸気機関車が現役で毎日運行し、観光列車としてはもちろん、地域に住む人々の生活の足としても重宝されている。
ユーレイルパスを利用できない路線ではあるが、山岳地帯の深く暗い森や、ぽつんとある小さな無人駅は、おとぎの国に迷い込んだかのような風景で、まさに魔女が潜んでいても不思議ではないミステリアスさ。そんななか煙をもうもうと立ち昇らせつつ走り抜ける蒸気機関車の迫力に、鉄道ファンならずともわくわくするに違いない。
次回はついに最終日。鉄道旅の締めらしく、再び夜行列車に乗ってオランダの北部、エイセル湖を臨む人口700人の村「ヒンデローペン」へ向かう。