旅レポ

「ユーレイルパス」で欧州を鉄道で巡る旅(その5)

世界遺産の木組みの街並みと、魔女の森(?)をSLで走り抜ける「クヴェドリンブルク」

ハルツ狭軌鉄道の蒸気機関車

 欧州28カ国の鉄道などを自由に乗り降りできるユーレイルパスを利用して、JATA(日本旅行業協会)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6カ所を巡る旅の第5回。いよいよ残りはドイツとオランダの2カ国となった。

スパリゾートであるにも関わらず、一度も風呂に浸かることなくチェコのマリアンスケー・ラーズニェを旅立ち、今回はドイツ・ベルリンで1泊してから「魔女伝説」が残るクヴェドリンブルクを観光する。ハルツ山やブロッケン山を舞台に現役で活躍する蒸気機関車も見どころだ。

自転車と共に旅行するにも便利な欧州の鉄道網

 マリアンスケー・ラーズニェを発ったのは15時過ぎ。そこからチェコ鉄道に乗ってドイツの国境に隣接するヘプで乗り換え、ドイツに入国後はヴェルダウでドイツ鉄道のSバーンに乗車。どんどん北上し、ライプツィヒ中央駅では日本の新幹線に相当するICEを使ってベルリン中央駅に至る。到着したのは夜21時半を過ぎた頃だ。

まずはマリアンスケー・ラーズニェから出発
チェコ鉄道に乗車
ヘプに到着
ほかのプラットフォームへ行くには線路をまたぐ
乗ってきた列車の先頭にあった動力車が切り離され……
また戻ってきた
反対側に連結して折り返し運行するようだ
ヘプで私鉄列車に乗り換え
頭上の棚は広く、中サイズのスーツケースを縦に置いても安定する
電源もしっかり備える。これに限らず欧州の電車は(特に一等席は)電源を備えていることが多く、移動中もPC作業やスマートフォンの充電がしやすかった
ヴェルダウでドイツ鉄道のSバーンに乗り換え
頭上の荷物置き場はやや狭め
座席のテーブルには路線図が描かれていた
停車駅と停車時刻が分かりやすく表示される車内のインフォメーションディスプレイ
ライプツィヒに到着
ライプツィヒは地下と地上階にプラットフォームがある、かなり大きな駅
とにかく広く、人も多いが、清潔に保たれている
食料品や電化製品、土産などさまざまなものが手に入る
寿司も売っている。味は悪くないが、海苔巻き5切れ、サーモンのにぎり1個で5ユーロ(約615円、1ユーロ=123円換算)以上と少々割高感がある
ライプツィヒ駅前の様子を見てみる。駅前をトラムが走っていた
再び駅構内に戻る
ライプツィヒからは日本の新幹線に相当するICEに乗車
全体的に余裕のある作り
荷物スペースも余裕あり
食事のメニュー
各席に用意されていたマガジン「モービル」
夜のベルリン中央駅。かつてはこの周辺にベルリンの壁があった
5階層の立体構造で、最下層と最上階にプラットフォームがある近未来的な建物。到着した当日は駅完成10周年を祝うイベントが行なわれていた

 ここでいったん駅前のホテルで1泊し、翌朝8時過ぎ発の快速列車でベルリンの西にあるマグテブルクへ。さらに私鉄のハルツエルベエクスプレスに乗り継いでクヴェドリンブルクとなる。マリアンスケー・ラーズニェからクヴェドリンブルクまで、実質移動時間は計10時間近く。時間に余裕があれば、ライプツィヒやベルリンでそれぞれ1泊して市内観光するのもいいだろう。

朝のベルリン中央駅
ここも駅前ではトラムが走る
駅最上階から快速列車でクヴェドリンブルクへ向け出発
マグテブルク行きの車内
この列車にも電源が設けられている
マグテブルクで私鉄「ハルツエルベエクスプレス」に乗り換え
運転席
車内券売機
検札機。乗車の際に普通乗車券をここに差し込んで打刻する
クヴェドリンブルク
年季の入ったプラットフォーム
駅前の様子

 ところで、ユーレイルパスを使って各地を鉄道で巡っていると、自転車と一緒に乗り込んでくる乗客によく出会う。自転車のマークが表示された客車では、収納座席のあるやや広いスペースが駐輪スペースになっていたり、列車によっては自転車を縦に搭載できる専用の駐輪ラックが設けられてたりすることがある。自転車を分解して輪行バッグに入れる手間がなく、そのまま乗り込めるのは便利だ。

 自転車と列車を使って長旅をしたり、あるいは少し離れたところにあるサイクリングスポットを目指したりと、人によって目的はさまざまだが、日本の都心のように人がすし詰めにならず、ゆとりをもって乗れる広い車内だからこそ可能な仕組みだろう。自転車を持ち込む場合は乗車券とは別に数ユーロの追加料金が必要になるが、ある意味そのような“お墨付き”があるおかげで、かえって利用しやすい環境にあるのかもしれない。

収納座席に設けられた駐輪スペース。ベルトを使って自転車を固定する
駐輪スペースに停めていたMTB
駐輪用のラック
ベルリン中央駅の券売機で自転車の追加料金をチェック。ドイツでは1日5ユーロ(約615円)かかるようだ
こちらのスペースでは前輪を引っかけて固定する

ドイツの初代国王が収めた、独特の木組みの家が残る街

 クヴェドリンブルクは、人口約2万3000人の比較的大きな街。10世紀、ドイツの初めての国王ハインリッヒ1世の時代から集落として存在し、歴代の国王が各地の城へと移動する際に立ち寄る拠点の1つとして発展した結果、994年に街として成立した。

 魔女伝説が残る地域としても知られ、毎年4月末日と5月1日は「魔女祭り」が開かれる。古くからの主な産業は、砂糖の原料となるビートの栽培。昔は砂糖を輸入でまかなっていたが、砂糖が不足するようになった1830年頃からビート栽培に取り組み始め、ビートによる砂糖生産の発祥の地となった。ビートは現在も同地域の農業における主要品目となっている。

 街の中心部から外れたところには、かつての国王の城であり、現在はハインリッヒ1世らが眠る墓地となって、修道院や博物館としても利用されている城山と聖セヴァルティウス教会がある。また、さらに離れた丘の上では、旧市街である世界遺産のミュンツェンベルク地区を見学できる。2000軒以上あるという柱や梁がむき出しになった木組みの家は街の至るところで目にすることができ、1310年頃に建てられた現存する最古の木組みの家の独特な構造や、同じ時期に建設された趣ある市庁舎が、当時の風景をそのままいまに伝えている。

城山と聖セヴァルティウス教会
教会内部。ほかにも博物館など3つの施設が集まっており、入場料は4施設分で8.5ユーロ(約1046円)
美しいステンドグラス。教会奥にはハインリッヒ一世とその妻の墓があり、王族が使っていた財宝が展示されている。ただし、ハインリッヒ一世の遺体は失われているという
教会周辺の家並み
謎の衛兵
街角の演奏者
1310年に作られた現存する最古の木組みの家
家が連なっているが、色の異なる左端から右奥までの4軒は、それぞれ15世紀、16世紀、17世紀、18世紀に建てられたものだという
市庁舎とその前の広場。市庁舎も建設時期は1310年とされている
市庁舎と魔女(の人形)
市庁舎近くのアイスクリームショップ「Blumen bunt!」でブラックチョコレートアイスを購入
トイミュージアム。アンティークな鉄道模型が多数展示
細部まで精巧に作り上げている
スノードーム風にテレビのような箱に入った鉄道模型
1階ではアンティークなおもちゃ類を販売している。掘り出し物も?
丘の上にある世界遺産のミュンツェンベルク地区。ここも木組みの家が多い
傾いて建てられた家も
16世紀に作られたとされる、粘土と河石でできたこのあたりでは最も古い煙突
地面の石も河から運ばれたものだという

深い森を蒸気機関車で走り抜けるおとぎの国のような体験

 クヴェドリンブルク駅からは、総延長140kmのハルツ狭軌鉄道が運行している。1887年に始まったこの路線は、ハルツ横断鉄道、セルケ峡谷鉄道、ブロッケン鉄道の3つがつながったもので、1897年製をはじめとする25両の蒸気機関車が現役で毎日運行し、観光列車としてはもちろん、地域に住む人々の生活の足としても重宝されている。

 ユーレイルパスを利用できない路線ではあるが、山岳地帯の深く暗い森や、ぽつんとある小さな無人駅は、おとぎの国に迷い込んだかのような風景で、まさに魔女が潜んでいても不思議ではないミステリアスさ。そんななか煙をもうもうと立ち昇らせつつ走り抜ける蒸気機関車の迫力に、鉄道ファンならずともわくわくするに違いない。

ハルツ狭軌鉄道のディーゼル車
快く撮影に応じてくれた運転士
運転台
上り坂の森を分け入るように進む
深い森にある無人駅
99型の蒸気機関車が登場
客車の内部
テーブルに刻まれた路線図
立ち上る煙
最後尾は完全なオープンエアー
駅に入っていく

 次回はついに最終日。鉄道旅の締めらしく、再び夜行列車に乗ってオランダの北部、エイセル湖を臨む人口700人の村「ヒンデローペン」へ向かう。

日沼諭史